「天国へのカウントダウン」編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「如月さんが常磐さんにプレゼントしたネックレスには、わざと外れやすい細工がしてあったんですね?」
「…………。」
名前達をジロリと見渡したまま黙っている如月に向かって、安室は構わずに推理を進めていく。
「そしてあなたは、もう1つ別のネックレスを用意していた」
----バラバラバラ…
名前と快斗が黙って安室の推理を聞いていると、微かにヘリの音が近付いてくる。
「ん?この音…」
「ヘリの音ね…救助ヘリかしら?私、ちょっと屋上を見てくるわ」
「え?だったら俺も…」
名前の言葉に快斗は目を丸くしてそう返すが、名前は小さく首を振る。
「平気よ、様子を見に行って救助隊の人達を呼んでくるだけだし。それに、あの人一応殺人犯だから。安室さんを一人にしない方がいいわ」
「……そうか?気をつけろよ」
(この人なら、どんな凶悪犯でも一人でも大丈夫そうだけどな…)
快斗はチラリと推理中の安室を横目に見ながらも、名前の意見の方が理にかなっていたため不服そうに頷いた。
card.635
---タン、タン、タン
パーティー会場を出た名前は、携帯の光を頼りに階段を上っていく。屋上に近付くにつれて、聞こえてくるヘリの音も大きくなる。
(良かった…これで何とかなりそうね)
名前は小さく息をつきながら、屋上に続く扉に手をかけた。
---バラバラバラ…
「兄貴、ヘリを呼んだようですぜ」
ツインタワービルから少し離れた場所に停められたポルシェ356A。車の外に出てビルの様子を窺っていたウォッカが、車内のジンに声をかける。
「ふんっ、今さら逃げられると思うなよ。……やれ!!」
「了解」
ニヤリと笑うジンの言葉を受けて、ウォッカは懐から小さなリモコンを取り出してスイッチに手をかけた。
---B棟屋上プール
------バラバラバラ…
「おお、ヘリが来たぞ!!」
「風もないし、もう大丈夫だろう」
目暮や小五郎達はツインタワービルB棟の屋上に上がり、救助ヘリがA棟に近付いてくる様子を見守っている。
「良かった、これでひと安心ね」
「そうだね」
蘭とコナンも着陸体勢に入るヘリを見つめながら、ホッと安堵の息をつく。
----ドォォォン!!!
----ゴォォォ!!
「!?」
「なっ、屋上に火が!!」
しかし、ヘリが屋上に近付いたタイミングで突然大きな爆発音とともに炎が上がる。ゴォォォと屋上全体に炎が燃え広がり、着陸しようとしていたヘリは高度を上げて一旦退避する。
「くそッ!!あの様子だとヘリは着陸出来ないぞ!!」
「一体誰がこんなことを……」
炎が上がるA棟の屋上を、目暮達は悔しそうに見上げる。
「…………。」
(くそッ…やはり、黒ずくめの奴ら他にも爆弾を残してあったのか!!状況は最悪だが、名前と黒羽…それに安室さん。あの三人が一緒なら……)
コナンは勢いよく燃え広がる炎をジッと見つめていた。
「!?今、また爆発音がしましたね…しかも近いですよ」
パーティー会場にいる安室と快斗。ゴゴゴと建物に響く地響きと、聞こえてきた爆発音に顔を見合わせる。
「くそッ!まさか屋上も……名前!」
「わっ!?快斗?」
快斗はハッと息をのんで慌てて屋上に向かおうと入り口へ駆け出すが、ちょうど会場に入ってきた名前とぶつかりそうになる。
「名前!!大丈夫だったか!?怪我は?」
突然飛び出してきた快斗に目を丸くしている名前だったが、快斗はガシッと名前の肩を掴みながら、名前の頭から足先まで怪我がないかとチェックしている。
「ふふ、大丈夫よ。ちょうど屋上に出ようとしたところで爆発したから降りてきたの」
「……やはり爆発したのは屋上でしたか」
名前は安心させるように快斗に向かって微笑んだあと、快斗の後ろにいる安室に視線を向ける。
「ええ。ご丁寧にガソリンの入ったタンクまで置いてあったみたいで…あの様子だと、当分屋上は使えませんね」
「ったく、次から次へと!」
「本当にね」
屋上の様子を聞いた快斗は小さく舌打ちする。名前も快斗の言葉に頷きながら会場に入るが、ふと安室の足元を見て目を丸くする。
