「天国へのカウントダウン」編
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「今日の名探偵の話からしても、名前ちゃんの言ってた"仮説"ってやつが、だいぶ真実味を帯びてきたな」
「そうね…オープンパーティーの日が、TOKIWAのツインタワービルに違和感なく潜り込める絶好の機会だわ。それまでに、もう一度情報を整理しましょう」
「おー、すっかり怪盗の仲間っぽくなっちまって!」
「何よ、茶化さないで!」
ブルーパロットのテーブルに、ノートやパソコンを並べて話し込む名前と快斗。そんな二人を、カウンターにいる寺井は微笑ましそうに見守っていた。
card.624
「まず、これな。名前ちゃんが原さんの部屋で見たファイルを暗記したってやつ」
快斗はそう言って一冊のノートを開く。
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黒真珠(ブラックスター) ×
クリスタル・マザー ×
大海の奇跡(ブルー・ワンダー)×
スター・サファイア ×
……
……
……
ザ・マラガ ×
トム・ペドロ ×
ローズ・オブ・マリン ×
ローガン・サファイア ?
→アメリカ国立博物館、確認困難
ザ・グラフ ヴィーナス ?
→所在不明
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そこには巨大宝石の名称がズラリと数十種類記されていて、一つ一つに記号やコメントが記載されている。
「この前半部分は、キッドがこれまで盗んだものよね?」
「ああ、そんで後半は俺も宝石の名前は把握してるけど…まだ盗むことが出来てないやつだな」
「ファイルにパンドラって書かれてたし……やっぱり×がついてるものは、パンドラじゃなかったって印よね」
「ああ、これをみる限り原さんもパンドラの事を探っていたのは間違いないねーと思う」
快斗は、パラパラとノートをめくりながら更に言葉を続ける。
「それで、前に哀ちゃんが言ってたってやつは何だっけ?」
「哀がピスコに捕まった時に、新一にAPTX4869の情報を言い残そうとしたらしいの。新一から教えてもらった話によると、"アポトキシン"のアポは、細胞自己破壊プログラムのapoptosis。そして、APTX4869はテロメラーゼ活性を持っていて細胞の増殖能力を高める」
「お、おう」
「テロメラーゼの作用によって、人体のDNA複製の際の短小化を防ぐ事が出来る。つまり、事実上の細胞の不死化を実現する作用がある。あの薬は、元々は体内に証拠を残さない毒薬を作ってたって話だったけど…」
「……………。」
「あの二人の幼児化は、毒薬本来の意図とは外れた細胞の自己破壊プログラムの偶発的作用。つまり、神経組織を除いた、骨格・筋肉・体毛・内臓すべてが後退化して……」
「名前ちゃん、ストップ!ストップ!そこの考察を突っ込み始めると、また長くなるから!!」
コンコンとテーブルを指先で叩きながら独り言のようにブツブツと呟き始めた名前を、快斗が慌てて制止する。
「今日は結論だけまとめてこうぜ?」
「あ、ごめんね。つい」
「ハハ…相変わらず集中力し始めると、まわりが見えねーんだから」
(あぶねー!その薬の考察はあの日、数時間みっちりと聞かされたんだ。今日は、それを避けて話をすすめねーと)
快斗は心の中でため息をつきながらも、笑顔で名前に言葉を返す。つい考察にのめり込みそうになっていた名前は、快斗の言葉に頷いて「そうね、結論からいうと…」と再び真剣な表情で話始める。
「つまり、私はAPTX4869は試作の段階で後退化する作用のものが偶然出来たものではなく、元々その類いの作用を期待して作っていたんじゃないかって思うの」
「後退化ってことは、」
「そう。幼児化はいきすぎた結果だけど……簡単に言えば若返りとか」
名前の言葉に快斗も小さく頷いて、手元のファイルを見る。
「不老不死を得られるといわれる、パンドラと通ずるってわけか」
そして、僅かに顔を歪めながら忌々しそうに呟く。カウンターで話を聞いている寺井も、快斗の父親の命を奪う事になったパンドラの話題に眉を寄せる。
「組織はそういう老化や生死を超越する術を欲している。つまり、新一が追っている″黒の組織″は…」
名前は、そこまで言うと言いにくそうに言葉を切る。快斗は、そんな名前をチラリと見て肩をすくめながら、名前が言おうとした言葉を引き継ぐ。
「俺の親父を殺した奴らと同じだ……って、そう考えたんだろ?」
「………そう。そして、原さんはピスコの後押しがあってTOKIWAの役員になった事から考えると、組織の人間」
「……だから原さんがパンドラを調べていたってわけね」
---ガタン、
そこまで話すと快斗はおもむろに立ち上がって軽く伸びをする。
「俺、ちょっとトイレ。ジィちゃん、名前ちゃんに何か飲み物出してやって」
「………快斗」
「んな顔すんなって!頭ガチガチになっちまうから、一旦休憩な。戻ったら、また続き話そうぜ」
