「喫茶ポアロで謎解きを」編
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安室がバックヤードに姿を消しても黙り込んでいた二人だったが、しばらくすると名前が戸惑いがちに「ごめんね」と口を開く。
「せっかくうまく交渉出来てたのに、あんな風に取り乱しちゃって……」
「違う。俺が悪かった……言う予定のない事まで、勝手に色々あの人に言っちまって」
「そんな事ない…私の為、だもんね」
お互いが一通り謝罪をすませると、再び気まずい空気が二人を包む。名前は目尻に残る涙を拭うと、快斗に身体ごと視線を向ける。
「………私は、快斗が好きだよ。あの日言ったように、快斗とどんな時もちゃんと一緒にいたい。快斗の事情を知ってるのに、自分だけ一方的に守られてるような関係にはなりたくない」
快斗はその言葉を聞き終えると、名前の手を引いて自分の元へ引き寄せながら、ギュッと力強く抱き締める。
「俺も名前ちゃんが好き、大好き、一番大事。だから名前ちゃんの思いを知ってても、これからも同じ事でまた悩むと思う。危ない目に合わせたり辛い思いをさせたくないって思いは、いつも根底にある」
「…………。」
「でも、それってさ…キッドとか、そういう事情関係なしに、好きな相手がいれば誰だって思う事だと思う」
名前は、快斗の胸に顔を埋めながら黙って話を聞いている。
「だけど、俺の感情を名前ちゃんに無理強いするつもりはない。……だから、また俺が迷ったらその度に何度でも言って。俺が一人で突っ走ろうとしたら、名前ちゃんが止めて」
「………そばにいても、重荷にならない?私の感情を無理強いしてる事にはならない?」
名前はゆっくりと顔を上げて、快斗の顔を見上げながら尋ねる。そばにいたい、協力したい、守られているだけでは嫌だ。そんな主張こそ自分の感情を無理強いしてしまったのではないかと不安になり、僅かに声が上ずる。
「そんな事ねーよ。ナイトメアの件で、俺の事情を踏まえた二人のこれからを考えた事は必要な事だった」
快斗は、緊張した面持ちの名前の頬をするりと撫でながら言葉を続ける。
「あの事件がなくたって、ああいう状況に陥る可能性はいつだってあった。どっちにしろ、曖昧なままじゃいられなかったはずだ」
「…………。」
「ああいう危険があるのを分かった上で、名前が俺を選んでくれたのは嬉しかった。重荷になるわけがない。今日は突然の事だったから、動揺しちまったんだ……悪かった」
「…これまで通り、そばにいても良いの?」
「ああ、離れないで…ずっと俺のそばにいて」
優しい慈しむような快斗の眼差しに、名前は再び涙腺が緩みそうになる。それを誤魔化すように、もう一度快斗の胸に顔を埋めながら「ありがとう、快斗大好き」と噛み締めるように呟いた。
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涙を流したあと特有の瞼の腫れぼったさを感じながら、名前はスンと鼻をすする。
「……美味しいです」
何故か三人でカルボナーラを食べている状況に気まずさを感じながらも、名前は正直な感想を口にする。
「そうですか、それは良かった」
安室はというと、相変わらず隙のない笑顔を浮かべながら自身が作ったカルボナーラを口に運んでいる。
「……安室さんって、思ったより良い人なんですね」
「そうかい?しかし、思ったよりとは…あまり誉められている気がしないですね」
快斗の言葉に安室は可笑しそうに笑いながらも、不思議そうに首を傾げる。
「あのまま黙って俺達を放っておけば、あなたの知りたい事を知れましたよ…きっと」
快斗はそんな安室に気まずそうに視線を向けながらも、少しずつ普段の調子を取り戻してきたのか「名前ちゃんが、あんな風に感情的になる機会…滅多にないですからね」と、からかうように言って小さく笑う。
