「天国へのカウントダウン」編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ちょ、ちょっと!名前ちゃん、三船さんに何の用事?」
キッチンから出た快斗がテーブルに珈琲を置きながらも、慌てた様子で名前に声をかけると、真剣な表情で電話をしていた名前は少し目を丸くした後に可笑しそうに笑う。
「あ、三船さん?快斗もいるので、スピーカーにしてもいいですか?」
そして隣に座った快斗をチラリと見ながら、通話相手に向かってそう尋ねた。
card.622
『何だよ、快斗といたのか!久しぶりじゃねーか!元気だったか?』
「あ、はい…どうも」
『お前が、ちょっと前に空中歩いてんのテレビで見たぜ!相変わらず楽しそうな事やってんな!』
「っ、何の話ですかー?」
相変わらず、快斗=怪盗キッドだと確信して話す三船と、それに慌てる快斗のやり取りを見て、名前は困ったように笑う。
『それで、どうした?何か聞きたいことがあるんだろ?』
一通り快斗と話した三船は、ふと真面目なトーンになってそう尋ねる。
「あの、三船さんの会社って電子機器関係も扱ってますよね?他の会社のプログラマーとか専務の人と、交流があったりしますか?」
『んー。うちと付き合いのある会社とかなら、多少はなな』
快斗は名前がなぜ突然そんな事を聞くのか分からないため、黙ったまま二人の会話に耳を傾ける。
「TOKIWAの専務の原佳明さんって、ご存じですか?」
「…………。」
(原さんって、この間会ったメガネの人か)
快斗は、ツインタワービルのショールームで子供達にゲームを教えていた優しそうな男性を思い返す。
『……ああ、確か何度か合同プロジェクトとかで会ったことあるわ。TOKIWA以外の会社もいたから、そこまで親しくもねーけど』
「本当ですか?あの、原さんの入社前の経歴とか調べても出てこなくて…。若いのに、出世も早いですよね?」
『あー、まあ確かに少し事情は知ってるけど……お前、また何か危ない事に首突っ込んでるだろ?』
「え?」
『さっき、その原さんが殺されたってニュースで見たぞ!』
危ない事をした子どもを咎めるような三船の口調。名前は、困ったように「そっか、もうニュースになってるんですね」と、小さく呟く。しかし、三船の言葉に大きく反応したのは名前ではなく、その隣にいた快斗だった。
「はあ!?そうなの!?」
「……え、うん」
今まで黙って話を聞いていた快斗が、突然大声で割り込んで来たため、名前は驚きながらも小さく頷く。
「オメー、今日その原って奴の家に行ってたんだろ!大丈夫だったのかよ!?」
「大丈夫よ、部屋についたら原さんが倒れてて…コナン君と一緒に警察を呼んだりしたくらいで…」
「はあ!?名前ちゃんが発見者なの?思いっきり、事件に巻き込まれてるじゃん!!俺に連絡しろよ!」
「ご、ごめん…別件で気を取られてたから、連絡忘れてて」
「別件って何?」
「それは、考えがまとまったら話すって言ったじゃない」
「だーっ、もう!勘弁してよ!!危なっかしいなぁ、もう!」
自分の知らないところで、名前が殺人事件に巻き込まれていた事に動揺する快斗。名前は、そんな快斗を見て連絡くらいしておくべきだった、と内心後悔する。
『ふっ、クックク…取り込み中に悪いが、俺も快斗に同意見だぞー』
そんな時、机に置いてあった携帯から喉を鳴らすように笑っている三船の声が響く。
「あ、三船さん…すみません。話中だったのにほったらかしにして」
『いいけどよ、お前あんまり快斗に心配かけんじゃねーよ。その原さんの件は、本当に知りてーの?』
「………そうですね、必要な事なので」
心配するような三船に対し、名前はハッキリとそう返す。それを聞いた三船は小さくため息をつくと、原について語り始める。
『あの人は、確かにプログラマーとしては優秀だった。が、あの若さでTOKIWAの専務になったのは、ある人の後押しがあったからっていう噂が業界の中にあった』
「……それ、誰だかわかります?」
『わかるけど…お前、本当に大丈夫か?』
「?」
『その後押しした奴も、少し前に殺されてるんだよ。本当にやべー事に首突っ込んでんじゃないだろうな?』
「それは、まだわかりません。でも"私たち"に必要な情報なんです」
自分をチラリと見ながらそう答える名前に、快斗は目を見開く。そんな快斗を尻目に「三船さんには、迷惑かけませんから。教えてもらえませんか?」と、名前は真剣に頼み込んでいる。
(俺達に必要…?名前ちゃん、一体何を調べてるんだ?)
いつになく真剣な様子の名前を見つめながら考え込む快斗。そんな中、携帯からは『俺の事はいいんだよ!お前らの心配をしてるんだっつーの!!』と、三船の呆れたような声が響いてくる。
『ったく、しょーがねぇな』
しかし、名前の真剣さに押しきられたのか、三船は気乗りしない様子ながらもため息混じりに話始める。
『少し前に、確か東都に雪が降った日だ。杯戸シティホテルで"映画監督・酒巻昭を偲ぶ会"っていう会があってな』
「?ええ…」
『その会でも一人の参加者が殺されて、そのあとホテルの酒蔵が火事になったりちょっとした事件になったんだ』
「!!」
その言葉を聞いた名前は、何かを思い出したのか大きく息をのむ。通話相手の三船は気付かなかったようだが、快斗はそんな名前の様子に眉を寄せる。
『その酒蔵から射殺体で発見されたのが、その原さんを後押しした奴なんだよ。確か、名前は……』
「枡山憲三…ですか?」
『ああ、そうそう!あの人、大手自動車メーカー会長だったんだよ。何で原さんと知り合いだったのかは知らないけどな…こんな話で役にたったか?』
「……はい。とても…とても役に立ちました。本当にありがとうございます」
『…そうか?ならいいけど、本当に危ねーことすんなよ!!何か俺に手伝える事があれば言うんだぞ!』
「分かりました、気を付けます」
『……快斗も、こいつ絶対分かってないから頼んだぞ!』
「あ、はい!」
『本当に気をつけるんだぞ!!じゃ、またいつでも連絡しろよー』
三船は再三念を押すようにそう繰り返すと、通話を切る。
「………ピスコ」
「え?」
電話を切ったとたんに、名前が小さく呟いた言葉に快斗は首を傾げる。
「三船さんが言ってた、杯戸シティホテルで射殺された枡山憲三のコードネームよ」
「お、おい…それって!」
「ええ。そして…ピスコを殺したのはポルシェ356Aに乗って、あの日ツインタワービルに来ていたジン」
名前は独り言のようにそう呟くと、小さく息を吐き出して快斗に向き合う。
「今日、原さんの部屋であるファイルを見つけたの」
「……ファイル?」
今までの話に何の繋がりがあるのかと、首を傾げる快斗。名前は、そんな快斗の目を真っ直ぐ見て言葉を続ける。
「そのファイルの一番最初に書かれていたのは、Pandora-パンドラ-」
「な、何だと!?」
自分が、犯罪者となってまで追い求めている"パンドラ"。その単語を聞いた快斗は、信じられないというように目を見開く。
「なぜ、あの人がその名前を…?」
「……さっき、考えがまとまったら話すって言ったでしょ」
「あ、ああ…」
「今の三船さんの話を聞いて、ある仮説が浮かんだの。聞いてくれる?」
名前は緊張したような面持ちでそう尋ねながら、そっと快斗の手を握った。