「瞳の中の暗殺者」編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名前!」
「名前お姉さん!!」
小五郎とコナンが慌てて病室に駆け込むと、ベッドのそばに立つ目暮が二人に向かって軽く手を上げて制止する。
「今、鎮静剤を打って眠ったところだ」
「怪我は?」
目暮の言葉を聞いた二人は、声のトーンを下げて尋ねる。
「幸い黒羽君が迅速に対応してくれたおかげで、かすり傷程度だよ」
「すみません!!僕がついていたのに、こんな事になってしまって……」
「いや……しかし、まさかホームから突き落とされるとは……」
顔を青くする高木の言葉に、小五郎は眉を寄せてそう言葉を返す。その足元にいるコナンは、ベッドで眠っている名前の顔を見て小さく安堵の息をつく。
「しかし…この事件をキッカケに、名前さんが記憶を取り戻すことを怖がるようになるのが心配ですね…」
診察を終えた風戸が目暮達にそう話しているのを聞きながら、コナンはベッドサイドの椅子に座る快斗の元に近付いていく。
「オメーは大丈夫か?」
コナンは小声でそう声をかけながら、快斗の腕や足の擦り傷や痣にチラリと目を向ける。
「……俺は問題ない。だが、名前から一瞬でも離れるべきじゃなかった」
「……オメー」
「あと一歩遅かったら、俺はコイツを失うところだった。これじゃ、何のために一緒にいたのか分からねぇ……」
ギリッと拳を握りながらそう呟く快斗を横目に見ながら「……しかし、これで名前が犯人の顔を見ていることがハッキリしたな」と、コナンが真剣な表情で言葉を返す。
「ああ、何が何でも名前を守り抜かねーと」
「……そうだな」
(……いや、守るだけじゃ駄目だ。こっちから攻めないと!黒羽は名前のそばから動けない…何としても、俺が犯人を見つけてやる…!!)
どこか思い詰めたように真っ直ぐ名前の寝顔を見つめる快斗。そんな快斗の言葉に同意しながらも、コナンは心の中でそう決意した。
card.650
「名前さん、くれぐれも無理に思い出そうとしないように。いいですね?」
「はい」
「少しでも何か思い出すような事があれば、連絡してください」
「分かりました。ありがとうございます」
「名前、荷物はお父さんが運んでくれたから。一緒に行きましょ」
退院当日。病院の外まで見送りにきた風戸に丁寧に頭を下げる名前。そんな名前の手を引きながら、蘭は快斗に視線を向ける。
「黒羽君も一緒に家までおいでよ。名前の事も気になるでしょ?」
「え、いいの?」
「うん。明日からも家の事は気にしないで、好きな時に名前に会いに来ていいからね!名前も黒羽君がいた方が安心よね?」
「え?あ、うん…そうね」
ニッコリと笑いながらそう尋ねる蘭。名前は戸惑いつつも、快斗をチラリと見ながら肯定する。快斗はそんな蘭と名前の様子に苦笑しながらも、蘭の言葉に甘えて前を歩く名前達の後に続いて駐車場に向かう。
「蘭のやつ、普段通り明るいのはいいが……名前のやつ戸惑ってるじゃねーか」
そんな快斗の足元で、コナンは半ば呆れたように前を歩く二人を見ている。
「ま、いつまでも落ち込んで辛気くさくしてるよりは良いんじゃねーか?……それよりも、結局退院は予定通りなんだな」
「誰でも自由に出入り出来る病院よりも、事務所の方が安心だからな。外には警察が待機してくれるみてーだし。蘭は言わずもがな…おっちゃんも柔道の有段者だ」
「……確かに鉄壁のガードだな」
わざとらしく笑いながらそう呟く快斗を横目に、コナンはため息混じりに口を開く。
「……それから、一応言っておくが。オメーが帰ったあとも、俺がちゃんと見ててやっから心配すんな」
「え?」
コナンの言葉に快斗が首を傾げると、コナンは快斗にジト目を向ける。
「どうせオメーの事だから、夜もコッソリどこかで事務所の様子を見張ろうとか思ってんだろ?」
「い、いや。別に俺は……」
「バーロー。昨日のオメーの様子を見てたらバレバレなんだよ!記憶がいつ戻るかわかんねーんだ。事件が解決するまで昼夜問わず名前を見張ってるつもりか?オメーが先にぶっ倒れるぞ!」
「…でも、」
コナンの言葉が図星だったのか、快斗は戸惑いながらも反論しようとするが、コナンはそれを遮って更に言葉を続ける。
「それとも何か?オメーは、俺が信用出来ねーのかよ?」
「…………。」
「心配すんな。オメーに頼まれなくたって、アイツは俺にとっても大事な幼なじみなんだ。絶対守ってやっから」
「名探偵……」
「その代わり、昼間はオメーに任せるぜ。俺は事件の方を追わなきゃならねーからな」
それだけ言うと、快斗の返事を待たずにどんどん車に乗り込んで行くコナン。快斗はため息混じりにガシガシと頭を掻いたあと、コナンの後を追って車に乗り込んだ。