快斗はそう言うと、カウンターの奥の階段を上がって二階に向かう。
「どうぞ」
二階に消えていった快斗を見つめていた名前の前に、寺井がココアの入ったカップとクッキーを置く。
「難しいお話をしていらしたので、よろしければ甘いものも」
「……ありがとうございます」
名前は、寺井にお礼を言いながらも小さくため息をついて視線を下に下げる。
「快斗、やっぱりお父様の話をするのは辛いんでしょうか?」
「……盗一様のお話はよくなさっています。盗一様のお話が辛いのではなく、戸惑っているのかもしれません」
「……戸惑ってる?」
優しく答える寺井の言葉に、名前は首を傾げる。
「長い間、パンドラを探すことでしか追うことが出来なかった盗一様の死の真相。その解決の糸口が突然目の前に現れたんですから」
「………そうですか」
「名前さんが、怪盗である快斗坊っちゃんを受け入れて支えてくださる。それだけでも、素晴らしいパートナーに出会えたと私は嬉しかったですが」
寺井はそこまで言って、チラリと快斗が消えていった階段に目を向ける。
「まさか、盗一様の事まで解決に導いてくださるとは……私も感謝しています」
名前は、その言葉に僅かに目を見開く。
「……そんな、あくまで仮説ですし。間違っていたら、申し訳ないな」
名前は、そう言いながら困ったようにココアを口にする。そして、少し目線をさ迷わせたあとに戸惑いがちに寺井に目を向けた。
「ふー、」
しばらく自室で父親である盗一の写真を見つめていた快斗は、チラリと時計に目を向ける。
(そろそろ戻らねーと)
そして、気持ちを切り替えてからゆっくりと階段を降りて行くと、名前と寺井の話し声が聞こえてきて思わず足を止める。
「あくまで仮説ですし。間違っていたら、申し訳ないな」
(……二人で何の話ししてんだ?)
何となくそのまま二人の会話を聞いていると、しばらくの沈黙のあと名前の声が聞こえてくる。
「盗一さんは、どんな方だったんですか?」
「盗一様ですか?」
「私は……一応、戸籍上は父親と母親と呼ぶべき人間はいますが……正直に言うと、昔からあの人たちを親だと呼べるような関係ではありませんでした」
「え?」
「小さい頃から、家族としての関わりも薄くて……。幼なじみのご両親に育ててもらったようなものなんです」
「……そうなんですか」
「!」
今まで避けられていた家族の話を口にする名前。快斗は目を見開くと、息をひそめて聞き耳をたてる。
「快斗はお父様のために犯罪者になって、それを後悔してる様子もない。親の復讐のために人を殺した人も見たことがあります」
「…………。」
「その心情は頭では理解出来ます。犯罪の動機としては、十分に。だけど…きっと自分は同じ立場になっても、そんな事をしようとは思わない。むしろ、あの人達の身に何が起こっても何とも思わないと思う」
「名前さん……」
「ひどい人間ですよね。自分でもそう思います……だから、思うんです。犯罪者になってまで、無念を晴らそうと思えるほど……盗一さんは素敵な"お父さん"だったんだろうな…って」
「…………。」
「それが、本当は少し羨ましい」
どこか遠くを見るようにそう言うと、名前は眉を寄せて寺井に視線を向ける。
「すみません、こんな話…困りますよね」
「……いえ。初めてお聞きしたので、少し驚きましたが。快斗坊っちゃんは、ご存知なんですか?」
「……話そうと思いつつ、まだ」
名前は、困ったようにため息をつきながら肩をすくめる。
「先ほどの話ですが、」
落ち込んだように眉を寄せる名前を見て、寺井は言葉を選ぶように口を開く。
「名前さんは、ひどい人間などではありません。とても優しくて、心の暖かい方です」
「…………。」
「血の繋がりがあるからと言って、誰しもが無条件にその相手を慕い、信じ、尽くす事が出来るわけではありません。親子でも、兄弟でも、仲違いしたまま死ぬまで分かり合えずに終わる人はたくさんいます」
名前は、寺井から目をそらさずに黙ったままジッと話を聞いている。
「名前さんなら、きっと…これから、血の繋がりよりも、もっと深く…強い絆で結ばれる相手を作ることが出来るでしょう。ご両親との縁に恵まれなかったのなら、新しく名前さんが"家族"を作っていけばよろしいのでは?」
名前は寺井の言葉に小さく息を飲むと、片手で目元を隠すようにして天を仰ぐ。そして、しばらく黙り込んだあとに、ゆっくりと口を開く。
「………全て終わったら、」
「はい」
「全て終わったら……その先は、ずっと隣に快斗がいてくれたらいいなって思います」
「ホッホッ…そうですか」
名前の言葉に、寺井は嬉しそうに笑みをこぼす。名前は、僅かに頬を染めながら寺井にチラリ視線を向ける。
「……快斗には、秘密にしてくださいね。恥ずかしいし、こんな重い気持ち…知られたくありません」
「では、私と名前さんだけの秘密ということに致しましょうか」
「……本当に、言わないでくださいよ」
恥ずかしそうに両手で顔を覆ってため息をつく名前を、寺井は優しく見つめていた。