「天国へのカウントダウン」編
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『皆様、本日は私どもTOKIWAのツインタワービルのオープンパーティーにご臨席くださいまして、誠にありがとうございます』
名前と快斗が会場に到着してしばらくしてパーティーが始まった。会場内には、マイクを通して常磐の挨拶が響く。
--ポン
会場の後方で快斗と並んで挨拶を聞いていた名前だったが、ふいに肩をたたかれて振り返る。
「え、三船さん!」
「何で、ここに…」
名前と、名前に釣られて振り返った快斗も、そこにいた人物に目を丸くする。
「何でって事はねーだろ?TOKIWAと付き合いのある俺だって、招待されるさ」
そこには、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた三船拓也の姿。思いもよらぬ人物に、名前は戸惑いながら言葉を返す。
「だって、あの電話の時に何も言ってなかったから…」
「そりゃー、お前らを驚かせようと思ってな。しかし、俺を見てそんなに驚くなんて……やっぱりお前ら、こっそり危ない事しようとしてるんじゃねーだろうな?」
card.629
「……そんな事しませんよ。だいたいパーティーで危ない事って何するんですか?」
「おー?本当かあ?」
(この人、変なとこ勘が鋭いから厄介なんだよな。俺のことも、完全に怪盗キッドだと思ってるし…)
名前と三船の会話を聞きながら、快斗は小さくため息をつく。
「名前さん!」
快斗が所々相槌を打ちながら二人の会話を見守っていると、ふいに自分たちの後ろから声がかかる。その声に、名前と快斗はチラリと顔を見合わせる。
(おいおい、このタイミングで来るかよ!?)
快斗がチラリと声のした方に目を向けると、そこには爽やかな笑みを浮かべた安室の姿。安室は、名前のうしろに立つ三船に視線を向けるとハッとした表情を見せる。
「おっと、すみません。お話中でしたか…気付きませんでした」
「いえ、構いませんよ」
第三者の登場に、三船はよそ行きの口調になって返事を返す。
「名前さんと黒羽君のご友人ですか?」
「……三船電子工業の社長さんの、三船拓也さんです」
(……わざと交友関係を探りに来たのかしら)
名前は少し身構えつつも、安室に向かって三船を紹介する。
「初めまして、僕は安室透と言います。私立探偵をしていて、毛利先生に弟子入りしてるんです」
「ほおー、あの毛利探偵に?実は私も以前、事件で少しお世話になってるんですよ」
「そうなんですか!では、名前さん達ともその時に?」
軽やかに交わされる会話を聞いて、名前はチラリと快斗と顔を見合わせる。安室は、毛利小五郎の名前を出したことで信頼感を与えつつ、うまく名前達との関係を聞き出そうとしている。
(……まずいな、この流れは確実にあの事件の話題になるぞ)
「いや、名前と初めて会ったのはまた別の事件ですよ。鈴木財閥の主催したパーティーで、宝石が奪われそうになる騒ぎがありまして。あの時も、毛利探偵が来てましたけど」
快斗をキッドだと認識していて、二人のことを何かと気にかけている三船。しかし、安室透がまさか不審な人物だとは思っていないため、快斗の懸念通り安室の質問に対してそう言葉を返してしまう。
「え?確か、怪盗キッドが来た事件ですよね?新聞で見ましたよ!」
「そうです、その事件です」
「へー、僕はまだ怪盗キッドを直接見たことがないんですよ。三船さんは、ご覧になったんですか?」
「……いやいや、あの時はこいつが体調を崩していて付き添ったりしていたので。事件の方はあまり詳しくないんですよ」
安室が思いの外、"怪盗キッド"に食い付きを見せたためか、三船はピクリと眉を上げて言葉を濁しながらそう返す。
「……おや、そうなんですか。しかし、初対面の名前さんに付き添われるなんて、お優しいですね」
「……実は、その時にこいつに一目惚れしちゃいましてね」
探るような視線に気付いたのか、怪盗キッドの話題が出たことで警戒したのか、三船はわざと話題をガラリと変えるようにわざとらしく頭を掻きながらそう返す。
「え?一目惚れ?」
さすがの安室も、突然の話題に目を瞬かせてきょとんとしながら三船を見ている。
「…………。」
(さすが三船さん。何かいろいろ察してうまいこと話題をそらしてくれてんな)
快斗は顔には出さないものの、ハラハラしながら会話を見守っていたが三船の機転に内心安堵の息をつく。
「それで体調悪そうなこいつの面倒を見てアピールしたりしたんですけどねー、こいつは、その時はもう快斗に片思い中で。見事にフラレちゃいまして」
「ちょ、ちょっと三船さん!」
あっけらかんと話す三船に、名前は安室の前だと言うことも忘れて本気で顔を赤くしている。
「何だよ、本当の事だろ?快斗の事を話ながらメソメソしてたじゃねーか」
「もー!やめてくださいってば!」
(あながち間違ってはないけど!)
