「瞳の中の暗殺者」編
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日がすっかり落ちたトロピカルランド。パレードが始まった夢とおとぎの島エリアには多くの来園客が集まり始め、軽快な音楽と共に紙吹雪が舞う。
「わ、すごい人だね」
「ああ。こっちで見ようぜ」
電飾でキラキラ輝くモニュメントや音楽に合わせて軽やかに踊るキャラクターの着ぐるみを見ようと、沿道に密集する人々。事件に巻き込まれて怪我をしたばかりの名前の負担にならないようにと、快斗は人の少ない場所を探しながら名前に声をかけて移動する。
「名前ちゃん見えるか?」
「ええ、大丈夫。ふふ…あそこの人形踊ってる。可愛いわね」
パレードの中心にいるフロート車の上で踊る動物の人形を見て微笑みを浮かべる名前。華やかな電飾の光に照らされた名前のその横顔を見て、 快斗は小さく安堵の息をつく。すると小さなその音を感じ取ったのか、ふいに名前の視線がパレードから快斗へとうつる。
「どうした?」
「黒羽君、今日はありがとう。犯人も捕まえてくれて…ずっと気遣ってくれてたから疲れたでしょ?」
「いや、あれくらい大したことねーよ」
「でも…この間の電車の時もそうだけど、私が記憶をなくしてから黒羽君にずっと助けてもらってるから。黒羽君…同じ歳なのに凄くしっかりしてるし、頼もしいのね」
名前はそう言いながら快斗からパレードに視線を戻すと「……残る問題は、私の記憶だけだね」と、独り言のように呟く。
「……名前ちゃん」
「うん?」
「手、繋いでもいい?」
「え、うん……どうぞ」
突然の言葉に戸惑いながら名前がゆるりと手を差し出すと、快斗はソッと名前の手をとって何かを噛み締めるように握ったり開いたりしたあとに、するり指を絡める。
「……よく知りもしない男にこんな風に触られて、気持ち悪くない?」
「そんな事ない!」
どこか困ったように眉を寄せてそう尋ねる快斗。快斗の手をぼんやりと見つめていた名前は、パッと顔を上げて力強く否定する。
「……そっか」
名前の返答に、快斗は小さく笑いながら手を握る力を強める。
「……何か気になることがあるの?」
「え?」
名前はそんな快斗の手を握り返しながら、徐にそう尋ねる。パン、パンと鳴り響く花火や軽快な音楽と共に盛り上がるパレード。その光に照らされながらも、名前と快斗はパレードには目を向けずに、手を握ったまま何かを探るように視線を絡ませ合う。
「……本当はさ、俺は名前ちゃんが思うほど頼もしくねーんだ」
「え?」
「普段は名前ちゃんに甘えっぱなし。助けてもらった事も何度もあるし、俺の事情に巻き込んで余計な苦労もかけてる」
「…そうなんだ」
「哀ちゃん達に言われたよ、猫被りやめて言いたいこと言えって」
そこまで言うと小さくため息をついて口ごもる快斗。名前は快斗を見つめたまま黙って次に続く言葉を待つ。
「……記憶がなくても、名前ちゃんは名前ちゃん。俺の名前ちゃんに対する気持ちは変わらない。……そう思ってるのも本当」
「うん」
「だけどさ、だけど本当は俺、」
---ガンッ!!
意を決したように何かを言おうとした快斗の言葉を遮るように、突然名前の後ろの壁が音をたてて弾け飛ぶ。
「な、何!?」
「くそっ!頭を下げろ!!」
驚いて目を見開く名前だが、快斗は瞬時に状況を把握して名前の肩を抱いて身を屈める。
「く、黒羽君?」
「どこからか狙撃された」
「狙撃?」
状況の把握出来ない名前に端的にそう告げながらも、快斗は鋭い視線でキョロキョロと辺りを見渡す。
「でも…犯人はさっきの人だったんじゃ…?」
「ああ……ったく、名探偵の奴どうなってんだよ」
「え?」
(……名探偵?)
小さく舌打ちしながらポツリと呟いた快斗の言葉に首を傾げる名前だったが、快斗は名前の手を引いて歩き出す。
「とにかく、人混みに紛れて外に出よう。この状況なら、犯人も簡単には手を出せないはず……」
----パァンッ!!
「ママー、風船が割れちゃった!」
「あら?変ね、急にどうしたのかしら」
「!!」
「黒羽君……駄目だよ、ここにいたら…私のせいで他の人まで巻き込んじゃう」
人混みの中を進もうとした途端に、名前のそばにいた女の子の持つ風船が破裂する。それを見た名前は、顔を青くして快斗の手を握る手に力を込める。
「……っ、くそっ!!こっちだ!!」
(名前さえ殺せれば、他の人間はどうなってもいいって事かよ!!)
なりふり構わず目的を遂行しようとする犯人の行動に顔をしかめながらも、快斗は名前の手を引いて人の少ない方向に向かって走り出した。
card.654
---パァン、パァンッ!!
