「天国へのカウントダウン」編
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『……我が国が誇る日本画の巨匠、如月峰水先生の作品を』
---ブー、ブー
小五郎や蘭達と共にマスタング・コンバーチブルの写真を撮った流れで、蘭達と一緒にステージを見ていた安室。ふいに響いたバイブ音に気付いて、胸元から携帯を取り出す。
「ちょっと、失礼します」
そして画面を確認すると、蘭や園子に軽く目配せした後に会場の出口に向かいながらチラリと名前の方へ目線をうつす。
(……黒羽快斗と何か話しているか)
名前に特に変わった動きがないことを確認して、安室は会場の外へ向かった。
card.630
『お電話大丈夫でしたか?』
「構わない、何か分かったか?」
『三船拓也は、降谷さんのおっしゃっていたように三船電子工業の社長です。経歴に不審な点はありません』
「例の件は?」
『怪盗キッドが事件を起こした日に、何度か遠方への出張や企業パーティーに出席していることが確認出来ました。キッドではなさそうですね……まあ、年齢が26歳なので20年以上前から世間に知られているキッドと考えると辻褄が合いませんが』
「………そうか、わかった」
安室は小さくため息をつきながら、通話を切る。
(随分と親しげな様子だったが、ハズレか。しかし、名前と三船拓也…それに黒羽快斗。あの3人に感じた、妙な連帯感は一体…?)
安室が考えを巡らせていると、ふと会場から誰かが出てくるのが見える。
(………あれは黒羽快斗?)
軽く耳元を掻きながら、会場から出てきた快斗。その様子を物陰から窺っていると、快斗は迷う様子もなく真っ直ぐトイレへ入っていく。その様子を見て、安室は小さくため息をついて物陰から出ると会場に足を向ける。
(どこへ行くのかと思ったが、トイレか。……それにしても、キッドは名前の周りの人間ではないのか?まだ俺が接触していない人物…?そもそも、年齢だけ見てもキッドに該当するような人間は名前の周囲にいないはずだ。……いや、もしかしたら…)
安室は眉を寄せながら、会場の扉を開けて足を踏み入れた。
『快斗』
パーティー会場が暗転したのに乗じて会場から出ようとしたところで、イヤホンから今別れたばかりの名前の声が響く。
「どうした?」
『会場に安室さんがいないわ、外にいるのかも。移動するとき注意して』
その言葉を聞きながら警戒しつつ会場から出ると、少し離れた物陰に人の気配を感じる。
(あっぶねー、とりあえずトイレ行っとくか)
快斗は表情は変えずに内心ため息をつきながら、真っ直ぐトイレに向かう。
そして足取りを緩めないまま奥の個室に入り、自分の後から誰も着いてこないことを確認する。
「名前ちゃん、助かった。ロビーの物陰からこっち見てたっぽい」
『たまたま外に出てたのかしら……あ、今会場に戻ったわ』
「おし、サンキュー!じゃ、行ってくるわ」
『気をつけてね』
「おう、また後でな」
(頼りになる相棒だよ、まったく)
快斗は口元に小さく笑みを浮かべながらトイレから出ると、メインコンピューター室と保管庫のある40階に向かった。
『……如月先生は富士山をこよなく愛され、30年以上の長きにわたって富士山を描き続けてきました』
(……さっそく、コレを使うことになるとはね)
名前はステージに次々と映し出される富士山の絵を見ながら、軽く耳元のイヤリングに触れてため息をつく。
「……あなた達、何をたくらんでるの?」
「!?」
そんな時ふいに足元から声をかけられて、名前は驚いて視線を向ける。
「何だ、哀か……」
「黒羽君コソコソ出ていったし、何かしてるんでしょう?大丈夫なの?」
