染まり合う心情
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「アリバイがある!?どういう事だ?」
「分かりません。"自分は、今日あの部屋の女を襲うように頼まれただけで何も知らない"と話していて」
警察庁についてみると、確保した男は先の4件の殺人に関してはアリバイがあり、そもそもネットの書き込みも知らないと供述していると報告を受ける。
「頼まれた、だと?」
「は、はい。万が一、警察にバレた場合の逃走経路も指定されていて…前金で50万もらったと」
--普通に考えれば、情報漏洩を疑います--
--ハハ、公安のこととなると冷静じゃありませんね。今回の捜査では、確か公安の捜査員以外も……--
「ま、まさか…」
「降谷さん?」
--強いて言うなら、肉弾戦は些か苦手なことくらいか--
降谷の脳裏に、ふいに赤井から告げられた名前の特徴が思い浮かぶ。
「クソッ!!今すぐ苗字に連絡しろ!!俺以外誰が来ても部屋に入れるなと伝えろ!!」
「ふ、降谷さん!?」
戸惑っている部下を尻目に、俺は勢いよく公安のフロアを飛び出して苗字の部屋に向かった。
--ピンポーン
「はい?」
『あ、苗字さんですか?捜査一課の菊田と申します』
「捜査一課?」
『はい。囮捜査を行う際に提出する書類に不備がありまして。公安の方々は忙しそうなので、私が変わりに参りました』
「…書類?」
名前は、モニターに映る警官の制服を来た男の言葉に首を傾げる。
『はい。この書類がないと、取り調べが正式に行えないんです。降谷さんの方から連絡が来ていませんか?』
「え、」
---ピリピリピリ…
そんな会話をしていると、ふいに携帯の着信音響く。そこに表示された真壁の名前を見て、名前は小さく息をつく。
(……書類の件かしら?)
「分かりました、今あけますね」
『お願いします』
名前はそう言って扉を解錠しながら、電話をとる。
「もしもし?真壁さん?書類の件なら今ちょうど…」
『苗字!!部屋に降谷さん以外の人間が来ても絶対に……』
---ガチャ、
その言葉と同時に玄関の扉が開く。名前が携帯を片手に玄関に視線を向けると、そこにはナイフを手にした警察官が立っている。
「!?」
驚く名前に向かって、勢いよくナイフを振り上げながら突っ込んで来る男。名前は、咄嗟に携帯を相手の顔面を狙って投げつけながらリビングに向かう。
----ガシャンッ!!
『お、おい!?苗字!?』
床に落ちた携帯からは真壁の戸惑った声が響くが、男と名前はガタガタとリビングに雪崩れ込む。名前は咄嗟にテーブルにあったボールペンを掴むが、それと同時に男に髪を勢いよく引っ張られてソファに投げ飛ばされる。
---ドカッ!!ドカッ!!
「っ!!」
馬乗りになられ、マウントポジションを取られた状態で顔を強く殴り付けられ口に鉄の味が滲むが、名前は自分に股がる男を睨み上げる。
「……Shit!まさか警察官が犯人なんてね」
「ハハ!!怯えもしないとは、可愛い気のない女だ。お前を殺せばあの男は責任を問われるだろう!!まんまと偽物に飛び付いて、公安もバカな奴等ばかりだ!」
男はナイフを名前の首筋に押し当てる。脅しのつもりではないようで、チリッとした痛みともにうっすら血が滲んで首筋を流れる。
「あの男…?」
「降谷零さ!!俺より年下の癖に公安のエースだのと持て囃されて!!偉そうに捜査一課(俺達)を顎で使いやがる!!今日なんて裏サイトの書き込みのサクラだと!?俺達は公安の雑用係じゃないんだ!!」
「ハッ、それで?何で殺人を?」
「あのサイトでは俺は神と崇められている…誰よりも強く、本当に正しいのは俺だ!!世の中のクズどもを制裁してやった俺こそが、本当の正義だ!!」
薄気味悪い笑いと共にそう叫んだ男は、突然ビリビリと名前のシャツをナイフで切り裂く。
「ハハハ、ただ殺るだけではつまらない。少し楽しませてもらおうか」
名前の肌をわざとらしく撫で上げながらニヤニヤと笑う男。名前は肌を這う指の感覚にゾワゾワと鳥肌がたつのを感じながらも、男を睨み付けて挑発するように口元に笑みを浮かべる。
「あの人の努力も覚悟も知らないで、一方的に募らせた嫉妬心で人まで殺すなんて…救いようのない屑ね。そういう人間だから、今みたいな立場に甘んじてるのよ!あんたが不満に感じているソレは、あんたに対する正当な評価だわ!!」
「な、何だと!?」
「あんたに正義なんて言葉を口にする資格はない!!降谷零のような人間こそ本当の警察官よ!!Shame on you!!bastard!!(恥を知れ、クソ野郎)」
「っこの!!!」
---バキッ!!
