Let's自粛生活
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19歳の春、キャンパスライフに憧れて上京し初めての一人暮らし。大学ではサークルに入って、お洒落なカフェでバイトして、友人をたくさん作って、あわよくば素敵な恋人も……なんて夢に見ていたのは約一年前。
大学には数えるほどしか通うことは出来なかったし、お洒落なカフェでバイトどころかカフェに行くことすらままならない。友人は数人出来たけど、コミュニケーションはほとんどSNSやリモート上で行われているし、まだ一緒に遊びに出掛けたこともない。
そんな風に、夢見ていたキャンパスライフとは程遠い一年だったけど、一つだけ。淡い願いを胸に秘めていたあの頃に想像していたよりも、はるかに素敵でカッコ良くて優しくて頼りになる恋人が出来た。
12.March--A few years later
「おー、さすが春休み!人が多いな!」
「なんの気兼ねもなく人込みを歩けるってだけで、何だか気分が上がりますね」
「本当だよなぁ、昔は人込みとか行列とか嫌いだったけど。行けなくなると、案外寂しいよな」
あの世界中の人が忘れることが出来ないであろう一年から、既に数年たった。
当初はワンシーズンたてば収まるかも、季節性のウイルスなのでは?なんて意見もあったけれど、結果的に"完全終息"が宣言されるまでには、思いの外長い時間を要した。感染者数が減っても、日常の全てが元に戻るわけではない。何となく人込みを避ける癖がついたし、以前は集まって行われていた会議や自治会等もリモートで行えるものは今も継続してリモートが活用されている。いきなり全ての娯楽施設が再開するわけではないし、大人数で行うイベントはしばらくの間控えられた。あれから数年間は、マスクをつける事がスタンダードになった。最近はマスクをしない人の姿も増えてきたけど、私はマスクがないと落ち着かない気がして今でもつけてしまう事が多い。そんな中でも人々の生活は少しずつ変化に順応しながら続いていくもので、快斗さんは大学を卒業し就職。私も大学生活を終えて快斗さんから数年遅れて就職し、社会人として四苦八苦しながら何とか日々を過ごしている。
「快斗さんは何が見たいですか?」
「俺はライオンの餌やりやりたい」
「えーと、それは午後からみたいですね」
「名前は?」
「私はインスタで流行りの、カピバラバーガーが食べたいです」
「いきなり食い物かよ!!」
「いいじゃないですかぁ。すごく人気なんですよ!ほら、見てください!可愛いでしょ?」
快斗さんと出会ってから数年。
私たちは、初めて動物園にやってきた。付き合いたてのカップルがすぐに行くであろうデートスポットに来るまでに長い時間を要したが、狭い部屋を行き来して二人でのんびり過ごしたこれまでの時間も、私達にとっては決して悪いものではなかった。
「快斗さん、この連休が終わったら来月とうとう異動ですね~」
順路に従い一通り動物を見てまわったあと、人気のカピバラバーガーを写真に収め、デザートまで完食した私達。食後の珈琲を飲みながら、ふと思い付いたように私が呟く。
「ああ…まさか、こんなに早く部署が変わるなんて。また新人に逆戻りだ…」
学生の頃、当たり前のようにあった季節ごとの長期休み。社会人には残念ながらそんな物は存在しないが、今回は3月の終わりにほんの数日の"春休み"を貰うことが出来た。それを利用して今日は遠出をしているわけだが、この休みが終わればまた新年度が始まる。
「来月は引っ越しもあるし、結構バタバタしそうですね。私の職場は今そこまで忙しくないから荷造り手伝います」
「お、サンキュー!だけど、ようやく"真ん中にある強固で分厚い壁"を取っ払えるから、俺は案外ウキウキしてるけどな」
「?何ですか、それ」
「ハハッ、名前の受け売りだよ」
「え?」
「あの時の名前、すげぇ不審そうな顔してたからよく覚えるんだよ」
頬杖をついて懐かしそうに話す快斗さんの様子に私は首を傾げる。どうやら以前私が言った言葉らしいけれど、いつの事だろうか。この口ぶりだと出会ってすぐの頃、数年前の事かもしれない…と、私は必死に記憶を遡る。
「ま、これで名実ともに一つ屋根の下に住めるんだ。(仮)が外れる日も近いだろうから、期待しとけよ」
「え、何ですか?(仮)って……」
過去のやり取りを思い出す前に、どんどん話を進めてしまう快斗さん。私が話が見えないままポカンとしていると、快斗さんは腕時計に目を向ける。
「あ、やべ!ライオンの餌やり始まっちまう!そろそろ行こうぜ!」
「え、あ…分かりました」
何だかはぐらかされたような気分だが、私は快斗さんの勢いにつられて席をたつ。
「さ、行こう」
すると、快斗さんは当然のように私の手を握って歩き出す。私は快斗さんの手を握り返しながら、チラリと快斗さんの横顔を覗き見る。
(ま、いっか。快斗さんご機嫌みたいだし)
楽しそうに鼻歌を歌う快斗さんの姿に、私の口元も思わず緩んでいく。
きっと、これからも生きていく中で予想もしなかった事態に何度も見舞われるのだろう。その問題に程度の差はあるにせよ「前の方が良かった」と思いながら嘆く日々が、また来るかもしれない。
だけど、どんな時も快斗さんの隣にいられる関係性が続いていて欲しいと心から思う。快斗さんと一緒にご飯を食べて、テレビを見て、笑い合って、たまには喧嘩して。お互いの寝息が聞こえる距離で眠って、朝を迎えて、また日々を繰り返す。そんな当たり前のような日常が、私にとってはとても愛しく幸せなものだから。当たり前が、いつまでも当たり前とは限らないから。そう思わせてくれる快斗さんの事をずっと、ずっと大切にしていきたい。
きっと、快斗さんとのこの関係性が続いていく限り私は笑っていられるはずだ。
fin.
2020年に勢いで書いたお話でした。
今の学生さんたちは、自粛・自粛で学校生活もままならない。行事も中止、恋愛もまともに出来ない…と、ニュースで見たときに自粛生活の中でも何か楽しみや素敵な出会いがあれば良いな…と思った事がキッカケで書きました。勢いのまま書いたので、落としどころを見失いこんな感じにまとまりました。
夢小説なのにイチャイチャどころかキスもさせられず…。物足りない内容ですみません。
現実世界では未だに終息の兆しは見えないし、全ての人が笑って「あのときは、大変だったね」と、振り返られるほど甘い問題ではないように思います。呑気な内容でコロナ関連で苦しい思いをしている方に、不快な思いをさせてしまったら申し訳ないです。(一応、作品の中ではコロナという言葉は使わない事を意識しました)
あくまでフィクションとして、お楽しみいただけたら嬉しいです。
作品としては問題の終結までに数年かかったニュアンスで終わらせましたが、一刻も早い終息を願っています。
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