そこには、腕を組んで呆れたように自分を見ている灰原の姿。
「コソコソって、別に……」
「あなたが妙な仮説をたてて、何かを探ってる話は聞いたわよ」
「え?快斗、そんな事まで話したの?」
「あら、聞いてないの?」
驚いたように目を丸くする名前に、灰原は意外そうに首を傾げる。
「快斗と哀だからこそ出来る話もあるだろうと思って、二人で何を話したかは聞かなかったのよ。案外仲良くいろいろ話したのね」
「……お節介ばかりね、私のまわりは」
嬉しそうに笑う名前を見て、灰原はふいっと視線をそらす。
「それで?今日は何を考えてるの?」
「ちょっと探し物をね。本当は、私も抜け出したいんだけど……ちょっと、視線がうるさくて」
「?」
ため息混じりに呟いた名前が、チラリと向けた視線を辿っていくと薄暗い会場でも一際目立つ金髪の男が見える。
「ふーん……なるほどね、あの人を撒くのは難しそうね」
「そうなのよ。ま、快斗に目がいかないように私が引き付けていられてる時点で、一先ずは及第点ってところね」
腕を組んで壁に寄りかかりながら呟く名前を、灰原はチラリと横目に見る。
「あらあら、すっかり彼の仲間っぽくなっちゃって。工藤君にバレたら大変ね」
「本当ね……内緒にしてよ?」
「大丈夫よ、黒羽君とそういう約束だもの」
「………あら、随分と仲良さそうじゃない」
「ちょっと。さっきは嬉しそうにしてたくせに、急に不機嫌にならないでよ」
『そして今回如月先生には、ツインタワービルオープンを祝って新作を寄贈してくださいました!!それがこちらです!』
灰原が呆れたように名前に視線を向けたタイミングで、会場に高揚したアナウンスが響く。新作披露のために、パッとステージがまばゆいライトで照らされて、名前と灰原も自然とステージに視線を向ける。
「え!?」
「あれは…!」
しかし、ライトアップされたステージを見た二人は息をのんで目を見開く。
「きゃあああっ!!」
それと同時に会場のあちこちから悲鳴があがる。会場の全員が注目していたステージには、大きな富士山の絵の真ん中に、ぐったりとした常磐美緒が首を吊られてぶらさがっている。
「しゃ、社長…!?」
「くそっ!」
「常磐君!!」
戸惑うスタッフを尻目に、コナン、小五郎、安室はいち早く駆け出してステージに上がる。
「下ろせ!!美緒君を下ろすんだ!」
「は、はい!」
小五郎の指示を受けて、舞台袖にいた沢田が我に返ったように機械を操作して、常磐の身体を吊り上げている装置を下げる。そして、ゆっくりと降りてきた常磐の身体をステージ上に寝かせると、小五郎が急いで首元に触れる。
「…………駄目だ」
しかし常磐は既に息絶えており、小五郎はがっくりと肩を落として呟く。
「見て、安室さん。真珠のネックレスにピアノ線が繋がれている」
「……ピアノ線は、キャット・ウォークに通されているようだね。絵が下がるのと逆に、常磐さんが引っ張りあげられるようになっていたんだ」
ステージの上で、コナンと安室はコソコソと状況を確認している。
「……名前、あそこ」
「あれは…お猪口!?今回は割られていないわ」
ステージの近くまで近付いた灰原と名前は、ステージ上に置かれたお猪口を見つけて顔を見合わせる。
(……ということは、西多摩市議の大木さんと原さんを殺した犯人と同一犯?だけど、なぜ今回のお猪口は割られていないのかしら。それに原さんだけは、もしかしたら……)
「おい、俺は警部殿に連絡する。お前は舞台のカーテンを降ろすように頼んできてくれ」
「わかりました」
名前がステージに置かれたお猪口を見ながら考えを巡らせていると、ステージ上にいる小五郎が安室に指示を出しているのが聞こえてくる。
「…………。」
