「天国へのカウントダウン」編
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「まさか…別人か?」
ビルの屋上でライフルを構えていたジンは、スコープ越しに捉えていた"シェリー"だと思われる人物が、狙撃された後に青い顔をして慌てふためている姿を見て眉を寄せる。そして一旦ライフルを下ろすと、小さく舌打ちしながら胸元から携帯を取り出す。
「ウォッカ、どうなっている?」
『B棟60階の連絡橋ホールを見てますが、渡ってくるのは男達だけですぜ』
連絡橋の手前にある物陰から、避難する人々を見張っていたウォッカ。ジンからの連絡を受けて状況を報告する。
「……ッチ。今、展望エレベーターから逃げ出した女どもが下の連絡橋からそっちに行くはずだ。シェリーがいないか確認しろ」
『え?45階の方ですか!?分かりました!!』
ジンは舌打ちをしながらそう指示すると、懐から煙草を取り出して火をつける。ジンがゆっくりと煙草の煙を吐き出している間に、ウォッカはジンの指示に従い慌ててB棟の45階まで移動する。
『……ハァ、兄貴!子供一人と女が何人か渡ってきましたが……ハァ、シェリーはいやせんぜ!一人見た目は似てる女はいましたが…ワーワー騒がしくて、とてもシェリーとは思えません。声も違うようですし……』
急いで物陰に移動したせいか少し息を乱しているウォッカ。その報告を聞いたジンは、フーッと煙草の煙を吐き出すと、黒煙をあげるツインタワービルに視線を向ける。
「フン、俺達の狙いに気付いて避難せずに上に残ったんだろうが…逃しはしねえ!!………橋を落とせ!!」
ジンは楽しそうに口角を上げながら、ウォッカに向かってそう指示した。
card.633
連絡橋を渡りB棟のエレベーターを使って地上まで降りて外に出て来たコナン。キョロキョロと辺りを見渡すと、避難を終えた人込みの中に見慣れた少年探偵団が目に入る。そして歩美達から少し離れたところに立つ阿笠と灰原を見つけると、慌てて駆け寄っていく。
「灰原!!」
「……江戸川君、どうしたの?キャッ!いきなり何するの!?」
「いいから、コレ被っとけ!博士、灰原連れて車に行くぞ!説明は後だ!」
「?わ、わかった」
自分に駆け寄ってくるコナンに首を傾げていた灰原の頭に、バサリと自分の上着を被せたコナン。突然の事に驚いている灰原と阿笠だったが、有無を言わさずそのまま駐車場に停めてあるビートルまで引っ張って行く。
---バタン!!
灰原を後部座席に押し込んだコナンは、話をするために自分も助手席に乗り込む。
「一体何なのよ!?」
灰原はバサリと上着を取ると、眉間にシワを寄せながらコナンにジト目を向ける。
「ジンが来てる、狙いは…灰原、お前だ!」
「……え!?」
しかし"ジン"という名前を聞いた灰原は、言葉を失って身体を強張らせる。その様子を運転席にいる阿笠が心配そうに見つめる。
「メインコンピューターを爆破したのは、おそらく組織の都合だが…電気室まで爆破させたのは、展望エレベーターで避難する状況を作るためだ」
コナンはそう言いながら、展望エレベーターで園子が狙撃された件を説明していく。話を聞いていくうちに灰原の顔はみるみる青ざめていくが、それに気付いたコナンは安心させるように小さく笑う。
「だが、逆に考えれば…お前と間違えて園子を狙ったって事は、奴らは幼児化の可能性なんて全く勘付いてねーってことだ。園子のことは人違いだと気付いたみたいだし、もう大丈夫だろ。オメーは念の為、このまま先に博士とここから離れて……」
「本当に?」
「え?」
「本当にそうかしら?」
心配しないで博士と先に帰っていろ、と伝えようとしたコナンの言葉を、灰原が険しい顔で遮る。
「彼女が人違いだと分かったとしても、私がいるかもしれない"あのビル"をこのまま彼が立ち去るとは思えない」
「何!?」
「あの爆破が組織の仕業なら、おそらく次の手も用意しているはず……」
---ドォォォン!!!
------ガラガラ、ガシャーン!!!