----ブロロロ…
「ッチ、また雪が降ってきやがった」
小五郎の運転する車に乗り探偵事務所に向かう中、チラチラと雪が舞い始めたのを見て小五郎は小さくため息をつく。
「名前、この先に名前と私たちが通った小学校があるのよ。見覚えない?」
「………ううん」
後部座席では名前が窓の外を見ながら、流れ行く米花町の町並みをぼんやりと眺めている。その様子を快斗は黙ったまま見守っている。
「そっか……名前は中学からは関西に行ってたし、名前にとっては米花町より江古田の町並みの方が記憶に新しいかもね」
「関西?」
「そうよ!高校になってこっちに戻ってきたの。大阪にも私たちの共通の友達がいてね、服部君と和葉ちゃんって言うんだけど……」
そんな中、蘭はいつも通りの笑顔で名前に今までの生活や友人関係を説明している。名前と蘭がそんな会話をしていると、車はあっという間に探偵事務所の前に到着し、小五郎が「ついたぞ!」と言いながら運転席から降りて後部座席のドアを開ける。
「ほら、濡れるからコレを使え。寒いから早く中に入ろう」
「ありがとうございます……」
雪が本降りになってきたため、小五郎は車を降りようとした名前に傘を差し出すが、それを受け取ろうとした名前はピタリと手を止めて小五郎の差し出した傘を見つめる。
「名前ちゃん、どうした?」
名前の異変にいち早く気付いた快斗が、名前の隣から顔を覗き込むようにして尋ねる。
「……傘、濡れる…」
「名前ちゃん?」
「……濡れて、寒い……あの時も…」
傘をぼんやりと見つめながら独り言のように呟く名前。その言葉に快斗はハッと息を飲むが、名前は小さく頭を振って傘から視線を反らすと額に手を当てる。
「あの日と同じ…何か思い出せそうなのに……」
「頭が痛いんだろ?大丈夫だ。無理しなくていいから、とにかく中に入ろう。……それ、俺が持ちます」
快斗は名前にそう声をかけながら、小五郎から傘を受けとる。小五郎は名前の様子を見て一瞬戸惑いながらも、快斗に向かって小さく頷きながら傘を渡すと、何も聞かずに荷物を持って事務所に上がっていく。
「ほら、名前ちゃん行こう」
「……ええ、ごめんなさい」
名前の肩を抱くようにして傘の中に引き入れた快斗は、小五郎の後に続いて事務所の階段を上がっていく。
「…………。」
一連のやり取りをみていたコナンは、何かを考えるようにジッと名前と快斗の背中を見つめていた。
「名探偵、ちょっと…」
「何だよ?」
事務所に上がった名前は、蘭に連れられて3階の蘭の部屋に入っていく。女性同士で泊まりのための荷物の準備があるらしく、リビングに残ったコナン達。小五郎が事務仕事を始めたタイミングで、快斗が小声でコナンを手招きする。
「さっきの事なんだけど、名前ちゃん前にも一度何かを思い出しかけた事があったんだ」
「何?」
「その時は、仕事がどうとか…寒いとか言っててさ。俺はてっきり、子供の頃の事を思い出したのかなって思ったんだけど」
「オメー、アイツの昔の話聞いたのか?」
「え?……ああ、まぁ一応な」
(名前に聞いたわけじゃねーけど)
快斗の言葉に、意外そうに目を丸くしているコナン。快斗はそれを曖昧に交わしながら、話を続ける。
「だけど…オメーに硝煙反応を出さないトリックに傘を使ったって聞いた時に思ったんだ」
「?」
「あの日、あの時の現場の様子が…名前の中で一番心に引っ掛かってる、子供の頃の場面と重なったんじゃないかって」
「え?」
「元々母親からの電話で精神的に弱っていたタイミングで、事件によって過去の出来事がフラッシュバックしたせいで記憶をなくしたのかもしれない」
「………どういう事だ?」
コナンはピクリと眉を寄せながら、快斗に説明するように促す。
「名前ちゃん、言ってたんだ。"仕事が大事"って、前にも誰かに言われたことがある気がするって」
「……それは、アイツの親が」
「ああ。最初は俺もそう思った。だけど、犯人が似たような事を言っていたとしたら?」
「え?」
「母親から仕事が大事だと言われた昔の記憶、それと同じ事を言う犯人」
「…………。」
指を折りながら、一つ一つ整理するように話す快斗。コナンは黙ったままジッとその話を聞いている。
「母親から差し出された傘、犯人が犯行に使って名前達に向けられた傘。雪が降るなか待ち続けて冷たくなった身体、出血と水道管から溢れた水に浸かって冷えきっていた身体」
「……お、おい。それって」
「あの時、壊れた水道管から噴き出した水は雨みたいに降り注いでいた。子供の頃、外に倒れていた時に降っていたっていう雪を彷彿させたのかもしれない」
「………それで、記憶を?」
