「喫茶ポアロで謎解きを」編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「条件?」
「そう。快斗が寺井さんに連絡してる間に安室さんと話したの」
オープンパーティーの翌日、しっかりと身体を休めた二人は改めて昨日の事を振り返っていた。
『ご存知の通り、我々は本来は犯罪者を捕らえる立場です』
『……そうですね』
『決定的な証拠はないとしても、あなたは犯罪者である例の怪盗と何らかの繋がりがあると思われる。そんな相手と協力関係を結ぶからには、それ相応の対価がほしい』
『……それは、こちらの情報を』
『いえ。まずは君達が本当にそれなりの情報を持っているのだと、我々を納得させられるだけの情報を提示してください』
『え?』
『そちらの手札を全て明かせとは言いませんが、我々も君達を信じるに値する確証が欲しい。それを踏まえて、犯罪行為に目を瞑ってでもあなた達と手を組む価値があるかを判断したい』
安室の提示した条件に、名前は思わず眉をよせる。
『それは、つまり…そちらの納得する情報を提示出来なければ、この取引はなしと言うことですか?』
『そうかもしれませんね。我々も安易に犯罪者を見逃すわけにもいきませんから』
「……って、言ってたわ」
名前が安室とのやり取りを思い返しながら快斗に伝えると、快斗は不満そうに顔をしかめる。
「んだよ、アイツ!!こっちの足元見やがって!!」
「怪盗キッドの正体は明かしたくないし、APTX4869や新一と哀の事は勝手に話すわけにもいかないでしょ?」
「そりゃそーだ」
「となると、こちらの持ってる情報で向こうに提示しても問題がなさそうなのは……」
名前は、腕を組んで頭の中を整理するように天を仰ぐ。
「とりあえず…原さんが組織の人間だったことと、今回の爆弾事件の真相は話していいんじゃねーか?」
「それは、哀……シェリーの事も含めて?」
「ああ。あの人も組織の人間なら、シェリーの存在は知ってるだろうし…幼児化とか組織を抜けたシェリーが何処にいるかって事は濁して、ジンってやつの狙いだけ伝えれば哀ちゃんにも迷惑かかんねーだろうし」
「そうね……」
名前は、快斗の提案に納得したように頷きながら「それで認めてくれたら良いけど…」と、眉を寄せる。
「そうだな。あとは、俺らに接触してきた理由がキッド絡みだからな。多少はキッド関係の情報も提示した方がいいだろ。言っても問題なさそうなのは……」
そう言いながら、快斗はパソコンの画面をスクロールしてTOKIWAのメインコンピューターをコピーしたデータを確認していく。
「どうすっかなー。この中にキッド関係を話さなくてもすむくらい、何かイイ情報が入ってると良いんだけどな~」
「……そうね」
二人は安室との約束の日に向けて、自分達の持つ情報を1から整理していった。
card.639
数日前のやり取りを思い返していた名前は、小さくため息をつく。
「安室さん、納得してくれると良いけど…」
キッチンに向かった安室の背中を見ながら、名前はポツリと呟く。
「とにかく、うまく立ち回って交渉するしかねーな」
(何せ警察の人間だ。俺達に利用価値がないと判断したら、本来受けるべき刑罰に処される可能性もある。そんな事になったら……)
快斗がグッと拳を握りながらそんな事を考えていると、カランカランと扉の音を鳴らしながら店に一人の男性が入ってくる。
「あれぇ?まだアイツら来てないの?」
店に入ってきた男性(大積明輔)は、店内を見渡したあとに店員である安室に向かってそう声をかける。
「予約されていた米花大学の演劇サークルの方ですか?まだ来られていませんけど…」
「ったく、今日は唯の誕生会なのに…」
男性はそう言いながらプレゼントらしきラッピングされた包みをテーブルに置くと、チラリと名前と快斗の座るテーブルに目を向ける。
「?」
視線を向けられた事に首を傾げる二人だったが、男性はすぐに視線を戻すと真っ直ぐトイレに向かう。
「ま、いいや。来たら先に初めてって言ってくれよ。俺、今朝から腹の調子が悪くて…ちょっとトイレが長くなるかもしれねーから」
「わかりました」
そして安室に向かってそう声をかけると、トイレに篭ってしまう。
---カラン、カラン
それから数分後、一組の男女が店内に入ってくる。
「あれ?俺ら一番乗り?」
「いえ、先に大積さんが来られてますが…今トイレに。長くなるかもしれないから、待たなくて良いそうですよ」
「あら、そうなの?大丈夫かしら…」
「んじゃ、彼氏がいない間は俺が唯を独り占めだねー」
「ちょっと、やめてよ!」
髭を生やした安斉典悟は、ニヤニヤと笑いながら山下唯の肩を抱く。
