安室透と契約結婚
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「わからない、」
二人の間に流れた沈黙は、時間にしたら僅か数分だったろうか。そんな沈黙を破るように呟かれた小さな降谷の声に、名前はピクリと肩を揺らす。降谷は、名前が膝の上で硬く握っている手を優しく握りながら言葉を続ける。
「すまない、情けないが君が何を悲しんでいるのか分からないんだ」
「い、いえ…悲しんでいるわけじゃなくて…泣いてすみません」
「いや、泣かせているのが僕だというなら不甲斐ないけど…泣くのは我慢しないでくれ。君は普段から我が儘も言わないし、もっと甘えてくれていいんだ」
このまま本音を話してほしいという気持ちを込めてそう話す降谷だったが、名前は余計に眉を寄せてしまう。
「せっかくのお休みですし、たまにはハロちゃんとのんびりしてください」
「…どうしてそうなるんだ?僕は休みなら名前と過ごしたい」
「私に気を使わないで」
「気を使ったりしていないよ」
「嘘、降谷さんは優しいから…疲れてるのに私にも気を使って余計にストレスに繋がるんです。だから、癒しを求めるんでしょ?降谷さん、最近ハロちゃんばかりですよ」
「は?」
「……もし自覚がないなら、相当無意識に癒しを求めるんですよ」
小さく笑いながらそう告げる名前に、降谷はますます困惑する。飼い始めたばかりのハロに関わる機会が多かったのは自覚しているけれど、それはあくまで名前ありきだからだ。
「名前」
「………」
「名前、頼むよ。ちゃんと話して」
懇願するような弱気な物言い。そんな言い方は珍しく、下を向いていた名前はチラッと降谷に視線を向ける。すると、自分を真っ直ぐに見つめている真剣な青い瞳と視線が混じり合い、名前はおずおずと口を開く。
「ひ、人が…」
「うん?」
「人が、犬を飼うのは…癒しを求めてるからだって」
「……え?」
「おかしいと思ったんです。降谷さん、こんなに忙しいのに突然犬を飼いたいなんて。でもそれを知って、ああ…よっぽど疲れてるんだ。って、納得してしまって」
「や、ちょっと…」
「案の定、ハロちゃんを飼い始めてから…降谷さん、帰ってきたらハロちゃん、ハロちゃん。休みの日もハロちゃん…私との会話もハロちゃん……ハロちゃんばっかり」
名前がそこまで言うと話題の中心であるハロが尻尾を振りながら、名前の足元にやってくる。名前は、それを見て「可愛くて癒されますもんね」と、困ったように笑いながらハロを抱き上げで膝に抱く。
「待ってくれ、話を整理しよう。まず、僕は君に気を使ってなんかいないし、ストレスなんか感じていないよ」
「でも、仮眠室で休める時間があるのに、わざわざ帰って来てくれたり」
「あんな同僚だらけの空間じゃ休まらないし、数時間仮眠をとるなら名前に会った方がよっぽど気が休まるんだよ」
「仕事が立て込む度に、ケーキとか手土産も…」
「名前が喜ぶだろうな、って考えながら買うのが楽しいんだ」
「私相手だと仕事の愚痴も言えないみたいで…」
「たまに名前と会った時くらい、楽しい話をして名前の笑顔が見たいからね。ああ、それにアイツに関しては、名前すら君には聞かせたくない」
「そ、そうですか…」
名前は自分の気になっていたことを、淡々と否定されて戸惑ってしまう。どうも嘘をついている雰囲気でもないし、もしかしたらただの早とちりだったのか…と、だんだん焦り始める。勝手に思い込んで勝手に泣くなんて、面倒な女極まりない。
そんな名前の心情を知ってか知らずか、降谷はハロを抱いていない方の名前の手を優しく握る。
「他には?何かある?」
「……つ、疲れてるのに…夜のお誘いも」
「え?足りなかった?僕としては、毎日でもいいんだけど…名前が大変かと思って」
「………あー、うー……は、ハロちゃんを飼ったのは?」
「あー、それは…」
降谷は最後のその質問にだけ、少し気まずそうに顔をしかめたあと、後輩の夫婦喧嘩の体験談を聞いて、自分達はそうならないように気を利かしたつもりだったんだと、恥ずかしそうに話した。名前は全ての話を聞き終えると、顔をかくすように膝を抱えて黙り混む。ハロはというと飽きてしまったのか、また室内をウロウロと歩き回っている。
「……面倒くさい女ですみません」
「いや、そんな事ないよ」
「降谷さんは、ご機嫌ですね」
「いやー、まさか名前が嫉妬してくれるとは思わなくてね。ふ、その相手がハロっていうのも可愛い…ははっ」
反論したくても出来ない名前を尻目に、降谷は楽しそうに笑いながら名前の手の甲を撫でる。
「……私でも嫉妬くらいします」
「うん、嬉しい。今回は僕もごめんね、名前が寂しくないようにとした事が、空回りしてしまった」
「いえ、ハロちゃんがいて毎日楽しいのは本当ですから」
「僕がハロに構いすぎたのがいけなかったと」
「……うー、」
「でも言ったろ?ハロも確かに可愛いけど、僕はハロと戯れる名前を見ていたつもりだったんだ」
「わ、わかりました!もういいですから…」
「いや、よくないな」
降谷はそう言って名前の肩を抱くと、軽く頬を撫でながら名前の顎を掴んで軽く上を向かせる。お互いの息がかかるくらいの距離まで顔を寄せると、降谷は目を細めるようにニッコリと笑う。
「僕がどれだけ名前を好きで、どれだけ名前に会う時間を作るために必死になっているか…その気持ちが伝わっていなかったのは、僕のミスだ」
「…へ?」
「だから、僕に気を使わせている…なんて、検討違いな悩みを持たせてしまった」
「いや、それは私が悪くて…」
「幸いにも明日から連休だからね」
そう言いながら戸惑う名前の唇に自分のそれを重ねると、言葉を挟む隙を与えずに角度を変えて何度も名前の唇を奪う。
そして、片手で名前の腰を撫で上げながら、一度唇を離すと「僕がどれだけ名前を想っているのか、たっぷり教えてあげよう」と、熱の孕んだ視線を向けながら微笑んだ。
*おまけ
「そういえば、うちも犬を飼い始めた」
「え!?降谷さんのとこもですか?」
ふと思い出したように動物と夫婦円満の秘訣を説いた後輩に、そう声をかけてやると、思いの外驚いた顔をする。
「え、まさか降谷さんのところも喧嘩したんですか!?」
「はは。喧嘩はしてないが、お前があれだけ熱心に勧めるからな。あの後、飼うことにしたんだ」
「へー、どうですか?ペットのいる生活」
「ああ、悪くない。構って欲しくて拗ねる姿も、それがバレて恥ずかしそうにしているのも、声が出なくなるくらい構い倒して甘やかすのも癖になりそうだ」
「…え、それ犬の話ですよね?」
「お前には良い情報をもらった、感謝するよ」
「あ、はい。降谷さんのお役にたてたなら、何よりです…」