「天国へのカウントダウン」編
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「名字名前の方から接触してきた!?」
「ああ、今日ポアロに来たんだ」
眉間のシワをますます濃くする風見をチラリと見たあとに、降谷はため息をつきながら言葉を続ける。
「最初に、"安室さんは檜町公園に行きましたか?"と聞かれた」
「何ですか、それは…?」
「俺も最初はピンこなかったが、そのあと探偵としての俺に"中野さんにつけられている"と、相談してきた」
「!?まさか…」
「ああ、まんまと俺の所属先を探られたよ。不覚にも、一瞬その言葉に反応してしまった…おそらく気付かれたな」
降谷は悔しそうに眉を寄せながら、ギュッと拳を握る。
「安室透が、どこかの諜報員だという事に気付いたということですか?」
「ああ、もしかしたら江戸川コナンの入れ知恵かもしれないがな。しかし、どこの所属かまでは知らなかったから、わざわざ探りにきたんだろう」
「檜町公園は、DIH…防衛省情報本部…ですか」
「ああ。俺がその言葉に反応しなかったから、次に中野という言葉を出したんだ。わざわざ、チヨダ、ハム、ゼロよりも分かりにくいその言葉を使って。そして、まんまと反応してしまった俺を見て、公安の人間だと気付いただろう」
「………まだ高校生ですよね?」
信じられないという風に顔をしかめる風見に、降谷は肩をすくめる。
「もはや子どもだからと侮れないな。それに、わざわざ接触してきた事とあの口ぶり…キッドと何かしらの繋がりがあるのは明らかだろう」
「あの口ぶり…とは?」
「中野の件を、恋人の黒羽快斗ではなく…あえて、"身近な人"に相談すると言っていた」
「え?」
「調査によると、彼女は両親とは幼少期の確執があって疎遠になっている。親しい親族もいない。恋人以外で、あのタイミングでわざわざそう言った事を考えると、」
「………つまり、キッドに?」
「ああ。つけまわさずに、直接聞いてくれた方が楽だと言っていたし…こちらの出方を伺っているのかもしれない」
「大した度胸ですね。我々に犯罪者との繋がりを疑われているというのに」
風見は、どこか不服そうに顔を歪めながら呟く。
「……何か、考えがあるのかもしれないな。明日、オープンパーティーで接触してみる」
降谷は腕を組んで考えを巡らせながら、チラリと机の上に置かれた"安室透"宛ての招待状に視線を向けた。
card.627
「このハムサンドうめーな!!どこで買ったんだ?」
「ん?ポアロよ」
むしゃむしゃとハムサンドを頬張る快斗を、微笑ましそうにニコニコと眺めていた名前の返答に、快斗は「うぐっ、」と喉を詰まらせる。そんな快斗にお茶を差し出しながら、名前は更に「ちなみに作ったのは、あの安室さんよ」と追い討ちをかける。
「あいつに会いに行ったのかよ!?」
「昨日、安室さんに関しては"多少のリスクはやむを得ない"って結論になったじゃない?だから、明日オープンパーティーで会う前に少し下準備に行ったの」
「もーっ!!そういう事は報告して!!むしろ一人で行くなよ!」
快斗は、ガシッと名前の肩に手を置いて言い聞かせるようにそう言ったあとに、ギュッと名前を抱き締める。
「はぁー、もう。危なっかしくて、見ていられない」
「ふふ、ごめんね。今のところ、快斗はそんなに疑われてないから…あまり接触しない方がいいかと思って」
自分の首元に顔を埋めてため息をつく快斗を抱き締め返しながら、名前は「それに、」と言葉を続ける。
「あの人が、どこの諜報員か分かったわよ」
「え!本当かよ!」
思わぬ名前の言葉に、快斗はパッと顔をあげて名前の顔を見る。
「おそらく公安。諜報機関がいくつもあってキリがないから、日本の組織に絞ってカマをかけてみたんだけど。うまく反応してくれて良かったわ」
「まじかよ、すげーな!」