「もー。幼なじみだからって、典悟が気軽にそういうことするから周りに変な誤解されるのよ」
「へいへい、悪かったよ。"幼なじみ"だもんな。俺ら」
そんな会話をしながら、二人は名前達の隣のテーブルに腰を下ろす。どうやら、トイレにいる大積と共に予約していた客のようだ。二人が席についてしばらくすると「遅くなって悪い、道に迷った」と言いながら、ふくよかな体型の永塚稔も来店する。
「道に迷ったって、この店は何度もロケハンで大積と来たじゃねーか!何回この店に通ってテーブルや椅子のサイズ確認したと思ってんだよ」
「あの時は大積が店まで案内してくれたからさー。今日は一人だったし」
演劇サークルのメンバー達は、以前ポアロをモデルにした舞台をやったようで、店の取材のためにポアロ何度も訪れていたようだ。
「ずいぶん仲の良い幼なじみみたいね」
そんな会話を繰り広げるテーブルを横目に見ながら、名前が独り言のように呟く。
「え?」
「ほら、二人で一緒に入ってきた…安斉さんと唯さん?だっけ」
「そうかあ?そう言う名前ちゃん達だって、かなり仲の良い幼なじみだと思うぜ?」
快斗がチラリとコナンを見ながらそう言葉を返すが、名前は僅かに眉を寄せる。
「あら…私たちは幼なじみだからと言って、肩や腕を組んだりしないわよ。そもそも彼女、今トイレにいる人の恋人みたいだし」
「そう言われると、確かに幼なじみってわりにはベタベタしてるよな」
(うーん。俺と付き合ってる名前ちゃんが、名探偵とあんな風にベタベタしてたら嫌かも…)
「そうでしょ?まあ、向こうからしたら盗み聞きしてる私たちにアレコレ言われるのも嫌でしょうけど」
「いやー、でも声でかいじゃん?あの人達」
狭い店内で大声で話しているサークルのメンバー達。おのずと名前や人間関係を把握してしまった快斗達は、特別仲が良さそうな安斉と唯を見ながらそんな会話を繰り広げる。
「とりあえず、大積のヤツはトイレが長くなるみたいだし…先に唯のバースデー動画見ちゃおうぜ!」
すると安斉達のテーブルでは、ノートパソコンをセットしてサークル内で作成したという動画を再生し始める。
「店員さん、コンセント借りてもいいですか?」
「構いませんよ」
安室が差し出した延長コードに永塚が電源ケーブルを差し込むと、火花と共にバチッと大きな音を鳴る。
「ウソ!?停電?」
「今コンセントから火花が見えたけど…」
それと同時に、突然店の明かりが落ちて店内は真っ暗になる。
「少々お待ち下さい、今ブレーカーを……」
安室が少し大きな声でそう話すのを聞きながら、快斗は姿の見えない名前に「名前ちゃん、大丈夫か?」と声をかける。
「ええ、大丈夫……」
「ぐおっ!!」
「キャッ…!」
しかし名前の返事を遮るように苦しそうな男性の声が響き、名前が小さく悲鳴を上げる。
「な、何だ!?」
「おい、今の声誰や?大丈夫か?」
男性の呻き声にコナンと平次が反応する中、快斗は自分の前に座る名前に手探りで手を伸ばす。
「おい、名前!?どうかしたのか!?」
「平気よ…ただ、いきなり水?みたいなものが身体にかかってきて、驚いちゃって」
「水?」
悲鳴をあげた名前から返事が返ってきたことに安堵しつつ、快斗は暗闇の中で心配そうに眉を寄せる。
---パッ!!
その時、安室がブレーカーを戻した事で店内の明かりが復旧する。
「!?」
「て、典悟!?キャァァァ!!」
すると、明かりのついた店内には背中から血を流した安斉典悟が倒れている。
「おいおい、何の騒ぎだよ?……典悟!?一体どうしたんだ!」
トイレから出て来た大積が慌てて安斉に駆け寄ろうとするが、平次がそれを制止する。
「触ったらあかん!!先に警察や!」
「僕が連絡します」
「うっ……」
「待って、まだ息があるわ!!」
安室が警察に連絡しようとした時、倒れている安斉が小さく呻き声をあげる。それを見た名前は急いで携帯を取り出すと「私が救急車を呼ぶので、安室さんは警察をお願いします」と、安室に向かって声をかける。
「しかし、こないな刺身包丁で刺されたんやから即死やと思ったわ」
そんな中、平次は床に落ちている血のついた包丁を見て息をつく。
「だけど、警察を呼ぶまでもないよ。こんな包丁で刺したのなら、犯人は手や袖口に返り血を浴びているはず……!?」
コナンがそう言いながら周囲を見渡すが、サークルのメンバーの中に血がついている者はいない。
「ウソや!何で血ィがついてへんねん!」
「……いきなり何なんだ?君たちは。血がついてる奴が犯人だと言うなら、彼女が一番怪しいじゃないか」
突然現場をしきり始めた平次達を訝し気に見ながら、大積はクイッと顎を動かして一人の人物に目を向ける。
