「瞳の中の暗殺者」編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「え?坊や!あの有名な名探偵の毛利小五郎さんの助手なの?」
「すごーい!坊や達に協力したら、毛利さんのサインもらえるかしら?」
「うん、いいよ!」
名前達がトロピカルランドに来ていた頃、コナンと灰原は東都大学附属病院の看護師から話を聞いていた。
「仁野先生の事よね?こう言ったら何だけど…あまり評判のいい先生じゃなかったわ」
「そうねぇ…お金に汚くて、ほら!手術ミスで問題になったじゃない」
「……手術ミス?」
看護師の言葉にピクリと灰原が反応する。
「ええ…心臓病で運び込まれた患者さんがいたんだけど、その手術の時に一緒に執刀した先生の腕を仁野先生が切っちゃったのよ!」
「え!?」
「そうそう。そのせいで手術どころじゃなくなって、結局患者さんも助からなかったのよね」
顔をしかめてコソコソと話す看護師達。コナンはその話題にハッと息を飲むと「その話、もっと詳しく教えて!!」と、真剣な表情で看護師達に詰め寄った。
card.653
「あの着ぐるみ、何だかおかしくない?」
トイレから出た青子と恵子は、視線の先にいる遊園地のキャラクターの着ぐるみを見て眉を寄せる。子供達に配っていた風船を放置して、わざわざ人込みから離れたベンチに座る名前の元に真っ直ぐ向かって行く着ぐるみの不審な動き。それを見た二人はハッと息を飲んで顔を見合わせると、慌てて声をあげる。
「快斗!!後ろ!!」
「名前ちゃん!!逃げて!」
二人の大きな声に快斗は勢いよく後ろを振り返る。自分達のすぐ後ろまで迫っている大きな着ぐるみを見て、快斗は慌てて名前の手を引いて自分の背中に隠す。しかし着ぐるみはというと、青子達の声に驚いたのか踵を返してその場から逃げ出そうとする。
「おい、待て!!この野郎!!」
それを見た林が我先に着ぐるみを追いかける中、快斗は名前と桜井に視線を向ける。
「陸、名前のこと頼む!!」
「おう、任せろ!名前ちゃんは危ないからこっちにいて!」
桜井は大きく頷くと、名前を快斗の元から自分の後ろに引き寄せる。
「え、黒羽君…!?」
名前は桜井に手を引かれながらも、林の後を追って着ぐるみを追いかける快斗の背中を不安そうに見つめる。
「おい、こらっ!!待ちやがれ!!」
名前達の元を離れた快斗の視線の先では、着ぐるみを着ているせいか緩慢な動きで逃げる人物にあっという間に追い付いた林が、着ぐるみに向かって後ろからタックルするように飛びかかっている。
---ドサッ!!
後ろからの衝撃にバランスを崩し地面に倒れ込んだ着ぐるみ。林はその背中に跨がるように乗って逃げないようにと押さえつける。
「清人!大丈夫か!?」
二人の元へ追い付いた快斗は倒れている着ぐるみの正面に回り込むと、ガバッと勢いよく着ぐるみの頭の被り物を外す。
「お前が名前を狙ってる犯人か!?」
「くっ、何だお前ら……」
被り物を被っていた若い男は焦ったように林と快斗の拘束から逃れようと身をよじるが、そこに小五郎と高木も駆けつけてくる。
「お前らよくやった!!お前は…友成真!?」
「おじさん!こいつ、手に何か持ってます!」
友成が何かを持っているのに気付いた快斗は、林と共にグッと腕が動かないように押さえつけながら小五郎に声をかける。
「ナ、ナイフじゃないか!?」
「ち、違う…これは…」
「ナイフを離せ!友成真!!殺人未遂の現行犯で逮捕する!!」
友成が動揺して声をあげる中、高木が友成の手からナイフを取り上げながら友成を拘束する。
「毛利さん、このまま本庁へ連行します!」
「分かった、俺も後から行くから頼むぞ」
「わ!!犯人、捕まったみたい!」
「おー、良かったぜ!!」
一連の出来事を離れた場所で見ていた青子や桜井達は、肩の力を抜いてホッと息をつく。
「名前ちゃん、これで安心だね」
「ええ……みんな危ない事に巻き込んでごめんなさい。桜井君も、庇ってくれてありがとね」
「ハハ、俺は大したことしてないけどな。名前ちゃんが無事で良かったよ」
名前は連行されていく友成にチラリと視線を向けながらも、恵子や桜井に笑顔を見せる。
「名前!」
そこに小五郎が近付いてきて「これでもう安心だ。俺達がいないほうが黒羽や友達と一緒にリラックスして楽しめるだろ」と、声をかける。
「おじさん…」
「犯人も捕まったんだ。きっと記憶もすぐ戻る。今日は1日このまま楽しむといい」
「……ありがとうございます」
優しくそう声をかける小五郎の言葉に、名前も戸惑いながら笑顔で言葉を返す。そんな名前に向かって小五郎は小さく頷くと「俺は本庁へ向かうから、何かあれば連絡してくれ!」と、快斗の肩をポンと叩いて高木の後を追って立ち去っていく。快斗はその背中を見送ったあと、名前の元に小走りで駆け寄っていく。
「名前ちゃん!」
「黒羽君…林君も、怪我は?」
「俺は大丈夫だ!犯人が捕まって良かったな!!このまま遊んで帰ろうぜ!」
林が笑顔でそう答えると、名前は林の隣の快斗に目線を向ける。
「俺も大丈夫だよ。せっかくだから、おじさんの言うように楽しんで行こうぜ」
「良かった……ありがとう」
名前は快斗の言葉にホッと息をつくと、小さく微笑んで頷く。
「よーし!!次はどのエリアに行く?」
「……………。」
(この状況で名前に接触しようとしてきたって事は、今の奴が犯人って事か?本当にこれで終わりなのか?)