快斗は目を丸くして感嘆の声をあげつつも、ふと何かを思い付いたようで顔をしかめる。
「……でも、それってオメーがあの金髪店員を探ってるってバレちまったんじゃねーの?」
「うん、ほんのりキッドと関係があるのを匂わせといたわ」
「何でだよ!!」
「だって、どっちにしろ明日出来そうなら接触する計画だったでしょ?だったら、向こうに疑ってもらった方が都合がいいじゃない?」
「…………。」
(なんか、"共犯者"になってからの名前ちゃん大胆すぎて、俺の心臓がもたない)
あっけらかんと話す名前を、快斗はギュッともう一度抱き締めながら大きなため息をつく。
「あ、あとキッドと私の彼氏である快斗は、別人っぽく話しておいたから。明日は、快斗に向けられる疑いの目は弱いと思う」
「え?」
「さすがにオープンパーティーに、公安の部下を引き連れてこれないだろうから。安室さん1人くらいなら私が引き付けるから、快斗は予定通りTOKIWAの本社で保管されている、原さんの私物の方お願いね」
「まさか、そのために?」
「そう。私は安室さんの目を盗んで、行けそうなら原さんの仕事場だった、システム開発部のフロアに行ってみるけど……そっちに組織の情報を残してる可能性は低いでしょ?」
「………なあ。TOKIWAのビルに、原さんが組織やパンドラの情報残してあるかもしれないから、オープンパーティーに乗じて探すって言うのは良い案だと思うんだけどさ」
「?」
突然改まって話始めた快斗に、名前は首を傾げながら言葉の続きを待つ。
「やっぱり名前ちゃんまで、忍び込むのはなしにしない?例え、共犯者になったからって…そこまでは、」
心配そうに眉をよせる快斗の表情に、名前は困ったように曖昧に微笑む。
「でも、招待状がない寺井さんが忍び込むのはリスクが高いし……新一たちに、寺井さんの存在は隠したいじゃない」
「…………まぁ、そうだよな」
「パーティーで怪しまれずに抜けられるのは、せいぜい30分くらい。その時間で、快斗が一人で原さんが亡くなった後に保管されている私物を探して、それから他のフロアにも行くのは無理よ」
「はぁ、そうだよな…やっぱり」
快斗は理屈としては理解しているため、納得のいかないような顔をしながらため息をつく。名前は、そんな快斗の胸にそっと顔を埋める。
「……やっと、快斗がずっと探していたパンドラの手がかりが見つかるかもしれないんだもの。私も一緒に頑張りたいわ」
「……名前」
「快斗に心配かけちゃうのはわかってる。危険だと思ったら、絶対深入りしないから」
「………約束だぜ?絶対、危険だと思ったら引き返す。少しでも異変を感じたら、俺に知らせろよ」
快斗は、自分を見上げる名前の頬にそっと触れながら優しくそう告げる。
「分かったわ、約束する」
そして、小さく頷きながらそう答えた名前にそっと唇を寄せた後に、もう一度強く抱き締めた。
◇◇◇◇◇◇
「こんな深夜に、アポなしで来たあなたに付き合ってあげるんだから…その気障な話し方はやめてくれる?」
怪盗キッドを部屋に招き入れた灰原は、用意した二つの珈琲をテーブルに置くと、未だに怪盗キッドの姿をして窓辺に寄りかかるようにして立つ人物に声かける。
「えー?せっかく、この格好してきたのに。つれないなぁ、哀ちゃんは」
「……あんな話し方のあなたと、会話するのなんてゴメンだわ」
灰原の言葉に肩をすくめたキッドは、その場でバサリとマントを翻すと、ラフなパーカー姿の黒羽快斗に戻って灰原の向かいの椅子に腰を下ろす。
「それで?わざわざ、こんな時間に来るなんて一体何の用事?」
「ちょっと話がしたくてさ」
「………私のこと、工藤君にでも聞いたの?お節介だものね、彼」
少し気まずそうにそう言いながら視線をそらす灰原をチラリと見た後に、快斗は「んー?」と、少し言葉を選びながら口を開く。
「まあ、確かに名探偵に事情は聞いたよ。だから、話をしに来たんだ」
「……………。」
