「天国へのカウントダウン」編
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「さーて、そろそろジィちゃんに迎えの連絡してくるわ」
「そう?ありがとう。……そういえば、新一はどこにいるのかしら?帰る前に顔合わせとかないと、後からうるさそうだけど…」
「そういや、アイツ姿が見えねーな…外にいるんじゃねーの?さっき蘭ちゃん達も外に行くの見たぜ」
快斗はそう言いながら携帯を取り出すと「じゃ、ちょっと電話してくっから。待ってて」と、名前から離れていった。
「名前さん」
プールサイドの壁に寄りかかって快斗を待っていると、安室が軽く手を上げながら近付いてくる。
「あ、安室さん…今日はありがとうございました」
「いえいえ、こうやって無事に脱出する事が出来たのも君たちのおかげですよ」
「そんな事ありませんよ…それより、怪我は大丈夫でしたか?」
「これくらい、大したことありませんよ」
キッチリと包帯の巻かれた左腕を軽く回しながら、安室は平然と答える。
「ところで、黒羽君は?」
「快斗なら、電話をかけに行ってますけど…」
「そうですか…」
安室は軽く顎に手をあてて少し考えながら言葉を続ける。
「今日はもう時間が遅いので、事情聴取はまた後日らしいですね」
「そうみたいですね。私たちは明後日呼ばれてます」
「なるほど…数日間は、お互い事情聴取やら後処理で忙しいでしょう。次の金曜日、話し合いのためにポアロに来ていただけますか?」
「……ポアロに?」
ワントーン下がった"話し合い"という単語にピクリと反応しながらも、名前はそう尋ね返す。
「ええ、夕方にはシフトが終わるので。話はその後に」
「わかりました。夕方、伺います」
「お待ちしています。ああ、あと…こちらとしても一つ条件が」
「……条件、ですか?」
それまでの笑顔が消えてスッと目を細めて告げられた安室の言葉に、名前は眉を寄せた。
card.637
「オメーら!!コソコソ動き回った挙げ句、避難しそこねて周りに迷惑かけやがって!!一体どこで何してたんだ!?」
「………ごめんなさい」
(さっきの三船さんと同じこと言ってる…)
とある条件を提示してきた安室と別れ、電話を終え戻ってきた快斗と外に出ると、案の定コナンが不満そうに詰め寄ってくる。
「爆弾が組織の仕業だっていうのも、俺が言う前から気付いてたみたいだよな?何やってたんだよ!?」
「……えーと、」
「名探偵、その話は…もう少しこっちの事情がまとまったらにしてくれよ」
困ったように言葉を濁す名前の横で、快斗が助け船を出すように口を開く。
「こっちの事情っつー事は、オメーの泥棒関係に名前を巻き込んでんのか?オメーの事は一応容認してるが、泥棒の件まで認めてるわけじゃねーんだぞ!!今日だって無事だったから良かったものを!!一歩間違えれば……」
しかしコナンは快斗の言葉を聞くと、更に眉間のシワを深くして快斗をジロリと睨み付けながら詰め寄るが、その言葉を「新一」と、名前が静かに遮る。
「そんな風に快斗ばかり責めないで。巻き込まれたんじゃなくて、私が好きでやってるの。お叱りなら、私が受けるわ」
「オメー……」
「…………。」
(おいおい…こういう感じ、俺の正体がバレる前みてーだな)
バチバチと効果音がつきそうな雰囲気で睨み合うコナンと名前を、快斗は気まずそうに見比べる。
「オメー、意味わかって言ってんのか?」
「当たり前じゃない。状況によっては、捕まる事も覚悟の上よ」
「!」
ハッキリとそう答えた名前に、コナンは僅かに目を見開いたあと、諦めたようにため息をつく。
「……安室さんとはどうなってんだ?」
「交渉中ってところかな。少なくとも敵対はしてない」
「……いずれは、俺にも話せんのかよ。オメーらの事情」
コナンは少し考えるように視線をさ迷わせた後に、チラリと快斗を見ながらそう尋ねる。
「ああ…そのつもりだ。もう少し確証が得られたらな」
「………そーかよ。とにかく、今日みたいな無茶してっと、捕まる前に死んじまうぞ。あんまり心配かけんじゃねーよ」
「……ええ、ごめんね」
コナンのその言葉に、名前は申し訳なさそうに言葉を返す。こんな風に、お互いの立場で対立してしまう事はあるが、コナンがいつも自分を気にかけてくれる事は分かっている。
「ハァ…ま、とにかく今日はこれ以上追及しねーから。早く帰れよ」
「ありがとう……ところで、哀は?組織に狙われたなんて知って、怯えてるんじゃない?」
「ああ…どこに組織の奴等がいるか分からねーから、最初の爆発で避難した時に博士とビートルで待機させてたんだ。さっき先に帰らせたよ」
「………そう」
