染まり合う心情
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※公安、FBIの制度とか諸々捏造です。
捜査員交換研修
某組織の壊滅の為に異例の合同捜査をした、警視庁公安部と連邦捜査局(FBI)。今後の組織間の良好関係促進と技術促進等を目的として、一定期間捜査員をお互いの組織に派遣する事となった。
「全くふざけた研修だ。こんな事をしてまで、今後FBIとの交流を深めるつもりはない」
降谷はFBIに派遣する自分の部下に関する申し送りを終えると、資料を投げつけるようにして向かいに座る男に渡す。
「まあ、そう邪険にするな。そっちに行くのは可愛い奴なんだ。面倒見てやってくれ」
「ふん!捜査員のトレードには、互いの組織の技術や捜査方法を取り入れる事による能力向上も兼ねているんだ。可愛いだのと言う理由で、半端な捜査員を寄越されても迷惑だ」
「その点は問題ないさ。苗字名前、俺の直属の部下で優秀な捜査員の一人だ」
相変わらず自分に対しては噛みつくような態度を見せる降谷を見て、赤井は可笑しそうに僅かに口許を緩めながらも、自分の部下にあたる捜査員の資料を降谷に手渡す。
「概ね資料を見てもらえば分かる。現場の捜査も、捜査計画の立案やプロファイリングもオールマイティーに熟せるだろう」
「ほー、過大評価じゃないだろうな」
「正当な評価のつもりだよ。強いて欠点を上げるとしたら、銃社会のアメリカで犯罪者を相手にしているせいか、狙撃は得意だが肉弾戦は些か苦手な事くらいか」
◇◇◇◇◇◇◇
「おい、FBI!」
「……………。」
「聞こえないのか、FBI!」
「……FBIは、連邦捜査局。司法省に属するアメリカ合衆国の警察機関の一つ。個人を指し示す名称ではありませんよ」
クルンと椅子を回して振り返った女は、自分に向かって淡々と言葉を返す。その態度に俺の部下はヒヤヒヤしたように俺達の動向を見守っているが、女は軽く肩を竦めて言葉を続ける。
「ここに派遣されて、一週間。未だにFBI呼ばわりですか。これ、もしかして日本で流行りのPower harassmentって奴ですか?どう思います?"上司"の降谷さん」
「……ッチ、苗字」
「はい、何でしょう?」
「2日前に頼んだ連続強盗殺人に関する捜査資料はどうなっている?」
「風見さんに昨日お渡ししました」
「なぜ風見に渡すんだ!!」
「昨日1日降谷さんが外回りでいらっしゃらなかったからです。どうしようかと困ってるところを、風見さんが親切に受け取ってくださいました」
「ふ、降谷さん!私がお預かりしています!報告が遅くなって申し訳ありません!」
俺達の会話を聞いていた風見が、慌てて間に入って来て資料を差し出す。
「ッチ!俺のデスクに持ってこい」
「はい!!」
自分のデスクに向かいながらチラリと横目で確認した苗字は、既に何事もなかったようにパソコンに視線を向けている。
(赤井!!!こいつのどこが可愛いと言うんだ!?)
