「天国へのカウントダウン」編
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薄暗い保管庫で段ボールや戸棚をガサガサと探っている快斗。既にTOKIWAのメインコンピューターの中の原の物と思われるデータファイルのコピーは終えた。あとは、会社に残された私物を見つけるだけだ。
『快斗!』
「名前、どうした?」
その時、いつもよりも少し焦ったような名前の声がイヤホンから響き、快斗はピタリと手を止める。
『そっちは大丈夫?』
「ああ、問題ない。データはうつした、後は私物を見つけるだけだ。名前ちゃんこそ、何かあったのか?」
『殺人事件が起きたの』
「はあ!?」
思いもよらぬ名前の返しに、小声で話していた快斗も思わず声を荒げる。
『常磐美緒さんがパーティー会場で殺されて、お猪口もあった』
「まじかよ…まだ、犯人がウロついてるって事だろ!?名前ちゃんは大丈夫か?」
(またお猪口があるってことは、連続殺人ってことか?)
自分から離れたところで事件に巻き込まれている名前を心配して、快斗は更に言葉を続ける。
「警察も来てるんだろ?俺も早めに切り上げるから、名前ちゃんはなるべく警察か名探偵のそばに……」
『今、70階のシステム開発部のフロアに向かってるわ』
「え!?」
『安室さんが捜査の方に気をとられてたから、その隙に会場から出てきたの。もうすぐ着くわ』
「お、おいおい…大丈夫かよ?」
(殺人事件が起きたっつーのに、あんまり一人でウロつくなよ)
名前の言葉に、快斗は驚いて目を丸くする。
『大丈夫よ。ただ、警察も来てるからあんまり長く会場にいないと怪しまれると思う。さすがに、犯人に疑われる事はないと思うけど……それだけ知らせたくて』
「………はあ、わかった。お互いに、あと10分で戻ろう。名前ちゃんもだぞ!何にも見つからなくても、無理しなくていいからな!」
快斗は名前の事が心配で焦る気持ちを押さえるように、目元に手を当てながら小さく息をついてそう告げる。
『わかったわ。快斗も気をつけてね』
しかし耳元から聞こえる名前の声は不安や焦りの色もなく、ただ自分の身を案じるような優しい声だった。
card.631
(くそっ、事件に気を取られて目を離した隙に!!)
ステージを降りた安室は、ぐるりと会場内を見渡すが名前の姿が見当たらないことに小さく舌打ちする。一部では高校生探偵と謳われている名前が、ステージ上に上がって来ない時点で気付くべきだった。
(三船拓也は……あそこにいるか。黒羽快斗もいない!まさか、あの時会場から出たのはトイレじゃなかったのか?)
安室はバサッと前髪を掻き上げると、足早に会場の出口に向かう。
「あ、安室さん!」
「……蘭さん、園子さんどうしました?」
しかし自分を呼び止める声に、グッと立ち止まると笑顔で言葉を返す。
「あの、常磐さん…どうでした?」
自分に声をかけてきた蘭達は、不安そうに暗幕の降りたステージに目を向けている。
「………常磐さんは、残念ですが」
「そんな……!」
「一体、誰があんな事を!?」
「今、毛利先生と目暮警部達が捜査中です。どこに犯人がいるか分かりませんから、蘭さん達は会場内にいてくださいね」
「安室さんは?」
「僕は、事件の捜査で少し確認したいことがあるので」
安室さんはいつもの笑顔でそう言い残すと、再び出口に向かって足を速めた。
「あの、今思い出したんですが…暗くなった直後に誰かが美緒さんに駆け寄って、何か言ってるのを気配で感じました」
「何ですって!?」
「男でしたか、女でしたか!?」
安室がステージを去ってしばらくしたあと、風間がふと思い出したようにそう話始める。目暮やコナンは、真剣な表情で詳細を確認していく。
「……その時に、微かに香水の香りが」
風間はチラリと沢口を見ながら、言いにくそうにそう答える。
「……はい、確かに行ったのは私です!で、でも…段取りについて確認していただけです」
沢口が戸惑ったようにそう答えるのを尻目に、小五郎がいつものように声を荒げて「分かりましたよ!!犯人は、沢口ちなみさん!あなただっ!!」と勢いよく断言する。
「!?ち、違います…どうして私が」
「……………。」
(おいおい、大丈夫かぁ…?)
小五郎の足元で、コナンは呆れたように小五郎に目線を向けている。
「沢口さん、あなたのお父さんは正義感の強い新聞記者で常に政治家などの不正を追及していたそうですね…」
「は、はい…そうですが」
小五郎は戸惑う沢口に向かって、正義感の強い父親の性格を受け継いだ沢口はツインタワービル建設に伴う不正を許すことが出来ず反抗に及んだのではないか、と問い詰める。
「そ、そんな…私じゃありません!」
「だが、毛利君。犯行現場に残されていたお猪口は、沢口さんとは何の関係もないんじゃないか?」
「いえ、警部殿!お猪口は漢字で、猪の口と書きます。沢口さんは猪年で苗字に"口"がつき、2つ会わせると猪口になります」
目暮の疑問に、小五郎はスラスラと推理を続けていく。
「つまり彼女は、自分の分身であるお猪口を叩き割り…身を裂くような怒りのメッセージとして現場に残したんですよ!!」
「なるほど…」
「眠っていないのに辻褄があっている…」
「ハーッハハハ!!」
小五郎の推理に、感心したように顔を見合わせる目暮と白鳥。小五郎は得意気に笑い声をあげる。
「そんなの、トンチが利いたただのコジつけだよ!」
「な、何ぃ!?」
しかしそんな小五郎の足元から、呆れたような顔をしたコナンが水を差すように声をあげる。
「だって、今回のお猪口は割れていなかったじゃない!!身を裂くような怒りを表したいんなら……」
「お前はっ!!ガキは引っ込んでろっ!!」
「うわっ…!?」
小五郎の推理の矛盾を指摘していたコナンだったが、額に青筋を浮かべた小五郎にブンッと放り投げられてしまう。
----ドサッ!!