「……悪かったわね、感情的になって」
「ふっ…まあ、一応取引を結んだ相手ですからね。僕としても、あんな形で情報を得ても後味が悪い。知りたいことは、追々あなた方の口からきちんと聞きますよ」
パクりと最期の一口を食べ終えた安室はそう答えながら、名前と快斗に視線を向ける。
「……君たちにも事情があるようですが。あまり溜め込まずに、素直に誰かを頼った方が良いですよ」
「え?」
「君たちが僕をその相手に選ぶかは分かりませんが、僕は公安の人間です。完全には味方にはなれませんから、あまりお薦めは出来ませんね。頼る相手がいないなら、せめてお互いには素直でいた方が良い。お互いの関係に迷いや不安があると隙が出来る。組織を相手した時に、足元を掬われますよ」
「すげー、急に安室さんが良い人っぽい。あんなに胡散臭かったのに」
「ちょっと、快斗…その言い方は失礼でしょ」
目をパチパチと瞬かせて呟いた快斗の言葉に、名前は眉を寄せて小声で声をかける。
(その言い方だと、胡散臭いという所は否定する気はないのか。ま、いつもの調子が戻ってきたようで何よりだか…)
安室はそんな二人を見ながら小さなため息をつくと、ふと思い付いたことをそのまま口にする。
「名前さんが感情的になることは珍しいみたいですが……やはり、それは親御さんの影響ですか?」
「え?」
「幼少期にそういった経験をしていると人間関係を形成する上で、その類いの事が不得意になる事例があるようですが。黒羽君の事は信頼しているようですし、良い傾向だと思いますよ。彼には素直に……」
「安室さん!」
考察するように話続けていた安室の言葉を、快斗の慌てたような声が遮る。その声に、安室はハッと言葉を切って名前に視線を向ける。
「……失礼。あなたから聞いたわけでもないプライベートな事まで口にして…失言でした」
戸惑ったように表情を固くしている名前を見て安室が素直に謝罪すると、名前は小さく息をつきながら曖昧に笑みを浮かべる。
「いえ…公安に目をつけられてる以上、身辺調査くらいされているのは分かっています」
「名前ちゃん……」
「それに、安室さんの言う通りですよ」
心配そうに自分を見る快斗に微笑みを返しながら、名前は言葉を続ける。
「さっきのやり取りを見て分かったでしょう?私にとって、快斗の存在がどれくらい大きいのか」
「……ええ。オープンパーティーで言っていた事は事実のようですね」
「ふふ、そうですよ。意外と積極的でしょ?だから…安室さんの"アドバイス"通り、快斗には素直にいるようにしますね」
「……それをお薦めしますよ」
(まいったな、子供に気を使われてしまった)
名前のさっきの反応を見る限り、親の話題は明らかにタブーだったようだ。つい先程まで恋人と揉めていたところに、追い討ちをかけるようにそんな話題を出してしまった。それなのに、考察するかのように不躾に言葉を重ねていた自分の言葉を、"アドバイス"と称し冗談めかして言葉を返してきたのだ。
「えー、二人だけの会話とかやめてよ。何の話?オープンパーティーで何話したの?」
「秘密よ」
「たった今、俺には素直になるとか言ってたじゃん!!」
「それは、それよ。今日はもう散々素直にわめき散らしたから、もう良いでしょ」
「何それ!!ずるい!」
安室は名前の気遣いに内心ため息をつきながらも、いつもの調子に戻った二人を微笑ましく眺めていると、快斗の視線がパッと安室に向く。
「安室さん、名前ちゃんパーティーの時に何言ってたんすか?」
「ハハ、名前さんが言わないなら僕の口からはちょっと……」
「えー!!そういや…安室さん、しばらく恋人いないって言ってたし油断ならねーな。最初に接触して来た時から、やけに名前ちゃんに馴れ馴れしかったし」
「彼女は僕のタイプじゃないから安心してください」
