Let's自粛生活
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※新型コロナウィルスに伴う自粛生活をテーマにしていますが、フィクションです。小説の中に出てくる話や台詞等は現実の病態・疫学・社会情勢などとは一致しておりません
※小説はほのぼの日常メインです。感染症により辛い思いをされた方に不快な思いをさせてしまったら申し訳ありません。あくまで創作物として、心を空っぽにしてお読みください。読んだ後の苦情はご遠慮ください
※怪盗キッド?何ソレ?の世界線
※日々の生活の一部を覗き見るイメージで淡々と進みます
『全国各地の医師、看護師、病院スタッフの皆さん。そしてクラスター対策に携わる保健所や専門家、臨床検査技師の皆さんに、日本国民を代表して心より感謝申し上げます』
苗字名前、19歳の春。
キャンパスライフに憧れて上京、初めての一人暮らし。年末辺りから新型ウイルスが何ちゃらって報道は見ていたけど、所詮は違う国の出来事だと思って気にしていなかった。4月からは大学でサークルに入って、お洒落なカフェでバイトして、友人をたくさん作って、あわよくば素敵な恋人も……なんて夢に見ていた。
それが今……テレビの向こうでは、私の住む国のトップに当たる総理大臣が、非常に重々しい雰囲気で会見している。スマホにはどんどん速報の文字が飛び込んでくるし、SNSも大騒ぎだ。
『……感染拡大に伴い、特別措置法第32条に基づき、緊急事態宣言を発出することといたします』
「………緊急事態宣言?」
総理大臣の口から発せられた今まで聞くことのなかった重々しいその単語に、私はポカンと口をあけたままテレビを凝視してしまう。
(……まるでパニック映画の冒頭みたい)
只ならぬ事が起きているのは分かっていても、この時の私はそんな感想しか浮かばないくらい現実感がなかった。
だけど、これからの1年間は間違いなく誰も想像もしていなかった1年になった。この宣言は、その始まりにすぎない事に誰もまだ気付いていなかった。
1.April
「あー、もう電波悪い!!ちょっとベランダ出るから待って」
『おー、おー。イライラすんなや』
耳元から聞こえるのんびりした兄の声。その声は焦る私を更に苛立たせるが、今頼れる人はその声の主である兄しかいない。
「どうしよう、お兄ちゃん!全然つながらないの!」
ベランダに出た私は、半泣きになりながら兄にそう訴える。
『ちゃんと設定確認したのか?繋がらないって、映像もダメ?』
「何度も説明書見たよ!!でも、映像も出ないし。音声も聞こえないよー。明日から、ほら何だっけ…リ、リ…」
『リモートな』
「そう、リモート授業なんだって!このままじゃ参加出来ないよ。今って業者の人も部屋に呼べないよね?」
『あー、どうかな。そういう業種も休みになってるかもな……そもそも基本的に人と会うの良くないらしいし。とにかく、もう一回初めからやってみろ。それで駄目なら、また俺に連絡して』
その言葉を最後にプツリと切れた電話。私はベランダの柵にもたれかかりながら、大きく深いため息をつく。
「もう一回やってみろって…昨日からずっとやってるのに……だいたい何なのよ、リモートって!せっかく頑張って大学に入ったのに……」
上京したばかりで頼る相手もいない、気軽に店舗に行くことも出来ない八方塞がりな状況に、情けなくもじわじわと涙が浮かんできて、八つ当たりのようにブツブツと文句を垂れる。
「おーい、ちょっといい?」
通話の切れた携帯を片手に文句を言い続けていると、ふいにどこかから声をかけられてビクリと身体を震わす。
「……え、どこから?」
(ここ三階なんだけど…!?)