「だけど、別に説教しに来たわけじゃないぜ?」
「じゃあ、何の話があるのよ」
「今日、わざわざ怪盗キッドの姿で来たのは"俺"の事を知ってほしかったから、かな」
「あなたの事を?」
「……俺が、こんな事してる理由はさ……親父を殺されたからなんだ」
怪盗キッドのシルクハットを指先でくるくるとまわしながら、快斗はポツリと呟く。
「あ、あなたのお父さんは…マジックショーの最中に事故で亡くなったんじゃないの?」
快斗の言葉に灰原は目を丸くする。怪盗キッドの正体が黒羽快斗だと分かったときに、父親が有名な奇術師であり亡くなっていることは把握していた。
「表向きはそうなってる。だが、本当は殺されたんだ。親父を殺した奴等を追うために、そしてその原因となったものをこの世から消し去るために、俺は怪盗をやってる」
「………名前が、あなたのやっている事に関して何も言わずにいる理由が分かったわ」
呆然としながらも、どこか納得したように呟く灰原に快斗は優しく微笑む。
「まあ、俺の事情を知って怪盗キッドをやってる事を理解してほしいとか、そういうんじゃねーんだ。ただ、親を殺された俺は……おこがましいかもしれないけど、哀ちゃんの気持ちがわかるよって言いたかっただけ」
「……………。」
「俺だって親父の声が聞けるなら、今でも聞きたいよ。辛い時とか、悩んだときに…親父に相談したら、何て言うだろう?……そう考えた事も何度もある」
ポツポツと話す快斗の横顔を、灰原は黙ったまま見つめている。
「電話したっていいんだよ。俺だって、哀ちゃんの立場なら同じ事するよ。危険だからとか、そういうさ……そういう、理性で押さえつけられるもんじゃねーんだよ、大事な奴が殺されてんだから。もう二度と会えねーんだから」
「…………。」
「……俺の場合は、おふくろも生きてるし。身内じゃねーけど、俺の事を孫みたいに可愛がってくれる人もいるからさ。哀ちゃんの辛さに比べたら、」
「そんな事ないわ」
軽く肩をすくめながら言葉を続けようとした快斗の言葉を、灰原がハッキリとした口調で遮る。快斗が灰原に目を向けると、自分を真っ直ぐ見つめている灰原と視線が絡む。
「大切な肉親を失う辛さに、上も下もないわ」
「………哀ちゃん」
「ありがとう。電話してもいいって…そんな風に言ってもらえるなんて、思わなかった」
「我慢することねーからさ、辛いときは言ってよ。俺で役不足なら、名前ちゃんだって、名探偵だって…みんな聞いてくれるよ」
「………そうね」
灰原は快斗を真っ直ぐ見つめたままそう言うと、口元にゆるりと笑みを浮かべる。
「………あなたを、名前の恋人として…初めて認めてもいいかもしれないって思えたわ」
「ははっ。そこは認めてもいいわって言ってよ、哀ちゃん」
灰原の言葉に快斗は一瞬きょとんと目を丸くしたあと、可笑しそうに笑ってそう言葉を返す。
「でも、電話してもいいっていうのも…肉親を失った立場としての本音でしょうけど…本当は止めさせたいんでしょ?」
「え?」
「私の居場所が組織に知れたら、あなたの大切な名前にだって危険が及ぶわ。そんなの、嫌でしょ?」
「………確かに、名前ちゃんが危ない目に合うのは嫌だよ?だけど、俺は哀ちゃんだって大切な友達だし、何でもかんでも名前優先で、他の人間を蔑ろにするほど、人でなしじゃないつもりなんだけど?」
灰原の言葉に、どこか不満そうにそう答える快斗。そんな快斗を見て、灰原は可笑しそうに笑う。
「あなたが、お人好しなのは分かってるわ。安心して、もう電話はするつもりないから」
「え?」
「あいにく、私のまわりにはお人好しやお節介さんがたくさんいるみたいだから」
灰原は、チラリと寝室のある方向に目を向けながら言葉を続ける。
「自分には居場所がないような気がしてたけど、案外そうでもないのかもしれないわね」
珈琲を飲みながらそう話す灰原を見て、快斗は小さく安堵の息をついた。