灰原がそう話したタイミングで、ビルの方向から大きな爆発音が響きコナン達のいる車まで地震のような地響きが伝わってくる。
「………まさか、」
コナンはハッとビルの方を振り返った後に、もう一度灰原に視線を戻す。
「ええ…おそらく、あのビルごと消し去るはずよ。私が生きて助かる可能性を」
「し、新一……名前君達とは連絡は取れたのか?ワシ達が避難した時には、まだ見当たらなかったぞ?」
新たな爆発が起きた事に動揺した阿笠が、二人の会話を遮って顔を青くしながらコナンに尋ねる。
「何!?……まさか、あいつらまだ中にいるのか!?」
組織の事に気をとられていたコナンは、阿笠の言葉を聞いてハッと息を飲んで黒煙をあげるビルに視線を向ける。
「クソッ!!俺は向こうに戻る!灰原は車から出るんじゃねーぞ!!」
コナンの言葉に、灰原は険しい表情のまま小さく頷く。
「博士、あの人は?」
「す、すまん…実は途中で見失ってしまったんじゃ」
「何!?まさか、あの人もまだ中に………とにかく、様子を見てくるから!博士、灰原の事は頼んだぞ!!」
コナンは念を押すようにそう言うと、勢いよく車から飛び出してツインタワービルに向かって駆け出していった。
コナンがまだ展望エレベーターに閉じ込められていた頃、70階にいる名前と安室はお互いの身体にギュッと消化用ホースを巻き付けると、ガラスの割れた窓ギリギリに寄り添うように佇んでいた。一歩足を踏み出せば、300m近い高さからまっ逆さまだ。冷たい風がビューッと正面から吹き付けてバサバサと髪が靡くが、背後からは爆発による熱風と煙が少しずつ近付いてきている。
「……さて。火の手が回ってきそうですし、君の恋人が待っているんですよね?そろそろ行きましょうか」
「そうですね、ガラスの方は任せてください」
名前は平然とそう答えると、ドレスの裾を捲し上げて快斗から渡されたトランプ銃を取り出す。
「全く……そんな物まで持っているとは。今は時間がないので、追及はしませんが」
「助かります」
安室は呆れたようにため息をつくと、グイッと名前の身体を引き寄せる。甘い雰囲気など全くない、脱出のために必要な事務的な動きだ。
「平然としていますが、怖くないんですか?」
「そう見えますか?残念ながら、怖くないわけじゃありませんよ。何とかなるだろうな、とは思ってますけど」
「……ハハ、そうですか。まあ、あなたは少なくとも二回空中に飛び出した経験があるようですし、慣れてますよね?僕の推察によれば、それ以外にも…こんな高さとは比べ物にならない高さから飛び降りているはずだ」
「………こんな時まで、リサーチですか?ま、あえて否定はしませんが。過去の件で怖くなかったのは、相手が彼だったからですよ。会ったばかりのあなたと飛び降りるとなれば、それなりに緊張しています」
(70階より高いって…飛行機の時の事までバレてるのかしら)
名前は安室の言葉に内心驚きながらも、半ば投げやりに言葉を返す。
「ほー、随分と信用しているんですね」
「………もう、早く行きましょうよ。炎がホースに燃え移りますよ」
目を細めて探るような視線を向ける安室に、名前は呆れたようにそう返す。チラリと背後を見れば、かなり近くまで炎が近付いてきている。
「ふっ、そうですね。ここから出たら、またゆっくりと」
安室はそう言い終えると、それまで浮かべていた笑顔を消し去り真剣な表情で名前の身体を抱く手に力を込める。
「行きますよ!!」
そして、その一言と同時にタンッと地面を蹴って割れた窓から空中に向かって飛び降りる。
----ゴォォォ!!!!
----シュルシュルシュル……
二人の身体は重力に従い一気に落下していき、それを追いかけるように身体に巻き付けたホースが引っ張られていく。
「っ、」
名前は、自分の身体が地上が目視出来ないほどの高さから落下する恐怖に唇を噛み締めて耐え続ける。
----グンッ!!!
時間にしたら、僅か数秒だろう。引っ張られていたホースの緩みがなくなり、二人の身体はピンと張られたホースによって勢いよく引き戻される。振り子のように振られていた二人の身体は、ロープが完全に伸びきったころで、勢いよくビルの窓ガラスに向かって突っ込んでいく。身体に巻き付けたホースが、身体のあちこちにギリギリと食い込む痛みを堪えながら、名前はトランプ銃を構える。
----パン、パン、パン!!!
-----ピシッ、ピシッ!!
自分達の身体に迫るガラスに向かって、名前はトランプ銃を連射する。トランプカードの変わりに充填されていた鉛玉によって、大きなガラスにはピシピシとヒビが入る。
「……ッ、ダメ、割れない!!」
しかし、改造銃で威力が弱いためかガラスはヒビが入るだけで割れる気配がない。ゴォォォ!!と、ガラスに向かって突っ込む最中、名前は焦ったように声をあげる。
「問題ない!」
「……え、何を!?」
しかし、安室はその一言と同時にグイッと名前の身体を抱き込んで頭を守るように抱える。
---ガッシャーンッ!!!!
-----ダンッ!!!