恥ずかしそうに慌てて止めに入る名前の姿に、安室は意外そうに目を丸くしている。
「…………。」
(そういや、あの時名前ちゃん…三船さんが用意した部屋で泣いてたな)
快斗は相変わらずマイペースな三船の様子に乾いた笑みを浮かべながら、パーティーの時の様子を思い返す。
「ハハ、大人っぽいと思ってましたが…名前さんも可愛いところがあるんですね」
「あ、安室さんまで…やめてください」
「ふふ…すみません、つい。しかし…三船さんがお二人と仲が良いということは、黒羽君もそのパーティーに参加していたんですか?」
「いやいや、快斗はパーティーには来てませんよ。後日、名前から彼氏ができたって紹介されたんです」
可笑しそうに笑いながらも、キッチリとリサーチしてくる安室だったが、三船は焦る様子もなく平然とそう返す。
「ほぉー、フラレた相手に恋人を紹介されるとは…」
「ハッハッハ!いいんですよ、あれ以来俺はこいつの兄貴みたいなもんなんで」
どこか同情したような表情を見せる安室に、三船は笑いながらそう言葉を返す。
『では、ここで皆様と一つゲームを!商品はなんと、この会場に展示されたマスタング・コンバーチブルです!!』
「お!三船さん、俺と一緒に参加しましょうよ!あの車、もらえるみたいですよ!」
その時、ふいに響き渡ったアナウンス。快斗はチャンスとばかりに反応し、わざと目を輝かせてマスタング・コンバーチブルを指差しながら三船に声をかける。
「お、おう…じゃあやってみるか!」
三船は突然の誘いに目を見開きながらも、何かを察したのか言われるがままに快斗と連れだってステージに向かっていく。
「ふふ…頑張ってね、快斗!」
「おー!高級車ゲットしてくるぜ!」
名前と快斗は、極自然にそんなやり取りを交わしながら軽く目配せする。そして快斗と三船を見送りながら、名前は安室にチラリと視線を向ける。
「安室さんは、いいんですか?」
「ハハ、僕は遠慮しておきますよ。既に愛車を持っていますし。あの車は、カラーが好みじゃありませんから」
「……そうですか」
「それにしても、意外でしたね」
「え?」
「名前さんと、黒羽君ですよ。てっきり彼の方からアプローチした上でのお付き合いかと思っていました」
安室と二人残された状況で、何を聞かれるかと身構えていた名前は、意外な話題にチラリと安室に視線を向ける。
「……どうして、そう思ったんですか?」
「何となくですよ。あなたは、冷静だからそこまで積極的なタイプには見えませんし。彼の方は初対面の時から僕に食って掛かりそうな勢いでしたから」
安室は、意外にも柔らかな雰囲気で小さく笑いながらそう答える。名前はそんな安室を横目に見て、内心警戒しながらも小さく笑う。
「ふふ……心外ですね、私だって高校生らしくなりふり構わず動くこともありますよ」
「え?」
「私の方が、必死に追いかけて、追いかけて…やっと振り向いてもらったんですから」
三船と並んでステージの前でゲームのルールを聞いている快斗を眺めながら、名前は懐かしむようにそう呟く。
「…そんなに大切な相手なのに、"中野さん"の件は蚊帳の外ですか?彼には相談しないんでしょう?」
「まあ、そうなりますかね」
安室はその馴れ初めを聞いて、僅かに驚いたように名前に視線を向けながらそう尋ねるが、名前は曖昧に微笑んで返す。
『そこの青の方!!おめでとうございます!!ピタリ賞です!!』
その時、会場に興奮したようなアナウンスと大きな歓声が響き、安室と名前も会話をやめてステージに目を向ける。
『皆さん、なんとピタリ賞は名探偵の毛利小五郎さんです!!ぜひ、ステージで一言お願いします!』
「おや、毛利先生がピタリ賞ですか」
「凄いですね。あの車…おじさんが貰うことになるんですね。蘭が喜びそう」
「ハハ、確かに。毛利先生は、ずっとレンタカーでしたからね」
