安室透と契約結婚
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ポアロでの仕事を終え、右手にテイクアウト用の紙袋を持って自宅マンションのエレベーターに乗り込む。
昨日、仕事に出てもいいかと相談された名前に、彼女を捨てたというろくでもない男と同じだと言うような事を言われて、つい冷たい態度をとってしまった。園子さん達に結婚を祝ってもらった日以来、名前への態度を改めて少しずつ会話も増えてきたところだったのに。
あの言い方は失敗だった。まだ20代前半の名前が1日中家にいて好きでもない男のために家事だけして過ごすなんて、退屈するに決まっている。契約結婚を持ちかけた時も仕事をしてはいけないなんて取り決めはしなかったのに。つい自分のテリトリーから外に出ていこうとする名前を、あろうことか前の恋人と自分を重ねるような事を言う名前を、自分の元へ繋ぎ止めておきたくて卑怯な言い方をしてしまった。
「…ただいま。」
「あ、お帰りなさい。今日もお疲れ様でした。」
昨日のあの会話以降、顔を合わせていなかったが思いの外普通に接してきた名前に内心安堵しながら右手の紙袋を名前に手渡す。
「これ、ポアロの新作ケーキ。」
「え?」
受け取った紙袋を不思議そうに見ながら名前は俺の表情を伺うが、それに気付かないふりをしてリビングへ向かう。家で待つ妻にお土産を渡すなんていう、よくあるホームドラマみたいなベタ行動に照れ臭さを感じる。
「今日の夕飯は?」
「今日はロールキャベツですけど、食べますか?」
「へーもらおうかな。ロールキャベツ好きなんだ。」
いつも端的に交わしていた会話に、ほんの一言つけたすだけで随分柔らかな印象になる。こんな簡単なことなら、初めからこうしていれば良かった。そう思いながら、後ろを歩く名前に視線を向けるとその表情は期待していたものとは違い困ったように眉を寄せている。
あの日の夜、わざとらしい口説き文句に頬を染めていた名前。あんな表情とまではいかなくても、こちらが歩み寄って会話を続ければ喜んだ表情が見られると思っていたのに。
「あのー、降谷さん」
「何?」
「もしかしたら昨日の事、気にしてますか?」
「え?」
言われた意味が分からずに聞き返すと、名前は「今日はやけに優しいから…」と、手に持っている紙袋と俺を見比べながら小さく呟く。こんな簡単な事で優しいと評されるほど今までの俺は冷たかっただろうか、と改めて自分の態度を後悔する。自分が働いていた店の商品を帰るついでに持ち帰り、ほんの少し会話に色をつけただけだ。効果な贈り物も甘い言葉も囁いていない。
「昨日の事は私が悪かったんです、気を使わせてしまってすみません。」
「いや、」
「わざわざケーキまでありがとうございます。後で頂きますね。」
軽く頭を下げながら申し訳なさそうに謝罪をすると、名前はそのままキッチンへ行ってしまった。
自分の今日の行動は昨日のやり取りを気にしてのものだと捉えたらしい。
間違ってはいない、間違ってはいないが、自分はあわよくばこれから態度を改めて名前と普通に会話したり、友人達に向ける名前の笑顔をこの部屋でも見られればと思っていたのに出鼻を挫かれた気分だ。
それだけ、最初の自分の態度悪かったのだろう。0どころか、マイナスからのスタートである。
「……ケーキ2人分あったんだけどな。」
名前と2人でケーキを食べようと思っていたが、今さらそんな事も言い出せない。
結局、今日も名前が用意してくれた夕食を一人で食べる事になるのだ。
5.曖昧な優しさ
昨日、仕事に出てもいいかと相談された名前に、彼女を捨てたというろくでもない男と同じだと言うような事を言われて、つい冷たい態度をとってしまった。園子さん達に結婚を祝ってもらった日以来、名前への態度を改めて少しずつ会話も増えてきたところだったのに。
あの言い方は失敗だった。まだ20代前半の名前が1日中家にいて好きでもない男のために家事だけして過ごすなんて、退屈するに決まっている。契約結婚を持ちかけた時も仕事をしてはいけないなんて取り決めはしなかったのに。つい自分のテリトリーから外に出ていこうとする名前を、あろうことか前の恋人と自分を重ねるような事を言う名前を、自分の元へ繋ぎ止めておきたくて卑怯な言い方をしてしまった。
「…ただいま。」
「あ、お帰りなさい。今日もお疲れ様でした。」
昨日のあの会話以降、顔を合わせていなかったが思いの外普通に接してきた名前に内心安堵しながら右手の紙袋を名前に手渡す。
「これ、ポアロの新作ケーキ。」
「え?」
受け取った紙袋を不思議そうに見ながら名前は俺の表情を伺うが、それに気付かないふりをしてリビングへ向かう。家で待つ妻にお土産を渡すなんていう、よくあるホームドラマみたいなベタ行動に照れ臭さを感じる。
「今日の夕飯は?」
「今日はロールキャベツですけど、食べますか?」
「へーもらおうかな。ロールキャベツ好きなんだ。」
いつも端的に交わしていた会話に、ほんの一言つけたすだけで随分柔らかな印象になる。こんな簡単なことなら、初めからこうしていれば良かった。そう思いながら、後ろを歩く名前に視線を向けるとその表情は期待していたものとは違い困ったように眉を寄せている。
あの日の夜、わざとらしい口説き文句に頬を染めていた名前。あんな表情とまではいかなくても、こちらが歩み寄って会話を続ければ喜んだ表情が見られると思っていたのに。
「あのー、降谷さん」
「何?」
「もしかしたら昨日の事、気にしてますか?」
「え?」
言われた意味が分からずに聞き返すと、名前は「今日はやけに優しいから…」と、手に持っている紙袋と俺を見比べながら小さく呟く。こんな簡単な事で優しいと評されるほど今までの俺は冷たかっただろうか、と改めて自分の態度を後悔する。自分が働いていた店の商品を帰るついでに持ち帰り、ほんの少し会話に色をつけただけだ。効果な贈り物も甘い言葉も囁いていない。
「昨日の事は私が悪かったんです、気を使わせてしまってすみません。」
「いや、」
「わざわざケーキまでありがとうございます。後で頂きますね。」
軽く頭を下げながら申し訳なさそうに謝罪をすると、名前はそのままキッチンへ行ってしまった。
自分の今日の行動は昨日のやり取りを気にしてのものだと捉えたらしい。
間違ってはいない、間違ってはいないが、自分はあわよくばこれから態度を改めて名前と普通に会話したり、友人達に向ける名前の笑顔をこの部屋でも見られればと思っていたのに出鼻を挫かれた気分だ。
それだけ、最初の自分の態度悪かったのだろう。0どころか、マイナスからのスタートである。
「……ケーキ2人分あったんだけどな。」
名前と2人でケーキを食べようと思っていたが、今さらそんな事も言い出せない。
結局、今日も名前が用意してくれた夕食を一人で食べる事になるのだ。
5.曖昧な優しさ