「ダーク・ナイト」編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
---ゴォォ!
街灯が灯り始めた街中を、軽快な音をたてながらオープンカーが駆け抜ける。
「…ほ、本当に行かれるのですか?坊ちゃま…」
車の運転席には、その車には不釣り合いな眼鏡をかけた初老の女性が座っていて、ふわりと髪を靡かせながら流れる街並みを見つめている助手席の青年に声をかける。
「今夜は例の盗賊だけじゃなく……何やら、恐ろしい名の悪人も関わっていると聞き及んでおりますが…」
「知ってるかい?バァヤ…悪夢を象徴するのは黒い馬だという事を」
助手席に座る青年は、視線を街並みに向けたまま穏やかな口調でそう尋ねる。
「ええ、存じておりますが?」
「黒い馬はチェスで言うなら後手の騎士……ならば、先手の白い騎士である僕がボードに立たねばゲームは始まらないよ」
青年はそこまで言うと、くるりと運転席に視線を移して不敵な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「……この白馬探がね!!」
card.602
「名前ちゃん」
「何?」
青子とケンタを見送った後に、快斗は隣に立つ名前に声をかける。
「名前ちゃんも…ナイトメアの事について、何か気付いてるだろ?」
「……気付いてるって言うか、いくつか考えがあるだけなんだけど。今の状態じゃ、判断材料が少なすぎるしね」
(……インターネットの警視庁とICPOのデータベースに掲載された情報と、外国のニュース記事を見ただけだし。実際に現場に居合わせてみないと何ともなぁ)
快斗の言葉に、名前は肩を竦めながら困ったように快斗に視線を向ける。
「ま…そりゃそうか。ただ、警部やケンタ達と予想以上に長話したせいで…残念ながら名前ちゃんの貴重な意見をゆっくり聞く時間がねーんだよなぁ」
腕時計を見ながらため息混じりに呟く快斗に習って、名前もチラリと時間を確認する。
「……そろそろ準備?」
「ああ」
「そっか…準備を怠るわけにはいかないもんね」
(もう予告時間の2時間前か……さすがに何かしらの準備があるわよね)
「……ああ。それに今日はあの野郎が来るみてーだから、そっちにも手をうたないとな」
先ほどまで名前に優しい微笑みを向けて話していた快斗が、突然苦々しく顔を歪める。それを見た名前は、困ったように苦笑する。
「……彼、怪盗キッドが大好きみたいだからね」
「ったく、冗談じゃねーよ」
「ふふ…相変わらず仲悪いわね」
(快斗には現場に来ることを内緒にしてって話だったけど……私自身が話したわけじゃないから良いか)
「なぁ…名前ちゃん」
名前がぼんやりそんな事を考えていると、隣を歩く快斗がふいに一段低い声で名前の名前を呼ぶ。
「……ん?」
「本当は、俺の仕事に名前ちゃんを巻き込みたくねーんだけど……」
「……ないんだけど?」
「実は、名前が嫌じゃなければ……1つ頼みたい事があってさ」
どこか気まずそうに告げる快斗に、名前は目を見開いて口を開く。
「あら……さっき、"今回は別″って私言ったでしょ。遠慮せずに何でも言って?」
「………そう?」
しかし、そんな快斗とは対照的に名前はあっけらかんとそう答えるため、快斗はどこか拍子抜けしたように首を傾げる。
「ええ…それに、快斗が私も巻き込まないようにしてくれるのは嬉しいけど。私は、私が決めた"快斗と一緒にいる″っていう意味は、ただ単純に傍にいるだけじゃないと思ってるから」
「え?」
「仕事をしてるのを知った上で付き合ってるんだもん……"巻き込む″だなんて、他人事みたいに言わないでよ。快斗の仕事に関して、私に出来る事なんて少ないと思うけど。私は、少しでも快斗の力になれるなら嬉しいし…辛い時には一緒に悩みたいって思うよ?」
「…………………。」
「快斗?」
「いや………あー、もう名前ちゃん大好き」
快斗は名前の言葉に目を見開いた後に、どこか噛み締めるようにそう呟く。そして、"じゃあ、お言葉に甘えて"と、名前の耳元に顔を寄せる。
「実は……………」
耳元で告げられる快斗の言葉に、真剣な表情で耳を傾けていた名前だったが、快斗の言葉を聞き終えると、ゆるりと口元に笑みを浮かべて快斗に視線を向ける。
「何で笑ってるんだよ?」
「……私と快斗の意見、同じみたい」
「え?」
「……任せて。それに関しては、私が責任をもって確認するから。快斗は準備…しっかりね」
「……ああ」
「気をつけて。帰りは、また部屋で待ってるからね」
ニッコリと笑う名前に戸惑いながらも、快斗は小さく頷いて名前から離れていく。
「………ハハ、頼もしい恋人だよ。名前ちゃんは」
快斗は仕事前だというにも関わらず、自分が一抹の不安も抱かずに穏やかな心境でいる事に苦笑しながら足を進めて行った。