意外な人物がステージ上に上がってきたため、驚いた二人は思わず普通に会話を交わしている。
「やだ!!ちょっと、おじさま凄いじゃない!」
「やったね!お父さん!」
「記念に車のとこで写真撮ろうよ!……あれ、このカメラどうやって使うんだっけ?パパの持ってきたから分からないわ」
名前達の少し先では、挨拶を終えてステージから戻ってきた小五郎を囲んで、蘭や園子たちが盛り上がっている。
「こういう事に詳しそうなのは……安室さーん!ちょっと見てください!」
そしてカメラの扱いに困った園子は、キョロキョロと辺りを見渡したあとに、安室を見つけて声をかける。
「安室さん、お呼びですよ」
「……そのようですね」
安室は小さく苦笑しながら、チラリと名前に目を向ける。
「まだ、パーティーは始まったばかりです。先程の話はまた後で」
そしてニッコリ笑いながらそう言うと、園子達の元へと向かっていった。
「残念、駄目だったよ!」
安室が離れていってからしばらくして、ゲームに参加していた快斗達が戻ってくる。
「まさか、あの毛利探偵が当てるとはな!」
三船はチラリと盛り上がっている小五郎たちを見た後に、視線を名前に戻す。
「あの安室って奴は?」
「あそこでカメラマンをしてますよ」
「……ああ、本当だ。あいつ…いろいろ聞いてきたけど俺余計な事言ってねーか?」
「ふふ、大丈夫ですよ。三船さんが、凄く気をつけて話しているのが分かりました。何だかすみません」
「そりゃー、いいけどよ。もしかして、キッドの事を疑われてんのか?」
「……いやいや!何度も言ってますけど、本当に俺キッドじゃないんですって!」
快斗を見ながらそう尋ねる三船に、快斗は困ったように言葉を返す。
「ったく!往生際の悪い奴だなー、お前も。ま、余計な事を言ってないなら良かったけどよ」
「ハハハ…」
「……さて。面倒臭いが、そろそろ俺はお偉いさんに挨拶周りに行ってくるわ。また、後でな!」
「…………挨拶周りですか」
(そういやこの人、こんなんだけど会社の社長だもんな)
「わかりました。いろいろありがとうございます」
三船は名前と快斗に軽く手を振ると、パーティー会場の中心に向かっていく。
「名前ちゃん、あの店員と二人で大丈夫だった?」
三船の背中を見送りながら、快斗が小声で名前に尋ねる。
「平気よ。おじさんがピタリ賞を出したのに驚いて、本題に入る前に会話が途切れちゃったから。快斗も、うまく三船さんを連れ出してくれてありがとう」
「おー。まさか、第三者からも情報聞き出そうとするとはな。三船さんが、うまいこと曖昧にはぐらかしてくれて助かったな」
快斗は小さく息をつくと、チラリとステージに目を向ける。
「確か…確認したタイムテーブルだと、この後会場が暗転して日本画の披露だよな?」
「その予定だったわね」
快斗が事前に関係者に変装して入手したタイムテーブルの内容を思い浮かべながら、名前は小さく頷く。
「とりあえず、そのタイミングで俺が先に会場を抜けて探しに行くよ」
「……分かったわ」
「何かあれば、コレで連絡な」
快斗は、耳元をトントンと指で示しながらそう告げる。
----フッ……
『さて、みなさん。ここで本日のメインゲスト!我が国が誇る、日本画の巨匠…如月峰水先生の作品を紹介したいと思います』
そのタイミングで予定通り会場の明かりが消えて、アナウンスと共にライトアップされたステージに大きな日本画が吊り上げられる。
「……おし、じゃ行ってくるわ」
「気をつけてね」
「ああ。俺は、元々これが仕事みてーなもんだから心配すんなって。名前ちゃんは、頼むから無理すんなよ」
快斗は暗闇に乗じて軽く名前の頬にキスをすると、音を立てずに足早に会場を後にする。
(………何か手がかりが見つかるといいけど)
名前はそんな快斗を見送った後に、自分が注意を引き付けるべき安室の姿を探して会場内に視線を戻した。