「瞳の中の暗殺者」編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『米花公園交差点で、現職刑事の奈良沢治警部補が射殺されました。犯人は逃走した模様です』
『昨晩、自宅マンション駐車場で倒れていた芝陽一郎さんは現職の巡査部長だという事が判明しました。5日前に起きた奈良沢警部補殺害事件との関連が疑われています』
「快斗、昨日のニュース見た?」
「ああ、また警官殺しだろ?厄介な事にならないといいな」
快斗と名前は教室の壁に寄りかかりながら、ここ数日世間を騒がしているニュースについて話している。
「新一から聞いたんだけど、小五郎のおじさんが目暮警部たちに事件の話を聞こうとしても、誤魔化されちゃうらしいのよ」
「え?あのおっさんにも言えないような事情が警察にあるって事か?」
「うーん。それは分からないけど。警察と言えば、ほら今度の週末に……」
「名前ちゃん!快斗ー!ちょっとこっちに来てー!!」
名前が言いかけた言葉を遮るように、教室の中心にいる青子が大きな声で二人を呼ぶ。名前達が青子の方に目を向けると、その周りには満面の笑顔の桜井、林、恵子といつものメンバーも立っている。
「何だぁ?あいつら、ニヤニヤして」
「さあ?とにかく行ってみましょう」
名前と快斗は友人達の様子に、不思議そうに顔を見合わせた。
card.643
瞳の中の暗殺者編
「トロピカルランド?」
「そうなの!!私のお母さんがお友だちに無料券もらったから、今度みんなで行かない?」
「俺達全員分あるんだって!!」
無料でトロピカルランドに行けるとあって、興奮したように話す林達。話を聞いた快斗も「おー、いいじゃん!行こうぜ!!」と笑顔で言葉を返す。
「いつが良いかな?今度の週末?」
「青子は予定ないよー」
「あ、次の週末は俺らダメだ。な?名前ちゃん」
「ええ、そうね。ごめんなさい」
「何かあるのか?」
「知り合いの刑事さんの妹さんが結婚するらしくて。婚約パーティーに呼ばれてて…」
桜井の質問に名前がそう説明すると、林が不思議そうに首を傾げる。
「名前ちゃんは警察の知り合いがいるのは分かるけど…快斗まで呼ばれてんの?」
「ああ…最近ちょくちょく事件に巻き込まれたりして、俺も顔馴染みになっちまってさ」
「えー?刑事さんと顔馴染みになるなんて、二人ともそんなに危ない目に合ってるの?」
「ハハ、たまたま偶然が重なったんだろ」
恵子の言葉に、名前と快斗は曖昧に笑って誤魔化す。そう言われてみると、殺人事件やら爆弾騒ぎやら頻繁に危ない目に合っている。
「じゃあ、その次の週の水曜日は?確か祝日でお休みだよ!」
「おー!俺らは予定ないぜ!快斗達は?」
「俺達も大丈夫だよな?」
「ええ。私トロピカルランドは行ったことないの。楽しみだわ」
名前は手帳を開き"水曜日"を赤い丸で囲みながら、恵子達に笑顔で言葉を返した。
「そういえば、名前ちゃんってトロピカルランド行ったことないんだ?」
学校を終えて、もはや習慣のように快斗は名前の部屋に帰って来た。夕飯を食べ終えた二人は、並んでソファに座りながらのんびりテレビを眺めている。
「そうなの。子供の頃は、そういう場所に行くような環境になかったし。中学の頃は関西にいたからね。快斗は?」
「……んー、俺は2~3回行ったかな」
(子供の頃って……)
無意識なのか、今まで頑なに自分からは触れようとしなかった"家族"の話題の片鱗に触れた名前。快斗は一瞬ピクリと眉を寄せるが、追及せずに会話を続ける。
「そうなんだ?どこかオススメのエリアとかアトラクションあるの?」
「んーと、俺のオススメは…」
快斗は携帯でトロピカルランドのマップを開くと、「この、怪奇と幻想の島にある"氷と霧のラビリンス"とかかなー」と、言いながら画面を名前にみせる。
「へー、ジェットコースターみたいな感じ?コースが氷で出来てる設定なのね、面白そう」
「名前ちゃん、絶叫系とか平気?」
「うーん、どうかな。実はトロピカルランド以外の遊園地とかもあんまり行ったことなくて……。でも、快斗とハンググライダーで飛ぶのは平気だったし…大丈夫だと思う」
「ハハ、確かに。この間はビルからバンジージャンプもして、車で飛び出したもんな。アレに比べれば、アトラクションくらい何てことないか」
少し寂しそうに話す名前に気付いた快斗は、わざと茶化したようにそう言葉を返す。
「ふふ、でも本当に楽しみ。水曜日、晴れるといいわね」
「えー?名前ちゃんが、そんなにウキウキするの珍しいじゃん。桜井達と行ってみて良かったら、今度は二人で行こうぜ!何なら、トロピカルランド以外でもいいし」
ニコニコして話す名前に安堵しつつ、快斗はそう言葉を返した。
「名前ちゃん、楽しそうに話してて可愛かったなぁー」
今日はこのまま名前の部屋に泊まる事にした快斗は、チャポンと湯船に浸かりながらのんびり考えを巡らせる。あの後も、二人でトロピカルランドにあるアトラクションやグッズを調べたりしていたが、名前はいつになく楽しみにしているようだった。
(あんまり遊園地とかそういうとこ行ったことねーのか。あんなに喜ぶなら、もっと早く誘えば良かった……)
そんな事を考えながら、快斗は浴槽から出て身体を拭くと着替えを始める。
(それに、無意識っぽかったけど昔の話を持ち出すの珍しいよなあ……いや、でも最近はジィちゃんにも自分から親の話したりしてたか。うーん、この間安室さんに不躾に突っ込まれてたし、平気そうにしてたけど引きずってんのかな?)
