安室透と契約結婚
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9.本当の理由は?
「名前、犬は好き?」
「犬ですか?」
朝いつものように玄関で降谷を見送っていた時、降谷はふと思い付いたように尋ねる。
名前は突然の問いに首を傾げながらも、「好きですよ、小さい頃に柴犬を飼ってました」と答える。
「そうか、実は犬を飼いたいと思うんだけど…どうかな?」
「え?」
「この前、外で見つけた野良犬がいてね。白い小型犬なんだ」
降谷はその犬の事を思い返しているのか、ふと表情が緩む。その表情に、(降谷さんも犬好きなんだ)と、思いながら名前は小さく相槌をうつ。
「今は部下のところに一先ず預けてるんだけど、どうも飼い手が見つからないみたいなんだ」
「そうなんですか、その部下の方は?」
「あいつも犬は好きみたいだけど、一人暮らしでね。僕たちの仕事は不規則だから、飼うなら家族がいる人間がいいだろう、って話になったんだ」
「確かに、そうですね」
潜入捜査中の降谷は、しょっちゅう組織やら探偵やらと泊まりがけで家をあける。しかし、潜入捜査をしていない風見もいつも疲れているように見えるし、降谷が昼夜問わず、必要とあれば電話で何から指示を出しているのを名前は知っている。"公安"という部署にいるということは、部下だという人もそうなのだろう。
「それで、名前が良ければうちでって思うんだけど」
「構いませんよ。犬を飼うなんて、久しぶりだから楽しみです」
「そうか!良かった。また部下と相談して、頃合いを見て連れてくる」
名前が了承すると、降谷は嬉しそうな笑顔を見せて「じゃ、行ってくるよ」と出かけて行く。今日はバーボン関係らしく、帰りは遅いらしい。
名前はリビングに戻ると、ソファに座ってスマホを操作する。犬を飼ったことがあるとはいえ、子供の時で実家にいた頃だ。マンションで飼うとなると、何が必要だろうか?
相変わらず忙しそうな降谷に変わって、必要な物品くらいは名前が用意しようとアレコレ検索しながら、目ぼしいものをメモしておく。
「降谷さん、メーカーとか色とかこだわりあるかな…」
とりあえず必要なものをリストアップし、時間のあるときに降谷に確認をとってから購入した方がいいだろう。一通り検索し終えた名前が、スマホから目を離そうとした時ふとある言葉か目に止まってピタリと指を止める。
「人が犬を飼いたいと思う理由…?」
検索していた内容の関連広告として表示されていたその見出し。名前は何となく気になって、それをタップして記事を開く。
1、番犬となるため
「番犬…これはないか。元々、セキュリティガチガチのマンションだし小型犬って言ってたもんね」
記事の内容にブツブツと独り言を呟きながら、名前はスイスイとスクロールしていく。
2、定期的な散歩に出ることで運動不足を解消
「これもないよね、降谷さんムキムキだし」
3、人生のパートナーを求めている
「……これは、」
名前は、小さく呟いたあと言葉を切る。人生のパートナーって、一応私って事でいいんだよね?正式に"降谷"には、まだなってないけど。何となく、自信満々に「人生のパートナーは私だから、これもなし」と、言い切るには、恥ずかしさや少し複雑な心境もあり、名前はそのままスクロールしていく。
4、癒しを求めている
「癒し…」
名前はそこまで見たところで、パタンとスマホをテーブルに置く。
「え、でもたまたま野良犬を見つけたって言ってたし…たまたま、だよね」
返事のない一人きりの部屋で名前は眉を寄せる。
でもあんなに多忙そうな降谷が、わざわざ自発的に犬を飼うと言うなんて、よく考えると違和感もある。"安室透"の方の人脈を使ってポアロのお客さんに声をかければ、里親なんてすぐに見つかりそうな気もする。
もしかしたら、名前が思ってる以上に降谷が犬好きという事も考えられるけれど。
「そういえば最近また帰り遅いな…この前は、5日くらい泊まりがけだったし」
ふと、ここ数ヶ月の降谷の働きぶりを振り返ってみる。組織の厄介な仕事を頼まれて帰れないとか、因縁のFBIの赤坂だか赤池だか…とにかく、いつも降谷が人が変わったように反応する捜査員とひと悶着あったとか、振り返ってみると、ここ数ヶ月降谷はゲッソリ疲れていたり、目に見えてイライラしている事もあった。
それを私に当たったりすることは決してなかったけれど。疲れているだろうに、公安の仮眠室も使わずになるべく家に帰ろうとしてくれているのは分かった。「しばらく帰れなくて悪かった」と、ケーキを買って来てくれた事も。多忙な期間も定期的に夜のお誘いもあった。
名前もそんな降谷の疲れが少しでもとれるようにと、降谷の好きな料理を作ったりマッサージしたり…いろいろ趣向を凝らしたつもりだった。
(もしかして疲れてるのに私に気を使って、あんまりリラックス出来なかったとか…?)
八つ当たりしたいような時も我慢して笑顔を作って、私のために仮眠室で寝たいのも我慢して、わざわざケーキまで買って帰って来た?疲れていても、不安にならないように定期的に夜の誘いも…?
「ダメダメ…犬を飼うって話から、何でこんなこと考えてるの…私」
そこまで考えて、暗くなった思考を振り払うように頭を小さく振る。
しかし一度沸き上がった不安はなかなか消え去ることはない。
「……癒し、か」
気を紛らわそうと部屋中の掃除をしながら、名前は小さく呟く。つい1時間ほど前まで…必要な物を調べたりしていた時は、新たな家族の仲間入りを「どんな子が来るのかな?」と楽しみにしていたのに、今はすっかりその気持ちが沈みこんでしまっていた。
続きます→