「天国へのカウントダウン」編
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「哀君、まだ寝ないのか?」
「ええ、この本読んだら寝るから」
既に日付の変わりそうな時間帯になっても、薄暗い部屋で本を読んでいる灰原。阿笠が戸惑いがちに声をかけると、灰原はチラリと阿笠に目を向ける。
「そんなに気を使わなくても、もう電話したりしないわよ」
「……い、いや。ワシは別に」
「本当にまだ眠くないだけよ。私に構わず、博士は寝てもいいわ」
「……そうか?あまり夜更かしせんようにな」
阿笠は心配そうに眉を寄せながらも、灰原の言葉に小さく頷くと寝室へ向かった。
---コン、コン
阿笠が部屋を出ていって30分ほどたった頃、ふいに部屋の窓を叩く音がして灰原は眉を寄せる。今いるのはベランダがあるとは言え二階。侵入者がわざわざノックするとは思えないし、組織の人間の気配もない。
「?」
灰原は少し迷いながらも、ゆっくりと窓辺に近付いてカーテンと窓を開ける。
「こんばんは、お嬢さん」
「……あなた」
するとそこには、白いマントを靡かせて口元に笑みを浮かべる怪盗キッドの姿。思わぬ来客に、灰原は目を丸くする。
「よろしければ、私と夜の散歩などいかがですか?」
「………嫌よ、夜風になんかあたったら身体が冷えるじゃない」
「おや、つれないですねぇ」
「でも、」
「?」
「暖かい場所でなら、珈琲の一杯くらいなら付き合ってあげてもいいわよ」
灰原は小さく笑ってそう言うと、キッドを部屋の中に招き入れた。
card.626
「オメー、会って話をするのはいいけど場所はここでいいのかよ?」
「いいのよ」
「いいのよって……オメーなぁ」
「明日オープンパーティーで会うより先に、あの人にちょっと確かめたい事があって。敵前視察ってところね」
名前は、自分たちの注文を受けてキッチンに向かった安室の背中を横目で見ながらサラリと答える。学校帰りに話がしたいと名前に呼び出されたコナン。わざわざ待ち合わせ場所にポアロを指定してきた名前に、不審そうな視線を向ける。
「敵前視察って……本当に何考えてんだよ?あの人は、敵にまわすなって言っただろうが!」
「こちらとしても、敵にまわしたいわけじゃないんだけどねぇ」
「オメー、」
「お待たせしました!」
コナンが名前に何かを聞き返そうとしたところで、珈琲やサンドイッチをお盆に乗せた安室がテーブルにやってくる。
「ありがとうございます。わあ、美味しそうですね」
「ハハ、そう言っていただけると嬉しいですね。それにしても、名前さんが来てくださるとは驚きました」
サンドイッチを受け取りながら、名前は安室に視線を向ける。
「コナン君に借りてた本を返したくて。明日も会うんですけど、明日返しても荷物になってしまいますし」
「ああ、明日のオープンパーティー名前さんもいらっしゃるんですか?」
「そうですけど……名前さんも、という事は安室さんも?」
「ええ、そうなんです。ありがたいことに、僕にも招待状をいただいたようで」
笑顔で白々しい会話を繰り広げる二人を、コナンはチューとアイスコーヒーを飲みながら呆れたように眺めている。
「そういえば、安室さんって公園なんて行かれます?」
「公園ですか?」
「先週、檜町公園に行ったんですけど。安室さんに似た人を見かけたような気がして……」
「いえ、心当たりはありませんね」
きょとんとした様子で首を傾げる安室を見た名前は、「そうですか。見かけたといっても、後ろ姿だったので…私の勘違いですね」と笑顔で返す。ちょうど、そのタイミングで若い女性客が二人来店したため、安室は不思議そうな顔をしながら接客に戻る。
「何考えてんだ!?」
安室がテーブルから離れると、黙ってやり取りを見ていたコナンは信じられないといった表情をしながら、小声で名前に詰め寄る。
「だから、リサーチしてるんだってば。こっちにも、いろいろ事情があるのよ」
「こっちにもって………この間、黒羽が灰原の立場に近いって言ってたよなあ?あれ、どういう意味なんだよ」
「そんなの、私の口から言うことじゃないわ」
「オメーが、あいつを止めるつもりがなさそうなのには何か理由があるんじゃねーかとは思っていたが、まさかオメーら…」
「そういえば、コナン君」
顔をしかめて何かを聞こうとしてくるコナンの言葉を遮って、名前はコナンに視線を向ける。
「今日の哀の様子はどうだった?」
突然変えられた話題に、コナンは不服そうに眉を寄せながらも「そういえば、今日は向こうから普通に話しかけてきたな」と言葉を返す。
「……そう、良かったわ。私もまだ詳しく聞いてないけど…昨日、快斗が何か話したみたいなの」
「え、」
「何を話したのか知らないけど……少しは、哀の気持ちが楽になったのかもね」
微笑みながら話す名前の言葉を聞いたコナンは、僅かに目を丸くしながらも「……そうか」と、安堵したように小さく息をつく。
「あいつに、礼言っとけ」
「………明日会うんだから、自分で言えばいいじゃない」
「それは、何かイヤだ」