「……ぐっ!」
名前の言葉に激昂した男は、荒々しく名前の右手を捻り上げながら顔を殴り付ける。捻り上げられた腕からは鈍い音が響き、名前は小さく声を上げる。
(どうする?もう時間稼ぎも限界……この態勢じゃ反撃しようにも……)
--胸骨、肋骨、手の甲、顔面だと鼻と口の間にある人中のツボ。自分よりも力の強い人間なら、目や顎関節の根本、相手が男なら股間を狙え!!--
顔を殴られながら、心の奥で諦めかけたその時。ふいに名前の脳裏に、部下に向かって「死にたいのか!?」と、叱責していた降谷の姿が思い浮かぶ。
(ああ…私がここで死んだら、あの人……)
「…このクソ野郎っ!!」
名前はグッと唇を噛むと、渾身の力を込めて相手の顔面に頭突きを食らわせる。
「ぐあっ…」
男が驚いて鼻を押さえながら身体を離した隙に、間髪入れずにボールペンを手の甲に突き立てる。
「っ!?」
突然の反撃に反応が追い付かない男の背後にまわり左手と足を使って、男の首をギリギリと締め上げる。男はバタバタと抵抗するが、名前は息を止めて決して逃さないというように締め上げていく。男の身体からは徐々に力が抜けていき、やがてバタンと床に崩れ落ちる。
「ハァ……ハァ………ふーっ」
名前は男が気を失っているのを確認すると、ふらふらとソファに倒れ込んで大きく息を吐き出す。
「……あー、疲れた」
殴られた頬や右手の痛みに顔をしかめながら、しばらく寝転んだまま呆然としたように天井を見上げていると、玄関からバタバタと誰かが駆け込んで来る音が聞こえてくる。
「苗字!!」
リビングに飛び込んできた降谷は、ソファから覗く名前の投げ出された足を見てサッと顔を青ざめる。
「お、おい…苗字!?」
降谷が声を荒げたのと同時に、名前がゆらりと左手を上げる。
「……はーい、生きてますよ」
「お、お前……」
降谷は戸惑いつつもソファに寝転んだ名前の元に近付いて来る。
「すみませんが…そこに倒れてる男、拘束してもらえます?今日は手錠とか持ってなくて」
「あ、ああ…」
降谷は警官の制服を着た男の姿を見て一瞬眉を寄せるが、すぐに手錠を取り出して男を後ろ手で拘束する。
「大丈夫か……お前、それ」
拘束を終えた降谷はすぐに名前の元に駆け寄ってくるが、名前の姿を見て言葉を失う。
「……え?ああ、すみませんね。見苦しくて」
名前はそんな降谷を見て不思議そうに首を傾げるが、ビリビリに裂かれてもはや服とは呼べないものしか身に纏っていない自分の状況を思い出す。そしてキョロキョロと辺りを見渡したあと、テーブルに置かれている部屋着のカーディガンを適当に羽織る。
「……殴られたのか」
「まあ、少し」
起き上がってソファに座る名前の前にしゃがみこんだ降谷は、名前の頬に触れながら顔をしかめる。
「少しどころじゃないだろ。酷いな…首も切られてる」
「……ハハ、どうしました?降谷さん…私はFBIの人間ですよ。このくらい慣れてますから平気です」
腫れた上がった頬や首筋の傷に触れながら、辛そうに顔をしかめる降谷の反応は、まるで自分がただの女だと錯覚してしまうもので、名前は曖昧に微笑みながら言葉を返す。
「………すまなかった」
「何で謝るんですか?無事犯人確保、作戦成功ですよ」
「……この傷」
降谷は、名前の左手の手首にソッと触れながら言葉を続ける。
「囮役を買って出てから、お前はずっとここに爪を立てていた」