FBIの捜査員にしては小柄で童顔な顔つき、確かに可愛いかも……と思ったのは、ほんの一瞬。初対面で自己紹介をした瞬間だけだ。アメリカ特有の、上下関係を弁えずに行われる自己主張。警察組織という職場の中でも、必要以上に愛想を振り撒けとまでは言わないが、それにしたって無愛想で一切可愛いげがない。
「おい、風見」
「何でしょうか?」
「なぜ、この男が容疑者リストに含まれている?前回の捜査会議で、リストから外されたはずだ」
「……それは、連続強盗犯の犯行地を直線で最も遠い2地点を直径とした円を描くと、その中に犯人の犯行地と住居があるという説があるらしく…それを踏まえて再捜査したところ、この男に不審な点が浮上しまして」
「ほー、サークル仮説というやつか。そんなプロファイリングを用いるとは珍しいな。誰の進言なんだ?」
「苗字さんです」
感心しつつ捜査資料を見ていた俺は、ピタリとその手を止めて風見に目線を向けるが、風見は気付かないようで高揚したように話続ける。
「一昨日捜査資料の整理を頼んだだけなんですが、翌日には犯行現場の位置と特徴から考えられる容疑者の居住地などをまとめた資料を提出してくれまして…」
「そうか…1日で」
風見の言葉を聞きながら、降谷はデスクでパソコンに向かっている苗字にチラリと視線を向けた。
◇◇◇◇◇◇◇
外回りを終えて20時過ぎに公安のフロアに戻ると、珈琲チェーン店の紙袋を片手に前を歩く苗字の背中が目に入る。
(アイツ、まだ帰ってないのか…)
何となく距離を保ったまま後に続くと、苗字は軽い足取りでフロアに入って行く。
「真壁さん、お疲れでーす」
「あ、苗字か。お疲れ」
「まだ終わらないんですか?」
「……………。」
(真壁のやつも、まだ残ってたのか)
フロアの中から聞こえてきた会話に、俺は何となく入り口で足を止めて聞き耳をたてる。
「これ、良かったらどうぞ。ブラックとカフェオレどっちにします?」
「ああ、悪いな。ブラックくれ」
「どーぞ。……それ、一昨日押収した違法薬物仕入れ先の報告書ですか?」
「ああ…所轄から上がってきた押収した薬物の名称にミスがあってな。修正が必要なんだよ。一から全部だ、まいったぜ」
「ふーん」
苗字は珈琲を片手に真壁の手元の資料を覗き込む。
「それ、変わりますよ」
「え?」
「真壁さん、先週お子さん産まれたんですよね?早く帰ってあげてください」
「…お前、今週来たくせに何で知ってるんだ?」
「そりゃ、女は噂好きですからね」
「おいおい、俺の噂話もあるのかー?女は怖いな」
「下手なことしたら、一気に広まりますからね。気をつけてくださいよー。それより、資料貸してください」
「いやいや、悪いよ。元々は俺の仕事だ。お前は仕事ないなら帰れ」
「いいんですかー?産後の恨みは、女性は一生引きずるんですよー」
「え!?」
「子どもが巣立つ頃になって、奥さんに恨まれたまま離婚になる事もあるんですからね」
「……………。」
「こんな資料、元データ打ち込むだけなんですから誰でも作れますよ。育児はパパになった真壁さんしか手伝えないんですから!はい、帰ってください」
苗字はそう言うと、バサバサと真壁のデスクにある資料を奪い取って、変わりに真壁に鞄を持たせる。
「お、おい…」
「小言のうるさい降谷さんには秘密ですよ?お礼は、食堂のAランチ3日間で手を打ちましょう。はい、さようなら。お疲れ様でーす」
苗字は一方的にそう告げると、資料を手にどんどん自分のデスクに戻ってしまう。真壁は戸惑いつつも結局その言葉に甘えるようで、何度もお礼を言いながら帰り支度を始める。
(……鉢合わせになったらまずいな)
俺は真壁が近付いてくる気配を察して、近くの物陰に身を潜める。すると、「苗字、ありがとう!」と大声で言いながら真壁が足早にフロアから立ち去っていく。
(嫁さんが妊娠中だとは聞いていたが……もう産まれていたのか)
その背中を見送りながら、俺はぼんやりとそんな事を考える。先週は出張続きでほとんど部署に顔を出していなかった。
(少し遅れたが、明日にでも改めて出産祝いを渡してやるか)
そんな事を考えながら少し時間をつぶしたあと、俺は何食わぬ顔で公安のフロアに向かう。
「……何だ、まだいたのか」
「あ、お疲れ様です」
「こんな時間まで何をしてるんだ?急ぎの案件か?」
何も知らないフリをしてそう尋ねると、苗字は小さく笑いながら俺に視線を向ける。
