安室透と契約結婚
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「先輩、今日はやっとご自宅に?」
「ああ、やっと先月の密輸取引摘発案件の書類が片付いたからな」
「お疲れです。何日ぶりですか?」
「5日…いや、今日で6日だ」
「そうですか…降谷さんのとこは、こういう事が続いて奥さん怒ったりしないんですか?うちは、この前嫁と大喧嘩しちゃって」
大きな案件が片付いて、ようやく名前の待つ家に帰る事が出来る。最近は立て続けに仕事が舞い込み、この案件以前にも連日家をあける日々が続いている。身体的疲労はもちろん、名前とゆっくり会話も出来ない日々は思いの外、俺にストレスを与えていた。こんな事、名前との契約結婚騒動が起こる以前の仕事人間だった自分には考えもしなかった事だ。
とにかく、やっと帰宅できる目処がたったため頭の中で帰りにケーキでも買って帰ろうと考えながら手早く帰り支度を進めていた俺は、やけに絡んでくる後輩との会話も軽く受け流していたが、"嫁と喧嘩"という話題に思わず視線を後輩に向ける。
「この仕事の事で喧嘩になったのか?」
「そうなんですよ~!うち嫁も同業者なんで、結婚当初は俺が何日家をあけても、"大変だね、頑張って"なんて言ってたんで、俺もスッカリ甘えちゃって。最近2週間以上連絡もなく帰らなかったら、さすがに激怒されちゃいました」
「激怒…」
名前は元々感情表現が豊かなタイプではないし、不平不満をほとんど言われたことがない。もちろん感情露に喧嘩となった事もないため、後輩の話に目を瞬かせる。
「俺の仕事柄、気軽に家庭の愚痴を言える友人も作れなくて毎日一人で家で俺を待つのも限界だったみたいで。"私はここ半年ろくに人と会話をしていない!!仕事なのは重々理解してるけど、仕事を盾に私を蔑ろにしすぎだ!甘えるなっ!"って、凄い剣幕でしたよー」
「ま、元々仕事に理解はある奴なんで、俺の態度が悪かった自業自得ですけど。」と、あっけらかんと離す後輩。俺は、思わず眉を寄せて「解決したのか?」と尋ねる。
「はい。犬を飼い始めたんで」
「は?犬?」
「嫁、動物が好きなんで。俺がなかなか帰れなくても、犬と会話したり散歩に行ったりしてると大分気が紛れるみたいです」
「そんなものか」
「一人っきりでいつ帰るか分からない相手を待つのはしんどいって切々と説かれたんで。俺も前よりは、こまめに連絡いれたり帰るようにしてますけど、犬がいるおかげでだいぶ寂しさが緩和されたらしいですよ」
「……ほぉー」
「それに犬の事で自然と話題も増えるから会話にも繋がるし、ペットの洋服とかおもちゃも可愛いのが多いから、嫁をショップに連れていったら楽しそうでしたよ」
「そうか、」
「降谷さんところは夫婦仲良好そうですけど、今後何かあったら参考にしてください!マジでオススメです!!」
結局、後輩は俺が鞄を持って立ち上がるまで、いかに動物は夫婦円満のための秘訣となるかを楽しそうに語っていた。
◇◇◇◇◇◇
帰り道に買ったケーキを助手席に乗せてハンドルを握りながら、後輩との会話を思い返す。あの後輩の勤務状況で、配偶者に激怒されるとは…。トリプルフェイスなどと言って、後輩以上にあっちこっち飛び回る我が家は大丈夫だろうか?組織絡みの時は後輩の2週間どころか、数ヶ月家をあけた事もある。
名前は何も不満を言わないし、むしろ俺の心配ばかりしていた気がするが、ついさっき数日名前とまともに会話をしていないだけで俺はストレスを感じたのだ。もしかしたら、名前だって寂しさや不満を我慢して一人ぼっちの家で悲しんでいたのかもしれない。普段、感情を圧し殺すタイプの名前だ。それが爆発したら喧嘩どころではすまないかも…。
「何か対策を考えるか…」
さすがにしばらく潜入捜査は続くから、これからも家をあけることは回避出来ない。しかし、名前に見捨てられる、よもや別れたいなどと言われたら…。
「いやいや…駄目だ!想像もしたくない」
俺は背筋に冷たい感覚を覚えながらも、まずは一刻も早く帰ろうとアクセルを踏みしめた。
◇◇◇◇◇◇
「ハロちゃん、お待たせ!ご飯だよ」
後輩とそんなやり取りをした数週間後、タイミングを計ったように、俺はたまたま外回りをしている時に野良犬を保護した。そして、里親も見つからない現状に思わず口に出た提案だったが、名前は昔犬を飼っていたと言って嬉しそうな顔を見せた。俺も犬は好きだったが、普段の俺なら多忙な現状で動物を飼おうとは思わない。確実に後輩の体験談に影響を受けた事は否めないだろう。
「降谷さん、ハロちゃんはもうおトイレも、待ても完璧ですよ。頭のいい子ですね」
「はは、名前の教え方がいいんだろう。飼おうと言ったのは僕なのにいろいろ任せて悪いね」
「いいえ。ハロちゃん可愛いから毎日楽しいですよ」
「そうか、確かにこうやって甘えられると可愛くて癒されるな」
「…ええ、そうですよね」
俺のギターの音に反応を見せたため、ハロと名付けられた白い小型犬は、目一杯名前からの愛情を受けているようだ。俺の帰れない日も、ああやって可愛がられていると思うと少し妬けるが、俺の思惑通り名前にとっても俺の帰れない日々を共に過ごすパートナーとして良い存在になったのだろう。何より、名前が小動物と戯れている姿は何時間見ていても飽きないくらい可愛く、思いの外俺も癒されているのだ。
「降谷さん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
玄関をあけて、名前の笑顔に出迎えられる瞬間は何度経験しても、溜まりたまった疲れが一気に吹き飛ぶくらい気分がいい。
「今日は早かったですね」
「ああ、やっと仕事が一段落したんだ。明日も休みだよ」
「わ、久しぶりですね!」
「2週間ぶりかな?」
名前の唇に触れるだけの軽いキスを落としたあとリビングに入ると、ハロが尻尾を振って足にまとわりついてくる。明日、久しぶりに名前と1日過ごせる事に機嫌が良かった俺は、だらしなく緩む口元を誤魔化すようにハロを抱き上げる。
「ハロ、ただいま。名前に迷惑かけなかったか?」
「ワンっ!!」
「おい、こら顔を舐めるな」
ワンワンと嬉しそうにじゃれてくるハロを抱いて笑っている俺を、名前が微笑ましそうにしながらもどこか悲しげに見ていた事に、この時の俺は気付いていなかった。
→まだ続きます