青子達が園内マップを見て盛り上がる中、快斗は恵子と何かを話している名前の横顔をジッと見たまま考えを巡らせる。
(それに今の奴が犯人だとしたら……)
「……黒羽君?どうかした?」
自分を見つめる快斗の視線に気付いた名前が、不思議そうに快斗に声をかける。考えに没頭していた快斗は、ハッと我に返って携帯を取り出す。
「いや、えっと……ああ、そうだ!犯人が捕まったことを連絡してー奴がいるから、ちょっと電話してくる。オメーら乗りたいアトラクション選んどいてくれよ」
「?ええ、わかった」
そんな快斗の反応に、名前は不思議そうに首を傾げながらも「名前ちゃんは、どこか行ってみたいとこある?」と、恵子達に声をかけられたため青子の持つマップに再び目線を戻した。
---ブー、ブー
コナンと共に東都大学附属病院で起きたという手術ミスについての話を聞いていた灰原は、携帯の着信に気付いてソッとその場を離れる。
「……もしもし?」
『あ、哀ちゃん?』
「黒羽君、今トロピカルランドでしょ?まさか何かあったの?」
灰原は突然の快斗からの連絡に眉を寄せるが、耳元からのんびりした快斗の声が返ってくる。
『いや……さっき名前ちゃんに接触しようと奴が捕まったんだけど、俺は今回事件の事情はほとんど把握してねーからさ。犯人なのか確認したいのに、名探偵の奴電話に出ねーんだよ。哀ちゃん何か知ってる?』
「……ああ。彼なら今、関係者に事情を聞いてるから」
看護師の話を聞いているコナンにチラリと視線を向けながら、灰原は言葉を続ける。
「それより、名前を狙ってた人間が捕まったってどういう事?」
『名前ちゃんに近付いてきた怪しい奴がいて取り押さえたんだ。今、高木刑事と探偵のおっさんが本庁で取り調べをしてるはずだ』
「そう……とりあえず、私から工藤君に伝えておくわ。捕まった男の特徴は?」
『ああ、頼むよ。特徴って言うか……探偵のおっさんがそいつの顔見て、"友成真"って言ってたけど』
「友成真?」
『哀ちゃんも知ってるの?』
「ええ…友成真は、警察が目をつけている容疑者の一人よ」
『え、本当に?じゃあ、マジでアイツが犯人だったのか…』
耳元から聞こえる快斗の声に、灰原は「納得いかないの?」と、尋ねる。
『んー?現役の刑事を二人殺して、佐藤刑事も殺そうとした犯人にしてはやけにアッサリ捕まったっつーか……』
「?」
『名前ちゃんが何の反応もしなかったんだ。だから、何ていうか…拍子抜けしたのかも』
「え?」
苦笑しながらそう話す快斗に、灰原は不思議そうに首を傾げる。
『アイツ、時々記憶を取り戻しかけてるみてーだったから。自分を襲った犯人の顔を見たら、何か反応するかもしれないって思ってたんだよ』
「……なるほどね」
『それに、正直言うと手詰まりっていうかさ……』
「手詰まり?」
『名探偵や哀ちゃん…高校の奴等に会っても駄目、部屋を見せても駄目……俺に会っても駄目。それで犯人を見ても駄目ってなったらさ……なぁ、どうしたら記憶を取り戻すと思う?』
灰原は耳元に響く快斗の弱々しい声に眉を寄せて携帯を持つ手に力を込める。灰原が言葉に詰まっていると『なあ、哀ちゃんならどう思う?嫌な記憶を忘れられるなら、それ以外の事も全てを忘れても構わないって思うか…?』と、快斗が更に言葉を続ける。
「そうね……」
快斗の問いに、灰原は少し目線を下げて戸惑いがちに言葉を続ける。
「出来ることなら記憶を無くしたい」
『…………。』
「お姉ちゃんが殺されたことや、組織の一員になって毒薬を作っていたこと。全部忘れて、ただの小学生の灰原哀になれたらどんなにいいか」
『哀ちゃん、』
「………って、今までの私なら考えたかもしれないわね」
『へ?』
耳元から聞こえる呆けた声に小さく笑いながら、灰原はチラリと看護師達と話しているコナンに目を向ける。
「言ったでしょ?私のまわりにはお人好しやお節介さんがたくさんいるみたいだからって」
『え?ああ…』
「こんな私にも居場所があるって分かったから、今はそう悲観的に考えてもいないわ。名前だってそうよ、本気で自分を求めてくれる人がいて…確固たる自分の居場所があると分かれば戻ってくるはず」
『……………。』
「相手に記憶がないからって気を使ってばかりいないで、自分の気持ちを素直に伝えてみたら?」
「どうだね?何か話す気になったかね?」
警視庁取調室では項垂れた友成真を取り囲むように千葉・小五郎・高木が立っていて、目暮が正面に座り取り調べを行っている。