「違いますよ。ちょっと、のんびり珈琲飲みたくなって。さっきまでコレ買いに抜けてたんですよ。休憩取りすぎちゃっただけです」
「………ほー、」
「コレ終わらせたら帰りますから。お気になさらず」
「…そうか、お疲れ」
淡々と話す苗字。先程のやり取りを盗み聞きしていなければ、嘘を言っているなんて気付きもしなかっただろう。むしろ、仕事の合間に珈琲を買いに抜けるなんて…と、反感を抱いたかもしれない。しかし盗み聞きをしておいて、今さら「真壁の仕事をやっているのだろ?」と、問い詰める事も出来ない。チラリと苗字に目を向けると、左手でたまに珈琲を飲みながら淡々とデータを打ち込んでいる。そんな姿をしばらく眺めていたものの、結局声をかける用件も思い当たらない。
「…………。」
俺は何となく後味の悪いまま、苗字を残して帰路についた。
捜査員交換研修
某組織の壊滅の為に異例の合同捜査をした、警視庁公安部と連邦捜査局(FBI)。今後の組織間の良好関係促進と技術促進等を目的として、一定期間捜査員をお互いの組織に派遣する事となった。
「全くふざけた研修だ。こんな事をしてまで、今後FBIとの交流を深めるつもりはない」
降谷はFBIに派遣する自分の部下に関する申し送りを終えると、資料を投げつけるようにして向かいに座る男に渡す。
「まあ、そう邪険にするな。そっちに行くのは可愛い奴なんだ。面倒見てやってくれ」
「ふん!捜査員のトレードには、互いの組織の技術や捜査方法を取り入れる事による能力向上も兼ねているんだ。可愛いだのと言う理由で、半端な捜査員を寄越されても迷惑だ」
「その点は問題ないさ。苗字名前、俺の直属の部下で優秀な捜査員の一人だ」
相変わらず自分に対しては噛みつくような態度を見せる降谷を見て、赤井は可笑しそうに僅かに口許を緩めながらも、自分の部下にあたる捜査員の資料を降谷に手渡す。
「概ね資料を見てもらえば分かる。現場の捜査も、捜査計画の立案やプロファイリングもオールマイティーに熟せるだろう」
「ほー、過大評価じゃないだろうな」
「正当な評価のつもりだよ。強いて欠点を上げるとしたら、銃社会のアメリカで犯罪者を相手にしているせいか、狙撃は得意だが肉弾戦は些か苦手な事くらいか」
◇◇◇◇◇◇◇
「おい、FBI!」
「……………。」
「聞こえないのか、FBI!」
「……FBIは、連邦捜査局。司法省に属するアメリカ合衆国の警察機関の一つ。個人を指し示す名称ではありませんよ」
クルンと椅子を回して振り返った女は、自分に向かって淡々と言葉を返す。その態度に俺の部下はヒヤヒヤしたように俺達の動向を見守っているが、女は軽く肩を竦めて言葉を続ける。
「ここに派遣されて、一週間。未だにFBI呼ばわりですか。これ、もしかして日本で流行りのPower harassmentって奴ですか?どう思います?"上司"の降谷さん」
「……ッチ、苗字」
「はい、何でしょう?」
「2日前に頼んだ連続強盗殺人に関する捜査資料はどうなっている?」
「風見さんに昨日お渡ししました」
「なぜ風見に渡すんだ!!」
「昨日1日降谷さんが外回りでいらっしゃらなかったからです。どうしようかと困ってるところを、風見さんが親切に受け取ってくださいました」
「ふ、降谷さん!私がお預かりしています!報告が遅くなって申し訳ありません!」
俺達の会話を聞いていた風見が、慌てて間に入って来て資料を差し出す。
「ッチ!俺のデスクに持ってこい」
「はい!!」
自分のデスクに向かいながらチラリと横目で確認した苗字は、既に何事もなかったようにパソコンに視線を向けている。
(赤井!!!こいつのどこが可愛いと言うんだ!?)
FBIの捜査員にしては小柄で童顔な顔つき、確かに可愛いかも……と思ったのは、ほんの一瞬。初対面で自己紹介をした瞬間だけだ。アメリカ特有の、上下関係を弁えずに行われる自己主張。警察組織という職場の中でも、必要以上に愛想を振り撒けとまでは言わないが、それにしたって無愛想で一切可愛いげがない。
「おい、風見」
「何でしょうか?」
「なぜ、この男が容疑者リストに含まれている?前回の捜査会議で、リストから外されたはずだ」
「……それは、連続強盗犯の犯行地を直線で最も遠い2地点を直径とした円を描くと、その中に犯人の犯行地と住居があるという説があるらしく…それを踏まえて再捜査したところ、この男に不審な点が浮上しまして」
「ほー、サークル仮説というやつか。そんなプロファイリングを用いるとは珍しいな。誰の進言なんだ?」