名前が突然の安室の動きに戸惑って声をあげたのとほぼ同時に、二人の身体はガラスに突っ込んでいき、大きな音を立てながらガラスを突き破って床に放り出される。
「ーうっ!!」
飛び散るガラス片によって傷つけられる皮膚の痛みや、床に打ち付けられた身体の痛みに顔を歪める名前だったが、すぐに身体を起こして安室の方に視線を向ける。
「安室さん!!!」
名前が視界に捉えた安室は、名前の身体を庇いながら左肩からガラスに突っ込んだ影響で、左半身のアチコチから出血していて身体全体も傷だらけだ。
「名前さんが、ガラスにヒビを入れてくれたお陰で助かりましたよ。あれを蹴破るのは難しそうだ」
「そんな…そんなことより、どうして庇ったりなんか……!!」
ダラダラと流れる頬の血を拭いながら、いつもの笑顔で平然と話す安室。名前は、眉を寄せて安室に詰め寄る。
「あなたは、私のことを疑ってるんでしょう!?私は、疑われるだけの事をしている自覚もある!!庇ったりなんかしなくても……」
「その銃は、改造銃で本物ではありません」
傷だらけの安室とは対象的に、自分は打ち身や僅かな切り傷程度ですんでいる事に名前は心苦しさを感じて詰め寄るが、それを遮るように安室は言葉を続ける。
「"怪盗キッド"、その名称をあなたは一度も口にしていない。我々が状況証拠だけを積み上げて奴との関係を疑っているだけで、何の証拠も掴めていない」
「…………。」
「その銃も、今日TOKIWAのフロアに忍び込んだ件も……立件しようとすれば、大した罪状もつかないでしょう」
「何が言いたいんですか?」
「……つまり、限りなくグレーに近いあなたも…俺から見れば守るべき国民の一人だと言うことだ」
「!!」
「俺は自分の果たすべき職務を全うしただけだ。気に病む必要はない」
「…………そんな、」
平然とそう答える安室に、名前はドッと身体の力が抜けるのを感じて床に座りこむ。
「名前!!!」
その時、安室の後方から名前を呼ぶ声が聞こえてゆるりと顔を上げると、慌てた様子の快斗が駆け寄ってくる。
「ガラスの割れる音が聞こえたと思ったら…おい、まさか飛び降りたのか!?」
快斗は割れた窓やボロボロになった消化ホースを見て状況を悟ったようで、顔を青くして名前の前にしゃがみこむ。
「……快斗、怪我してる」
自分を覗き込む快斗の頬や腕に血が滲んでいるのに気付いた名前は、ソッと頬に手を伸ばす。
「ああ、瓦礫を避ける時にちょっとな。俺は大した事ない。名前はちゃんは?大丈夫だった?」
「私は平気……」
名前は快斗の肩口に顔をうずめて小さく息を吐き出す。快斗の顔を見た途端に、押さえ込んでいた恐怖心が膨れ上がってきたのか、今さら身体が震え出す。
「怖かったよな。悪い……いくらチャンスとは言え、やっぱり名前ちゃんにまでこんな危ない事をさせるべきじゃ……」
「……快斗」
名前の身体をソッと抱きしめて、落ち着かせるようにポンポンと背中を撫でる快斗。後悔したように何かを言おうとした言葉を、名前はゆっくりと遮る。
「安室さんが庇ってくれたの。彼の方がたくさん怪我してる」
「え?……ああ、そうなの?」
(やべっ、名前ちゃんに気をとられてここにアイツがいるの忘れてた)
快斗はその言葉を聞いて、我に返ったようにパッと名前から身体を離すと、くるりと後ろを振り返る。
「ハハ、僕の事なんて忘れていただろう?君も爆発のあった階にいたようだが、お互い無事で良かったですね」
快斗と目が合った安室は、可笑しそうに笑いながらそう声をかける。
「………あー、いや。ありがとうございました、名前の事」
「ふっ、構いませんよ」
「えーと、怪我は大丈夫ですか?肩が一番傷が深そうですね。止血しますよ」
快斗は気まずそうに頬を掻きながらも、安室に近づいていき怪我の状況を一通り確認する。そして、破れかけている自分のシャツの裾をビリビリと裂いて安室の肩に巻き付けていく。
「助かります。片手ではうまく出来なかったので。それにしても、やけに手慣れていますね」
「えー、そうですか?保健体育の授業で習ったばっかりなんですよ」
「ほー、そうですか」
「………よし、こんなもんですね」
(……すげぇ怪しまれてる。当然か…俺が別の階に行ってたのもバレてるみてーだし、さっきも余計な事まで言いそうになったし)
目を細めて自分を見てくる安室の視線を感じつつも、快斗はギュッと止血を済ませると、笑顔で視線を合わせる。
「どうですか?キツくないですか?」
「いえ、問題ありませんよ。ありがとうございます……ここは、64階ですか」
安室はそんな快斗を一瞥したあとに、グルリと辺りを見渡す。
「階段はまだ普通に使えますよ。ただ、40階より下の方は爆発の影響で煙が来てて降りれませんけど。とりあえず、60階の連絡橋まで行きましょうか?そこまで行って隣に移れば、問題ないですよね」
快斗はそう言葉を返しながら、名前の側に戻って手を差し出す。
「名前ちゃん、立てるか?」
「平気よ、ありがとう」
身体の震えも落ち着いた名前は、快斗の手を取ってゆっくり立ち上がる。
「では、移動しましょう。またどこかが爆発なんてしたら困りますから」
そんな二人の様子を確認した安室は、気付かれない程度にホッと安堵の息をついた後、二人に声をかける。そして、安室を先頭に三人は連絡橋のある60階に向かって足を進めた。