｢大丈夫？｣

｢うん、平気だよ。イタタタ…｣

名前は近くに倒れていたフィリップに声をかける。あの男に屋根に押さえつけられていたため、顔や腕に小さな擦り傷が出来ているが幸い大きな怪我はなさそうだった。

｢……名前嬢？｣

名前を呼ばれて、名前が振り返るとそこにはキッドが立っている。
名前を見ているキッドは、モノクルの下で僅かに目を見開いているようにも見えた。



card.86

(何が起きたんだ…今、)

怪盗キッドである快斗はポカンとしながら、フィリップに声をかけて怪我がないか確認している名前を見つめる。
キッドは列車から落ちた男同様、突然聞こえてきた足音には気付いたのだが、その時は既に名前が男に蹴りを食らわせているところだった。そして、あっという間の出来事にただ呆然と眺めていることしか出来なかったのである。

(どうして名前がここに？睡眠薬を入れたジュース飲まなかったのか？)


フィリップから視線を自分に向けた名前の眼差しは、とても鋭く…そして何故か哀しみの色が浮かんでいる。その瞳を向けられたキッドは小さく息を飲む。



｢フィリップ王子…私は少し彼と話があるから、このまま待っていてくれますか？｣

｢う…うん｣

名前はニコリと笑ってフィリップにそう言うと、ゆっくり立ち上がりキッドの方に向かって歩いて行った。