安室透と契約結婚
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3.甘い刹那をもう一度だけ
苗字名前に結婚を申し込んだときの自分は、未だかつてなく疲れていた。組織壊滅への先行きも立たず、赤井秀一も捕らえられない。トリプルフェイスとして、毎日毎日いくつもの顔を演じて、騙して。そんな生活に上司からの煩わしい結婚の催促が加わって心底うんざりしていた。
何とか出来ないかと悩んでいれば、たまたまポアロの常連客である名前が、結婚間際の恋人に振られ定職も失い途方に暮れているとの情報を得た。しばらくポアロに顔を見せないな、と思っていたら思いの外酷い経験をしていたらしい。一人の女性としてはかなり辛い出来事だろう。
本来ならば労ってこそすれ、こんな馬鹿な計画を持ちかけるべきではなかったのだ。しかし、あの時の自分はとにかく疲れていた。だからこそ、これはチャンスとばかりに名前に結婚を申し込んだのだった。
契約結婚とはいえ、一人の女と暮らすのだ。女特有の"構って""察しろ""自分に尽くせ"などという煩わしい要求があるかもしれないと、名前が引っ越してきた時にはそれなりに心の準備は出来ていた。
しかし名前は実に出来た女性だった。結婚してからの会話もほとんどなく、自分が必要な要件だけ伝えても無表情で頷くのみで反論されることもない。不規則な生活を送る自分に文句を言うこともなく、無駄にしてしまうことの多い食事も手を抜かずに毎日作り続けた。多忙な生活のなか、荒んでいた室内は綺麗に掃除され日々の生活は思いの外快適なものに変わり、今まで以上に仕事に打ち込めるようになった。
そのせいで更に名前と会話する機会や共に過ごす時間は減っていったが、彼女は何一つ俺に何かを要求してくることはなかった。
名前は控え目に言っても整った顔立ちをしていて、見映えは悪くない。共に生活している相手が偽りの夫のためか、表情の機微は乏しく無表情であることが多いが、一緒に暮らして家事や料理も人並みにこなせることも分かった。ポアロの常連客たちとの仲も良好のようだし、性格も悪くないのだろう。普通に考えれば、彼女はもっと幸せな相手との結婚生活を送ることが充分出来る女性なのだ。出世のために一方的に別れを告げるようなろくでもない男に引っ掛かってしまったが為に、結果的に俺のような男に利用されてしまった運の悪い哀れな女性なのだ。
「安室さん、名前さん結婚おめでとう!!」
この日、鈴木園子の提案で俺達の結婚を祝うために閉店後のポアロに2人の共通の知人が集まっている。
「ありがとう園子ちゃん。」
俺の隣に立つ名前は笑顔で友人達の祝福を受けている。本来ならば、以前付き合っていた男と結婚し、本当の意味で祝福されるはずだったというのに、こんな風に偽りの夫婦を演じる名前は何を思っているのだろうか。結婚してからというもの、仕事にかまけて家政婦のように酷い扱いをした自覚はある。それでも弱音も涙の1つも見せずに、自分の隣で精一杯"妻役"を演じている名前が急にいじらしくなり、俺は名前の腰に腕をまわして自分に引き寄せる。
「あ、安室さん?」
盛り上がる友人たちとは反対に、腕の中の名前は明らかに狼狽えていた。それはそうだろう、今まで散々俺に冷たい態度をとられていたのだから。
「安室じゃなくて透と呼んでくださいって言ってるじゃないですか。名前さんも、もう"安室名前"なんですから。」
そう笑顔で告げると店内にいる女子高生達はより一層、羨望の混じった黄色い声をあげた。名前は、真ん丸く見開いた瞳で俺をしばらく見つめたあとに、小さくため息をついて口を開く。
「そうでしたね、透さん。何だかまだ恥ずかしくて。なかなか慣れなくてごめんなさい。」
即座に自分の役割を理解したのだろう。名前は少し寂しそうな顔をしながらも、端から見たら完璧に"新婚の夫に照れる妻"を演じて見せた。案の定、梓さんや蘭さん達からからかいのような言葉をかけられて、困ったように笑っている。
「あんまり僕の可愛い奥さんをいじめないでください。名前さんは照れ屋なんですから。ま、そこが可愛いんですけどね。」
助け船を出すように名前の肩を抱いて、愛する妻に対して安室透が言うべき台詞をつむいでいく。
その行動の半分は、本来の目的である契約結婚を問題なく遂行するためである。しかし、ほんの少し今まであまりにも冷たく利用してしまった名前への償いの気持ちもあった。名前の横顔を見てみれば、自分の行動や台詞に頬を染めて本気で照れているのが分かる。
こんな表情、結婚してから見せたことはなかった。
いつも淡々として俺に気を使って控え目に接してきていたのを思い出す。
本当にいじらしくて可愛い女性だ。前の男は出世のためにと、あっさりこんな女性を捨てたのだ。そう思うと、今まで感じなかった怒りが胸の奥に沸き上がってくる。それを誤魔化すように、更に強く名前の肩を抱く。そして、名前がその男のことをすぐにでも忘れてしまえば良い…そう思いながら、甘い言葉を囁き続けた。