「え!如月さん、どうしたんですか?」
そこには、ぐったりとした様子で如月が倒れている。
「ああ…犯行を言い当てられて犯人だと自供したあとに、服毒自殺しようとしたので眠ってもらいました」
「眠ってもらったって……」
呆然と安室と如月を見比べる名前の横に、快斗がソッと近付いて耳打ちする。
「あの人…如月さんが毒の入った小瓶の蓋を開けようとした途端に、すげー勢いで如月さんに突っ込んでって、腹に一発ドカン」
快斗は、拳を握って殴りかかるジェスチャーをしながらそう説明する。
「……ドカン」
「すげー早業だったぜ。俺、一緒にいる必要まったくなかったわ」
「そう…本当に凄いわね」
わざとらしく顔をしかめて話す快斗。その内容に名前も目を瞬かせて安室を盗み見る。
「とにかく…ここでしばらく様子を見るしかありませんね」
安室はそんな二人を尻目に、サラリと前髪を掻き上げながら会場の壁にもたれかかり腕を組む。
「そうですね…少し休みましょう。足がパンパンだわ」
「こうなったら、屋上の火が消えるのを待つしかねーもんな」
快斗が凝り固まった首をぐるりと回しながら話していると、ふとバーカウンターの酒瓶が並んだ棚が目に入る。
「!?」
快斗の視線の先では、棚に並んだ酒瓶の影がチカチカと赤く点滅している。快斗はガタンとカウンターによじ登ると、ガシャガシャと音を立てながら乱暴に酒瓶を脇によせて棚の奥へ手を伸ばす。
「快斗?どうしたの?」
「………残念ながら、ちんたら火が消えるのを待ってる時間はねーみたいだぜ」
「どういう事だ?」
突然の快斗の行動を不思議そうに見ていた名前と安室も、快斗の言葉を聞いてカウンターに近付いてくる。
「爆弾だ」
そんな安室達に向かって、快斗は棚の奥に隠されていた爆弾のタイマーを指し示す。
「まさか…」
それを見た名前はパッとパーティー会場を見渡したあと、徐に会場に並べられたパーティーテーブルの下を覗き込んでいく。
「全部のテーブルの下に爆弾が仕掛けられているわ。もしかしたら、テーブル以外の場所にもあるかも」
「と、いうことは……この会場内だけで、少なくとも15個ですか。なるほど…最後にパーティー会場を爆発させて、何が狙いか分からなくするつもりですね」
安室はそう言いながら、快斗が見つけたタイマーを確認して「タイムリミットは、あと6分ですか…」と舌打ちする。
「どうする?1人5個ずつ解体するとしても、間に合わねーよな」
「そうね。作りは単純そうだけど、さすがにそんなに早くは……それに間に合ったとしても、テーブル以外の場所にも爆弾があったらアウトだわ」
「……解体?」
快斗と名前がそう話ながら顔を見合わせていると、安室が不思議そうに二人に視線を向ける。
「安室さんも、公安の刑事さんなら出来るだろ?」
「いや、僕は出来ますが……君たちも?」
「俺は一応知識としては知ってるよ、実際やった事はないですけど。名前ちゃんは、この間も米花シティビルの爆弾騒ぎの時に、でけーヤツ解体したもんな?」
「あれは、設計図もあったからね」
「米花シティビル…森谷帝二の事件か………ふっ、ハハ!本当に君たちは、敵にまわしたくないな」
あっけらかんと話す二人に、安室は可笑しそうに笑いながらそう呟くが、名前と快斗は「それは、こっちのセリフだよ…」と乾いた笑みを浮かべる。
「それにしても、どうします?とりあえずパーティー会場から、まだ被害の少ない階へ避難しますか?」
「いや…もう、地下の電気室…40階、70階、屋上と爆発している。どこに逃げても、煙と炎がまわってくるのは、時間の問題でしょう」
「………となると、何とか爆発を止めるしかないですね」
「なあ、名前ちゃん!俺、イイ事思い付いたかも!!」
眉を寄せてアレコレ意見を出し合っていた名前と安室だったが、ふいに快斗がニヤリと笑って声を上げる。
「あれ、使おうぜ!!」
そしてパッと指差した先にあるのは、マスタング・コンバーチブル。それを見た名前はパチパチと目を丸くした後に、窓の外を見て隣のビルを確認する。
「まさか隣のビルに飛び移るの?……ビルの間は約50m。飛び移るとなったら60m…ビルの高低差は20mってところかしら」