「…………え?」
コナン達がその動きにつれられて視線を向けると、そこには頬・肩・腕など左半身の所々に血液が付着した名前が立っている。
「え、私?」
「おい、名前なわけねーだろ!!刺された安斉って奴の隣の席が名前だったから、血が飛んで来ただけじゃねーか!!見てみろ!身体の左側しか血がついてないだろ!?」
「そんな事言っても……そもそも、そこの子たちが血のついた奴が怪しいって言い始めたんじゃないか…」
「それに、その女の子の席が包丁が落ちてた場所から一番近いし…」
突然名前を犯人扱いされて快斗が声を荒げるが、永塚や大積はそう言いながら顔を見合わせる。
「名前がそんな事するわけあらへん!それは俺らが保証したる」
「そうだよ!名前お姉さんは、絶対にそんな事しないよ」
「な、何なんだ!君たちは!人を犯人扱いするのに、自分の友人は特別扱いか?だったら俺達サークルのメンバーだって、友人同士そんな事するわけないって保証出来るぞ!!」
「そ、そうよ…私たちが典悟にこんな事するわけないでしょ!?一番の容疑者は、そこの彼女じゃない!」
「なっ、名前が容疑者やと!?ええ加減にせえよ!!」
お互いに自分の知人を庇いながら言い合いを始める関係者たち。そんな中で、疑いをかけられている名前は小さくため息をつく。
「平次、落ち着いて。自分の関係者だからって容疑者から外すのは、確かにおかしいわ」
「お、おい名前!」
「状況的に私が一番怪しいというなら、これ以上動かないで大人しく座ってるわ。それとも、鍵のかかる奥のスタッフルームにでもいた方が安心ですか?」
戸惑う快斗を尻目に、名前はそう言いながら大積達に視線を向ける。大積達は戸惑いながら顔を見合わせるが、そんな中で安室が冷静に口を開く。
「いや、今の段階で隔離までする必要はないでしょう。しかし、血のついた人間が怪しいと言って彼等を疑った以上、該当者がいるのに特別扱いをするべきではありません」
「そ、そんな…ほなどうしろっちゅーねん」
安室の言葉に、平次は気まずそうに名前と安室の顔を見比べる。
「店の入口から一番離れた奥の席に、所持品を持たずに座っているだけで十分でしょう。構いませんか?名前さん」
「ええ、問題ありません」
「ちょっ、名前ちゃん!だったら俺も一緒に……」
小さく頷いて店の奥に向かおうとする名前を快斗は慌てて引き留めるが、それを見て唯が戸惑いながら口を開く。
「待ってください……容疑者と親しい人は離れていた方が良いのでは?……証拠?とか、隠滅されたら困るし」
「なっ!?そんな風に名前を犯人扱いするんじゃねーっ!!」
快斗は苛々したように反論するが、それをたしなめるように名前が血のついてない右手で快斗の手を優しく握る。
「快斗、どうしたの?何も今すぐ逮捕されるわけじゃないのよ?」
「っ、」
「私は少し離れた場所で座ってるだけで良いんだから…そんなに心配しないで。ね?」
「………あ、ああ。悪い」
「…………。」
感情的になる快斗を心配そうに見つめながらも、名前はこれ以上状況が悪くならないように、ギュッと快斗の手を握る力を一瞬強めた後にするりと離す。そして、抵抗することもなく店の一番奥にある椅子に大人しく腰を下ろす。そんな名前の様子を遠巻きに見ているサークルのメンバー達の視線を見て、快斗はグッと拳を握る。
(まるで、まるで…名前が本当の犯人みたいな目で見やがって!!アイツは、そんな扱いを受ける必要ねーのに!!)
容疑者と親しい人間は離れていろと言われた手前、名前に近付く事も出来ずに呆然と立ち尽くしていると、安室がそっと近付いてくる。
「ひどい顔ですよ、黒羽君」
「っ、だって!あいつは、犯人なんかじゃ…」
「分かっていますよ。ただ、この状況で彼等の不信感を募らせない為にはこれが最善の方法です」
感情的になる快斗に向かって、安室は周りの人間には聞こえないように声を落として冷静にそう告げる。
「警察が来れば、おのずと名前さんの疑いも晴れるでしょう。何より、真犯人さえ分かれば解決するんですから」
「…………。」
「あの日の冷静な君らしくない。名前さんが疑われること…犯罪者のような扱いを受けることに、ひどく動揺していますね?」
その言葉に、快斗は小さく息を飲んで安室を見る。安室は僅かに眉間シワを寄せて、快斗をジッと見つめる。
「それは、大切な恋人を思うが故ですか?そうだとしても、些か過剰な反応に見えますが……」
そんな安室の言葉に快斗が何も言葉を返せないでいると、駆けつけた警察や救急隊員が店の中に入ってくる。安室はチラリと快斗と名前を見比べた後、店員として対応すべく快斗の元を離れて警察の元へ向かった。