快斗はそんな事を考えつつ、濡れた頭をガシガシと拭きながらリビングに向かう。
「いい加減にして!珍しく連絡してきたと思ったらそんな話なの!?」
「!」
リビングのドアに手を伸ばした時、ふいに中から聞こえてくる名前の声に快斗はピタリと手を止める。
(電話…?)
珍しく声を荒げている名前の様子に眉を寄せながらも、快斗はそのまま中の様子を伺う。
「お母さん達、私が撃たれて入院した時だって日本に帰ってこないどころか、連絡もしてこなかったじゃない!」
「……!」
(名前ちゃんのお母さん?)
快斗は聞こえてきた言葉に、ピクリと反応する。扉越しに聞こえる名前の声色は苛々しているようで、冷めきった冷たい口調だ。
「命に別状がない?ええ、そうね。それでも親なら普通心配しない?あの時、入院の手続きや身の回りの事を誰がしてくれたと思ってるの?蘭のお父さんや阿笠博士よ!親は連絡すらしてこないのに、入院中に毎日来てくれる人もいたわ!!」
「…………。」
快斗は名前が撃たれた時の事を思い出す。両親は事情があって来られないと言っていて、お見舞いに来た中村も複雑そうな顔をしていた。しかし、まさか連絡すらとっていなかったのか。
「………今になって何の用かと思えば、また仕事の話なのね。"あの時"から何も変わってない!私はそっちに行くつもりはないし、あなた達とは暮らすつもりもない!」
その台詞を最後に電話を切ったのか、リビングからは何の声も聞こえなくなる。
(あの時…?仕事?一体、何の話なんだ?)
快斗は断片的に聞こえてきた言葉を思い返しながらも、自分を落ち着かせるために小さく息をつく。
----ガチャ!
「名前ちゃーん、お風呂上がったよー!」
そして、立ち聞きしていた事が気付かれないようにしばらく時間を置いてから、わざと大きな音を立てて扉をあける。
「…おかえり。何か飲む?」
両手で顔を覆うようにしながらソファに座っていた名前は、パッと顔をあげて何事もなかったように言葉を返してくる。
「いや、大丈夫。……何かあった?」
「え?」
「顔色悪いぜ?大丈夫か?」
(ったく。そんな顔で強がっちゃって……)
聞かなかったふり、知らないふりをしようかと思った快斗だったが、名前の顔を見て思わず眉を寄せる。相変わらずのポーカーフェイスで笑ってはいるが、その表情はよく見ると強ばっている。例えさっきの電話を聞いていなかったとしても、他の奴らは誤魔化せても、"俺なら"その変化に気付く自信がある。
「あー、うん。ちょっと……」
「うん?」
「ちょっと、嫌なことが……ごめん」
名前は快斗の言葉に少し戸惑ったように言葉を濁して、片手で目元を覆いながら息を吐き出す。そんな名前の様子を見た快斗は、名前の隣に座ると目元を隠すようにしていた名前の手を取って優しく握る。
「どうしたい?」
「……え?」
自分の顔を覗き込むようにして尋ねられた言葉に、名前は首を傾げる。
「俺に話してスッキリする事ならいくらでも話聞くし、一人になりたいなら帰るよ」
「……一人にはしないで」
名前は、快斗の手をギュッと握り返しながらポツリと言葉を返す。
「ん、了解」
「……………。」
「何なら、夜空の散歩にでもお連れしましょうか?お嬢さん」
「……ふふ、さすがに冬の空を飛ぶのは寒そうだから遠慮する」
気まずそうに下を向いている名前に、快斗がわざとおどけたように声をかけると、名前は小さく笑いながら視線を上げる。
「でも……朝まで、隣で一緒に寝てくれる?」
「ハハ、喜んで」
快斗は優しく笑いながら名前の手を引いて立ち上がると、繋いだ手を離さないまま寝室に向かう。そして名前の横に寝転んだ快斗は、布団の上からポンポンと子供をあやすように名前の背中を叩く。
「寝られる?」
「……大丈夫よ」
「一緒に寝るのなんて、いつもと一緒じゃねーか。それだけで良いの?」
「………うん。私は、こうやっていつも快斗が隣にいてくれるだけで安心」
名前は、ポスンと快斗の胸元にすり寄るように顔を埋める。そんな名前を優しく抱き締めて背中をポンポンと撫で続けていると、名前は小さな寝息をたて始める。
(こんな風に分かりやすく落ち込む名前ちゃん初めてだな……さっきの何言われたんだろ?)
