「瞳の中の暗殺者」編
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---米花サンプラザホテル
「しかし何だかなぁ…白鳥の妹も間が悪いというか、何もこんな時に結婚披露パーティーしなくたって」
ネクタイを締め直しながらパーティー会場に向かう小五郎は、ため息混じりにそう呟く。
「仕方ないじゃない。パーティーは半年も前に決まってたし、事件が起きたのは彼女のせいじゃないもの!」
「それに、正確には結婚披露パーティーじゃなくて、結婚を祝う会みたいよね」
「主催者も新郎新婦の友人だしね」
小五郎の言葉に、共にパーティー会場に向かっていた蘭、園子、コナンがジト目を向けて口々にそう言葉を返すと、小五郎は「わぁーってるよ!」と気まずそうにため息をついた。
card.644
「あら、名前達もう来てるわ」
「本当だ!名前!黒羽君!」
パーティー会場の入り口に名前の姿を見つけた蘭達が声をかけると、名前と快斗は軽く手を上げてコナン達に合流する。
「良かった、蘭達を探してたとこなの。思ったより参加者が多くて」
「どーも、こんにちは」
名前が笑顔で蘭達に声をかける中、快斗はペコリと小五郎に挨拶する。
「本当に凄い人ね……だけど、なんかみんな顔が怖くない?」
「仕方ねーだろ。白鳥側の招待客は警察関係者ばかり。みんな、例の事件でパーティーどころじゃないんだよ」
園子が会場の中を見て呟いた言葉に、小五郎は小声でそう答える。短期間に現職の刑事が二人殺され、使われた拳銃からは同一犯との見解が出ている。パーティー会場にいる参加者の中で警察関係者と思われる人達は、みな顔を寄せ合ってヒソヒソと話している。
「でも、佐藤刑事はいつも明るいわよね!」
「あ、本当だー!パーティーだからお洒落してて可愛いわね」
そんな中、高木と笑顔で話している佐藤の姿を見つけた蘭と園子。ピリピリした雰囲気の中でも、いつも通りに明るく振る舞う佐藤の姿を見てホッと息をつく。
「あれ?今日は安室さんいねーな。また毛利のおっさんについて来てるかと思ったぜ」
そんな会話を横で聞きながら、快斗はソッと名前に耳打ちする。
「今日は警察関係者が多いから…上層部の人間なら顔見知りの人もいるかもしれないし、"ポアロの安室透"としては来れないのかもね」
「あー、なるほどな。そーいや、安室透って名前もやっぱり偽名だよな?」
「多分そうだと思う。詳しくは分からないけど、ポアロにいるのも潜入捜査の一環っぽいもんね。あの口調もたまに崩れるじゃない?あっちが本物っぽいわよね」
「何であの人ポアロにいるんだろうな?案外、名探偵のことバレてんじゃねーの?」
「えー、それはさすがに……。でも確かに、何を探りたくてポアロにいるのかしら?」
協力関係になったと言っても、まだ詳しい事情は聞かされていない二人。改めて浮かんだ疑問に首を傾げる。
「ま、俺達もあの人に言ってないことあるからな」
「そうね。お互いどこまで明かすのかは今後の関わり方次第かしら」
名前と快斗がそんな事をコソコソ話しているうちにパーティーが始まって、新郎新婦の挨拶が行われる。新郎新婦の挨拶に続き、祝辞や友人の挨拶を終えると会場には乾杯のドリンクや料理が並び始る。
「名前、何か飲み物取りに行かない?」
「そうね。快斗のも持ってくるわ、何か飲みたいものある?」
「んー、名前ちゃんが俺が飲みそうなの適当に選んできてよ」
「分かったわ、待っててね」
名前は蘭達の誘いを受けて、料理やドリンクが並ぶテーブルに移動する。
「あんた達のやり取り、熟年夫婦みたいね」
「え、そう?」
「お互いの好みが分かってないと、今みたいなやり取り出来ないもんね」
「ふふ。そんな事言ったら蘭の方がよっぽど新一の好み分かってるんじゃないの?」
「わ、私達は別に…ほら幼なじみだから!!」
「……………。」
(……今日の名前ちゃんは割と楽しそうにしてるから良かったぜ)
「おい、黒羽」
「ん?何だよ、名探偵」
蘭と園子といつもの様に話をしながら離れて行く名前を見送っていると、ふいに快斗の足元から声がかかる。
「最近、名前の様子どうだ?」
「様子?」
「元気ないんじゃねーの?」
「まぁ確かに、ここんとこ元気ないけど……何で分かるんだ?」
(あの電話が来た日から今日で4日たつけど……まだちょっと様子がおかしいんだよな)
快斗は突然のコナンの問いに僅かに目を丸くする。あの日以降、いつもに比べて元気のない名前を快斗は気にかけていた。しかし、今日までしばらく会っていなかったはずのコナンに何故そんな事が分かるのだろうか?
