「天国へのカウントダウン」編
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「……っ、いたた」
「おい、大丈夫か!?」
立ち込める砂埃のなか、安室の機敏な反応により何とか爆発から逃れた名前達。名前は打ち付けた膝を擦りながら、安室に向かって「大丈夫です」と、小さく言葉を返す。
「70階の中でも、さっき僕達がいたフロアだけ爆発しているな…一体誰が何のために?」
「……………。」
名前は安室の言葉を聞いてぐるりと辺りを見渡す。非常階段は瓦礫に覆われてしまっているが、爆発自体はつい数分前まで自分たちがいた"システム開発部"のフロアで起きたようだ。爆発の影響か、大きな窓ガラスが割れて外から冷たい風が吹き込んでくる。
---ブー、ブー
その時、名前の携帯が震える。
「……もしもし?」
『あなた達、今どこにいるの!?大丈夫なの?』
「今のところ平気よ、そっちは?」
着信相手は灰原だったが、安室の手前灰原の名前を出さないようにしながら名前は会話を続ける。
『こっちは平気よ。展望エレベーターが別電源で動くから、女性と子供はエレベーター。それ以外は、階段で60階の連絡橋から隣のB棟に渡って避難することになったわ』
「そう、わかったわ。私の方も何とかするから、そっちは気にせずに避難してね」
『……警備室からの連絡によると、爆発したのは地下の電気室。それから、40階のメインコンピューター室と70階のシステム開発部のフロアよ。あなた達がどこにいるか知らないけど、そこの階は避けて……』
「40階!?あそこも爆発したの?」
『ええ、そうみたいだけど。もしかして、あなた達……』
名前は灰原からの情報に戸惑ったように声をあげると、灰原が何かを言っているのを尻目に無意識に通話を切る。そして、すぐに耳元のイヤリングに触れる。
安室は名前の会話を背中に聞きながら避難退路を探していたが、突然焦ったように声をあげた名前に気付いて、くるりと名前に視線を向ける。
「快斗!!快斗、無事?返事して!」
安室の視線の先では、イヤリングに触れながら名前が取り乱したように大声で声をあげている。
「……………。」
(あの焦り方…黒羽快斗は40階にいたのか?それにしても、あのイヤリング…まさか、さっき黒羽快斗が耳元に触れていたのは…)
『ゲホ…ハァ、名前ちゃん?』
「快斗!良かった…」
安室が名前の様子をジッと見つめる中、名前の耳元からは咳き込んでいるものの快斗からの返答が聞こえてきて、名前はホッと肩の力を抜く。
『ゲホッ!クソッ、すげー煙!!……会場に戻ろうとしたところで、いきなりコンピューター室が爆発したんだ!部屋から出た後で良かったぜ。そっちは!?大丈夫か?』
「こっちも、システム開発部のフロアが爆発したけど、私は大丈夫。情報源を狙ってる辺り、やっぱり組織の仕業じゃないかしら?」
名前はそう言いながら、チラリと自分に視線を向ける安室を見る。"組織の仕業"と言う言葉を聞いた安室は、驚いたように目を丸くしている。
「とりあえず、40階なら連絡橋が近いわよね?快斗はそのままビルから出た方が……」
『おいおい、待てよ。一人で避難するわけねーだろ。そっちはどうなってんの?』
この後もどこかが爆発しないとも限らないため、早くビルから出るようにと言おうとした名前の言葉を、快斗は呆れたように遮る。
『米花シティビルの時もそうだったじゃねーか。オメーがそういうこと言うってことは、そっちの状況がよくないんだろ?』
「………あー、うん」
名前は呆れたような快斗の声を聞いて小さくため息をつくと、チラリと前方の崩れた瓦礫の山を見上げる。
「こっちは、ちょうど非常階段の前が瓦礫で塞がってて使えないの。でも、まだ展望エレベーターが……」
「話を遮ってしまいますが……先ほどまで動いていた展望エレベーターも、何故か45階で止まったまま動きませんね」
名前の会話を聞いていた安室は、快斗の言葉は聞こえないものの会話の流れは概ね理解出来たのか、絶妙なタイミングでそう口を挟んでくる。
