安室透と契約結婚
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
名前は携帯電話に届いた一件のメッセージを見て小さなため息をついたあとに、少し考えてから『了解です』とだけ短く返信する。
「あ、もうそろそろ出ないと」
そして、チラリと時計を確認したあとに約束の時間が近付いていることに気付いて慌てて出かける支度を始めた。
7、No regrets
「あ、名前お姉さん!」
「お待たせ、コナン君」
江戸川コナンこと、工藤新一から直々に呼び出された名前は久しぶりにポアロのドアを開けた。やはり、夫となった安室透のいる店にわざわざ行くのもおかしいだろうと、結婚して以降はかなりポアロの利用頻度は減っている。
名前は、キョロキョロと店内を見回しながらコナンの座るテーブルに向かう。
「まだ安室さんのシフトまで1時間以上あるから大丈夫だよ」
「それは分かってるけど、工藤君も何か話があるなら違うお店にしてくれればいいのに」
席について店内に安室さんや顔見知りの客もいない事を確認してから、小声でコナンに声をかける。江戸川コナンと会うこと自体は、何かやましい事があるわけではないが、そもそもコナンの正体が"工藤新一"だと知らない降谷は、成人している名前とコナンがやけに仲良くしているのを、いつも不思議そうに眺めている。
「ポアロ以外の店で小学生が1人で待ち合わせしてると目立つんだよ」
「ああ、確かに。それで?今日はどうしたの?」
「いや、名前さん最近どう?」
「最近って?」
「いや、あむ…降谷さんとうまくいってる?」
元々小声で会話していた二人だが、コナンは更にささやくような声で名前に尋ねる。思いもよらない話題に名前は、目を丸くしながらコナンを見つめる。
「外では安室さん呼びでいいよ。それにしても、園子ちゃん達ならともかく君もこんな話に興味あるの?」
「バーロー、安室さんから名前さんを呼び出してくれって頼まれてから、あっという間に結婚しちまったから、これでも心配してんだよ」
「ああ、なるほど」
名前は少し考えてしまう。コナンには契約結婚の件は話していないが、元々いろいろ事情を知っているコナンは2人が想い合って結婚したとは思っていないだろう。
返事を渋っている名前の様子に、コナンは小さなため息をついたあとに先に口を開く。
「結婚してすぐのお祝い会とかやった頃は何か他人行儀だったし、全然夫婦って感じしなかったから心配してたんだよ。」
「…さすが、探偵さん。よく見てるね。そんなに変だったかな?」
「いや、蘭とか梓さんとかは普通にお似合いだって騒いでたけど」
「そっか、なら良かった」
「でも今は名前さんも無理してる感じねーし、安室さんも最近ご機嫌だし、うまくまとまった感じ?」
「うーん、安室さんがどう思ってるかは置いといて。私は安室さんの事が好きだよ」
「だから、心配してもらわなくても私は普通に幸せです」そう答えると、コナンは僅かに頬を染めて「そーかよ」なんて言いながら、珈琲を飲んでいる。自分から聞いてきたくせに、こんな事で照れるとは。いくら頭は良くても、まだまだ高校生だなと安心する。
「まあ、名前さんが辛くないならいいけど。前の人とは、だいぶタイプ違うし、もうあの人の事はいいの?」
「コナン君、その質問はデリカシーに欠けると思うよ」
突然の話題に私は眉を寄せてコナンを一睨みする。
「そりゃあ、長年蘭ちゃん一筋の君からしたら切り替えと乗り換えの早い女に見えるかもしれないけど!」
「ちょ、そんなつもりで言ったわけじゃねーって」
私が大袈裟に傷ついたアピールをしてやると、コナンは慌てたように目を丸くしながら言い訳をしている。
そんな姿を見て思わず笑みがこぼれるが、ふと彼の話題を出された事で今朝のメッセージを思い出してため息をつく。
「まあ、吹っ切れたには吹っ切れたと思うんだけど…」
「え、何かあんの?」
「今朝、あの人から連絡が来たの」
「…内容は?」
「荷物の整理をしてたら私の私物が出てきたから、会えないかって」
「会いたくないなら送ってもらえば?」
「でも私の部屋、降谷さんの部屋だから。住所とかあんまり勝手に教えたくなくて」
「……なるほど」
「仕方ないから受け取ったらすぐ帰るつもりだけど、気が重いの」
「えー、それ安室さんに話した?」
「話してないよ。安室さん忙しい人だし、元彼のこと相談するのも何か変じゃない?」
「いや、相談っていうか…」
(無断で会ったら、あの安室さんが黙ってないと思うけど…)
「とにかく、安室さんには内緒だよ」
「え?うーん。ちなみにいつ会うの?」
「明後日のお昼に駅前に来てだって」
「そうなんだ…」
コナンが何やら言いたそうにもごもごしているが、私は気がつかずに大きなため息をつく。今となっては未練は全くないが、一方的に振られた相手だし、彼を最後に見たのは別れる原因となった縁談で結婚したらしい相手と、仲睦まじく歩いていたのを見かけた時だ。何となく苦い思い出となってしまっていて、会いたくないという思いが強い。
「大きなため息ですね」
「うわ、ふる…安室さん!?」
そんな事を考えていると、突然後ろから聞こえた声に名前はビクリと肩を震わせてしまう。名前の前に座るコナンも、驚いたようで目を丸くしている。
「あ、安室さんいつ入ってきたの?まだシフトよりだいぶ早くない?」
「仕事前に仕入れの確認をしたかったからね、早めに来たんだ。搬入されてる荷物を受け取ったりしたから、裏口から入ったんだけど…」
そこまで言って安室は、どこか焦った様子で自分を見つめるコナンと名前の顔をゆっくり見比べる。
「わざわざ僕のいない時間にこっそり何の相談だい?コナン君」
「な、何で僕に聞くの?たまたま安室さんのいない時間になっただけだよ。ね、名前お姉さん?」
「…そう、たまたまです。私、夕方には夕飯の買い物に行きたいから、コナン君に早めに会って話そうってお願いして…」
「ほおー、そうですか。ではそろそろ帰るんですか?」
「あ、うん。そうですね!コナン君そろそろ帰るね」
「ええ?じゃ、僕も宿題があるし」
安室の言葉に大きく頷いてこの場から離脱しようとする名前に、コナンは慌てて自分も帰ろうと立ち上がる。
「コナン君は待っててくれないかい?」
「え、何で?」
「毛利先生に、軽食のテイクアウトを頼まれていてね。すぐ用意するから帰る時に持っていってほしいんだ」
「……わ、分かった」
「名前は気をつけて帰るんだよ。家に着いたら、連絡を入れておいてください」
「はい、分かりました。お仕事頑張ってください」
「ああ、またお土産を持って帰るよ」
「わー!本当ですか?楽しみに待っています」
安室の言葉にニコニコと嬉しそうに笑う名前と、それを優しい眼差しで見つめる安室を見て、コナンは大きく肩を落とす。先ほどまで、自分に向けられていた疑うような鋭い目線とは大違いである。
わざわざ名前を先に帰して、この場に残るように言われた自分は何を言われるのだろうか。コナンは呑気に笑う名前を恨めし気に見つめるが、名前は全く気付かなかった。
続きます→