快斗の説明に目を丸くするコナンだったが、顎に手を当てて「想像の域を出ないが、確かにそう考えると状況は似ているな」と、小さく呟く。
「もしオメーの言うとおりだとしたら、犯人の動機が仕事絡みって事か?それを、犯行の場面で口走ったとすると……!」
そして、これまでの事を整理しながら考えをまとめていたコナンは、ある一つの可能性を思い付いて息を飲む。
「名探偵?何か分かったのか?」
「……いや、まだ仮説に過ぎない。俺は明日、東都大学付属病院に行ってみる」
「東都大学付属病院?そこに何が……」
「あ、黒羽君!ちょっといい?」
コナンの言葉に首を傾げた快斗だったが、そのタイミングで3階から降りてきた蘭が快斗に声をかける。
「ん?何かあった?」
「ほら、名前!自分で聞いてごらんよ」
快斗に声をかけた蘭は、そう言いながら自分の後ろに立っていた名前を前に押し出す。
「どうした、名前ちゃん?……つーか、お前その顔……」
「あ、大丈夫、大丈夫!ちょっといろいろ話してたら、感極まっちゃっただけだから!やっぱり黒羽君には、すぐ気付かれちゃったか……」
名前の顔を見て目を丸くした快斗だったが、蘭は慌てて快斗の言葉を遮る。
「感極まったって……」
どう見ても涙を流した形跡のある名前の赤い目元を見ながら、快斗は心配そうに眉を寄せる。そんな視線を受けて気まずそうにしながらも、名前が手に持っていた手帳を快斗の前に差し出す。
「あの……ここ、明日の所に赤い印があるでしょ?何か大事な用だったのかなって気になって……黒羽君、何か知ってる?」
快斗は名前に何があったのか分からない事に釈然としていないものの、手帳に目を向けながら「……ああ、」と小さく頷く。
「そっか、そういえば明日だったな。……明日、高校の友達みんなでトロピカルランドに行く約束してたんだよ」
「トロピカルランド?」
「米花町にある大きな遊園地のことだよ!」
不思議そうに首を傾げた名前に、コナンがそう説明する。
「遊園地…そうだったんだ」
「名前ちゃん、すげー楽しみにしてたんだよ。トロピカルランドのサイトを俺と一緒に見て、いろいろ下調べしたりしてさ」
手帳を見つめながらポツリと呟く名前に、快斗が笑顔でそう話す。すると、話を聞いていた蘭が「そうだ!」と突然声を上げる。
「トロピカルランド、実際に行ってみたらどうかしら?」
「え?」
「名前にとって、最近は私達よりも江古田高校の友達との関わりの方が多かったでしょ?いつも過ごしていた友人と過ごした方が、良い刺激になるかもしれないわ!」
「だ、だけど…あんな人混みに行ったら、また名前姉ちゃんが狙われるかもしれないし……」
蘭の提案を聞いて、コナンは戸惑いながら黙ったままの名前と快斗の顔を盗み見る。快斗は自分と同じ心配をしているのか、顎に手を当てながら何とも言えない表情をしているが、その横で名前が徐に口を開く。
「私、行ってみたい……」
「え、名前ちゃん?」
「このまま事件の事から逃げたまま、みんなに守ってもらって過ごしてるんじゃ駄目だと思うの」
キュッと手帳を持つ手に力を込めながら、名前は言葉を続ける。
「大事な時に守ってもらうだけじゃなくて、ちゃんと隣にいたい」
「…え?」
ポツリと呟かれた言葉に、快斗は目を見開いて名前をまじまじと見る。名前は少し戸惑いながらも、そんな快斗に視線を合わせる。
「私のことを心配して、守ってくれる人達の事をちゃんと思い出したい。思い出して、自信を持って隣に立ちたい」
ハッキリとそう言い切った名前をしばらくジッと見つめた後、快斗は肩の力を抜くように小さく息をつく。
「正直言うと心配だけど、今度こそちゃんと俺がそばについてるから……行ってみるか」
「黒羽君…」
「それにしても……名前ちゃんは、記憶がなくても変わらないんだな」
「……え?」
「前にもそう言ってた。今とは逆で、俺が大変な時に…名前がそう言って、俺の隣に立ってくれた」
「黒羽君が大変な時…?」
「…………。」
(……黒羽の抱える事情ってやつか?)
絞り出すようにそう話す快斗を不思議そうに見つめる名前。そんな二人を、コナンは黙ったまま見つめている。そんな中、蘭はなぜか満足そうに名前の手を取って笑顔を見せる。
「大丈夫!きっと思い出せるわ」
「ええ、頑張る。……だけど私がトロピカルランドに行く事で、江古田高校の友達や黒羽君をまた巻き込んでしまわないか心配で……」
「そうよね…まずは、お父さんに相談して目暮警部達にも許可を取りましょう」
コナン達がいないところで何かやり取りがあったのか、急に積極的に記憶を取り戻そうと画策する蘭と名前。快斗とコナンはそんな二人の様子に首を傾げながら、不思議そうに顔を見合せた。