「天国へのカウントダウン」編
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「何!?会場にも爆弾が!?」
『ええ、そうなの。爆発まであと…4分くらい。目暮警部にそっちの屋上のドームを開けるように頼んでもらえない?』
B棟の屋上で様子を見守っていたコナンだったが、電話口から聞こえる名前の説明に思わず声をあげる。
「ば、爆弾!?コナン君!向こうの様子は一体どうなっているんだ!?」
コナンの声が聞こえた目暮達が慌ててコナンに詰め寄ってくる。
「屋上のドームを開けて!!もう爆発まで時間がないんだ!!」
「お、屋上の?一体何を…?」
「いいから早く!!」
コナンの剣幕に、目暮は目を白黒させながらもビルの管理者に連絡を入れている。それを確認したコナンは、再び携帯を耳に当てる。
「おい、ドームの件は頼んだけど……あそこを開けるって事は、お前らまさか……!!」
『ええ、もうすぐそっちに行くから。心配しないで待っててね』
爆弾が会場にもある以上、考えられる脱出手段は一つしかない。コナンは目を見開いてA棟のパーティー会場を見上げるが、電話口からは名前が焦る様子もなくそう言葉を返してきた。
card.636
電話を終えて快斗と安室の元へ戻ると、車の位置はB棟の正面に来るように調整されていて、助手席には未だに気を失っている如月が座らされている。
「屋上のドーム、開けてもらうように頼んできましたよ」
「ありがとうございます。こちらも準備出来ました……あと2分弱ですね」
名前が声をかけると、安室が棚のタイマーを確認した後に車に乗り込んでエンジンをかける。
「おし!じゃ、俺はカウンターの所で30秒前までカウントするから。名前ちゃん、もう車に乗っとけよ。シートベルトもちゃんと付けるんだぜ?」
「はいはい。もー、子供じゃないんだから」
「あと、腕時計な!残り30秒のカウント頼んだぜ」
「わかってるわよ」
アレコレと名前の世話を焼く快斗に苦笑しながら、名前は車に乗り込む。
「ハイヒールとか大丈夫か?ボールペンとか危なそうなもの持ってたら、今のうちに身体から離して……」
「ふふ、大丈夫だってば!快斗こそ、カウンターから車に戻る間に転んで乗り遅れたしないでよ」
「おいおい、俺はそんなドジっ子じゃねーわ!!」
快斗は名前の言葉に心外だと顔をしかめるが、名前はオープンカーになっている車から身を乗り出して快斗の耳元に顔を寄せる。
「それは、冗談だけど。快斗がいないと心細いから…ちゃんと戻ってきてね」
「………即効で戻ってくっから!!名前ちゃんは、危ないからちゃんと座ってろよ!!」
快斗は名前の言葉にパッと顔を輝かせると、大声でそう言い残してカウンターに向かっていく。名前は、そんな快斗の背中を微笑みながら見送ると、後部座席に座り直してシートベルトをしめる。
「随分と余裕そうですね」
左手から腕時計を外して、カウントをとる為に備えていると、ふいに運転席の安室から声がかかる。
「え?」
「理論上は問題なく避難出来るとは思いますが、脱出直前でもそんな風に笑って冗談を言い合えるとは…」
「…………。」
「僕と飛び降りた時とは大違いですね」
あの時の名前は、分かりやすく怯えたり怖がったりはしていなかった。飛び降りる直前でも普通に会話しているように見えたが、今の様子と比べてみると、あの時はかなり緊張していたのだろうな、と安室は感じる。
「………快斗がいますからね」
「ふ、そうですか」
「1分切るぞ!!59、58……」
そんな会話をしていると、カウンターから快斗の声が響く。
---ヴォォォン!!
快斗のカウントを聞きながら、安室はハンドルを握ってエンジンを吹かす。
「あの時の、取引の件」
「え…」
「53、52、51!!」
エンジン音とカウントの声が響く中、安室が前を向いたまま口を開く。
「君たちの提案に乗る事にしよう」
「!!」
「……君たちは敵にまわすよりも、味方にした方がメリットがありそうだ」
「はは、メリット…ですか」
名前はカウントに耳を傾けながらも、安室の物言いに小さく笑いをこぼす。
「42、41、40!!」
「しかし、そちらの手札…ある程度は、こちらにも見せてもらうぞ」
「………その辺りは、ここから出たらゆっくりとお話しましょう」
「33、32、31、30!!!」
「ああ……この進退両難の局面も、取引を結ぶ慶祝として派手に乗り切ろうじゃないか!!」
----ブォォォォン!!!