「え!?名前ちゃんがタイプじゃないなんて、目腐ってるんじゃないですか?」
「………君は俺にどうしろと言うんだ」
「……………ふふ」
(公安相手にどうなるかと思ったけど。とりあえず、うまい事まとまって良かったわ)
名前は砕けた雰囲気で会話する二人を見て、小さく安堵の息をついた。
「今晩は冷えるみたいなので、気をつけて帰ってくださいね」
まるで母親のような気遣いをする安室に見送られて、ポアロから帰路につく二人。名前の隣を歩く快斗は、ふーっと白い息を吐き出しながら空を見上げる。
「安室さんの話じゃねーけど、最近急に冷えてきたな」
「そうね、早く帰りましょ」
「この感じじゃ、近いうちに雪が降るかもな!去年は暖冬でほとんど降らなかったし」
「そうだったわね…」
快斗の言葉に、名前はゆるりと夜空を見上げる。本格的な冬が近付いてきて、急に強まってきた寒さのためか星がいつもより輝いて見える。
「俺さー、実はスケートは苦手なんだよね」
「…そうなの?」
「ああ。でも、他のウィンタースポーツは好きだから!また休みの日に一緒に行こうぜ」
「…そうね」
「安室さんの件もひとまず落ち着いたし、最近根詰めてた分パーッ気晴らしに………名前ちゃん?」
1つの大きな問題に片がついた事からか陽気に話していた快斗だったが、ふと先程から口数の少ない名前に不思議そうに視線を向ける。
「雪……降るかしらね」
快斗の視線の先では、名前がぼんやりと空を見ながら独り言のように呟く。
「え?ああ…そうだな。近いうちに降るんじゃねーか?」
「………雪、あまり良い思い出がないの」
「え?」
「好きじゃないのよね」
「………そっか」
固い表情のまま呟かれた名前の言葉に、快斗は戸惑いつつも短く言葉を返す。
(思い出って事は昔の話か……それに、この表情。さっき、家族の話が出た時と同じ……)
快斗は少し視線をさ迷わせたあと、するりと名前の手を握って自分のポケットに引き入れる。
「ま、確かに寒いもんなぁ」
「え?」
「寒い日に、寒いとこに行く必要ないか。冬は炬燵に入って鍋でも食べようぜ」
「……………。」
「冬休みに入ったら、引きこもって海外ドラマとか見まくるのも良いかもしれねーな。家にいた方が名前ちゃんにくっいていられるし、俺からしたらその方が嬉しいかも」
「快斗…」
「な?俺といたら、毎日楽しませてやるから安心してよ」
「…………ありがと」
ニッコリと笑ってそう言う快斗に、名前は眉を下げて微笑みを返すと、ポケットの中でギュッと快斗の手を強く握る。
「とりあえず、夕飯はさっきカルボナーラ食べちまったし。交渉が成功したお祝いにケーキでも買って帰る?」
「もうお店開いてないんじゃない?」
「コンビニ行こうぜ。この前、CMでやってた新商品のやつ!名前ちゃん食べたそうに見てたじゃん!」
「………よく分かったわね。そう言われると恥ずかしいわ」
「良いじゃん!俺も食いたい!」
快斗の手を握りながら並んで歩く。
何気ない会話でも自然に口元が緩んで、楽しい気持ちになる。
(快斗と一緒なら、雪も楽しい思い出に変えられるかもしれない)
名前は、快斗に言葉を返しながらぼんやりとそんな事を考える。快斗の優しさに甘えて、ずっと避けてきた話題。不可抗力とはいえ、出会ったばかりの安室さんにすら知られている"ソレ"を、快斗にも話すべきなのかもしれない。
喫茶ポアロで謎解きを編 fin.
あっさり終わった原作沿いでした。
もう少し平次と快斗を絡ませたかったですが、無念。
安室さんとは、味方とは言いきれないけど付かず離れずな距離感で一旦待機してもらい、しばらく原作の展開を様子見します。あと、沖矢さんいつ出そうか迷ってます。あの人スルーするわけにはいかないですよね。これを書き始めた頃に比べて、原作で重要人物が増えてきて難しいです。
次はこの流れのまま「瞳の中の暗殺者」に行く予定です。