「苗字さんです」
感心しつつ捜査資料を見ていた俺は、ピタリとその手を止めて風見に目線を向けるが、風見は気付かないようで高揚したように話続ける。
「一昨日捜査資料の整理を頼んだだけなんですが、翌日には犯行現場の位置と特徴から考えられる容疑者の居住地などをまとめた資料を提出してくれまして…」
「そうか…1日で」
風見の言葉を聞きながら、降谷はデスクでパソコンに向かっている苗字にチラリと視線を向けた。
◇◇◇◇◇◇◇
外回りを終えて20時過ぎに公安のフロアに戻ると、珈琲チェーン店の紙袋を片手に前を歩く苗字の背中が目に入る。
(アイツ、まだ帰ってないのか…)
何となく距離を保ったまま後に続くと、苗字は軽い足取りでフロアに入って行く。
「真壁さん、お疲れでーす」
「あ、苗字か。お疲れ」
「まだ終わらないんですか?」
「……………。」
(真壁のやつも、まだ残ってたのか)
フロアの中から聞こえてきた会話に、俺は何となく入り口で足を止めて聞き耳をたてる。
「これ、良かったらどうぞ。ブラックとカフェオレどっちにします?」
「ああ、悪いな。ブラックくれ」
「どーぞ。……それ、一昨日押収した違法薬物仕入れ先の報告書ですか?」
「ああ…所轄から上がってきた押収した薬物の名称にミスがあってな。修正が必要なんだよ。一から全部だ、まいったぜ」
「ふーん」
苗字は珈琲を片手に真壁の手元の資料を覗き込む。
「それ、変わりますよ」
「え?」
「真壁さん、先週お子さん産まれたんですよね?早く帰ってあげてください」
「…お前、今週来たくせに何で知ってるんだ?」
「そりゃ、女は噂好きですからね」
「おいおい、俺の噂話もあるのかー?女は怖いな」
「下手なことしたら、一気に広まりますからね。気をつけてくださいよー。それより、資料貸してください」
「いやいや、悪いよ。元々は俺の仕事だ。お前は仕事ないなら帰れ」
「いいんですかー?産後の恨みは、女性は一生引きずるんですよー」
「え!?」
「子どもが巣立つ頃になって、奥さんに恨まれたまま離婚になる事もあるんですからね」
「……………。」
「こんな資料、元データ打ち込むだけなんですから誰でも作れますよ。育児はパパになった真壁さんしか手伝えないんですから!はい、帰ってください」
苗字はそう言うと、バサバサと真壁のデスクにある資料を奪い取って、変わりに真壁に鞄を持たせる。
「お、おい…」
「小言のうるさい降谷さんには秘密ですよ?お礼は、食堂のAランチ3日間で手を打ちましょう。はい、さようなら。お疲れ様でーす」
苗字は一方的にそう告げると、資料を手にどんどん自分のデスクに戻ってしまう。真壁は戸惑いつつも結局その言葉に甘えるようで、何度もお礼を言いながら帰り支度を始める。
(……鉢合わせになったらまずいな)
俺は真壁が近付いてくる気配を察して、近くの物陰に身を潜める。すると、「苗字、ありがとう!」と大声で言いながら真壁が足早にフロアから立ち去っていく。
(嫁さんが妊娠中だとは聞いていたが……もう産まれていたのか)
その背中を見送りながら、俺はぼんやりとそんな事を考える。先週は出張続きでほとんど部署に顔を出していなかった。
(少し遅れたが、明日にでも改めて出産祝いを渡してやるか)
そんな事を考えながら少し時間をつぶしたあと、俺は何食わぬ顔で公安のフロアに向かう。
「……何だ、まだいたのか」
「あ、お疲れ様です」
「こんな時間まで何をしてるんだ?急ぎの案件か?」
何も知らないフリをしてそう尋ねると、苗字は小さく笑いながら俺に視線を向ける。
「違いますよ。ちょっと、のんびり珈琲飲みたくなって。さっきまでコレ買いに抜けてたんですよ。休憩取りすぎちゃっただけです」
「………ほー、」
「コレ終わらせたら帰りますから。お気になさらず」
「…そうか、お疲れ」
淡々と話す苗字。先程のやり取りを盗み聞きしていなければ、嘘を言っているなんて気付きもしなかっただろう。むしろ、仕事の合間に珈琲を買いに抜けるなんて…と、反感を抱いたかもしれない。しかし盗み聞きをしておいて、今さら「真壁の仕事をやっているのだろ?」と、問い詰める事も出来ない。チラリと苗字に目を向けると、左手でたまに珈琲を飲みながら淡々とデータを打ち込んでいる。そんな姿をしばらく眺めていたものの、結局声をかける用件も思い当たらない。
「…………。」
俺は何となく後味の悪いまま、苗字を残して帰路についた。
1/8ページ