「ここんとこ、雪が続いてるだろ?」
「え?」
「雪の日はいつも不安定になるんだ。なるべく気にかけてやってくれ。昔に比べたら今はお前がいるから、あいつも幾分かマシだろ」
「おー……まさか、オメーにそんな事を言われる日が来るとはな」
「うるせーな。……俺としては不本意だけど、仕方ないだろ?アイツはオメーが良いって言うんだからよ!」
「んー。まあ、俺も気にかけてはいるんだけどさ………今回は多分、雪以外にも理由があるんだよ」
不服そうに顔を歪めているコナンに、快斗は小声でそう告げる。
「何だと?」
「名探偵にも相談しようと思ってたからちょうど良かったぜ。実はこの間さ……」
「コナン君、飲み物オレンジジュースで良かった?」
快斗の言葉にピクリと眉を寄せて反応したコナンだったが、そのタイミングでジュースを手に蘭が戻ってくる。
「あ、うん!ありがと!蘭姉ちゃん」
「…………。」
今まで真剣な表情をしていたコナンが、パッと表情を切り替えて笑顔でジュースを受け取る。その変わり身の早さに、快斗は思わず口元を緩める。
「快斗?何で笑ってるの?」
「あ、名前ちゃんおかえり」
「ただいま。快斗はジンジャーエールで良かった?」
「おー、サンキュー」
快斗は、名前からジンジャーエールを受け取りながら「いや、名探偵も相変わらず苦労してんなーと思ってさ」と、言葉を返す。快斗の言葉を聞きながら、名前がコナンに視線を向けると、コナンは不満気にオレンジジュースを飲んでいる。
「ああ、確かに。よくやるわよね」
「俺と話してた時の態度からの変わり身の早さは、尊敬に値するぜ」
それを見た名前も、快斗と顔を見合わせながら思わず笑いをこぼす。
「毛利さん!今日は参加していただいて、ありがとうございます」
二人がそんな会話をしているところに白鳥がやってきて、小五郎や名前達にそう言いながら頭を下げる。
「よっ、おめでとう!!」
「妹さんのドレス姿素敵でした!!」
「蘭さんもありがとうございます!そうだ、ご紹介します。私の主治医で、米花薬師野病院心療科の風戸先生です」
白鳥は小五郎達に向かって、自分の横に立つ優しそうな男性の紹介を始める。
「はじめまして、風戸です」
「毛利です。よろしく!こちらは娘の蘭と、その友人の……」
白鳥から紹介を受けた風戸に向かって、今度は小五郎は自分の関係者を簡単に紹介していく。全員の紹介が一通りすんだところで「白鳥刑事、心療科ってどこか悪いんですか?」と、蘭が心配そうに尋ねる。
「あ、いや。管理職ともなると、色々悩みが多くて……たまに先生に相談にのってもらうんですよ」
「へー、そうなんですね。お仕事大変なんですね…」
蘭と白鳥がそんな会話をしている中、小五郎はふと近くを通りかかった高木を見つけて呼び止める。
「おい!高木!」
「ひえっ、毛利さん…」
「お前!俺の連絡をのらりくらりとかわしやがって!!例の事件は、一体どうなってるんだ!!」
白鳥や蘭達から少し離れたところで高木に詰め寄る小五郎。
「あの事件の事かしら?やっぱりおじさんにも詳細が伏せられてるのね」
「ああ、そうみたいだな」
そんな二人の様子を見ながら、名前と快斗は不思議そうに顔を見合わせる。
「お前!!このまま俺に話さないとどうなるかな?あの事を佐藤刑事に…」
「っ、分かりましたよ!マスコミには伏せているんですが、実は芝刑事は警察手帳を握って亡くなっていたんです」
「!?」
何やら高木の弱味を握っているらしい小五郎に詰め寄られ、高木はコソコソと小五郎に事件の詳細を伝える。小五郎の足元でコッソリ様子を伺っていたコナンは、ピクリと眉を寄せる。
「一件目の奈良沢警部補は胸元を掴んで亡くなっていました。だから、奈良沢警部補も胸ポケットに入っていた、警察手帳の事を言いたかったのかもしれない、と捜査本部では考えているんですよ」
「警察手帳を!?って事は…まさか、」
「それ以上の詮索は不要ですよ、毛利さん」
「!」
コソコソと高木から事件の捜査状況を聞いていた小五郎の元へ、白鳥が険しい顔をして近付いてくる。
「……"Need not to know"そう言えば、お分かりでしょう?」
「なっ!?」
白鳥の言葉に言葉を失う小五郎だったが、白鳥はそれ以上話すつもりはないようで「ほら、高木君。戻りますよ」と、気まずそうにしている高木の手を引いてその場から離れて行く。
「"Need not to know"……知る必要のないこと、か。確か警察関係者の間で使われてる隠語だよな?」
小五郎達の会話を聞いていた快斗は、眉間にシワを寄せる。
「ええ。高木刑事の話だと、被害者は警察手帳を持っていたらしいし…もしかしたら犯人は警察関係者かもしれないわね」
「なるほどね。だから情報を伏せているのか……どうりで参加してる警察関係者が揃いも揃ってピリピリしてるわけだ」
快斗はぐるりと会場内を見渡しながら、小さくため息をつく。
『ここで、新婦がお色直しのために一時退席します。皆様はしばしご歓談ください…』
その時、場内にはそうアナウンスが流れて新郎新婦の二人が退場する。
「私、今のうちにお手洗い行ってくるわ」
「おー、俺この辺りにいるから」
「うん、ありがとう」
名前は会場内が歓談の時間になったタイミングで、快斗にそう声をかけて会場を後にする。人の多かった会場から出ると、名前は肩の力を抜いて窓の外に目を向ける。
「……今日も雪か。今年は嫌になるくらいよく降るわね」
ソッと冷たい窓に触れて外を眺めながら、名前は小さくため息をつく。
「佐藤君!あの件なんだが…」
「目暮警部、その件は以前お断りしたはずですよ?」
名前が窓の外を見ていると、会場の入り口から佐藤と目暮の声が聞こえてきて、名前は何となく二人に目を向ける。
「しかし、万が一ってことが…」
「大丈夫ですって!そんなに心配しないでください」
「ならば、せめて移動する場合は誰かと一緒に……」
「目暮警部、お手洗いに高木君や白鳥君と行けって言うんですか?」
「?」
(何の話かしら…?)
