「天国へのカウントダウン」編
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「それからさ、もう1つ話があって」
「?」
てっきり今日の用事は自分の電話の件だけだと思っていた灰原は、不思議そうに快斗を見る。
「俺の綺麗で、可愛くて、優しくて、頭が良くて、自慢の恋人がさ」
「いちいち癇に障るわね」
「俺がずっと追ってた、親父を殺した奴等の手がかりを見つけてくれたんだ」
「え?」
呆れたように快斗を見ていた灰原は、思わぬ言葉に驚いて目を丸くする。
「どういう事?」
「すげーんだよ、名前ちゃんったら。小さな手がかりをアレコレ繋ぎ合わせて、哀ちゃんの作った薬の考察なんて…俺、何時間聞かされたか分かんねーよ」
「?確かに、あの子は夢中になると周りが見えなくなるけど…待って!あなたのお父さんの件に、どうして私の作った薬の話が……」
不思議そうにそう呟く灰原に、快斗は言葉を返さないまま、どこか寂し気に微笑んで見せる。
「!まさか…」
「まだ、仮説の段階だけどな。今、いろいろ探ってんだ…二人で」
「探ってるって…大丈夫なの?」
「気をつけてやってるんだけど、何せ名前ちゃんが怖いもの知らずというか、大胆というか……」
「………そう」
(いつも慎重な名前が珍しいわね。彼が絡むと、そうも言っていられないのかしら)
「とにかく、名探偵にこの事を話すとなると俺の事情も込みで話さなきゃならねーだろ?さすがに、そこまでの確証はないからそれは出来ないんだよね」
「なるほどね……分かったわ。もし私に出来ることがあるなら言って」
「……いいの?名探偵には、内緒になっちまうけど」
「あら、友達なんでしょ?私たち」
大人びた笑顔でそう答える灰原に、快斗はパッと顔を上げると、嬉しそうに顔を緩めてキラキラした視線を灰原に向ける。
「あ、哀ちゃん……!」
「それに…あなたはともかく、名前が心配だもの。あの子が暴走しそうになったらストッパーくらいにはなってあげるわ」
そんな快斗の視線に、照れ臭そうに顔をそむけながら灰原はそう呟いた。
card.628
---土曜日
ツインタワービル、第1駐車場
「警部!我々もパーティー会場に!」
「駄目だ、常磐さんに警護を断られた以上…我々はここで待機するしかない!」
そこには、数台の覆面パトカーと目暮や千葉たちの姿。歯痒そうに声をあげる高木に、目暮は首を横に振りながら言葉を返す。そんなやりとりを横目に見た白鳥が、高く聳え立つツインタワービルを見上げる。
「あとは、何も起こらないことを祈るしかありませんね」
その頃、ビルの裏手にある第2駐車場に停められたワゴン車の中では、快斗が名前にキラキラと大きなサファイアが施されたイヤリングを手渡していた。
「え、これ何?」
「通信機能がついてるんだよ。別行動になった時に、何かあったらこれで連絡してくれ。これがあれば、もし両手が塞がってても平気だろ?」
快斗はそう言いながら、ブローチ型の通信マイクを名前の胸元につけている。
「こんなお洒落なの、わざわざ準備してくれたの?」
「そりゃー、ドレスアップしてる名前ちゃんに飾り気のない只の通信機持たせるわけにいかないでしょ!!」
「そんなの、会場から抜け出した後に着ければ問題ないのに……」
「ちげーって!!俺が用意したコレをつけて、可愛くなった名前ちゃんを見たいの!」
快斗は名前の耳元で揺れるイヤリングに軽く触れながら、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。今日は、TOKIWAのオープンパーティーというだけあって、快斗は紺色のスーツ。名前も、色味を合わせてターコイズブルーのワンピースを着ている。思わぬ言葉に頬を赤くする名前と、満足気に笑う快斗の様子を運転席にいる寺井は微笑ましそうに眺めている。
「あとは、コレな。これは、さすがに飾りつけるわけにはいかねーけど」
「これって……」
「俺がいつも使ってるのよりも小型のトランプ銃。中身は、トランプじゃなくて鉛玉が出るように変えてあっから。何があるか分からねーし、念のためな」
「……へー、凄い。ほとんど拳銃と変わらないわね。私に撃てるかしら?」
「さすがに殺傷能力は低いけど、ガラスくらいなら割れると思うぜ」
名前は、初めて手にしたキッドのトランプ銃を不思議そうにまじまじと見つめる。
「ただ、見た目は完全にキッドの道具だからな。これ使ってるとこ見られたら、キッドの関係者だってバレちまうから。使うのは最終手段……と、いうより!そんな事になる前に俺を呼んで!!」
「分かったわ、いろいろありがとう」
「本当はキッドの仲間だってバレない、普通の護身用の道具を持たせたかったんだけど、さすがに準備する時間がなくてさ」
快斗は、ため息をつきながらそう呟く。パーティーに招待され、原さんの情報を盗み出すと決めてからの準備期間は時間にすると2日にも満たなかった。
「ううん、その時間でこんな綺麗なイヤリングとブローチ準備してくれたんでしょ?ありがとう」
「よく似合ってるぜ?ドレスも可愛い、とても怪盗の仲間には見えねーよ」