「え?そうなんですか?確か、避難に使っているはずなのに……困りましたね。このままだと、救助が来るまでこの階から動けないわ」
「……まぁ、方法はないわけではありませんが。このまま待っていても、救助が来る前に火の手が回ってくる可能性もありますし」
「何か考えがあるんですか?」
『ん?おい、そこに名前ちゃん以外に誰かいんのか!?』
快斗はイヤホンから聞こえる名前と第三者の会話に、驚いたように目を見開いて名前に尋ねる。
「え、あ…うん。そうなの、実は安室さんが一緒で……」
『はあ!?何で?』
「なんか、後を尾けられてたみたいで…」
名前はそう言いながら安室に視線を向けると、安室は防火扉を開けて消化用のホースを引っ張り出している。
「………安室さん、それってまさか、」
「ええ、そのまさかですよ。この階は瓦礫で階段に行けないだけで、他の階にさえ移動できれば退路は確保出来ますからね」
それを見た名前は呆気にとられたように目を丸くするが、安室は大したことはないというように肩をすくめる。
『おい、名前ちゃん!?その店員と一緒で大丈夫なのかよ?』
耳元から聞こえる快斗の声を聞きながらも、名前は安室の手にあるホースと割れた窓ガラスを見比べる。
「そのホース、20mってところですか?そうすると、降りられても5~6階下ですかね」
「まあ、そうなりますね。下に降りたときの窓ガラスは……僕が適当に蹴破りますので。任せてください」
「……ハハ、蹴破るって。拳銃は?」
「さすがに四六時中持ち歩いているわけじゃありませんよ」
「そうですか。なら、私のを使いましょう」
「は?」
「快斗、とりあえず階の移動は出来そう。64~65階に降りるから、そのあとは60階の連絡橋から隣に移るわ」
名前の言葉にポカンと口をあける安室を尻目に、名前は安室から視線をそらしイヤリングに触れながら快斗に状況を説明し始める。
『……おいおい、64~65階って曖昧だな。どうやって移動するんだよ?』
「それは………」
---ガッシャーン!!
----ゴォォォ!!
名前が快斗の問いに答えようとしたタイミングで、システム開発部のフロアから勢いよく爆風と炎が上がる。
「………二次爆発?」
「まずいですね。火の手がこちらまで来る前に移動してしまいましょう」
ゴォ、ゴォと燃え盛る炎の熱風が、名前と安室のいるところまで届く。二人はそれを見て顔を見合わせると、ホースを持って割れた窓に近付いていく。
『名前?今、爆発音がしたけど大丈夫か?』
その時、耳元から焦ったような快斗の声が響く。
「大丈夫。火の手が回る前に移動するわ。とにかく…私の方もちゃんと避難出来そうだから、快斗も早く外に!」
『ダメダメ!!名前ちゃん置いていくわけねーだろ!もう階段で上にあがってっから!!』
「え?そんな、」
『先に逃げろっていう説得は聞かねーぞ!!待ってっから、早く来いよ!!』
「あ、ちょっと………もう!」
快斗は一方的にそう告げると、通信を切ってしまう。名前は、声が聞こえなくなったイヤリングに触れて小さくため息をつく。
----バサッ
「どうかしましたか?」
安室はホースを近くの鉄柱に巻き付けながら、名前にチラリと視線を向ける。
「いえ…とにかく、早く行きましょう」
(危ないから避難してほしいのもあるけど、この状況で安室さんと快斗を対面させたくなかったな……)
名前は心の中でため息をつきながらも、安室にそう声をかけた。
安室と名前がシステム開発部のフロアで対面していた頃、パーティー会場にいたコナン達は、男性と女性・子供に別れて避難を始めていた。
(この爆破の規模と、用意周到な計画性……まさか、爆弾を仕掛けたのは黒ずくめの男達なんじゃ?)
コナンが明かりの消えた会場を見渡していると、後ろから声がかかる。
「コナン、俺たち先にいくぞ!」
「コナン君、大丈夫?」
「ああ、俺は蘭姉ちゃん達と行くから大丈夫だ。お前らは先に乗れ!」
コナンは、先に展望エレベーターに乗り込んだ少年探偵団達を見送ったあと、自分の順番を待ちながら考えを巡らせる。
(だとしたら、コンピューター室を爆破した理由もだいたい想像出来るが…なぜ電気室まで?)
