安室透と契約結婚
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2.たったひとつの約束もない
「食事を用意してくれるのは自由だが、ほとんど食べられないと思ってくれ。」
安室さんはあの日私が頷いた途端に、次々と結婚への段取りを一方的に尚且つ事務的に説明してきた。
断られるという事は考えてもいなかったのではないかという用意周到ぶり。安室透改めて降谷零という男は、どれだけ自分に自信があるのだろうか。
とにかくあの日からあっという間に事は進み、降谷さんの上司への挨拶、私の両親への挨拶、安室さんと私の共通の知人への報告、入籍をすませ私は安室さんが暮らしていたマンションへ引っ越してきた。
契約結婚とはいえ、一応専業主婦として養ってもらう事になった私は出来る限りの役割を果たそうと食事の支度や家事に勤しんだ。
しかし私の旦那様はさすがのトリプルフェイスと言うべきか、深夜に帰宅して私の目覚める前に家を出たり、数日間家を開けることもしばしば。
一応夕食を作ってテーブルに用意をしたものの、ほとんど彼の口へ運ばれることはなかった。
そんな生活が何日か続いた上での冒頭の台詞である。
「…そうですか、分かりました。」
珍しく早い時間に帰宅した安室さんに夕食を進めたところ、既にすませてきたらしい。私は用意してあった安室さん用の夕食を冷蔵庫にしまう。いつものように、明日の私の昼食にまわそう。
「食事は自分のを作るついでですし、これからも早く帰った時に気が向いたら食べてください。それともご迷惑ですか?」
「いや、君がそれで良いなら君の好きにしてくれ。」
いつも用意してくれてありがとう、仕事が忙しくて無駄にして悪かったね。
そんな優しい言葉をかける気遣いもないくらい、安室さんは私のことを結婚という仕事を共にこなす同僚とでも思っているらしい。結婚してから交わされた会話は事務的で、部下に指示するような口調ばかりだ。
「今日は持ち帰りの仕事があるからこのまま部屋に篭る。何かあれば声をかけてくれ。」
「分かりました…あまり無理しないでください。お休みなさい。」
「ああ、お休み。」
一応労りの言葉をかけてはみたが、特に会話が続くこともなく安室さんは自室へ向かっていった。これ以上リビングにいても特にすることもない。私は小さくため息をついて、自分も自室へ向かう。
「まさに、契約結婚ね。」
この関係がお互いの利害関係が一致した上で成り立ったものだということは重々理解している。
それでも一緒に生活するのだから、少しは雑談したり、今日は何時に帰るよ、夕食はいらないよ、なんていうやり取りをしながら生活していくものだと思っていた。
ポアロで会う安室さんはいつも優しかった。あの優しさや気遣いの半分でも私へ向けてくれるのなら、こんな虚しい生活にはならないだろう。
結婚を告げた時の、私達の共通の知人である蘭ちゃんや園子ちゃんの嬉しそうな、それでいて羨ましそうに私に祝福の言葉を告げていた笑顔を思い出す。
安定した職業で見た目も完璧、人当たりも良い素敵な男性を連れて行った時の嬉しそうな両親の顔を思い出す。
小さな頃、"大きくなったらお嫁さんになる"と女の子ならではの夢を語っていた自分を思い出す。
そして、つい数ヵ月前まで愛しい彼との結婚生活を心待ちにしていた愚かな自分を思い出す。
どこでこうなってしまったのか、私は何を間違えたのだろうか。
あの"優しい安室さん"との生活に少しでも期待しなかったと言えば嘘になる。好きでもない女を養ってもらい、娘の夫となる相手としては両親への完璧な対応をしてもらった。それなのに、それ以上を期待した私が幼稚で甘かったのだ。
明日からもこんな虚しい生活が続いていくのだろう。これが私の"結婚生活"なのだから。
それでも、私の住む国を護るために命をかけて働く"降谷零"の同僚として、最低限の妻としての働きまでやめてしまっては、自分が自分で情けなさすぎる。明日からも私は安室さんが帰る家を守り、少しでも快適に、疲れて帰ってきてまで不快な思いをすることなく、日々を過ごしてもらうように家事に勤しんでいくのだ。