「そうかな?それなら安心ね」
「……では、行きましょうか?お姫様」
「ふふ、ありがとう」
快斗は車のドアをあけると、わざとらしく名前に向かって手を差し出す。名前も楽しそうに笑いながら、その手を取って車をおりる。
「ホッホッ、作戦決行前だというのに。お二人ともいつも通りで安心しました」
見送りに降りた寺井は、優しく微笑んで二人の様子を見守る。
「私は外で待機しております。何かあれば遠慮なくお申し付けください」
そう言って頭を下げる寺井に見送られながら、二人は腕を組んでツインタワービルへ向かっていった。
「格好いーな!この車!!」
パーティー会場では、会場に展示された高級車のまわりで元太達が興奮したように声をあげていた。
「これは、フォードのマスタング・コンバーチブルですね」
「へー、高級車なの?」
「アメ車のワイルドさがある外観や内装と最新の機能が兼ね備えられていて、人気のモデルですよ。最低でも、500万~600万といったところでしょう。色が赤いのが気に入りませんが」
「…………ハハ」
(相変わらずだな、安室さん)
子どもたちに車の解説をしている安室の足元で、コナンは呆れたように乾いた笑みを浮かべる。
「凄いわねぇ、鍵もついてる!そのまま乗れちゃいそうよ」
安室の話を聞きながら、蘭と園子は車の中を覗き込んでいる。
「蘭、園子!」
「あ、名前と黒羽君!」
そんな二人の後ろから声がかかり振り返ると、そこには並んで立つ名前と快斗の姿。
「園子ちゃん、髪型変えたの?似合ってるぜ」
「あらぁー!!黒羽君、第一声がそれなんてやるわね!!」
快斗が、いつもと違う髪型をしている園子に声をかけると、園子は嬉しそうに声をあげる。
「これが新一君だったら、オメー何だよ、その頭?とか言うわよ!真さんは、照れて何も言ってくれなそうだし……」
「そうかなあ?まぁ、新一が素直に誉めるところは想像出来ないけど」
園子の言葉に、蘭も困ったように苦笑している。そんなやり取りを見て不満そうに顔をしかめているコナンに気付いた名前は、慌てて園子に声をかける。
「けど、急にどうしたの?今日のパーティー用?」
「ああ、この間ここで10年後の自分の写真見たでしょ?あれが、オバサンくさくてショックでさぁー。あの子を参考に、ウェーブかけてみたの!」
「あの子?」
「ほら、哀ちゃんよ。哀ちゃんの髪の毛、自然なウェーブで可愛いじゃない」
「……そうなんだ」
蘭の言葉に、名前は笑顔で話す園子と少し離れた場所で阿笠と話している灰原を見比べる。
(あれ…?この二人って髪型を同じにしたら意外と……)
「そういうあんた達も、スーツとワンピースの色合い合わせてるのわざとでしょ?相変わらず仲良いわね!」
名前がぼんやりと考え事をしていると、園子がニヤニヤとそう言いながら名前を肘でつついてくる。
「あはは、そうなの。せっかくだから、似た色にした方がバランスがいいかと思って」
「名前がアクセサリーつけてるのも珍しいよね。可愛くてステキ」
「ふふ、ありがとう」
「これ、俺が選んだんだぜ」
「えー、そうなの!?やるわねぇ、黒羽君!私も真さんに、指輪をプレゼントしてもらいたいわー!」
「もう、園子ったら…」
「…………。」
興奮する園子と、それに苦笑する蘭。そんな二人の側で微笑んでいる名前と快斗の姿を、安室はジッと見つめている。
(黒羽快斗には、ほとんど接触したことはないが……あの二人、思ったより深い仲のようだな)
よくある若いカップルのように、からかわれても照れる様子もなく、逆にイチャイチャとじゃれ合う様子もない。それでいて、お互いが隣にいるのが当然だというように染み付いた二人の立ち振舞い。
(高校生同士の若さ特有のノリで付き合ったような、浅い付き合いのカップルというわけではなさそうだ。しかし、そんな相手がいる名前が…なぜ怪盗キッドと関わりを持っているんだ…?)
安室が名前の横顔を見ながらそんな事を考えていると、視線に気付いたのか名前がチラリと安室に視線を向ける。バチッと視線が合ったかと思うと、名前はゆるりと口角をあげて意味深な笑みを一瞬浮かべた後に、再び蘭達の方に視線を戻す。
(あの女……!)
安室は余裕綽々と言ったような態度を見せる名前に、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「名前ちゃん、名前ちゃん…頼むから煽らないで」
「あれ、気付いてた?」
「そりゃー、あの金髪店員がこっち見てるのには気付いたけどさ!!まさか、そのタイミングで名前ちゃんがあんな事するなんて思わないじゃん!!」
蘭と園子が料理を取りに行くために離れると、快斗は名前に小声で声をかける。
「そんな可愛い格好で、あんな妖艶な笑みを見せられたら!!あの店員もイチコロだよ!!」
「その心配はないと思うけど……今日は、とにかくあの人の疑いの目を私に向けておかないと」
「にしたって…あの店員、絶対内心イライラしてるぜ?」
「いいのよ、わざと煽ったんだもん」
「もーっ、頼もしいけど!危なっかしくて俺の心臓がもたない!」
まだパーティーも始まっていないというのに、快斗はガックリと肩を落とした。