「イッテー!!くそっ!!……ん?」
関係者の輪の中から放り出されたコナンは不満そうに顔をしかめながら、ふと自分のすぐ頭上に掲げられた日本画を見上げる。
(………まさか!あのお猪口は!?)
そして、常磐がステージ上に吊り上げられていた時の様子を思い浮かべて小さく息をのむ。
(だが…そうなると、あの事件は…もしかしたら、奴等が!?)
そして、脳裏に浮かんだ様々な情報からある一つの結論にたどり着きグッと眉間にシワをよせた。
「………あと5分か、」
システム開発部のパソコン画面を操作しながら、名前はチラリと時間を確認する。
(快斗との約束通り、そろそろ会場に戻らないと………残念だけど、やっぱりここには大した情報はなさそうね。快斗が見つけたデータの方に期待するか)
名前は小さくため息をつくと、目の前のパソコンをシャットダウンするためにマウスを動かす。
「こんな所で何をしているんです?」
「!?」
その時、背後から突然声がかかり名前は息をのんで振り返る。
「………安室さんこそ、どうしてこんな場所に?」
名前は、自分のすぐ後ろの壁によりかかり腕を組んでいる安室の姿を見て眉を上げるが、動揺を悟られないようにしながら言葉を返す。
(快斗に連絡……いや、今ここで連絡を入れたら…快斗の存在も疑われるわね)
そして、一瞬耳元に伸ばしかけた右手の動きを止めてグッと拳を握る。
「あなたを探しに来たんですよ。高校生にしては頭がまわるようですが、背後からの気配にも疎く隙だらけだ。"こういう事"には慣れていないんでしょう?何のためにこんな事をしているんです?」
「………なるほど。ゼロでもありNOCの安室さんともなれば、私なんかよりも"こういう事"は得意そうですね」
(……どうしようかしら、対峙しちゃった以上はある程度こちらの手札を見せて、協力関係を得られるようにもちかけるべきか)
「ほー、君とはゆっくりと話す必要がありそうですね」
「………そうでしょうか?」
(だけど…今の時点で疑われていない快斗には、余計な疑いをかけられない方が今後動きやすいかもしれない。キッドの情報は最小限に……)
名前は、頭の中で自分がどう発言するべきか必死に思案しながら安室との会話を続けていく。
「私が、今日"ここ"で何をしているのか…分かりませんか?」
「分からないから聞いているですけどねぇ。あなたの親しい"身近な人"とやらと、TOKIWAに何か関係があるんですか?」
名前の質問に、安室はピクリと眉を上げて僅かに苛立ったように言葉を返す。名前は、安室のその言葉を聞いてわざとらしく口元に笑みを浮かべて見せる。
「なるほど、そうですか。残念ですけど…今の段階で安室さんの掴んでいる情報は、私のソレよりも弱いようですね」
「何だと!?」
「私が今日"こういう事"をしているのは、あなたの捜査対象である組織の情報を探るためですよ」
「ここに組織の情報があるということか!?」
カッと目を見開いて問い詰める安室の反応を見て、名前は内心安堵の息をつく。
(よし、このままキッドの事には触れずに組織の話題の方に引っ張れば……)
「この会社に、組織の人間がいたのはご存じありませんか?ピスコの進言があって相応の地位を得た人間です」
「!?」
「まあ、そのピスコは既にジンによって殺されてしまいましたけど。そして、この会社にいた人間もおそらく同様に」
「君は一体……なぜ、そんな事を知っているんだ?」
(ピスコだと?俺がコードネームを得る以前に、組織の上層部にいた人間のはずだ……)
安室は自分の知らない組織の情報や、ピスコやジンという名前を平然と口にする名前に、戸惑ったように言葉を失う。
「この会社にいた人間も…とは、どういう意味だ?まさか、この連続殺人の被害者の中に組織の人間がいたのか?」
「………その辺りの事も含めて…ですが、どうですか?私と取引しませんか?」
「取引だと?」
「私達はきっと、そちらの知らない情報を持っています。お互いの情報を……」
----ドォォン!!ズズズ…
「……何?」
しかし名前が本題に入ろうとしたタイミングで、地震のような地響きと共に建物全体の照明が落ちる。
「地震でしょうか?」
「いや、僅かに爆発音が聞こえた」
「爆発!?電気室は、確か地下4階ですよ」
「………よく知っていますね」
「ハハ、下調べしてきていますので」
ジロリと訝しむような視線を向けられて、名前は曖昧に微笑む。
(……爆発音がここまで小さいってことは、爆発した場所は離れているはず。40階にいる快斗は大丈夫かしら?)
そして、不穏な状況に軽く耳元のイヤリングに触れて眉を寄せる。
「とにかく、話は後だ。爆発音も気になるし、今はお互いに会場に戻った方がいいでしょう」
「……そうですね」
そんな中、いつの間にかペンライトを手に持っている安室の誘導によって、名前はシステム開発部のフロアを出て非常階段に向かう。
---カッ!!
-----ドォォォン!!!
そんな二人の背後で鋭い閃光と共に、激しい爆発が起こる。
「!?」
「危ないっ!!!」
突然のことに息をのんで立ちすくむ名前。そんな中でも冷静に反応した安室は、グイッと名前の腕を引き寄せる。反応が遅れた名前は、激しく爆音と砂ぼこりの中で成す術もなく、安室に腕を引かれる力に身を任せることしか出来なかった。