苗字名前に結婚を申し込んだときの自分は、未だかつてなく疲れていた。組織壊滅への先行きも立たず、赤井秀一も捕らえられない。トリプルフェイスとして、毎日毎日いくつもの顔を演じて、騙して。そんな生活に上司からの煩わしい結婚の催促が加わって心底うんざりしていた。
何とか出来ないかと悩んでいれば、たまたまポアロの常連客である名前が、結婚間際の恋人に振られ定職も失い途方に暮れているとの情報を得た。しばらくポアロに顔を見せないな、と思っていたら思いの外酷い経験をしていたらしい。一人の女性としてはかなり辛い出来事だろう。
本来ならば労ってこそすれ、こんな馬鹿な計画を持ちかけるべきではなかったのだ。しかし、あの時の自分はとにかく疲れていた。だからこそ、これはチャンスとばかりに名前に結婚を申し込んだのだった。
契約結婚とはいえ、一人の女と暮らすのだ。女特有の"構って""察しろ""自分に尽くせ"などという煩わしい要求があるかもしれないと、名前が引っ越してきた時にはそれなりに心の準備は出来ていた。
しかし名前は実に出来た女性だった。結婚してからの会話もほとんどなく、自分が必要な要件だけ伝えても無表情で頷くのみで反論されることもない。不規則な生活を送る自分に文句を言うこともなく、無駄にしてしまうことの多い食事も手を抜かずに毎日作り続けた。多忙な生活のなか、荒んでいた室内は綺麗に掃除され日々の生活は思いの外快適なものに変わり、今まで以上に仕事に打ち込めるようになった。
そのせいで更に名前と会話する機会や共に過ごす時間は減っていったが、彼女は何一つ俺に何かを要求してくることはなかった。
名前は控え目に言っても整った顔立ちをしていて、見映えは悪くない。共に生活している相手が偽りの夫のためか、表情の機微は乏しく無表情であることが多いが、一緒に暮らして家事や料理も人並みにこなせることも分かった。ポアロの常連客たちとの仲も良好のようだし、性格も悪くないのだろう。普通に考えれば、彼女はもっと幸せな相手との結婚生活を送ることが充分出来る女性なのだ。出世のために一方的に別れを告げるようなろくでもない男に引っ掛かってしまったが為に、結果的に俺のような男に利用されてしまった運の悪い哀れな女性なのだ。
「安室さん、名前さん結婚おめでとう!!」
この日、鈴木園子の提案で俺達の結婚を祝うために閉店後のポアロに2人の共通の知人が集まっている。
「ありがとう園子ちゃん。」
俺の隣に立つ名前は笑顔で友人達の祝福を受けている。本来ならば、以前付き合っていた男と結婚し、本当の意味で祝福されるはずだったというのに、こんな風に偽りの夫婦を演じる名前は何を思っているのだろうか。結婚してからというもの、仕事にかまけて家政婦のように酷い扱いをした自覚はある。それでも弱音も涙の1つも見せずに、自分の隣で精一杯"妻役"を演じている名前が急にいじらしくなり、俺は名前の腰に腕をまわして自分に引き寄せる。
「あ、安室さん?」
盛り上がる友人たちとは反対に、腕の中の名前は明らかに狼狽えていた。それはそうだろう、今まで散々俺に冷たい態度をとられていたのだから。
「安室じゃなくて透と呼んでくださいって言ってるじゃないですか。名前さんも、もう"安室名前"なんですから。」
そう笑顔で告げると店内にいる女子高生達はより一層、羨望の混じった黄色い声をあげた。名前は、真ん丸く見開いた瞳で俺をしばらく見つめたあとに、小さくため息をついて口を開く。
「そうでしたね、透さん。何だかまだ恥ずかしくて。なかなか慣れなくてごめんなさい。」
即座に自分の役割を理解したのだろう。名前は少し寂しそうな顔をしながらも、端から見たら完璧に"新婚の夫に照れる妻"を演じて見せた。案の定、梓さんや蘭さん達からからかいのような言葉をかけられて、困ったように笑っている。
「あんまり僕の可愛い奥さんをいじめないでください。名前さんは照れ屋なんですから。ま、そこが可愛いんですけどね。」
助け船を出すように名前の肩を抱いて、愛する妻に対して安室透が言うべき台詞をつむいでいく。
その行動の半分は、本来の目的である契約結婚を問題なく遂行するためである。しかし、ほんの少し今まであまりにも冷たく利用してしまった名前への償いの気持ちもあった。名前の横顔を見てみれば、自分の行動や台詞に頬を染めて本気で照れているのが分かる。
こんな表情、結婚してから見せたことはなかった。
いつも淡々として俺に気を使って控え目に接してきていたのを思い出す。
本当にいじらしくて可愛い女性だ。前の男は出世のためにと、あっさりこんな女性を捨てたのだ。そう思うと、今まで感じなかった怒りが胸の奥に沸き上がってくる。それを誤魔化すように、更に強く名前の肩を抱く。そして、名前がその男のことをすぐにでも忘れてしまえば良い…そう思いながら、甘い言葉を囁き続けた。