安室は、快斗の「30」というカウントに合わせて更に強くエンジンを吹かせる。
「29、28…!!」
名前は安室の言葉に楽しそうに口元を緩めながらも、快斗のカウントを引き継いで大声でカウントを取り始める。
「……19、18!!」
---ガタン!!
名前が腕時計から目をそらさずにカウントを取っていると、後部座席に勢いよく快斗が乗り込んでくる。
「よしっ、行こうぜ!!」
快斗は、名前の肩に腕をまわして名前の身体を自分の方へと引き寄せながら、バックミラー越しに安室に視線を合わせる。
「10、9、8…」
---ヴォォォン!!
「行くぞ!!」
安室はカウントを聞きながらタイミングを読んで車を発進させる。
「3、2、1…」
---ゴォォォォ!!!
強く、強くアクセルを踏み込んで、車は窓ガラスに向かってどんどん加速していく。
「ゼロ!!!」
----ガシャーンッ!!
-------ドォォォンッ!!!
「ゼロ」という単語を聞いた安室は、口元に僅かに笑みを浮かべながら勢いよくガラスを突き破る。車がビルから飛び出したのとほぼ同時に車の後方では大きな爆発が起こり、空中に飛び出した車は爆風により急加速する。
----ゴォォォォ!!!
「く、車が!!」
「プールに突っ込んでくるぞ!!」
B棟の屋上で状況を見守っていた目暮や園子達は、爆発と共に飛び出してきた車を呆然と見上げている。
ビルから飛び出した車は、爆発によって舞い上がる黒煙を脱げ出して真っ直ぐB棟の屋上に向かっていく。
「っ、」
凄まじい爆風によって急加速する車内、名前がグッとシートベルトを握ってスピードや揺れに耐えていると、隣に座る快斗が名前の頭を抱き込むようにして身体を抱き締める。
「着水するぞ!!」
爆音に負けないように、怒鳴るような大声を出す安室の言葉を聞きながら、名前はギュッと自分を抱き締める快斗の腕を掴んで衝撃に備える。
---ゴォォォォ!!
----バシャーンッ!!!
「………………ふぅ、」
プールの中に沈み込んでゆらゆらと揺れる車内で、安室はびっしょりと濡れた髪を掻き上げて小さく息をつきながら天を仰ぐ。
「名前ちゃん!沈んじまうからシートベルト外して!!怪我ねーか!?」
「……ハァ、私は平気だけど。凄かったわね……快斗は怪我ない?庇ってくれたでしょ?」
「俺は平気だよ!くそッ、びしょ濡れだな!名前ちゃんが風邪ひいちまうから、早く帰ろうぜー。腹も減ったし」
「ふふ…ははっ!」
「何笑ってんだよ?」
「ふふ…何か力抜けたら笑えてきちゃって。今までいろいろあったけど、私的には一番の衝撃だわ。それなのに、快斗はお腹がすいたとか帰ろうとか言うし……」
「んだよ、オメーの心配してるんだっつーの!!それに、俺からしたら名前ちゃんが俺を残して列車から飛び降りた衝撃を超える事は一生ないな」
「…まだそれ言ってるの?」
「当然だろ!?目の前であんな事された俺の気持ち!!」
「………あの後、ちゃんと謝ったじゃない」
「まあ、本音を言えば名前ちゃんが撃たれたのが一番効いたけど。アレは、現場にいたわけじゃねーしな」
「あー、そうね。あの時はごめんね」
「……………。」
(まったく、この子達は…)
安室は後部座席で繰り広げられる会話を聞きながら、助手席のシートベルトを外して如月の身体が沈まないように引っ張り上げる。
(こうやって見れば、普通の高校生らしいんだが。……いや、列車から飛び降りただの、撃たれただの…話している内容は普通じゃないか)
先ほどまでの緊迫した雰囲気から一転して、楽しそうに笑い合う二人の姿を横目に見て、安室は乾いた笑みを浮かべながら小さくため息をついた。
「それにしても…まさか、あの如月さんが犯人だったとはね…」
「本当ね…驚いたわ」
車がプールに着水してからしばらくして、プールサイドに駆け込んできた小五郎や目暮達。安室や名前達が事情聴取や怪我の手当てを受けている中、目を覚ました如月は高木や白鳥達に連行されて行く。その背中を見送りながら蘭や園子は顔を見合わせている。
