「天国へのカウントダウン」編
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Pandora-パンドラ-
ハンカチ越しに手に取ったファイルの表紙に書かれたその文字に、名前はドクンと心臓が音を立てるのを感じながらパラリとファイルを開いた。
card.621
「名前、何かあったか?」
原の遺体の周りを一通り確認し終えたコナンは、振り返ってデスクで何かを見ている名前の背中に声をかける。名前は、小さく肩を揺らすとコナンの方に視線を向ける。
「こっちには事件に関係ありそうなものは何もないわ…今は、デスクの上に置かれた資料を見てただけ。次に作るつもりだったゲームの構想みたいね」
「ふーん?殺害現場なんだから、あんまり荒らすなよ。もう警察も着く頃だろうし…」
「わかってるわ、少し見てただけよ。指紋もつけてないし……"持ち出したり"なんて、出来ないものね」
「ん、ああ…当たり前だろ?」
「江戸川君、刑事さんたちが来たわよ!」
名前の言葉に違和感を感じたコナンだったが、玄関から聞こえた灰原の声を聞いて、コナンの脳内は再び事件に気をとられていった。
「いかがですか、検視官?」
「解剖してみないことにはハッキリせんが、死亡推定時刻は昨日の午後から夕方にかけてじゃな…」
「遺体の手にナイフを持っていますが、原さんはケーキを食べようとしていたようです。そこに犯人が入ってきて、この銀のナイフで対抗しようとしたんでしょう…」
「しかし、このお猪口はどう考えたらいいんでしょうか?」
通報により駆けつけた目暮、白鳥、高木の三名が鑑識と共に現場検証を行っている。名前やコナン達は、その様子を隣の部屋から黙って見守っている。
「あのお猪口は、大木氏を殺害した犯人よる連続殺人と考えるのが妥当でしょうね」
「ああ。そして被害者が遺したダイイングメッセージではなく、犯人によるメッセージの、可能性が高いな」
「これでわかったでしょ?組織の人間は、あんな物をわざわざ残さないわ」
名前の足元で、灰原とコナンがコソコソと話し合っている中、名前は黙ったままチラリと現場検証が行われているリビングの奥にある仕事部屋に視線を向ける。
(もう警察が来ちゃった以上、アレをもう一度見るのは無理か……)
「トメさん、それ割れたお猪口?」
「ああ、そうだよ」
コナンが顔見知りの鑑識に声をかけているのが聞こえて、名前は思考を切り替えてコナンの方に目を向ける。コナンは、鑑識の一人にビニール袋に押収された割れたお猪口の破片を見せてもらっているところだった。
「あれ…これで全部?」
「もちろんさ、鑑識のトメに見落としはないよ!」
「………そっか」
「ああ、でも不思議な事が一つあってなぁ」
「何があったの?」
「この部屋にあるパソコンのデータが全て消去されていたんだよ」
「パソコンのデータが!?」
「…………。」
名前はそんな会話を聞きながら、ビニール袋の中のお猪口をジッと見つめていた。
◇◇◇◇◇◇
「名前ちゃん、おかえり!聞いてよ、実は今日俺さー」
「……ただいま、快斗。ちょっと、今話しかけないでくれる?」
「え、あ…はい」
いつものように名前の部屋で帰りを待っていた快斗は、帰宅した名前を笑顔で出迎えるが、名前は険しい顔をしたまま快斗の横を素通りしてリビングに向かう。
(な、何だぁ?俺何かしたっけ?)
快斗は動揺しながら名前の後を追っていくと、名前はガリガリと凄まじい勢いでノートに何かを書き込んでいる。声をかけないまましばらく見守っていると、3ページほど一気に書き込んだところで、名前は小さく息をついてペンを置く。
「…ど、どしたの?名前ちゃん」
「あれ、快斗…今日も来てたの?暗記してたのを忘れないうちにメモしとこうと思って」
「あ、暗記?」
(暗記って量じゃねーだろ、今の。つーか、俺と玄関で会ったの忘れられてるし。すげー集中力だけど、まわりが見えてなくて心配だな)
いつから何を暗記してきたのかは知らないが、ノートに書き込まれた文字数に快斗は乾いた笑みを浮かべつつ、集中すると周囲の事が疎かになるらしい自分の彼女に、一抹の不安を覚える。
「何かあったのか?」
「……うーん、ちょっと待って。今、いろいろ考えてるの。まとまったら話すから」
「…おう、わかった」
(よく分からねーけど…今の名前ちゃん、名探偵そっくりだな)
顎に手を当ててノートを睨み付けるようにしている名前を見た快斗は、とりあえず珈琲でも入れてやろうとキッチンへ向かう。
そんな快斗を尻目に、名前はノートパソコンを立ち上げて何やら調べ事を始める。
---コポコポ…
(ん?今度は電話か…?)
あえてゆっくりと珈琲を入れながら、名前の様子を眺めていた快斗は、名前がパソコンを閉じて携帯を取り出したのに気付き首を傾げる。
「……あ、もしもし?三船さんですか?名前です……はい、突然すみません。ちょっと聞きたいことが…」
「!?」
(三船だと!?あいつに何の用なんだよ!!)
のんびり珈琲を注いでいた快斗だったが、ふいに聞こえてきた話し声にピクリと反応して目を見開く。ノアズ・アークの一件で、それなりに三船のことを認めはしたものの、久しぶりに聞いたその名前にそわそわしながら、珈琲を手に慌てて名前の元に戻ったのだった。
◇◇◇◇◇◇
快斗が名前の電話相手に戸惑っていた頃、毛利探偵事務所では目暮と白鳥が小五郎達と事件について話し合っていた。
「原さんの部屋のパソコンのデータは、やはり全て消されていて復元も困難です。その辺りも、動機の要因となるでしょう」
「……うーむ、なるほど」
「死亡推定時刻から考えると、昨日夕方コナン君達と会っていた如月氏は白だ。一方、風間氏はコナン君達が帰った後に車を飛ばせば、ギリギリ間に合うだろう」
「…………。」
(まさか、俺達と会ったことがアリバイになるとはな…)
コナンは、昨日光彦達ともに関係者に会いに行ったことを思い返しながら、目暮の話を聞いている。
「そうですか。それで、美緒君は?」
「常盤さんと秘書の沢口さんも、ハッキリしたアリバイはない」
「そこで、目暮警部が常盤さんに土曜日のオープンパーティーを延期するように勧めたんですが…聞き入れてもらえませんでした」
ため息をつきながら話す白鳥の隣で、目暮も渋い表情をしながらファイルから一通の封筒を取り出す。
「そればかりか、こんな物を預かってきた」
「何ですか…?」
小五郎が首を傾げながら受け取った封筒を、横からコナンと蘭が覗きこむ。
「これ、パーティーの招待状じゃない!」
「しかも…小五郎のおじさんだけじゃなくて、僕達や名前姉ちゃん達の名前まで書いてあるよ!」
封筒の中から出てきた招待状には、あの日ツインタワービルの見学に来ていた全員の名前が記されていた。
「まったく、何を考えているんだか…」
殺人事件が起きたというのに、パーティーを予定通り行うだけではなく、何故か子供達や名前や快斗まで招待するという常磐の行動に、目暮は困ったようにため息をついた。