安室透と契約結婚
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7.それでも愛して
元々恋人に捨てられるような女であるが、最近の私はあまりついていない。
降谷さんに惹かれたくない、と必死に距離を置こうとしているのに、数日前体調を崩した降谷さんはあろうことか私にデレた。その前にも思わせ振りにお土産を渡してきたり、これ以上私の気持ちを掻き乱さないでほしい。
そして今朝、洗い物をしているときに降谷さんのマグカップを割ってしまった。慌てて破片を拾うとして指も切った。本当に大馬鹿野郎だと自分に言いたい。どうせ割るなら自分用の100均で買ったマグカップを割れば良かったのに。とにかく、朝起きてきた降谷さんにマグカップを割ってしまったと謝ると、「それくらい気にしなくていい。」と、言ってもらえたがその表情は険しかった。眉間に深い皺を寄せて私の手元にあった粉々のマグカップを見ていた。それに気付いてもう一度謝罪しようとしたが、組織用の携帯に連絡が来たようであわてて部屋を出ていってしまった。
(もしかしたらお気に入りだったのかもしれない。)
部屋を出ていく前の険しい表情が頭から離れず、私は代わりのマグカップを求めてデパートに来ていた。何か思い出のつまった一品だったとしたら、私が購入したような代えの品を渡しても意味はないかもしれないが、とにかく元のマグカップによく似たそこそこ良い値段がするマグカップを購入して一応贈り物用に包んでもらった。
その帰り道、ここ数日で一番ついていない事が起きた。
別れた元恋人に会ったのだ。"会った"とはいえ、向こうは私には気付かなかった。彼の隣には清楚で可愛らしい女性がいた、2人でお揃いの指輪をして、楽しそうに腕を組んでいた。
---なぜ?
彼は上司に勧められた縁談を受けたのだから、今の私と同じように愛のない結婚をしたものだと思っていた。
なぜ2人はあんなに幸せそうに笑っているのか。右手に持っている降谷さんのマグカップが鉛のように重く感じる。出世のための結婚なんて、"契約結婚"と同じだ、彼も私と同じで利益の為に結婚したんだ。そう自分に言い聞かせていたのに、なぜ彼はあんな風に笑っているのか?
彼が彼と結婚したあの女性が、あんな風に笑っていられるのに、なぜ私は----。
「馬鹿みたい。」
恋人に振られ、一時の利益につられて契約結婚をした。今はその相手を好きになりたくなくて、必死に彼から目を見て逸らす日々だ。
本当はわかっている。"好きになりたくない""惹かれたくない"と、言い聞かせている時点で、私はもう降谷さんが好きなのだ。
彼の隣で笑う彼女のように、私も降谷さんの横で笑いたい。
降谷さんに笑いかけて欲しい、彼のそばにいたい、もっとたくさん話がしたい。
一度好きだという気持ちを認めると、堰を切ったように押し殺してきた欲求が溢れてきて、ジクジクと胸が痛む。
もう夕食時だ、降谷さんが帰ってくるかもしれない。
だけど、今は帰りたくない。
携帯で降谷さんに、少し帰りが遅れる。とだけ打って送信する。
じわじわと歪んでくる視界、人前でなんか泣くものか。
私は重い身体を動かして降谷さんの部屋とは反対方向に足を進めた。