Let's自粛生活
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3.June
「名前ちゃん、犯人誰だと思う?」
「んー、秘書?」
「え?何で?」
「何かさっきから、意味深なことばかり言ってませんか?」
自粛生活も終わりが見えない中、俺はお家時間充実のために某○○primeに加入した。お隣さんで後輩の名前ちゃんには、週に2~3回夕食をご馳走になっている。そのお礼もかねて、暇なときは俺の部屋で名前ちゃんの見たいドラマや映画を見るのが最近の習慣となっている。
「んー、でも親友もやけに親切すぎて怪しいですかね!」
「おー、名推理じゃん」
(どう見ても、取引先の男が犯人だろうけど。黙ってよう)
俺の隣で真剣な表情でサスペンス映画を見ている名前ちゃん。出会いが出会いのためか、自粛生活で出かける事もなくお互いの部屋でしか会わないためか、二人とも専らジャージやスウェット姿。俺は寝起き姿のまま平気で顔を見せるし、名前ちゃんも多分スッピンだ。普通の女友達でも、ここまで砕けた関係にはならないだろう。こんな状況だからこその出会いだよなぁ、と染々思いながら俺は映画をぼんやり眺める。
「わっ!!」
「うお!!何だよ?」
その時、急に隣で大声を出されて俺は柄にもなく動揺してしまう。
「何だよって、見てなかったんですか!?今のシーン……うぅ、グロイシーンはないって感想サイトに書いてあったのに」
「あー、今のもダメなの?」
「……ダメです」
「もう見るのやめるか?」
「犯人が気になるので見ます」
「ハハ、無理すんなよ~」
膝を抱えながらも、険しい顔でテレビを見続ける名前ちゃん。思いの外会話も弾むし、一緒にいて居心地が良い。料理も上手い。ちょっと抜けてるとこがあって、歳も下だから妹みたいな可愛さがある。
「あ、この俳優さん好きです」
「は?どれ」
「この…ホラ。弁護士役の!最近いろいろな映画に出ててかっこ良いなーと思って。ファンになりそう」
「はあ?こういうのがタイプなの?」
画面に映るのは、スマートな立ち振舞いでいかにもエリートな風貌の若手俳優。何となく高校時代に反りが合わなかった同級生を思い出して、思わず顔をしかめてしまう。キラキラした視線を画面に向ける名前ちゃんを見て面白くない感情が浮かぶのは、画面に映る俳優が気障な同級生と重なるからだろう。他意はないはずだ…多分。
「タイプっていうか、まず顔がかっこ良いし!優しそうじゃないですか」
「ふーん?」
「何ですか?」
「俺だって、それなりにイケメンだし優しいと思わねぇ?」
「何で張り合ってるんですか?」
名前ちゃんは、呆れたような視線を俺に向けながら苦笑している。
「テレビを好き放題見せてくれるとこは優しいですけどね。まずは、その寝癖を直してから出直してきてください」
「厳しい!!」
「ハハハ、後ろの方すごい寝癖ですよ。気付いてました?」
「そういう名前ちゃんこそ、たまには眉毛くらい書いてこいよ!」
「ちょっと!!急に何ですか?今のは黒羽先輩が勝手にイケメンアピールしたのがいけないんですよ!!」
名前ちゃんは、パッと両手で眉毛を隠して顔を赤くして文句を言っている。ムキになっていろいろ言い返してるうちに、テレビの画面ではかなり重要なやり取りが流れているが気付いてないようだ。
「ハハ、顔が赤いぜ~?」
「もうっ!女性のメイク事情に口を出すなんてデリカシーがないですよ!!」
「悪かったって!あ、ほらほら犯人分かったみたいだぜ?」
「え、嘘!?いつの間に…一番大事なとこ見てなかった。黒羽先輩が変なこと言うからですよ!」
「ハハ、ちょっと前まで戻してやるから待ってなって」
まさかこの前代未聞の自粛生活で、こんな風に笑って過ごす事が出来るとは思わなかった。ネットニュースなんかで"自粛疲れ"という新しい単語が飛び交うご時世だ。俺の生活は、かなり恵まれている方だろう。
再び真剣な表情で映画を見ている名前ちゃんをチラリと見ながら、俺は思わず口元に小さな笑みを浮かべた。
「お邪魔しました」
「おー。次は海外ドラマでも見ようぜ」
「わぁ、ハマッたら一日中見ちゃいそうですね。楽しみです」
私は黒羽先輩の部屋の玄関で靴を履きながら、「そういえば、次は夕ご飯いつが良いですか?」と尋ねる。
「あー、明日はリモートで夕方まで講義だから。また明後日以降で、名前ちゃんの都合の良い日言ってよ」
「わかりました。私も講義の予定また確認しますね」
そんな会話をして部屋から出ると、すぐ隣の自分の部屋に戻る。間取りは一緒なのに、黒羽先輩の部屋は全く違ったお洒落な雰囲気があるから不思議だ。
(黒羽先輩と過ごすのにもスッカリ慣れちゃったな~)
私は、チラリとリビングに置かれた毬藻を見ながら洗面所に向かう。未だに自粛生活には終わりが見えない。今にして思うと、毬藻と二人きりの生活にならなくてすんで良かったかもしれない。
「………自分は寝癖があってもイケメンだからって」
バサリと前髪を上げて、鏡にうつる自分の顔を眺める。黒羽先輩と頻繁に会うようになってから、一応スキンケアと眉毛のお手入れは気にしていた。だけど、出掛けるわけでもないのにわざわざメイクして「俺に会うだけなのに、メイクバッチリじゃん」とか思われたら恥ずかしいし…と、思って結局毎回スッピンで過ごしてしまった。
(でも、これでまた次から眉毛だけ書くのもなぁ。気付かれたら、からかわれそう……もう今更だし、このままで良いか…)
私はそんな事を考えながら前髪を手櫛で整えて、小さくため息をついた。