「喫茶ポアロで謎解きを」編
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「あかん、イルミネーションって何時までや!?とにかく連絡せな……」
「もう遅いわ!!」
平次が慌てて携帯を取り出して和葉に連絡しようとしたタイミングで、店の入り口から大きな声が響く。
「まーた事件!?もう帰りの電車まで40分しかないやん!あんたが行くのは、イルミネーションやなくて東京駅や!!」
「か、和葉!?」
そこには呆れたように腕を組んでいる和葉と、その隣で困ったように笑っている蘭の姿。
「イルミネーションなら蘭ちゃんと見たから、もうええわ!……って、あれ?名前ちゃんと黒羽君やん」
「本当だ、二人もいたんだね」
落ち込む平次を尻目に、名前達を見つけた二人は笑顔で店内に入ってくる。
「和葉ちゃん、久しぶりだね!」
「おー、たまたま飯食いに来たら事件に巻き込まれちまってさ」
名前と快斗は肩を落とす平次を横目に見ながらも、どうする事も出来ないまま和葉に言葉を返す。
「大変やったね、大丈夫やった?」
「ええ、殺人未遂だったし。ちょうど犯人も捕まったところだから」
「そっか、良かった。あれ?名前の服、血がついてるよ!怪我したの?」
「あー、これ被害者の人の血がついちゃって……」
「その服じゃ帰り困るでしょ?良かったら私の服貸そうか?」
「え、いいの?助かる」
「それなら、ウチも蘭ちゃんの部屋に荷物置いたままやし。取りに行くから、名前ちゃんも一緒に行こうや」
「うん、ありがとう。快斗ちょっと行ってくるね」
「おー、行ってらっしゃい」
和葉と蘭に連れられて探偵事務所に上がって行く名前を見送った快斗は、少し考えた後に視線の先で落ち込んでいる平次に近寄っていく。
「残念だったな」
「あん?何やお前……」
思わぬ人物に声をかけられた平次は、戸惑いつつも言葉を返す。
「大阪から、わざわざイルミネーションのために来たんだろ?」
「……バカにしとんのか?」
「ハハ、ちげーって。でも彼女も嬉しいと思うぜ?こうやって場所や日にちまで気にして、自分の事を真剣に考えてもらったら」
「…………。」
「次、また頑張れよ」
「お前……」
「安室さんと黒羽君!ちょっと追加で事情聴取したいんだけど、良いかい?」
「お?呼ばれてんな。オメーら、もう大阪に帰るんだろ?またな」
「あ、ああ……」
今まで、ほとんど会話する機会がなかった快斗からの思いがけない言葉に戸惑う平次を尻目に、快斗はヒラヒラと手を振ると目暮と高木の元へ向かって行った。
card.641
「あれ?快斗は……」
蘭の服に着替えて階段を降りて来た名前は、快斗の姿を探して辺りを見渡す。
「黒羽なら、安室さんと一緒に店の中で追加の事情聴取受けてるぜ」
そんな名前の足元から声がかかり視線を向けると、コナンが何か言いたそうな顔をして立っている。
「……そう、ありがとう」
「オメーら、この後安室さんと何か約束してんだろ?」
「まあ、一応ね…」
(予定外に事件に巻き込まれちゃったけど、落ち着いたらきっと話はするわよね)
名前はコナンの視線に気付きながらも、曖昧に言葉を返す。コナンはそんな名前の態度にため息をつきながら、チラリと店内に視線を向ける。
「今日、アイツ珍しく積極的に捜査に参加してただろ?」
「あ、うん…そうね」
「オメーの為だぜ?オメーが犯罪者みたいな扱いされてるのを見るのが耐えられないってさ」
「耐えられない?そう言ってたの?」
「ああ。いつもお気楽なアイツにしては、珍しく切羽詰まったみてーな顔してたもんな?」
「…………。」
(あの大学生の人達に怒ってたわけじゃなくて……本当はそれが理由なのね)
黙り込んでしまう名前を横目に見たコナンは、小さく息をつきながら言葉を続ける。
「あの様子見たら、アイツがオメーを巻き込んでるんじゃなくて…オメーが自ら巻き込まれにいってんのがよく分かったわ」
「……新一」
「二人で何やってんのか知らねーけど。オメーがアイツの犯罪行為を容認してる時点で、それなりの事情がある事くらい最初から分かってんだ」
「…………。」
「あんまり意地張ってないで、さっさとコッチにも頼れよ」
コナンはそれだけ言うと名前の返事を待たずに、蘭に別れを告げている平次と和葉の元へ行ってしまう。名前は天を仰ぐようにして夜空を見つめながら、小さく息をついた。
「お疲れさま」
「おー、お待たせ。名前ちゃん寒くないか?平気?」
「大丈夫よ」
「ずいぶん可愛い服着てんじゃん」
「ふふ、蘭はこういうリボンとかフリルの服好きだからね」
「へー、名前ちゃんは普段選ばないタイプだな。可愛い、可愛い」
