「喫茶ポアロで謎解きを」編
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「なるほど…被害者のノートパソコンの差し込みプラグに細い針金が巻かれている。事件発生時の停電は、犯人が誘発したものだろう」
「暗闇の中で店内にいた誰かが刺したという事ですか…」
背中を刺された安斉は救急車で搬送され、ポアロの店内では目暮と高木が現場検証している。
「しかし、店内にいた被害者の関係者には誰も手や袖口に血がついておらず…唯一頬や腕に血液が付着していたのが名前君だったということか」
目暮は店の奥で一人で座っている名前に目を向けながら、状況を確認する。
「しかし、名前さんも手や袖口は綺麗ですし。座っていた席の位置関係からも、被害者が刺された時に飛び散った血液が付着しただけかと思いますが…」
「うむ…だが、関係者から疑いの目を向けられてる以上はいつもの様に捜査に参加してもらうわけにもいくまい。名前君には悪いが、しばらく座ったまま待機してもらおう」
目暮と高木は、サークルのメンバーが不審そうに名前を見ている現状を見て、ため息混じりにそう判断した。
card.640
警察の現場検証に混じって、探偵と名乗る三名がウロウロと捜査を始めている姿を名前はぼんやりと眺めている。
(今日は新一だけじゃなくて、平次と安室さんまでいるから事件の方はあまり心配しなくても解決しそうだけど……)
名前はそんな事を考えながら、目暮と高木のそばでサークルの関係者の証言を聞いている快斗に目を向ける。
(……快斗ずっと怖い顔してるわ、大丈夫かしら。さっきも、やけに感情的になってたし)
普段は事件や緊迫した状況でも冷静に対処する快斗が、今日は珍しく声を荒げていた。今も黙って捜査の行方を見守っているように見えるが、あの表情からは余裕のなさが読み取れる。名前は、離れた場所にいる快斗の事を心配そうに見守っていた。
「典悟は良い奴だけど、敵も多かったですよ。よく他人の彼女に手を出してイザコザを起こしてたし」
「実際、俺の彼女の唯にもチョッカイ出してたもんなぁ」
「あ、あれは幼なじみだから…ジャレてるだけって言ったでしょ?」
サークルのメンバーは、安斉典悟との関係や人間性を目暮達に供述している。快斗はそんな話を聞きながら、真剣な表情で店内を見渡している。
「大積さんは、停電した時はトイレにいたんでしたな?返り血を洗い流すことも出来たのでは?」
「お、おいおい…血は水で洗い流したくらいじゃ、なんちゃら反応が出るんだろ?」
「ルミノール反応…窒素含有複素環式化合物の一種ですね。確かに水で洗い流した程度では、犯罪の痕跡は消し去れません」
目暮の言葉に慌てて反論する大積、その会話を聞いていた安室が徐に口を開く。
「それに、警察の方が来る前に念の為監視カメラも確認しましたが、彼がトイレに入ってから停電で映像が途切れるまで一度もトイレの扉は開きませんでした。一番先に店に入った彼には、そもそも安斉さんがどこに座っているのか分からなかったはずですから、暗闇の中での犯行は困難ですよ」
「あれ、でもトイレには小窓がありますよね?」
「ああ、この窓は磨りガラスになっていて…覗いても店内は見えませんよ」
「おい、工藤…あいつ何者なんや?ただの喫茶店の店員とちゃうやろ?」
「ああ…安室さんは、」
高木に向かってトイレの窓の説明をしている安室を見ながら、平次がコソコソとコナンに声をかける。コナンは平次に安室の事を説明しようとするが、ふいに安室の視線がコナンに向くとスッと人差し指を立ててウィンクする。それを見たコナンは、「あ…えっと、おっちゃんに弟子入りしてる探偵だよ」と、慌てて誤魔化す。
「あのヘッポコのおっさんに?ほなら、大した奴やないんか?」
「アハハ……それはどうかな」
「おい、名探偵」
そんな会話をしている二人の元に、快斗が近付いてきて声をかける。
「ん?何だ?」
「お前、犯人の目星ついてんのか?」
「い、いや…今のところは、まだ」
ポケットに手を突っ込み自分を見下ろす快斗の表情は、いつもの穏やかな雰囲気とは違っていて、コナンは戸惑いつつもそう答える。そんなコナンを尻目に快斗は「そっちは?」と、平次に視線をうつす。
「…まだやけど」
「そーか」
快斗は平次の返事を聞くと、それ以上は何も言わずに二人の元から離れていく。
「何やねん、あいつ」
「…………。」
そんな快斗の背中を訝し気に見送る平次の横で、コナンは自分達から離れた場所で暇そうに頬杖をついている名前にチラリと視線を向けた。
---ガチャ
目暮と高木が関係者の所持品を確認している中、快斗はトイレの扉をあけて磨りガラスの小窓を確認している。
(……アレを使えば、全員の位置関係は確認出来るはず。だけど、返り血の方はどうする?)