「食事を用意してくれるのは自由だが、ほとんど食べられないと思ってくれ。」
安室さんはあの日私が頷いた途端に、次々と結婚への段取りを一方的に尚且つ事務的に説明してきた。
断られるという事は考えてもいなかったのではないかという用意周到ぶり。安室透改めて降谷零という男は、どれだけ自分に自信があるのだろうか。
とにかくあの日からあっという間に事は進み、降谷さんの上司への挨拶、私の両親への挨拶、安室さんと私の共通の知人への報告、入籍をすませ私は安室さんが暮らしていたマンションへ引っ越してきた。
契約結婚とはいえ、一応専業主婦として養ってもらう事になった私は出来る限りの役割を果たそうと食事の支度や家事に勤しんだ。
しかし私の旦那様はさすがのトリプルフェイスと言うべきか、深夜に帰宅して私の目覚める前に家を出たり、数日間家を開けることもしばしば。
一応夕食を作ってテーブルに用意をしたものの、ほとんど彼の口へ運ばれることはなかった。
そんな生活が何日か続いた上での冒頭の台詞である。
「…そうですか、分かりました。」
珍しく早い時間に帰宅した安室さんに夕食を進めたところ、既にすませてきたらしい。私は用意してあった安室さん用の夕食を冷蔵庫にしまう。いつものように、明日の私の昼食にまわそう。
「食事は自分のを作るついでですし、これからも早く帰った時に気が向いたら食べてください。それともご迷惑ですか?」
「いや、君がそれで良いなら君の好きにしてくれ。」
いつも用意してくれてありがとう、仕事が忙しくて無駄にして悪かったね。
そんな優しい言葉をかける気遣いもないくらい、安室さんは私のことを結婚という仕事を共にこなす同僚とでも思っているらしい。結婚してから交わされた会話は事務的で、部下に指示するような口調ばかりだ。
「今日は持ち帰りの仕事があるからこのまま部屋に篭る。何かあれば声をかけてくれ。」
「分かりました…あまり無理しないでください。お休みなさい。」
「ああ、お休み。」
一応労りの言葉をかけてはみたが、特に会話が続くこともなく安室さんは自室へ向かっていった。これ以上リビングにいても特にすることもない。私は小さくため息をついて、自分も自室へ向かう。
「まさに、契約結婚ね。」
この関係がお互いの利害関係が一致した上で成り立ったものだということは重々理解している。
それでも一緒に生活するのだから、少しは雑談したり、今日は何時に帰るよ、夕食はいらないよ、なんていうやり取りをしながら生活していくものだと思っていた。
ポアロで会う安室さんはいつも優しかった。あの優しさや気遣いの半分でも私へ向けてくれるのなら、こんな虚しい生活にはならないだろう。
結婚を告げた時の、私達の共通の知人である蘭ちゃんや園子ちゃんの嬉しそうな、それでいて羨ましそうに私に祝福の言葉を告げていた笑顔を思い出す。
安定した職業で見た目も完璧、人当たりも良い素敵な男性を連れて行った時の嬉しそうな両親の顔を思い出す。
小さな頃、"大きくなったらお嫁さんになる"と女の子ならではの夢を語っていた自分を思い出す。
そして、つい数ヵ月前まで愛しい彼との結婚生活を心待ちにしていた愚かな自分を思い出す。
どこでこうなってしまったのか、私は何を間違えたのだろうか。
あの"優しい安室さん"との生活に少しでも期待しなかったと言えば嘘になる。好きでもない女を養ってもらい、娘の夫となる相手としては両親への完璧な対応をしてもらった。それなのに、それ以上を期待した私が幼稚で甘かったのだ。
明日からもこんな虚しい生活が続いていくのだろう。これが私の"結婚生活"なのだから。
それでも、私の住む国を護るために命をかけて働く"降谷零"の同僚として、最低限の妻としての働きまでやめてしまっては、自分が自分で情けなさすぎる。明日からも私は安室さんが帰る家を守り、少しでも快適に、疲れて帰ってきてまで不快な思いをすることなく、日々を過ごしてもらうように家事に勤しんでいくのだ。