パレードの音がどんどん遠ざかっていくのにつれて、周囲の人影も疎らになっていく。そんな中、犯人から逃げる名前達の後方では建物や看板に銃弾が当たる音が響く。野生と太古の島エリアまで移動した快斗は、チラリと背後を気にしながらも前方にある一つのアトラクションを視界に捉える。水上をモーターボートに乗ってエリア内を周回するアトラクションの乗り口には、係員もおらずいくつかのモーターボートが置かれたままになっている。
「このままじゃ追い付かれる!このままアレに飛び乗れ!!」
「え!?」
突然の言葉に戸惑う名前を尻目に、快斗は名前の手を引いて搭乗ゲートをくぐるとモーターボートに飛び乗る。
「行くぞ!しっかり捕まってろよ!!」
「え、キャッ…!」
----ゴォォォ!!
ボートに飛び乗った名前が座席に座ったのを確認した快斗は、一気にボートのスピードを加速させて水上を進んでいく。平然とモーターボートの操縦をする快斗に名前は目を瞬かせながらも、ザブザブと波打つ水面から立つ水飛沫に濡れる前髪を掻き上げる。
----ブー、ブー
すると、そのタイミングで快斗の携帯が振動し快斗は片手でハンドルを握りながら携帯の画面に目を向ける。
「ったく、やっとかよ!!……もしもし!?」
そして画面に表示された名前を見て呆れたように呟きながら「今!?まさに犯人から銃撃されて逃げてるとこだっつーの!!どうなってんだ!?」と、ボートの音に負けないように怒鳴るように電話口に向かって声をあげる。
「名前がまだ狙われてるって事は、捕まったアイツ犯人じゃねーんだろ!?……ああ、え?ああ、それで犯人は?」
「……………。」
(電話の相手って、黒羽君の言う"名探偵"?誰のことなの……?)
片手で携帯を持ったせいかボートのスピードは少し落ちるものの、片手で器用にハンドルを操作しながら事件の核心に迫る会話をする快斗。その光景を呆然と見つめていた名前だったが、ふいに視界の端に自分達の乗るボートと同じスピードで動く影を捉える。
(……え、あれって?)
名前がジッとボードの後方に目を凝らすと、アトラクションのモニュメントとして置かれた動物や恐竜の置物、生い茂る木々の向こう側にあるレーンを走る一台のボートが目に入る。そして、その操縦席にいる人物がこちらに銃口を向けているのに気付いた名前は、ハッと息をのんで快斗を庇うように立ち上がる。
「黒羽君!!危ない!」
---パァンッ!!パァンッ!
名前の大声と同時に放たれた銃弾は、ボートの縁や水面に当たる。
「ばっ、オメーが狙われてんだぞ!?しゃがんでろ!!」
快斗は自分を庇おうとした名前を見て慌ててハンドルを切りながらスピードを上げるが、
名前は自分たちの後を追ってくるボートを見ながら下唇を噛む。
(考えて!どうするべきなの?私の記憶がないせいで、黒羽君まで危険に晒されてる)
名前は拳を強く握りながら、ギュッと目を閉じる。
(本当の私は、黒羽君を何度も助けてきたんでしょ!?それくらい大事な人なのに、このまま守られてばかりでいいの!?黒羽君を守りたいなら何でもいいから思い出しなさいよ……"名前"!)
頭の中で必死に考えを巡らせていた名前は、ふいに脳裏に青子達と見た園内マップが浮かんでくる。そしてパッと顔を上げると、快斗の持つハンドルに手を伸ばす。
「この先の大きなカーブを越えると滝があるの!そこを飛び降りましょう!」
「は、え?滝?」
突然の提案に戸惑う快斗を尻目に、名前は後方に迫るボートを確認しながら言葉を続ける。
「滝を越えれば隣のエリアに移動出来るし、通常の9ミリ口径の拳銃の射程距離は10mから長くて20m。滝を飛び降りれば銃弾は届かないし、犯人もそこまで追ってこないかも!」
「え、オメー……まさか」
「黒羽君は名探偵さんと大事な話をしてるんでしょ?私が操縦変わるから!」
「……あ、ああ」
まるでいつものように的確な判断を見せる名前を見て、思わず小さく息をのんだ快斗だったが、自分を"黒羽君"と呼んだ名前の声を聞いて気の抜けたような相槌を返す。その隙にも名前はギュッとハンドルを握り、滝に向かって更にスピードをあげる。一瞬の期待からの落胆で戸惑ったまま思わず操縦席を譲ってしまった快斗だったが「お、おい!オメー操縦変わるって…」と、慌てて名前に声をかける。
「大丈夫。何でか分からないけど、身体が勝手に動くの……黒羽君は電話続けて。犯人が分かったんでしょ?」
しかし名前は冷静に前方を見つめたまま、小さく口元に笑みを浮かべてそう答える。
「………名前ちゃん」
(ハハ…記憶がなくても、守られてるだけのお姫様じゃないってわけか)
快斗は、ハンドルを操作する名前の横顔に"いつもの名前"の片鱗を感じて小さく笑いをこぼすと、名前の横で追ってくるボートの動きを注視しながら再び携帯を耳にあてる。
「もしもし?ああ、何とか大丈夫だ。……それで犯人は?」
ゴォォォと波しぶきをあげながらグングン進んでいくボートの上に「え?あの人が!?嘘だろ…?動機は?」と、驚愕した快斗の声が響く。その声を聞いて、名前はチラリと真剣な面持ちで会話を続ける快斗に目を向けるが、すぐに前方に視線を戻してボートの操縦を続ける。
「黒羽君!滝が見えたわ!」
「分かった!後は任せろ!しっかり捕まってろよ!!」
一通りの事情を聞き終えたのかそこで通話を切った快斗は、名前を庇うために名前の背中から覆い被さるようにしてハンドルを握ると滝に向かって突き進んでいく。
---ザンッ、ゴォォォ!!!