「ここにいると、捜査の状況がわからなくなるわね。私たちもステージの上に上がる?」
隣にいる灰原にもその会話は聞こえていたようで、チラリと名前を見ながらそう尋ねる。
「いや……こんな時に不謹慎だけど、むしろチャンスかもしれない」
「え?」
名前は、ステージ袖の沢口に何かを確認している安室の横顔を見ながらポツリと呟いた。
「なるほど…絵が下がるのと同時に、常磐さんの身体が吊り上げられたわけか」
「その時、舞台にはどなたがいたんですか?」
駐車場で待機していた目暮達は、小五郎の連絡を受けてすぐにやってきた。暗幕を下ろしたステージの上では、小五郎や事件発生時ステージ上にいた関係者を含めて現場検証を行っている。
「舞台には、如月先生と風間さんがいました。私は、そこの舞台袖で日本画の入れ替えをするために機械の操作をしていました」
「なるほど…舞台上の立ち位置的には、ピアノ線の細工が一番容易に出来るのは如月さんですが…」
関係者の立ち位置を確認した白鳥がそう言いながら如月に視線を向けるが、如月はふんっと鼻を鳴らす。
「私は知らんよ。第一、そのお猪口があるところを見ると…これは、連続殺人なんだろ?」
「!」
「私は、2件目の原さんの時にアリバイがあるはずだ」
如月の正論を受けて、白鳥や小五郎はぐっと言葉に詰まる。
「しかし、妙ですね。ネックレスにピアノ線を引っかけられたら…さすがに暗闇でも気付くと思いますが」
「うむ、安室くんの言う通りだな。もしや、常磐さんはパーティーの間に相当お酒を?」
「い、いえ…そんな事はないはずです。しっかりお話もされていましたし、酔っているようには見えませんでした」
そんな中、安室の言葉を聞いた目暮が眉を寄せながら常磐の様子を沢口に確認する。その様子を横目に見ながら、安室はぐるりと関係者の顔色を確認していて、ふとあることに気が付く。そして、ハッと小さく息をのむと、踵を返して舞台袖に向かう。
「安室さん?」
その様子に気付いたコナンが不思議そうに声をかけるが、安室はコナンの呼び掛けに答えないまま足早にステージを降りていく。
「?」
(どうしたんだ?何か気付いたのか…?)
「工藤君」
コナンがそんな安室の様子に首を傾げていると、ふと後ろから小声で声がかかる。
「どうした?灰原」
「ここに、真珠が一つ落ちてるわよ」
「何!?」
いつの間にかステージに上がってきていた灰原が、舞台の隅を指差しながらコナンにそう告げる。コナンは慌てて灰原のそばまで駆け寄ると、コロンと1つだけ落ちている真珠をハンカチで拾い上げる。
「……妙だな。亡くなった常磐さんのネックレスは壊れている様子はなかったけど」
そう呟きながら、コナンはふと辺りを見渡したあとに灰原に視線を向ける。
「ん?名前がいねーな…黒羽も。あいつら、どこにいるんだ?」
そして事件が起きたというのに、現場に姿を見せない二人に首を傾げる。
「さあ?そういえば、事件の起きる少し前に、黒羽君がトイレに行ったみたいだから。名前は探しにでも行ったんじゃない?」
「ふーん?安室さんもいなくなっちまうし……ったく、仕方ねぇ。一人で考えるか」
灰原の説明に納得したのか、コナンは小さいため息をつく。
「灰原、オメーも何か気付いたら言えよ」
「わかったわよ。だけど、あんまり期待しないでよね」
「へいへい」
コナンは軽い調子でそう言うと、関係者に事情を聞いている小五郎や目暮の元に近寄って行く。
「…………。」
(さて、工藤君は事件に夢中だからしばらく大丈夫そうだけど。さすがに、あの人は気付いたみたいね)
捜査に参加するコナンを横目に見ながら、灰原は小さくため息をつく。
(邪魔が入らないうちに、探し物とやらが見つかればいいけど)