事情聴取を終えてポアロから出てきた快斗に声をかける。快斗は笑顔でそんな話をしながらチラリと店内に目をむけると「あの人も、もう話終わりそうだぜ」と声のトーンを下げる。
「そう…とにかく、キッド関係は何を聞かれても表情に出さないように気をつけましょう」
「そうだな」
名前と快斗が店内で高木と何かを話している安室を見ながら話していると、ちょうど話を終えた安室が二人の視線に気づいて店から出てくる。
「お待たせしました。警察はこれで撤収するようですし、もう店も閉めますから。中で話しましょうか」
そして、いつもの笑顔でそう言って二人を中へ招き入れた。
「二人とも夕ご飯食べ損ねましたよね?話す前に何か食べますか?ハムサンドなら残ってますけど」
安室は店先をクローズにしてカーテンを閉めると、テーブル席に座った二人に向かって声をかける。
「今日は遠慮しておきます」
「俺もいいです。でも、ソレこの前食べたけど旨かったですよ!」
「……ほー、僕がまんまとゼロについて探られた日にテイクアウトしたやつですか?あれはてっきり、違う人と食べるのかと思ったんですがねぇ」
どこか恨みがましい安室の言葉を聞いて、名前はテーブルの下でトンッと膝を快斗の足に当てる。
「あの日は反応を見たくてそう言っただけですよ。本当は快斗と食べたんです」
「……そうですか」
「…………。」
(やべー、もう始まってんのか。よかれと思って誉めたのに……)
名前と安室のやり取りを見ながら、快斗は内心ため息をついて余計な事を言わないように気を引き締める。
「ま、いいでしょう。まずは約束通り、そちらの情報を聞かせてもらいましょうか」
安室は名前と快斗の顔を見比べた後にわざとらしく肩を竦めると、二人の向かいの席に座ってそう切り出す。名前と快斗は数日前に打ち合わせした通り、原佳明が組織の人間だった事、おそらく組織の手によって殺害された事、ツインタワービルの爆発は原さんの持つデータの抹消とシェリーを狙ったものである事を順を追って説明していく。
「ほー、原佳明がですか。さすがにコードネーム持ちではないから組織の人間とは気付きませんでしたね。向こうも僕の事は知らなかったようですし……」
一通り話を聞き終えた安室は、腕を組みながら更に言葉を続ける。
「それにしても…確かにあの日のジンは、誰か標的がいるような口ぶりでしたが。シェリー一人の為に随分と大がかりな方法を取りましたね」
「………ジンがどんな人なのか知りませんけど、シェリーに執着している節はあると思いますよ」
(あの後ジンと連絡をとっていたのね)
名前は安室の反応を見ながら会話を続ける。
「何故ですか?」
「ピスコが殺害された日も、ジンはあのホテルでシェリーを一度追い詰めています。シェリーの方は、何発か撃たれはしたものの結局うまく逃走したようですけど」
「ほー、シェリーの件に詳しいですね。繋がりがあるんですか?」
「ハハ、まさか!さすがに組織の人間と個人的な繋がりはありませんよ」
スッと目を細めた安室の質問に、快斗が笑いながら言葉を返す。
(快斗、うまいわね。ちょっと余計な事を言い過ぎたかも…気を付けないと)
名前は快斗のフォローに感謝しつつ、黙って安室の様子を伺う。
「では、何故あなた方は組織の情報を持ってるんですか?」
「……それは、怪盗キッドが狙っている物を組織も狙っているからです」
「!なるほど…」
快斗の返答を聞いて"怪盗キッド"と組織の繋がりが見えてきた安室は、ピクリと眉を上げて反応する。
「それが何なのかは?」
「俺達は知ってますよ?でも、そこまで話すのは信用を得るための前情報としては価値が高すぎますね」
「………なるほど」
安室は顎に手をあてて何かを思案するように一度目線を下げた後、徐に口を開く。
「では、前情報として用意したものはこれだけですか?」
その質問に名前が鞄からUSBを取り出して安室の前に差し出す。
「……これは、あの日TOKIWAのメインコンピューターからコピーしたデータの一部です。組織が取引している民間企業のデータが入っていました」
「!」
「俺達はこういった類いの情報は必要ないですけど、公安の安室さんは違いますよね?違法薬物や金銭のやり取りの記録も残ってましたよ」
「ふっ、ハハ!なるほど、期待以上だ。取引は成立としよう」
可笑しそうに笑いながら告げられた安室の言葉に、名前と快斗は顔を見合わせながら肩の力を抜く。
「それにしても、最初はキッドと繋がりがあるのは名前さんだけかと思ったんですが。黒羽君も随分と深入りしていますね」
「そりゃ、名前ちゃんが関わる問題は俺の問題でもありますから」
(つーか、俺がキッドだけど。さすがに、それには気付いてないのか?)