スピードを緩めないまま滝に突っ込んでいったボートは、ふわりと宙に浮いた後に一気に落下していく。名前がギュッと快斗の袖口を掴みながら身体に襲いかかる浮遊感と重力に耐えていると、快斗は片手で名前の身体を抱き寄せて衝撃に備える。そして、数秒の後にボートは激しい波しぶきをたてながら水面に着水する。
「ふう……名前ちゃん大丈夫か?」
顔にかかった水飛沫を拭いながら、快斗は自分の腕の中にいる名前に声をかける。
「……平気よ、ありがとう」
「ハハ、それにしても…滝から飛び降りようって言ったり、ボート操縦したり急にどうしたんだよ?」
不思議そうに首を傾げる快斗に、名前は恥ずかしそうに肩をすくめる。
「だって、きっと前の私ならこうしてたんでしょ?」
「?」
「前に黒羽君が言った…飛行機から飛び降りたりビルからバンジージャンプしたって話、冗談じゃなかったんだね」
「え……?」
「さっき、ジェットコースターに乗ってる時に少し思い出したの。……ごめんね、黒羽君の話を冗談なんて言って」
「いや、それは……」
「黒羽君が危ないって思ったら、銃の事とか園内マップの事が頭に浮かんだの。不思議とボートの操縦も出来た。……でも、思い出すのがこんな事ばかりでごめんなさい」
「名前ちゃん……」
申し訳なさそうに眉を下げる名前に、快斗は何と声をかけるべきか言葉に詰まる。するとその時、二人の背後からザブンッ!!と大きな音が響く。二人が慌てて振り返ると、そこには自分達と同じように滝を飛び降りて後を追ってきたボートの姿。
「くそっ、しつこい野郎だな!!とにかく急ごう!!」
それを見た快斗と名前は、岸にボート停めるとボートから降りて再び走り出す。二人が降り立ったのは冒険と開拓の島エリア。向かう先には切り立った崖を登る階段しかないため、二人は階段を駆け上がっていく。
「ハァ……ハァ」
(足がパンパンだわ……だけど、前にもこんな風に必死に階段を走って上ったような気がする……)
「もう少しだ、頑張れ!!」
前を走る快斗に手を引かれながら、名前が脳裏に浮かんだ記憶を辿ろうとしていると、パァンッ!!と二人のすぐそばの壁に銃弾が当たる。
「くそ!もう追い付いてきやがった!!とにかく、登りきって岩影に隠れるぞ!!」
「ええ…!」
階段を登り切った二人が頂上にある岩影に身を潜めると、タタタ…と足音が響き銃を構えた人影が頂上に現れる。犯人は自分の姿を隠すように岩影に隠れて移動しながらも、銃を手にジリジリと二人のいる場所に近付いてくる。その気配を察した快斗は、隣にいる名前の頭をポンポンと撫でながら安心させるように小さく頷くと、一人で岩影から出て犯人のいる方に向かって歩みでる。
「!」
(黒羽君……)
「ここ、夜はクローズで誰もいないんだ。姿を見せても大丈夫だぜ?」
突然の快斗の行動に戸惑う名前を尻目に、快斗は不敵な笑みを浮かべながら岩影に隠れている犯人に声をかける。
「ハハ、随分用心深いんだな?でも、もう隠れても無駄だぜ?オメーの正体は分かってるからな!」
「!?」
快斗の言葉に岩影にいる犯人は、銃を持つ手にピクリと力を込める。
「ある探偵が、殺された奈良沢刑事の本当のメッセージに気付いたんだ。彼が死に際に左胸を掴んだのは警察手帳を示したんじゃない……心を指したんだ!!」
「…え、」
快斗の言葉に名前は小さく息を飲んで口元を手で被いながら、快斗の横顔をジッと見つめる。
「"心療科"の文字の一つ、"心"をな!そうだろ?風戸京介先生!!」
そんな名前の視線の先では、快斗が犯人が隠れる岩影をキッと睨み付けながらそう告げる。
「……ふん。どうやら…お前達を片付ける前に、その探偵とやらがどこのどいつなのか教えてもらわなければならないらしいな」
すると名前を言い当てられたためか、ニヤリと口元に笑みを浮かべながら銃を持った風戸が岩影から姿を表す。
「!」
(本当に風戸先生が……?)
今まで親身に自分の診察をしていた風戸が銃を片手に現れたのを見て、名前は大きく目を見開いた。