Let's自粛生活
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室内には甘い香りが立ち込め、味見のためと何度もチョコを口にした私は匂いも相まって若干胃もたれ気味だ。
黒羽先輩に告白しようと決意したものの、いきなりインターフォンをピンポンし「先輩、好きです!」なんて言う訳にもいかない。
かと言って、自粛しなければならない今の状況でどこか告白に適した場所に誘い出すことも出掛けることも出来ない。そんな事で悶々と悩んだ結果、定番のバレンタインデーを利用することに決めたのだ。
11.February
ピンポーン
「あれ、どうした?そんな格好で…」
「……えっと、急にすみません。ちょっとお邪魔してもいいですか?」
さすがに告白するのに、いつものスウェット姿というわけにはいかない。隣の部屋に行くだけなのだが、お気に入りのワンピースを着て念入りにメイクを施してきた。突然現れたバッチリメイクの私を見て、黒羽先輩は不思議そうに首を傾げながらも部屋に招き入れてくれる。
「どうしたの?そんな可愛い格好で」
リビングに通されテーブルを挟んで向かい合って座ったところで、黒羽先輩は怪訝そうに私にそう尋ねる。
「えっと、今日はあの……バレンタインデーなので、」
「………もしかして、どこかに行った帰りなの?」
「いえ、そうじゃなくて……」
「じゃあ、これから行くとこ?」
何故か淡々と質問を重ねてくる黒羽先輩に戸惑いつつも「行くところというか……もう来てるというか」と私は小さく呟くと、一度大きく深呼吸する。そして鞄からキッチリとラッピングしてきたチョコレートを取り出す。
「……黒羽先輩に、コレ受け取ってもらいたくて来ました」
緊張から言葉が震えそうになるのを何とか押さえつけながらそう言って、テーブルの上にスッとチョコレートの包みを差し出す。黒羽先輩はチョコレートと私の顔を何度も見比べながら「え、」と小さく声を漏らす。
「……えっと、もしかしてあれ?クリスマスの時みたいな、日頃のお礼……」
「……じゃないです」
「……………。」
ヘラリと笑っている黒羽先輩の言葉を遮って私がそう言うと、黒羽先輩は目を丸くして言葉に詰まる。私はギュッと膝の上で手を握りながら、真っ直ぐ黒羽先輩に視線を向ける。
「……引っ越してきて、すぐ。分からないことだらけで一人で不安だった時に、黒羽先輩が声をかけてくれて嬉しかったです」
「………………。」
「思わず毬藻を買っちゃうくらい寂しかった一人暮らしも、先輩とご飯を食べたり一緒に映画を見るようになって凄く楽しくなりました」
黒羽先輩に出会ってからの思い出を一つ一つ振り返る。黒羽先輩のお陰で私がどれだけ楽しくて、どれだけ助けられてきたのかが少しでも伝わるように言葉を続けていく。
「私のことを心配して、朝早くからジョギングに付き合ってくれて優しいなって思いました」
「………………。」
黒羽先輩は私から視線をそらさずに、黙ったまま私の話を聞いている。
「おばあちゃんの事で落ち込んだときも、台風が来て怖かったときも……黒羽先輩がいてくれたから笑っていられました」
そこまで言うと、私は小さく息を吐き出して改めて黒羽先輩に視線を合わせる。
「………黒羽先輩が好きです、自粛生活が終わっても隣にいられる関係になりたいです」
私が震える声で一気にそう言いきると、黒羽先輩は片手で口元を覆って視線を下に向ける。
「………大学の、」
「え?」
「大学の…ゼミの奴に、なんか……イイ奴がいるって……」
「……いませんよ」
「何だよ、俺……てっきり、」
黒羽先輩は小さな声でブツブツと呟いたあとに、ゆるりと顔を上げて私に視線を合わせる。前髪の隙間から向けらた真っ直ぐな視線に、私は思わず小さく息を呑む。
「………俺も、好き」
「へ?」
「俺も、名前ちゃんのこと好きだよ」
「え?ほ、本当…ですか?」
私は黒羽先輩の言葉に、みるみる顔に熱が集まるのを感じながらも思わずそう聞き返してしまう。
「……本当。いつからかな、分かんねーけど……多分、夏くらいから。ずっと好きだった。俺も名前ちゃんと、ずっと隣にいられる関係になりたい」
先輩の言葉に、私は我慢出来なくなって顔を覆ってテーブルに突っ伏す。嬉しくて、恥ずかしすぎて、わけがわからなくて。今きっと、とんでもなく酷い顔をしている。
「あ、それと……」
そんな私の頭上から黒羽先輩の改まった声が聞こえてきて、私は指の間からチラリと黒羽先輩に視線を向ける。
「今日みたいな可愛い格好も好きだけど、俺は眉毛のないいつもの名前ちゃんが好きだよ」
そう言ってニヤリと不敵に微笑む黒羽先輩はすっかりいつもの調子を取り戻していて、私は顔を真っ赤にしながらパクパクと言葉を失ってしまう。
「これからよろしくな、名前」
そんな私を愉快そうに見下ろしながら、黒羽先輩は耳に響く甘い声色でわざとらしく私の名前を呼んだのだった。