私がキョロキョロと辺りを見渡していると、コンコンとベランダの仕切りを叩く音がして「隣でーす」と、言いながらひょこっと男の人が顔を出す。
「わあ!」
「あ。ごめん、ごめん!驚かせちゃった?」
「え、えっと…?」
「俺、東都大学3年の黒羽快斗!よろしく」
隣のベランダから顔を覗かせた男の人は、人懐こい笑顔で笑いながらそう自己紹介する。
「…苗字名前です。4月から東都大学の1年です」
「やっぱり?このアパート同じ大学の奴が多いから、そうかなーって思って。あ!そうそう。さっきの電話さ、ちょっと聞こえちゃったんだけど…」
「あ!煩くてしてすみません…」
「いやいや、それは気にしないで。もしかして、パソコンの設定出来ねーの?」
「……はい。突然リモート授業が始まるって言われて、慌ててパソコンとかマイクは準備したんですけど」
「Wi-Fiとかは?」
「あ、それは大丈夫です」
「なるほどねぇ。俺もリモートの準備、この間したばっかりなんだよ。良かったら見てやろうか?」
「え!」
「あ、やっぱり部屋に知らねー男を入れたくないか。無理にとは言わねーけど」
驚いて思わず声をあげた私に、黒羽先輩は慌ててそう言葉を返す。
「いえ!本当に困ってたんです…先輩が良ければ、見てほしいです!!」
しかし明日からの講義を前に追い詰められていた私は、顔を引っ込めてしまいそうな黒羽先輩を慌てて引き留める。
「そう?じゃ、今そっち行くわ」
私の勢いに目をパチパチと瞬かせたあと、黒羽先輩はニカッと笑ってそう言った。
ピンポーンとインターフォンを押して入ってきた黒羽先輩は、ベランダでは素顔を晒していたのにご丁寧に黒いマスクをしていた。私も慌てて数日前に手作りした布のマスクを装着して出迎える。
「とりあえず、適当にいじってみてもいい?」
「はい!煮るなり、焼くなりお好きにどうぞ!」
「ハハ、何だそりゃ」
黒羽先輩はパソコンの前に胡座をかいて、カチカチとマウスを操作し始める。
(……良い人がお隣さんで良かった)
私は作業している黒羽先輩の姿をぼんやりと見つめた後にハッと我に返って、何か飲み物でも出そうと慌ててキッチンに向かう。
(あー、お洒落なお菓子とかなんにもないや。好みも分からないし、ある物を適当に出しとこ)
引っ越してきたばかりでろくなものがない冷蔵庫や戸棚をガサガサと漁っていると、リビングから声が聞こえてくる。
「おーい、えっと…名前ちゃんだっけ?出来そうだよ」
「え!本当ですか?」
「インストールしてたアプリのバージョンが古かったんだよ。これインストールし直せば、多分繋がるぞ」
「わー!良かった、ありがとうございます!!」
私は有り合わせのお菓子や駄菓子を入れたカゴと紅茶を手に、黒羽先輩の元へ向かう。
「これ、良かったら食べてください」
「おー、悪いな。ハハ、何これ?実家の炬燵に乗ってそうなラインナップ」
「……まさに実家からの仕送りなんです」
黒羽先輩の言葉に恥ずかしくなって、視線を下げながらそう答えると、黒羽先輩は慌てて口を開く。
「いやいや!悪い意味じゃないって!好きなのばっかりってこと!」
黒羽先輩はそう言いながら「マスク外していい?」と、尋ねてくる。私がコクコクと頷いて了承すると、黒いマスクを顎に引っ掛けながらガサガサとチョコレートの包みをあけてパクりと口に放り込む。
「でも実家からの仕送り、ありがたいよなー。今は買い物も気軽に行けないし」
「そうですよね……いつになったら大学に行けるんでしょうか?」
「んー?どうかな。とりあえず、連休明けまでは様子見っぽいよな。……お、繋がったぞ!」
パッと映った画面を見て、私は思わずガバッと黒羽先輩の後ろからパソコンを覗き込む。
「わ、良かった!ありがとうございます!本当に助かりました!」
「……お、おう」
「本当に良かったー!大学にも行けなくて友達もまだいないのに、リモートにも参加出来なかったらどうしようって不安だったんです」
「良かったな。……明日は何の講義に参加すんの?」
「明日はメディア基礎論Aです」
「ふーん。って事は、学科は国際言語系?」
「そうです!黒羽先輩は?」
「俺は教育学部」
「そうなんですね。学課も一緒だったら心強かったのに、残念です。………あ、私ちょっと兄に電話してきますね!お菓子、好きなだけ食べててください」
「……おー、ありがとな」
「もしもし、お兄ちゃん?パソコン繋がったよ!!」
「……………。」
携帯を片手にパタパタとベランダに向かうお隣さんの女の子を見送る。
(部屋に上がり込んだ俺が言うのもアレだけど、危機感ない子だな)
リモート画面に接続出来たパソコンを、自分の顔の真横から覗き込んだ彼女の顔の近さには情けなくも動揺してしまった。
(……菓子の趣味も合いそうだし、良いお隣さんで良かったぜ)
好きなだけ食べても良いと言われたお菓子の山に手を伸ばしながら、快斗は小さく笑った。
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