快斗がため息をつきながら頭をガシガシと掻いていると、ふいに足元から声が響く。
「オメーが積極的に犯人探しなんて珍しいじゃねーか」
「ん?」
チラリと足元に目を向けると、そこには自分をジト目で見上げるコナンの姿。
「ったりめーだろ、名前が疑われてんだぞ?」
「……それはそうだけどよ。どう見ても、名前に付着した血液は犯行によるものじゃねーし、そんなに焦らなくてもアイツがこのまま犯人扱いされる事はねーよ。そもそも、名前を見てみろよ。疑われてる事なんか全然気にしてなさそうだぞ」
コナンの視線の先では、名前は相変わらず暇そうに店内を見渡している。
「………そうだとしても、アイツにまるで犯罪者を見るような視線を向けられて、犯罪者扱いされるなんて…俺は堪えられねーんだよ」
「……………。」
ため息混じりにそう呟く快斗の言葉に、コナンは先日のオープンパーティーでの名前とのやり取りを思い出す。
(……捕まる覚悟とやらが出来てんのは、名前だけって事か)
そして小さくため息をつくと、「それで?」と快斗に声をかける。
「さっきから熱心に調べ回ってたみてーだが、オメーは何か気付いたのか?」
「え?えーっと………トイレにいたあの人が安斉さんの居場所を把握する方法は分かった。……だけど、返り血を浴びない方法が分からねーし、そもそも犯人は他のヤツなのかも」
「へー、どうやって確認するんだ?」
コナン相手にどこか自信なさ気にポツポツと自分の考えを告げた快斗だったが、コナンは感心したようにそう尋ねる。
「……それは、ほら見てみろよ。コレを使って、こうやると……」
「あー、なるほどな。こういう小賢しいやり方はオメーの得意分野っぽいもんな」
「……オメーなぁ」
納得したように頷きつつも軽く嫌味を挟むコナンに、快斗は呆れたようにため息をつく。
「だったら、返り血の方は…ホラ、そこ見てみろよ」
「ん?」
コナンはそんな快斗を尻目に、トイレの中のあるものを指し示す。それを見た快斗は「……あー、なるほどね。そういうわけか」と呟く。快斗の反応を横目で確認したコナンは「分かったみてーだし、今日はオメーに任せるわ。このメンツだと麻酔銃も使えないしな」と告げると、快斗の返事を待たずに平次の元に戻っていった。
「……大丈夫かしら」
その頃、一人店の奥に座って待機している名前は、トイレの前でコソコソと話している快斗とコナンを心配そうに見つめていた。
(あの二人、一緒に何話してるのかしら?また言い合いになったりしないと良いけど……)
真剣な表情でコソコソと話している二人をしばらく見つめていると、コナンは一人で平次の元へ戻って行く。
(ん?話が終わったみたいね。快斗はどこに行くのかしら……)
名前が快斗の動きを目で追っていると、快斗はサークル関係者と話し込んでいる目暮に近付いていった。
「あのー、警部さん」
「ん?何だね、黒羽君」
「えっと……犯人が分かったんですけど」
こういう役割は慣れていない快斗は、戸惑いがちに目暮に声をかける。
「何ぃ!?本当かね?」
「!?」
快斗の言葉に、目暮や高木の側に立つサークルのメンバー達も驚いて目を丸くする。
「な、何やと?」
「ほー、黒羽君が一番乗りですか」
快斗達の会話が聞こえた平次達は、各々違った反応をしつつ快斗や目暮のそばに集まってくる。
「えーっと、まずは犯人ですけど。大積明輔さん…あなたですよね?」
快斗は自分に注目する視線に僅かに眉を寄せながらも、そう話始める。
「な、何を言ってんだ!?さっきも言ってたろ?あのトイレの小窓は磨りガラスになってるから、典悟が来る前に店に来ていた俺には犯行は無理だって……」
「あー、それなんですけど。セロハンテープをガラスに貼ると、貼ったところだけ透けて見えるんですよ。あなた、確かラッピングされた紙袋を持って店に入って来てましたよね?そのテープを使ったんじゃないですか?」
「………っ、」
快斗の説明を聞いて大積は小さく息を飲む。そんな中、目暮と高木は実際にセロハンテープを磨りガラスに貼って、トイレから店内の様子が見えるか検証を始める。
「ほ、本当だ!透明とは言えませんが、誰がいるかはしっかりと見えますね」
「ああ。しかし一体何でセロハンテープで…」
「磨りガラスと言うのは、ガラスの表面に細かい傷をつけて光の乱反射で白く曇らせているんですよ。それにセロハンテープを貼ることにより、テープの接着剤で磨りガラスの傷が埋まり、透けて見えるようになる」
磨りガラスの小窓を覗き込んで不思議そうにしている目暮達に、安室がトリックの仕組みを説明する。