名前が二人のやり取りに首を傾げていると、まだ引き止めようとしている目暮を尻目に佐藤がどんどん会場から出てくる。
「あら?名前ちゃんじゃない。こんな所でどうしたの?」
「ちょっとお手洗いに行こうと思って出てきたところなんです」
「私もよ。一緒に行きましょ」
会場から出た佐藤は、名前に気付いて笑顔で声をかける。
「おかしなパーティーでしょ?参加者が警察関係者ばかりで」
「いえ、そんな事……でも佐藤刑事も気を付けてくださいね?」
「え?」
「例の事件、刑事さんばかり狙われてるみたいですから…」
名前は、鏡に向かってメイク直しをしている佐藤に向かってそう声をかける。犯人の目的は分からないが、まだ他の警察官が狙われる可能性は十分にある。しかし佐藤は「大丈夫よ!私、タフだから!」とウィンクをしながらあっけらかんと言葉を返す。
「名前ちゃんこそ、この前も爆弾事件に巻き込まれたって聞いたわよ。気をつけなさい」
「……確かに。私はあんまり人のこと言えませんね」
「ふふ、また黒羽君に心配かけちゃうわよ?」
「え?快斗ですか?」
佐藤の口から出た思わぬ名前に、名前はきょとんと首を傾げる。
「彼とはあんまり話したことないけど、名前ちゃんが撃たれた時に病院に駆け込んできた時の事が凄く印象に残ってるのよねー」
佐藤はポンポンとファンデーションを叩きながら、鏡越しに名前に目を向ける。
「必死になって目暮警部や毛利さんに"名前の容態は!?"って詰めよって、あなたが無事だって分かったときは凄く安心してたわよ。名前ちゃんのことが、凄く大事なんだなって伝わってきたわ」
「…………そうなんですか」
「名前ちゃん?」
佐藤の言葉にフッと視線を下げる名前を見て、佐藤はくるりと振り返って名前に目を向ける。
「何かあったの?」
「……最近、ちょっと落ち込むことがあって。それを快斗が気にしてるのは分かってるんですけど…」
名前は少し戸惑いつつも、ポツポツと言葉を続ける。
「私の悩みは所詮過去の事なんです。快斗は快斗で、今抱えてる大事な問題があって。私の事で余計な負担かけたくないから、なかなか話す事が出来なくて……」
「?」
(……この年代だと進路とかそういう悩みかしら?)
佐藤は首を傾げながらも、珍しく弱音をこぼす名前の話を黙ったまま聞いている。
「だから普段通り振る舞ってるつもりなんですけど、快斗は多分それに気付いてると思うんです。……結局、心配かけちゃってる事には変わりないんですよね」
小さくため息をつきながらそう話す名前に、佐藤は「うーん、そうね……」と、言葉を選びながら口を開く。
「私は、甘えてもいいと思うけどな」
「え?」
「だって、話を聞いてる限りあなた達……」
---フッ、
「え?何かしら、急に……」
佐藤が何かを言おうとしたタイミングで、突然トイレの明かりが消えて真っ暗になる。
「廊下からも光が来てませんね…ホテル全体が停電してるのかも」
「そうね。私が様子を見てくるわ!名前ちゃんは危ないから、このまま……あら?」
「どうしました?」
「ほら、ここ。明かりが漏れてる…」
「え?」
真っ暗なトイレの中で薄く光の漏れている戸棚に気付いた佐藤が棚を開けると、中には懐中電灯が置かれている。それを見た佐藤は「良かったわ。これで会場まで戻れるわね」と言いながら、懐中電灯に手を伸ばす。
(明かりがついた懐中電灯がそのまま?まさかこの停電……!!)
「佐藤刑事!!触らないで!!」
「え?」
懐中電灯を見て何かに気付いた名前が慌てて佐藤に声をかけるが、佐藤の手には既に棚から取り出した懐中電灯が握られていた。