名前と快斗は、爆発により負った怪我の手当てを受けながら、「お姉さん達、凄かった!!」「アクション映画みたいだったぜ!!」と、興奮した少年探偵団達に囲まれてワイワイと盛り上がっている。
---ヴー、ヴー
そんな様子を微笑みながら眺めていた安室は、着信を知らせる携帯を取り出して画面を確認すると、スッと表情を険しくする。
「もしもし?」
『バーボン、お前と一緒に車で脱出した奴らはどこのどいつだ?』
「……急に何なんですか?まさか、あの爆発は…あなたの仕業ですか?ジン。あやうく死にかけましたよ」
『黙って俺の質問に答えろ』
「まったく、謝罪もなしですか。……あの子達は、僕の潜入先の関係者ですよ。それが何か?」
『そいつらの身元は確かか?』
「当然でしょう?潜入先の人間くらい調査済みですし、そもそもただの高校生ですよ」
『………ッチ。他に、あのビルに残ってた人間はいねーのか?』
「さあ、知りませんけど。さっきから何なんですか?まさか、誰か標的がいたんですか?それにしては、随分大がかりな……」
---ブッ、ツーツー……
「………ッチ!」
(名前達が言っていた通り、やはりジンの仕業だったか。しかし、やつらの狙いは一体…?)
安室は一方的に切られた携帯を忌々しそうに睨み付けたあと、くるりと辺りを見渡す。プールサイドには警察関係者やパーティーの参加者達がまだ多く残っているが、人込みから離れた場所で誰かと何かを話している名前と快斗の姿を見つける。
(……まあ、その辺りも含めて…あの二人とはじっくりと話し合う必要がありそうだな)
安室は携帯を懐にしまいながら、名前達の元に近付いていった。
「兄貴、どうでしたか?」
「車で脱出した奴らは、バーボンの知人。ただの一般人だ」
ジンはウォッカに向かって携帯を放りながらそう答えると、煙草をくわえて火をつける。
「……まさか、バーボンがパーティーに参加しているとは思いませんでしたね」
「ふんっ、あんな野郎はどうなっても構わないが…シェリーは来ていなかったようだな」
ジンはフーッと煙草の煙を吐き出すと、チラリとツインタワービルに視線を向ける。
「あのビルを、奴の処刑台にするつもりだったんだが。……楽しみは、先にとっておくさ」
その言葉を最後に、ジンとウォッカを乗せたポルシェ356Aは夜の闇へ消えていった。
「お前らは!!!危ないことすんなって、あれほど言ったじゃねーか!!」
怪我の手当てを終えた名前と快斗は、鬼の形相で待ち構えていた三船に詰め寄られている。
「……そんな事言っても、俺達も巻き込まれた側ですし」
「避難しねーで、チンタラ何やってたんだ!?お前らが警察の指示に従ってれば、こんな大騒ぎにはならなかったんだぞ!!」
「………すみません」
(正論過ぎて返す言葉もないわ)
今回はパーティーを抜け出していたために避難が遅れ、結果的に大勢の人に心配やら迷惑をかけてしまった。名前は、三船に向かって素直に頭を下げる。
「ったく、二人とも大した怪我がなくて良かったけどよー」
それを見た三船はため息をつきながらそう言うと、二人の肩をバシッと叩く。
「ま、とにかく無事で何よりだ!!ほれ、風邪ひく前に帰れよ!俺も下に部下を待たせてるから、もう行くぜ」
「三船さん、帰らないでわざわざ残ってくれたんすか?」
「当たり前だろーが!!お前らが出てこないって、メガネのガキが騒いでたからな!」
「……本当にありがとうございました」
(メガネのガキ…後で新一にもうるさく言われるわね、きっと)
「じゃーな、また連絡しろよ!」
名前がコナンの存在を思い浮かべて内心ため息をついていると、三船はそう言い残して颯爽と立ち去って行く。
「相変わらず、パワフルだな。あの人」
「そうね…でも、今回は確かに心配かけちゃったわね」
「その割りに、去り際はいつもアッサリしてんだよなー」
名前と快斗は、顔を見合わせながらその背中を見送った。