快斗はわざとらしく名前の肩を抱きながら、さっき名前にも言った台詞を口にする。
「ふっ……恋人のためにと関わるには、荷が重いと思いますけどね。あの組織は」
安室は小さく笑いながらも、ふいに真剣な表情になって二人を見つめる。
「取引は成立しましたが、あくまで情報共有のためです。あなた方を積極的に逮捕したりする事はしませんが、怪盗キッドが逮捕されそうになったり、正体を暴かれそうになった場合にも、公安としてフォローしたりはしませんので。その辺りは、そちらで注意してくださいね」
「それは分かって……」
安室の言葉に名前が答えようとした言葉を、快斗が「ちょっと待って」と遮る。
「それって、組織の問題に片がついた後も有効ですか?」
「え?」
「全部終わった後に、"犯罪者だからやっぱり逮捕します"なんて言いませんよね?」
「ハハ……そこまで薄情じゃありませんよ。公安としては取引をした以上、怪盗キッドを含め…あなた方に手を出すつもりはありません」
安室は小さく笑ってそう言葉を返すが、快斗は真剣な表情のまま安室をジッと見つめる。
「約束ですよ。知ってますよね?キッドが変装や声色を変えることが出来ること」
「………ええ、もちろん」
「名前のしている事に目を瞑るっていう条件の為なら、その技術を公安で利用しても構いませんよ」
「ちょっと、快斗!?」
思いをよらぬ事を言い出した快斗に、名前は驚いて目を見開くが、快斗は真っ直ぐ安室を見つめ続ける。
「………君がそんな事を断言していいのか?」
そんな快斗の視線を見つめ返しながら、安室は低いトーンで尋ねる。
「もう1つ、サービスで教えてあげますよ。怪盗キッドと関わりが深いのは、名前じゃない。俺の方だ」
「快斗……!」
「俺に関わらなければ、本来の名前はこんな事に手を出す奴じゃないんだ。名前の事は何としても……」
「快斗!!いい加減にして!!」
突然大声をあげて立ち上がった名前に、快斗と安室は驚いて名前に目を向ける。それまで安室との会話に集中していた快斗は、名前の顔を見てハッと息をのむ。
「私の事は何!?守りたいとでも言うつもり?あの日…私、快斗に何て言った?そういう一方的な関係は嫌だって言ったわよね?だから今こうしてるんでしょ!?」
じわじわと涙を浮かべて声を荒げる名前の姿に、快斗は慌てて立ち上がる。
「わ、悪い。分かってる…それは分かってるんだ。ただ今日みたいな思いを、また名前がするかと思うと……」
快斗はそこまで言うと、片手で目元を覆いながら大きく息を吐き出す。
「……それも覚悟の上だって言った」
「分かってる。ごめん、俺の覚悟がまだ足りねーんだ」
項垂れる快斗を見て、名前は堪えきれずにポロポロと涙を溢す。
「どうしたら良いの?重荷になりたくないの……やっぱり関わらない方が良かった?一緒にいない方が……」
「それは違う!!違うんだよ…悪い。もうこんな事言わないから……」
「そうやって、言いたいことを我慢して無理して謝ってほしいわけじゃない!」
---パンパン!
感情的に言葉を重ねていた二人は、店内に響いた音にハッと息を飲む。
「二人とも、一度落ち着きましょうか。そのまま続けると、僕に知られたくない事まで話してしまいそうですよ」
二人の注意を反らすように大きく手を鳴らした安室は、困ったように笑いながらそう告げる。
「僕としても、こんな風に聞き出すのは本意じゃありません」
「……す、すみません」
「二人とも座って。名前さんは涙を拭いてください」
「……名前ちゃん、これ使って」
「……ありがとう」
名前は快斗に差し出されたハンカチに顔を埋めながら、大きく息をついて深呼吸する。
「さっきまで顔色一つ変えずに僕を相手にしていたと思ったら、やはりまだまだ子供ですね」
気まずそうに椅子に座った二人を見て、安室は小さく笑う。先程まで冷静にやり取りをしていた二人とは大違いだ。
「二人ともカルボナーラは好きですか?」
「………は?」
「さすがに僕もお腹が空いてしまって。君たちも空腹時には思考力が低下してミスに繋がるので、注意した方が良いですよ」
「…………。」
「残っている材料を廃棄するのも勿体ないので、せっかくだから食べていってください」
安室は机の上のUSBを内ポケットにしまうと、ガタンと立ち上がる。
「僕が作り終えて戻ってくるまでに、"冷静"に話し合ってくださいね」
「…………。」
そう言うと、安室はエプロンを片手にキッチンの奥へ消えて行く。名前と快斗は何も答えられないまま、その背中を見送った。
※本当はこのやり取りを終わらせたかったんですが、文字数オーバーしてしまったので続きます。中途半端なところで切れてすみません。