｢……。｣

キッドは、名前の言葉を聞いて目を見開くと、何と言えば良いのか分からずにしばらく黙り込む。



card.62



｢…あなたのような方に、そこまでしていただけるのはとても嬉しい事ですが…そのために、あなたが危険な目に合うのは私としては心苦しい……｣

｢キッド…ごまかさないで｣

名前は、いつものように当たり障りのないことを口に試用とするキッドの言葉を遮って口を開く。

｢私の友人に、あなたとても似ている人がいるの。私は、その人に警察に捕まるような事にはなってほしくない｣

名前は戸惑いながらも、自分の気持ちを言葉にして続ける。

｢…あなたがなぜこんな事をしているのか、それを教えてなんて言わない。それにはあなたなりの大切な理由があるはずたから｣

名前は少し悲しげに眉をよせながら、自分を抱えているキッドをジッと見つめる。

｢だけど……貴方の正体は、｣

｢…名前嬢｣

｢え？｣

｢そろそろ降りますよ｣

名前に視線を向けていたキッドは、名前の言葉を遮るとスッと
名前から視線を反らして前を向いてしまう。
そして、2人の身体が降下し始めるて、スタッとキッドが地面に足を降ろし、そっと名前の身体を離す。
そこは館に続く山道の中腹で、人や車の通りもほとんどない。

｢キッド、｣

地上に降りた名前は、くるりと振り向いてキッドと向き合って再び視線を合わせる。

｢名前嬢…私のような者に興味を持ってはいけませんよ。私は所詮だたの"怪盗″なのですから｣

｢それが貴方の答え？｣

名前の言葉には答えず、緩やかな笑みを浮かべたままのキッドは、ゆるりと視線を反らして名前の後ろを指差す。

｢あそこに…バス停があります。女性をご自宅まで送り届けるのが本来の礼儀ですが…今回はそうもいきません｣

｢……｣

名前はしばらくキッドを見つめた後に、小さくため息をつきながら微笑む。

｢…分かったわ、今日はあなたの言う通り帰るわよ｣

名前が諦めたようにそう言うと、キッドは小さく笑ってシルクハットのツバを掴む。

名前はその動作を見て、キッドはいつものように音を立ててこの場から消えるつもりなのだろうと気付く。そしてキッドと、呼び止めるように声をかける。


｢…私は、あなたが"怪盗″でも構わないからここに来たのよ？それだけは分かって｣

名前の言葉に、キッドは僅かに息を飲んだように見えたが、それはほんの一瞬で、次の瞬間にはポンッと小さな音と煙りだけを残してその場から姿を消した。