Let's自粛生活
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『何としてもこれ以上の感染拡大を食い止め、感染を減少傾向に転じさせる。そのために、今回の緊急事態宣言を決断いたしました。国民の皆様には再度感染を減少させるために……』
自粛生活にも慣れたせいか、それとも我慢の限界なのか。世間の感染対策に対する関心や心構えが薄れ始め、自粛への意識も弱まってきた頃、止まらない感染拡大に伴いとうとう1月の頭にニ度目の緊急事態宣言が発令された。
「とうとうニ度目かぁ……お正月は大人しく引きこもってて正解だったな」
私はテレビから繰り返し流れる総理大臣の会見の様子を流し見ながら、つい先程大学から届いたメールを開封する。
『緊急事態宣言に伴い、予定されていた大学構内での講義などは全て一旦中止となり変更可能の講義はリモート対応となります。つきましては、◯日に追加の教材や必要な書類を配布するので各自受け取りに来てください。三密を避け、必要以上大学構内に滞在することなく………』
10.January
(よし、書類も受け取ったし早く帰らないと…)
指定の日に大学に赴き必要な書類を受け取った私は、早々に帰路に着こうと足を進める。久しぶりに友人に会って話したい気持ちは分かるが、くれぐれもこの後ランチに行ったり構内に残ってお喋りすることのないように、と教員達に何度も注意された。
最近は必要な事以外は外に出ない生活を送っていたため、久しぶりに触れた冬の冷たい空気が肌に突き刺してくるように感じる。その感覚からも(ああ……今年はいつもみたいに寒さで身体を震わせることもなく、随分ぬくぬくと室内で過ごしていたんだなぁ)と、改めて今の異様な生活ぶりが身に染みる。
「あ、あれって……」
マフラーに顔を埋めながら歩いていると、通りの向こうに数人の男女のグループが歩いているのが目に入る。その中心にいるのは、お隣に住む黒羽先輩だ。いつものラフな姿ではなく、細身のジーンズにコートを羽織り、首にはぐるぐるとマフラーを巻き付けている。全員がマスクをしているものの、何やら楽しそうにやり取りしているのが離れた位置からも確認出来る。
(黒羽先輩の学年も、今日大学に来てたんだ……)
外出用の服装でおそらく同学年であろう友人達と笑い合っている先輩は、いつも部屋でダラけている先輩とはまるで別人のように感じる。まるで元々なんの接点なんかなかったような、一気に距離が離れてしまったような、そんな感覚に陥る。
「………仲良さそう」
黒羽先輩が隣を歩く女の人に何かを耳打ちして二人でケラケラと笑っていると、それを見たまわりの人達が何かを言って最後は全員で笑い合う。少し見ただけでも、気心の知れた仲の良い友人同士なのが分かる。そんな姿を見た私は、思わず鞄を持つ手にギュッと力をこめる。
--へー。ずっと、素敵な出会いのためにって話してたもんな?良かったじゃん--
クリスマスの日に黒羽先輩に言われた言葉が頭を過る。
ゼミの仲間に良い奴はいたのか?良い出会いがあって良かったな。そんな事を言われて、黒羽先輩は私の事を本当にお隣に住む友人としか思っていないんだな…と、思い知らされてしまった。あの時、動揺を悟られずににうまく言葉を返せていただろうか。
「あの答え、黒羽先輩の事だったんだけどなぁ…」
苦し紛れに周囲の人には恵まれている、なんて言ってしまった。だけど、それは正しくは黒羽先輩の事だ。こんな状況で世界中がパニックになり、いろんな人が様々な理由で苦しんでいる。それは十分すぎるほど理解している、それでもこんな状況でなければ黒羽先輩と親しくなれなかった。黒羽先輩との関わりを持てた事、それだけはこの状況に感謝している。
(そろそろ、ハッキリさせた方が良いのかもしれないなあ)
今の自粛生活の中で、黒羽先輩と一番顔を合わせているのは私だろう。だけど、先輩にはあんな風に以前から親しくしている友人がたくさんいる。感染拡大が収まれば今のように気軽に一緒に過ごすことは出来なくなるだろう。それに、例え今は緊急事態宣言が発令され再び自粛生活を余儀なくされてるとはいえ、黒羽先輩だって友人達と連絡は取り合っているだろうし、自粛中だから先輩に彼女が出来ないとは限らない。手遅れになって後悔する前に、気持ちを伝えるくらいはするべきなのかもしれない。
ガヤガヤと楽しそうに話ながら離れていく黒羽先輩の背中を見送りながら、私はぼんやりとそんな事を考えていた。