「じゃ、とりあえず今日のところは解散だな。落ち着いたら、また哀ちゃんの顔も見に行ってみよーぜ」
コナンの説明を聞いて心配そうに目線を落とす名前。その肩をポンッと叩いて快斗がそう声をかける。名前は、快斗の言葉に小さく微笑んで「……そうね」と頷いた。
---ブロロ…
「今日は、本当にお疲れ様でございました」
寺井はハンドルを握りながら、バックミラー越しに快斗をチラリと見て声をかける。
「外で待機していて、突然ビルのアチコチが爆発し始めた時は心臓が止まるかと思いましたよ」
「悪かったな、連絡出来なくて」
快斗はぐったりとシートに寄りかかりながら寺井に言葉を返す。怪盗キッドとして様々な窮地を凌いできた快斗も、今日の爆弾騒ぎはさすがに堪えたようだ。
「いえいえ。しかし、まさか最後に飛び出してきた車の中にお二人が乗っていらしたとは……ご無事で何よりです」
「あれ?車が見えたって事は、ジィちゃんも近くまで来てたのか?」
「ホッホホ、双眼鏡でビルの様子を確認していたんですよ」
「なるほどな」
「………ところで、目当てのものは?」
「ああ…一応メインコンピューターのデータはコピーしたから家で確認してみる。私物の方は特に目ぼしいもんはなかったな……。名前ちゃんが行った、システム開発部の方はどうだった……っと、」
快斗がそう言いながら、隣に座る名前に声をかけようとすると、ズルズルと名前の身体が快斗の肩にもたれかかってくる。
「どうされました?」
「シー……寝ちまってる」
運転席から心配そうに声をかける寺井に、快斗は軽く人差し指を立てながら小声で言葉を返すと、名前の身体を抱き寄せて自分の方へ完全にもたれかけさせる。そんな風に身体を動かしても、全く起きる気配のない名前の顔を覗き込むと、スースーと小さな寝息をたてている。
「おやおや…」
「さっきから口数少ねーとは思ったけど、珍しいな」
快斗はそう言いながら、名前の顔にかかる髪をサラリと耳にかけて寝顔をぼんやりと眺める。こんな風に人前で寝てしまう姿は、今まで見たことがない。
「………事件には慣れてるとはいえ、人の目を欺いてデータ盗み出すような真似させちまったからな。気疲れしたんだろ」
「………そうですねぇ」
どこか後悔しているような口ぶりで話す快斗の言葉に、寺井は曖昧に相槌をうつ。快斗は眠っている名前の手を握りながら、小さくため息ををつく。
「相変わらず、頼もしい相棒だったぜ?的確な指示もくれるし…俺がいなくたって、公安の人間相手に渡り合って…70階からバンジージャンプまでして」
「バンジージャンプ、ですか……」
「ったく、無茶ばっかりしやがるから身体中あちこち傷だらけだよ。犯罪に加担させて、こんな風に傷つくらせちまって。どこが良いんだろうなあ、こんな男の」
爆発に巻き込まれたり、安室に庇われたとはいえガラスを突き破りながら建物に飛び込んだりした名前は、顔や手足に痣や小さな傷をいくつも作っている。それらの傷をジッと見つめながら、快斗は独り言のように呟く。
「坊っちゃん、まさか……」
「ハハ、今さら一緒にいる事を迷ったりしねーよ。離れようと思って離れられるような段階は、とっくり通り越しちまったしな」
快斗は名前の手を握る力を少しだけ強めながら、窓の外に目を向ける。
「報いたいだけだよ、名前ちゃんの覚悟にさ。さっさと親父の敵にケリつけてさ、それから先は名前ちゃんの望むことを叶えてやりたい」
「……………。」
「ジィちゃん、言ったろ?俺の時間は、俺の人生のために使えって」
「……ええ」
「全部終わったら…俺は普通の恋人として、この先名前とずっと一緒に過ごしていきたい。こいつが行きたいとこに連れてって、やりたい事があれば一緒にやって」
「……………。」
「名前は俺とこの先ずっと一緒にいたいって言ってくれてただろ?名前の望みを叶えようと思っても、俺にとったらご褒美みたいなもんじゃねーか。ハハ…もらってばかりで申し訳なくなるぜ」
「……お互い想いあってるからこそ、お互いにソレを望んでいるんでしょう。良いことじゃありませんか」
「……そんなもんかねぇ」
快斗はどこか遠くを見つめながらポツリとそう呟くと、それ以降は言葉を発しないまま流れ行く街並みを眺める。
盗み出したデータから有力な情報は得られないかもしれない。"安室透"という、公安の人間がどう出るのかも分からない。あの名探偵がずっと追い続けている組織相手に、自分はどう立ち向かっていけるのだろうか?掴めそうで掴めない、親父の死の真相。いつ解決するかもわからない、何年かけてもたどり着けないかもしれない。
そんな答えの見えない問題に、名前を巻き込んで…果たして、自分の望む"普通の恋人としての日常"はいつになったら送れるのだろうか?