「ちなみに……安斉さんの座る位置を確認しただけで、暗闇の中でもすぐに犯行に及べたのは、以前サークルの舞台の為にポアロに何度もロケハンに来ていたからですよね?おそらく、その時の資料を参考に部屋かどっかで間取りのセットを作って事前に練習したんだ」
「そーいえば…あんたら椅子やテーブルのサイズまで確認したって、さっき話とったな」
快斗の説明を聞いた平次は、犯行前に安斉や永塚が話していた会話を思い出して小さく呟く。
「さ、刺せたとしても返り血はどうすんだよ!?」
「トイレットペーパーのシンを包丁の先にハメて、そのシンを押さえたまま包丁を抜いたんですよね?腕や手には、あらかじめトイレットペーパーを巻いておけば問題ない」
「!?」
「……なるほど、確かにトイレットペーパーの真ん中が盛り上がっていますね」
快斗の言葉に顔を青くする大積を尻目に、安室はトイレにあるトイレットペーパーを確認する。
「それって、後から無理矢理シンをねじ込んだからでしょ?だから、調べれば出ると思うよ?そのシンから、安斉さんの血液や大積さんの指紋が!」
そして、安室の言葉を引き継いで告げられたコナンの言葉に、大積はガックリと肩を落とす。
「ど、どうして?」
「本当に大積君がやったの?」
「………それは、」
戸惑うサークルのメンバーに大積が言葉を返そうとしたところで「ちょっとストップ」と、快斗が突然それを遮って目暮に視線を向ける。
「動機とかは、そっちで適当に確認してもらうとして。もう名前ちゃんの疑い、晴れましたよね?」
「え?」
「俺、近付いても問題ないですか?」
「あ、ああ…構わんよ」
戸惑いがちに目暮がそう答えると、大積が警察やサークルのメンバーに犯行の動機を供述している事にも構わずに、快斗はアッサリその場を離れて店の奥にいる名前の所に向かう。
「名前ちゃん、お待たせ!」
そして椅子に座っていた名前の手を取って、笑顔で声をかける。
「お待たせ……って。驚いたわ。このメンバーで、まさか快斗が真っ先に犯人を言い当てるなんて」
名前は快斗の手を握り返しながらも、目を瞬かせながらそう答える。
「名前ちゃんが疑われてんのに、黙って見てるわけないだろ?」
「え?その為に犯人を?」
「当たり前じゃん!アイツら、何もしてない名前ちゃんを犯人扱いして、ジロジロ嫌な目で見やがって!!」
サークルのメンバーに不満そうな視線を向ける快斗の横顔を、名前はジッと見つめた後にゆるりと口元に笑みを浮かべる。
「…ありがとう、嬉しい」
「え?」
「私のことなのに、そんな風に怒ってくれて。だから、珍しく新一ともコソコソ話し合ってたのね」
「ハハ、当たり前だろ!名前ちゃんの問題は、全部俺の問題でもあるんだからさ!あ、惚れ直した?」
「ふふ……そうね。これ以上、惚れるとこなんてないくらい惚れてるつもりだったけど。今日の快斗は一段とかっこ良かったわ」
名前が楽しそうに笑いながらそう答えると、快斗は目をパチクリと丸くした後に嬉しそうに頬を緩める。
「えー?本当に?ヘヘ、そりゃ頑張った甲斐があったな!」
「ふふ、本当にありがとね」
「…………ふ、なるほどね」
楽しそうに笑い合う二人の様子をジッと見つめていた安室は、小さく笑って息をつく。
(推理に関しては荒削りだが、彼自身の知能は高いようだな。そして、名字名前が絡むほど、彼は本気になる……)
そして快斗の横顔を見ながら、何かを思案するように顎に手をあてた。
「きょ、兄妹!?お前と典悟が!?」
「そうよ…腹違いの。だけど、それが世間に知られたら…典悟のお父さんの立場に影響が出るから言えなくて…」
その時、快斗や名前の所にまで大積の驚いた声が響いてくる。恋人である唯と典悟の仲を疑った故の犯行だったようで、二人が幼なじみとしては異様に親密にしていた本当の理由を聞かされて呆然としている。
「あ、あの…被害者の安斉典悟さん意識を取り戻して命に別状はないようですよ。大積さんに、"見舞いに来い。それでチャラにしてやる"って伝言です」
そんな中、他の捜査員から連絡を受けた高木が大積やサークルのメンバーにそう声をかけると、大積は自分のしてしまった事に後悔の涙を流しながらガックリと肩を落とす。
「ったく、人を刺す準備をアレコレする暇があったら少しは話し合えってんだ」
「本当にそうね。今回は、安斉さんが助かって良かったわ」
一連の流れを見ていた快斗が呆れたように呟く言葉に、小さく頷きながら同意する名前だったが、ふと時計を目にして思い出したように平次に声をかける。
「あ!そういえば…平次、和葉ちゃんに連絡したの?」
「そういやそうだ。つーか、もうイルミネーション終わっちまうんじゃねーの?大丈夫か?」
「あかん!!!忘れとった!!」
名前と快斗に声をかけられた平次は、みるみる顔を青くしながら慌てて携帯を取り出したのだった。