「新一君、ワシは階段で先に行っておるぞ」
「ああ…わかった。あ、一つ頼みがあるんだが……」
考え込んでいたコナンにコソコソと話しかけた阿笠。コナンは、ふと思い出したように阿笠の耳元で何かを告げる。
「ふむふむ、わかった。任せておけ!ところで、名前君と黒羽君は大丈夫かのう?」
「え?あの二人、まだ戻らないのか?」
トイレに行ったと聞いていたコナンは、とっくに二人は会場に戻ってきていて、爆発後に避難した人込みの中に二人も含まれていたと思っていたため目を丸くする。
「ああ…さっき哀君が名前君に電話していてなぁ。無事は確認したようじゃが……」
「灰原が?」
(あいつら…一体なに考えてんだ?)
「阿笠さん!避難しますよ!」
コナンが不審そうに眉を寄せて考え込んでいると、避難誘導をしている白鳥が阿笠に声をかける。
「……とにかく、俺も移動したら名前達を探してみっから。博士はさっきの件、頼んだぞ」
「わかった。また後でな!」
---ウィィーン
阿笠達が階段で避難してからしばらくして、展望エレベーターが戻ってくる。
(電気室まで爆発したのは、スプリンクラーを作動させないためか?それとも、他に何か目的が……?)
コナンは再び考えを巡らせながら、蘭や園子、沢口、他に数名の女性客と共にエレベーターに乗り込む。
「でも、このエレベーターだけ別電源で良かったよね!!そうじゃなきゃ、階段で降りるんじゃ大変だったよ」
そんなコナンの後ろで、園子がため息をつきながら蘭と会話している。コナンは何気なくそんな園子の方に視線を向ける。
「!?」
(ま、まさか…!!)
その時、ふいに園子の姿が"宮野志保"の姿と重なって見えて、コナンはハッと息をのんでエレベーターの外に目を向ける。
--ピピッ!
エレベーターの正面に立つビルの屋上を、メガネの望遠機能を操作しながらジッと目を凝らして見つめる。
(あれは……ジン!?)
そこには自分達の方に向かってライフルを構えるジンの姿があり、コナンはバッと後ろを振り返る。
(レーザーポインター!?まずい!!)
振り返った先では、蘭と笑顔で話す園子の首元から頭に向かってレーザーポインターがゆっくりと動いている。
「そ、園子姉ちゃん!!パンツ丸見えっ!!」
「ええっ!?」
園子の頭でレーザーポインターが止まったタイミングで、コナンは咄嗟に園子に向かってそう叫ぶ。すると、園子は目を丸くしてガバッと頭を下げてスカートを押さえる。
---パリーンッ!!
すると、それと同時に園子の後ろにあった操作盤が音を立てて割れ、エレベーターの動きが止まる。
「キャアーッ!!」
「な、何!?何が起こったの!?」
突然の事に園子が顔を青くして慌てていると、園子に標準が合わされていたレーザーポインターの光が消える。
(レーザーポインターが消えた……人違いに気付いたか…?)
コナンはそれを確認して小さく安堵の息をつく。しかし操作盤が狙撃されたせいか、エレベーターは動かなくなってしまい、扉も開かない。
---ドォォォンッ!!!
「キャア!!また、どこかが爆発したわ!!」
「見て!煙よ!!煙が入ってきてる!このままエレベーターに閉じ込められたら、私たち……!」
「蘭姉ちゃん!!僕をおんぶして!!」
「え?わ、わかったわ!!」
外からは爆発音が響いており、扉の隙間からエレベーターの中に少しずつ煙が入ってくる。乗客達が戸惑ったように悲鳴をあげるなか、コナンは蘭の肩に乗ってエレベーターの天井に設置された点検口の扉を開ける。
「ここから外に出よう!!早く!」
コナンの誘導のもと、蘭や園子、乗客達はエレベーターの点検口から一人ずつ外に出る。
「ハァ……外に出れて良かったわ!」
「ここ何階かしら?」
「45階だよ!」
「良かった!連絡橋がある階ね!隣のビルに移動しましょう」
蘭と園子はパッと顔を見合せて安堵の息をつく。コナンや他の乗客達も沢口の誘導に従い、急いで連絡橋を渡った。