快斗は名前の寝顔を見てホッとしたように小さく息をつくと、名前の髪の毛に顔を埋めて目を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
『ママ!パパ!今日名前と約束の日だよ?どこに行くの?』
まだ小学生にも満たない小さな女の子は、もつれる足を必死に動かして前を歩く男女を追いかける。
『名前、雪が降ってる。家に戻ってなさい』
『ほら、ママの傘を貸してあげるから』
呼び止められた二人はため息をつきながら足を止めると、子供を諭すようにそう言葉を返す。
『やだ!やだ!今日は名前のお誕生日だよ!前から一緒にお出かけするって約束……』
『名前、ママはお仕事なの。夜ご飯には戻るから』
『……本当に?待ってるからね』
女の子はキュッと大人用の傘を握りしめて、遠ざかっていく両親を見送った。
◇◇◇◇◇◇◇
『ハァ、…ゲホ!ゲホッ!』
身体が熱い、息が苦しい。ここはどこ?名前のベッドとお部屋じゃない。何でこんな場所で寝てるの?あれ、何だろう?外から声が聞こえる…パパとママ帰ってきたのかな?
『名字さん!何を考えているんですか!?あの子はずっと外で帰りを待っていたんですよ!!ご近所の工藤さんが見つけてくれなかったら、肺炎で死ぬところだった!』
『そんな事を言われても……だいたい、あの子が勝手に家の外で待っていたんでしょう?』
『あんな小さな子を1人置いて、夜中まで一体何をしていたんですか?』
『仕事ですよ。子供がいようが、私たちが一番大切なのは仕事だ』
『そうよ。あの子、いつもは家の中でちゃんと留守番してるのに。まったく今日に限ってこんな余計なことを……お陰で、仕事が中断してしまったわ』
◇◇◇◇◇◇◇
「……っ、嫌な夢」
名前は眉間に深いシワを寄せながら、ゆっくりと目を開ける。脳裏に焼き付く鮮明な光景を振り払うように頭を振りながら、気怠そうに身体を起こして隣を見ると、快斗が寝ていたはずの場所にはシーツにシワがよっているだけで、快斗の姿が見えない。
「…………。」
名前はギュッとシーツを握りながら小さくため息をつくと、窓の外に目を向ける。
(もう朝なのに…外が随分暗いわね)
不思議に思いながらカーテンを開けた名前は、窓の外に広がる光景を見て小さく息を飲んでそのまま呆然と立ち尽くした。
---ガチャ
「あれ、名前ちゃん起きた?」
どれくらい窓の外を眺めていただろうか。扉が開く音と共に聞こえた快斗の声に、名前はハッと我に返る。
「目が覚めたら寒くってさ。リビングとかキッチン暖房つけてきたぜ。……どうかした?」
寒い、寒いと言いながら寝室に戻ってきた快斗だが、窓の前に立って自分をぼんやり見ている名前の姿に首を傾げる。
「…………。」
「名前?」
「……起きたら、快斗がいなくて」
「?」
ゆっくりと窓の外に目を向けて、どこか遠くを見るように話す名前。その横顔が強ばっているように見えて、快斗は眉を寄せながら名前に近づいていく。
「雪が降ってたから……」
「!」
--雪、あんまり良い思い出がないの--
数日前の名前の言葉を思い出した快斗は、窓の外を見る名前の腕を引いて自分の方に身体を向かせると、そのままギュッと腕の中に閉じ込める。
「……快斗?どうしたの?」
「んー、寒いからくっつきたくて」
「…ふふ、確かに今日はずっと布団に入っていたいくらいね」
「………休んじゃう?」
快斗が冗談めかしてそう言うと、名前は快斗の顔を見上げて目を瞬かせた後に「そうね」と、小さく呟く。
「休んじゃおうかな。今日は、何だか外に出たくないわ」
「え?本当に?」
「付き合ってくれる?私と快斗が一緒に休んだら、中村先生に怒られちゃうかもしれないけど……」
「付き合う!付き合う!じゃあ、向こうの部屋が暖まるまで二度寝しようぜ!で、昼はピザでも頼んでのんびりしよー!」
「良いわね、楽しそう」
クスクスと笑う名前の手を引いて、快斗はベッドに潜り込む。
「もう一回寝れそう?」
「うん。快斗とくっついてると暖かいし。変な夢を見たから、まだ眠いの」
「そっか。せっかく休むんだし、好きなだけゆっくり寝ようぜ」
(……まさか、名前ちゃんが学校サボるとはなあ。そんだけ落ち込んでんのか)
珍しく自分の方から擦り寄るように身体をくっつける名前。快斗はその身体を抱き寄せながら、優しく額にキスを落とす。昨日から明らかにいつもと様子の違う名前に気遣いながらも、快斗は笑顔で会話を続けた。