名前はビルと会場の広さを見比べながら、更に言葉をつづける。
「重力との兼ね合いを考えたら……えっと、t=√(2s/g)だから……20m落下するのに2.02秒。約2秒で60m進むとなると、1秒で30m。つまり時速160km必要ね……」
名前は頭の中で計算しながら、導きだした数字を口にする。
「駄目ですね…この会場では窓を突き破るまでに、せいぜい50~60kmしか出せませんよ」
すると、名前の言葉を引き継ぐように安室がそう言って小さく首を振る。
「いやいや、だからさ!こうするんだって!!」
しかし快斗は相変わらずの笑顔のまま車に近付いていくと、ガタンとトランクをあける。
「これならイケるだろ?」
「ま、まさか…爆風と同時に?」
ニヤリと笑った快斗の言葉に、安室は驚いたように目を丸くする。
「飛び出した先にはプールがあるから、隣のビルまで飛べればなんとかなるだろ。成否の鍵を握るのはタイミングだな」
そんな安室を尻目に、快斗はどんどん話を進めていく。
「爆弾の爆発と同時に車が窓を突き破らないと、そのまま失速して墜落しちまう」
「そうね…車に乗ると爆弾のタイマーが見えないし、あのタイマーは棚から動かせそうもないものね」
「……あまり早くからタイマーから目を離すと、誤差が出ちまうかもしれない。俺が30秒前までタイマーのそばにいてカウントするから、そこからは腕時計で確認してくれ。運転は安室さんやってくれますか?」
「あ、ああ…もちろん」
「よし、それなら決まりね。私はコナン君に電話して、屋上のプールの屋根を開けてもらうわ。安室さんと快斗は、車の位置を調整しててもらえますか?」
名前はそう言うと、携帯を片手に少し離れた場所で電話をかけ始める。
「安室さん、車の位置…もう少し、プールの正面に寄せますよね?……安室さん?」
快斗が車の位置と隣のビルを見比べながら安室に声をかけるが、安室はまじまじと快斗の顔を見つめて黙っている。
「何すか?俺の顔、なんかついてます?」
「……いや、俺は名字名前ばかり警戒していたが間違っていたようだ」
「え?」
「そもそも爆弾の解体を出来るという時点で君も普通ではないが……その発想力と頭の回転の速さ。何より、あの彼女が君を完全に信頼している」
安室が口を挟む間もなく、みるみるうちに脱出プランを組み立てた二人の息の合ったやり取り。安室は、電話をしている名前と目の前の快斗を見比べて乾いた笑みを浮かべる。
「君たちは、一体何者なんだ?その慣れた様子だと、今までもこういう経験があるんだろ?」
「………ハハ、さすがにそんなに何度も爆発に巻き込まれてはいませんよ。名前ちゃんを探っていたみたいですけど、森谷帝二の件も知らなかったようですし…"特定の人物"の絡んだ事件以外はあまり把握してないようですね」
「!」
安室は、快斗の言葉と表情に小さく息をのむ。快斗の言うように、名前に関して集めた資料はほとんど怪盗キッドが関わったものばかりだった。そのため、この二人が今までどんな事件を経験してきたのかは、ほとんど把握していない。
(この少年は一体……?)
そして黒羽快斗に関しては、ノーマークだった事もあり情報がほとんどない。普段は名前相手におちゃらけている場面ばかり見ていたため、ごく普通の高校生という印象しかなかった。しかし今、自分を前にして軽く微笑みながら余裕そうに話すその姿は、ただの高校生とは思えない独特の雰囲気がある。
「ま、そういう難しい話はこの窮地を乗り切ってからにしませんか?」
言葉につまっている安室に、快斗はニッと口角をあげながら声をかける。
「俺は、名前ちゃんをこんな所で死なせるつもりはないし。あんたならイケると思って、最期のハンドルを任せるんだ。頼みますよ、ゼロの刑事さん?」
「……ふ、上等だ。ここから出たら、洗いざらい話してもらうから覚悟しておくんだな」
「げぇ…あんた、やっぱりおっかねーな」
快斗は、ジロリと自分を見ながら不敵に笑う安室を見て肩をすくめながらも、諦めたように車の準備に取りかかる。安室はそんな快斗を見て小さく笑ったあと、倒れている如月を車に移動させるために如月の元へ向かった。