「捕まる事も覚悟の上よ」
あんな言葉を大切な幼なじみ相手に言わせて、犯罪に手を染めさせた。そこまで引きずり込んででも、自分は名前と離れたくない。離れることなんて出来ない。
(……ったく、名前ちゃんも質の悪い男に捕まっちまったもんだな)
ぼんやりと眺めていた窓の外の景色から、自分にもたれて眠る名前の顔に視線をうつす。穏やかなその寝顔を見て、優しく微笑んで息をつく。
(………他にはないってくらい苦労かけちまう分、全部片付いたら俺の全身全霊をかけて幸せにするからな。悪いけどもうしばらく付き合ってくれよ…名前ちゃん)
快斗は名前の頬に出来た傷を優しく指でなぞりながら、心の中でそう囁いた。
*天国へのカウントダウン編fin.
《オマケ》
「名前ちゃん、起きれる?」
「………ん、」
身体を軽く揺さぶれながら声をかけられた名前は、ゆっくりと目をあけてぼんやりと辺りを見渡す。そして、車の外に見える建物を見て目を瞬かせる。
「あ…れ、ここ?」
「俺んち。名前ちゃん寝てたから、ジィちゃんに頼んで俺の家に送ってもらったんだ。今日はこっちに泊まりなよ」
「え?いいの?」
「ハハ、良いも何も連れてきたの俺だぜ?先に何か食う?」
「んー、今日は何か疲れちゃって。お風呂だけ借りたら寝たい」
車内で少し眠っただけでは眠気が醒めないようで、名前は軽く目元を擦りながら気怠げに答える。
「そっか、疲れたもんな。そんなに眠くて一人で風呂入れるか?何なら一緒に入る?」
「そうねぇ…今日はやめとこうかな。あちこち怪我してるから、さすがに見苦しいと思うし」
「へ?」
「ん?」
「え?」
「何?私、何かおかしな事……」
ポカンとした快斗の顔を見て、名前はしばらく不思議そうに目を瞬かせた後に、ハッと我に返ってみるみる顔を赤くする。
「ち、違うの!今のは眠くてぼーっとしてて!!」
「ふーん?つまり、名前ちゃんは怪我が治ればOKってことね!」
慌てて首を振る名前を尻目に、快斗はニヤニヤと顔を緩めて上機嫌で言葉を続ける。
「つーか、その怪我も俺のためにしたわけだし?見苦しいどころか、愛しいけど?恥ずかしがりやの名前ちゃんのために、怪我が治るまでは我慢するから早く治そうね!!」
「待って、待って!!今のはナシ…」
「ダメダメ~!!ちゃんと聞いたから取り消せませーん!」
「快斗!!」
「今日のところは、別々に入ろうぜ。んで、さっさと一緒に寝よー。俺も疲れたし」
「ちょ、快斗ってば…」
快斗は名前の荷物を持つと、鼻歌を歌いながら車から降りる。名前は、その後を慌てて追いかける。
「何だよ?一緒に寝るのもダメ?」
「や、それは良いんだけど……」
「………ホッホホ」
遠ざかっていく二人の声を聞きながら、運転席に残っていた寺井は車を駐車場に移動させる。
(快斗ぼっちゃんは、わざとでしょうが。名前さんは焦っていたせいで、私がいる事を忘れていましたね)
先ほどの二人の様子を思い返して寺井は小さく笑いをこぼす。
(快斗ぼっちゃんも、いろいろ思うところがあるようですが……あの二人なら、きっと大丈夫でしょう)
車内での快斗の様子を気にしていた寺井は、優しく微笑みながらホッと息をついた。