「え、」
名前は自分の手首に残る、複数の薄い引っ掻き傷を見て目を丸くする。
「無意識だろう?自分FBIの人間だからと、押さえ込んでいた潜在的な恐怖やストレス、プレッシャーによるものだ」
「…………。」
「だからこそ、危険な目に合わせたくなかったのに。結局こんなことに…」
絞り出すように呟かれたその言葉に、名前は目を丸くする。自分ですら気付いていなかった心の奥にある感情に気付いて、必死に守ろうとしてくれていたのか。
「………降谷さんのおかげですよ」
「何がだ、捕まえたのはお前だ」
「犯人に殺されそうになったとき、降谷さんが以前部下に指導していた言葉を思い出したんです。おかげで、的確に急所を狙えました」
「…………。」
「肉弾戦は苦手なので、助かりましたよ。それに、ここで私が死んだらあなたは余計に自分を追い込んでしまいそうなので」
「……え?」
「私も先輩や同期を亡くした事はありますけど……降谷さんは、何でも背負いすぎだと思いますよ。指揮もとって、部下の指導、張り込みして、ハニトラまでして?そのうち倒れちゃいますよ。今回は、あなたの背負うものを増やすことにならずにすんで良かったけど………痛っ、」
そう言いながら立ち上がろうとした名前は、ふいに右腕の痛みを思い出して言葉を切る。
「どうした?」
呆然としたように名前の話を聞いていた降谷だったが、ハッと我に返って名前の顔を覗き込む。
「あ、右肩…外れちゃったみたいで」
「何だ、そのくらい治してやる」
「え、嫌です。お医者さんに頼みます」
「肩が外れたくらいで何を言ってるんだ?」
「や、やだやだ!私こういう痛い処置苦手なんです。降谷さん、荒っぽそうだし絶対に嫌です!!もっと優しい人がいい……」
名前の言葉に降谷はピクリと眉を寄せると、名前の左肩を押さえてソファに座らせる。
「散々殴られても平気だったんだろ?大丈夫だ、俺が治してやる」
「ひっ…」
ニッコリと笑う降谷の顔を見た名前は小さく息を飲むが、降谷は構わずに右肩に手を伸ばす。
「ま、待って!」
「何だ?往生際が悪い…」
「や、優しく。優しくしてください」
どんな状況でも強がって淡々としていた名前が、降谷の服を掴んで怯えたように小声で頼み込む。降谷を見上げるその顔は痛々しく腫れているが、その瞳は僅かに潤んでいるように見える。
「…………大丈夫だ、優しくしてやる」
「……うー、本当にお願いします。い、痛くしないで」
緊張したように顔を強張らせる名前。降谷はソッと右肩に触れながら、名前の耳元に顔を寄せる。
「俺の顔だけ見て、余計な事を考えるな」
「む、無理です……」
「名前」
「………へ?」
----グイ、ゴキッ!!
今まで苗字でしか呼ばれていなかったのに突然耳元で自分の名前を呼ばれて、一瞬ポカンと身体の力が抜けたタイミングで一気に肩の関節を動かされる。
「っ、痛い!!」
「騒ぐな、もう終わった」
「ひどい、急にやるなんて……」
「ハハ、名前を呼んだくらいで惚けた顔をして。やっぱりウブだな、君は」
「………っ、最低!!!」
ジンジンと痛む右肩の痛みを堪えながら、名前は勢いよく立ち上がる。
「着替えてきます!!さっさと、そのクソ野郎を連行しましょう」
「ハハ、急に口が悪いな。照れてるのか?」
「うるさい!!」
顔を赤らめながら着替えるために寝室に向かう名前を、降谷は可笑しそうに笑いながら見送った。