「……男の声で電話があったんです。"父親の死の真相を教える。米花町の交差点に来い"と」
友成はポツポツと順を追って事情を説明し始める。
「しかし男は現れず…すぐ近くで奈良沢刑事が撃たれました。家に帰ると再び電話があって指定された場所に向かうと、そこでは射殺された芝刑事が発見されたんです。僕はやっと犯人に嵌められたんだと気付きました…」
友成の供述を聞いて、小五郎や高木は不審そうに顔を見合せる。そんな中、米花サンプラザホテルに行ったのは"佐藤刑事"と名乗る女に"来ないと逮捕する"と言われたためだと、友成が付け加える。
「……お、おい。じゃあ今日トロピカルランドにいたのは?」
「毛利さんに一連の事を相談したくて声をかけよう機会を窺っていたんです。警察は父の件もあって信用出来ないので。有名な名探偵の毛利さんなら……って」
「そ、相談だと?」
「何であんな着ぐるみを着てナイフを持っていたんですか!?」
「着ぐるみは警察に目をつけられているだろうと思って顔を隠したくて……ナイフは護身用です。犯人に命を狙われるかもしれませをんから」
「お、おい…じゃあ…まさか犯人は別にいるということか!?」
「名前君が危ない…!」
きょとんとした表情でそう話す友成だが、その話を聞いた小五郎達はサッと顔を青くする。そして、護衛のいない状態でトロピカルランドにいる名前の事を思い浮かべた。
「すごい迫力だったな!」
「楽しかったー!!」
友成が連行されてから、メリーゴーランド・ジェットコースター・空中ブランコ・ワイルドストームといった人気のアトラクションを巡っている青子達。名前も青子や林達と打ち解けてきたようで、笑顔で会話しながら園内をまわっている。
「………確固たる居場所と自分の気持ち、か」
快斗はそんな名前を見つめながら、先程の灰原との会話を思いだしてポツリと呟く。
「おーい、快斗!!」
「……え?」
すると、ぼんやり考えを巡らせていた快斗の顔を不審そうに桜井が覗き込む。
「ぼんやりしてたけど…俺らの話、ちゃんと聞いてた?」
「あ、悪い。ちょっと考え事してた…」
「もー!!しっかりしてよ!!私達、ここで帰るからね」
慌てて目の前の自分の友人達に視線を向けた快斗に、青子が呆れたようにそう返す。
「へ?」
「私達は一通りアトラクションもまわったし、夜のパレードは名前ちゃんと二人で見たらどうかな?」
「そうそう。お前ら二人でいた方がきっと何か思い出すよ」
青子の言葉にポカンとする快斗に、恵子と林がそう告げる。友成を捕らえてから、いくつものアトラクションをまわった青子達。気付くと辺りはすっかり暗くなりパレードの時間が近付いていた。
「い、いや…でも」
「猫被りもいいけどよ。犯人も捕まったんだし、いつまでも気張ってないで普段通りの快斗で名前ちゃんと楽しんで来いよ」
そして戸惑う快斗の肩をポンと叩きながらそう告げた桜井の言葉を最後に、青子達は名前に笑顔で別れを告げてトロピカルランドを後にしたのだった。
「何?犯人が捕まった?」
「ええ、黒羽君から連絡があったの」
看護師や病院関係者から話を聞き終えたコナンに、灰原が先程の快斗とのやりとりを伝える。
「捕まった奴の名前は?」
「友成真って言ってたわよ。確か容疑者の一人よね?今、高木刑事と毛利さん達が本庁で取り調べしてるらしいけど……」
「何!?じゃあ、今名前には護衛はついてないのか?」
灰原の話を聞いたコナンは、サッと表情を険しくする。
「え、ええ…そうみたいだけど……」
「まずい!俺達もトロピカルランドに急ぐぞ!!」
「工藤君!?」
コナンは戸惑う灰原を尻目に、そう言いながら病院を飛び出していく。
「ちょっと、急にどうしたのよ!?」
灰原は慌ててコナンの後を追いながら、そう声をかける。
「友成真は犯人じゃない!犯人は、今日名前がトロピカルランドに行くことも知ってるんだ!このままだと名前が危ない!!」
「え!?」
病院を出たコナン達は駐車場で待機していたビートルに乗り込む。コナンは「博士!!急いでトロピカルランドへ向かってくれ!!」と伝えながら、ポケットから携帯を取り出す。
(とにかく、黒羽の奴に連絡しねーと…)
阿笠がビートルを急発進させてトロピカルランドに向かう車内で、コナンは耳元から聞こえるコール音を聞きながら逸る気持ちを押さえるように窓の外へ視線を向けた。