「まったく、相変わらずねぇ」
不服そうに顔をしかめるコナンに、名前は可笑しそうにクスクスと笑う。そのあともコナンが、快斗の話や安室の件をどうするつもりなのかと尋ねても、曖昧にはぐらかして話す気のなさそうな名前。その様子に、コナンは不満そうにジト目を向ける。
「お前なぁ、俺らの事に首突っ込んでくるくせに……自分たちのことは、だんまりかよ」
「……私の一存で快斗の事情は話せないわよ。必要な時が来たら話すわ」
「ったく、お前らが何しようとしてるのかは知らねーが…本当に気をつけろよ!」
「わかってるわ、ありがとう」
「………はぁ、そろそろ蘭が帰ってくるから俺は帰るぞ」
昔からの付き合いで、これ以上追及しても今は話さないだろうと判断したコナンは、ため息をつきながらそう言うと帰り支度を始める。
「おや…コナン君達、もう帰るのかい?」
それに気付いたのか、安室がカウンターから二人に声をかけてくる。名前が安室の声に振り返りながら店内を見渡すと、先ほどの客はもう帰ったようで、名前とコナン以外に客の姿はない。
「………そうだ、テイクアウト頼みたいんですけど良いですか?」
それを見た名前は、ふと思い付いたように安室に尋ねる。
「構いませんが……少しお待ちいただくことになりますよ?」
「平気です。課題やりながら待ってるので。コナン君、そろそろ夕飯の時間でしょ?蘭に怒られちゃうから、先に帰っていいよ」
「えー、そう?名前お姉さん、一人で大丈夫?」
「あはは、小学生のコナン君に心配してもらわくても平気だよ」
何を考えてるんだ?と、顔をしかめるコナンに笑顔でそう返しながら、「ハムサンドとサンドイッチを二つずつ、お願い出来ますか?」と、安室に視線を戻す。
「……かしこましました」
わざわざ、自分と二人きりの空間に残ろうとする名前に探るような視線を一瞬向けた安室だったが、ニッコリ笑ってそう答えるとキッチンに向かう。
「おい、本当に大丈夫かよ!?」
「平気、平気。また明日ね、コナン君」
キッチンにいる安室に聞こえないように、小声で尋ねるコナンに「早く帰れと」言わんばかりに、ヒラヒラと手を振る名前。コナンは、そんな名前をジッと見つめたあと、諦めたようにため息をついて「何かあったら連絡しろよ」と言い残し、ポアロを後にした。
「おや、数学ですか?」
コナンを見送ったあと珈琲を飲みながら課題のプリントを解いていると、ふと頭上から声がかかる。
「お待たせしました。これ、注文のハムサンドとサンドイッチです」
「ありがとうございます」
名前は、紙袋を受けとって鞄から財布を出しながら「そういえば、安室さん…私立探偵でしたよね?」と、何気ない風に尋ねる。
「ええ、一応そちらが本業ですね」
「……実は、最近つきまとわれてるような気がして困ってるんです」
「え!?まさか、それを相談したくて残ったんですか?」
思いがけない言葉に、眉をよせながら真剣な表情を見せる安室。
(……こうやって本気で心配してくれるあたり、悪い人じゃなさそうなんだけど)
名前は、そんな事を考えながら曖昧に微笑む。
「ストーカーですか?」
「……そこまでじゃないんですけど、身辺を探られているような感じで」
「ストーカー行為は、犯罪ですよ。軽く考えてはいけません。黒羽君…でしたか、彼氏さんには相談したんですか?」
「いえ、まだ。自分で対処出来るレベルなら、あまり巻き込みたくなくて」
「彼氏さんに限らず、無理しないで身近な人に相談してみたらいかがですか?……ちなみに、犯人に心当たりは?」
真剣な表情で自分にそう尋ねる安室に、名前は真っ直ぐ視線を向ける。
「………中野さんっていうんです、その人」
「!?」
その言葉に真剣な表情をしていた安室は、小さく目を見開く。
「あまり本気にさせると厄介な相手のようで、どうしたらいいと思います?」
その僅かな変化に気付いた名前は、わざとらしく首を傾げながらそう尋ねる。そんな、名前をジッと見つめている安室に名前は更に言葉を続ける。
「探偵としての、安室さんの意見を聞いてみたくて」
「……そうですねぇ、その中野さんに目をつけられた心当たりはないんですか?」
一瞬表情を崩した安室だったが、すぐにいつもの笑顔を向けながら、名前にそう尋ねる。
「さあ……気になる事があるなら、直接聞いてくれた方が楽なんですけどね」
「……そうですか、それは困りましたね」
「ええ…でも、安室さんの言うとおり身近な人に相談してから考えるのもいいかもしれませんね」
名前は、そう言いながら鞄とテイクアウトの紙袋を持って立ち上がる。
「変なこと聞いちゃってすみません。ハムサンド、美味しいって評判だったので食べてみたかったんです。家に帰って、食べるのが楽しみです」
「………確か独り暮らしでしたよね?お一人で食べるんですか?」
「……よくご存じですね。せっかくだから…思い当たる相談相手と今の話を相談しながら一緒に食べますね」
「そうですか、早く解決するといいですね」
「ええ、そうですね……では、また明日」
ニッコリ笑ってポアロを後にする名前。その後ろ姿を、安室は真剣な表情で見送っていた。