「時計じかけの摩天楼」編
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「分かったかな?名前ちゃん」
扉の向こうから、優しい快斗の声が聞こえる。名前はボロボロと再び溢れ出した涙と必死に堪えている嗚咽に邪魔をされて、快斗に言葉を返す事が出来ない。
「おーい!名前ちゃん?ちゃーんとそばにいてやっから、もう泣くなよ……あんな事言ってまで俺を遠ざけようとしたんだ。あんまり時間ねーんだろ?」
そんな名前の耳には、全てを見透かしたような優しい快斗の言葉が届いた。
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「……落ち着いたか?」
「うん……ありがとう」
快斗の言葉に、名前は今の状況を再認識して震える言葉に力を込めながら答える。
「それで、本当の状況はどうなってるんだ?爆弾、解体出来てねーんだろ?」
「うん……でも、解体の一歩手前まできてるのは本当。最後に設計図には書かれていない教授のトラップが残ってて…2つあるコードのどちらを切れば良いのか分からないの」
「そうか…くそっ!本当どうしようもねー野郎だな、あの教授は!」
名前が簡単に状況を説明すると、犯人である森谷教授を知っているためか、忌ま忌まし気に快斗がそう呟くのが聞こえる。
「……もう時間もねーし、ここで俺達2人が考えたってどっちか分からないだろ」
「そうね…」
快斗がため息混じりに呟く言葉に、名前も小さく頷きながら相槌をうつ。快斗はしばらく口をつぐんだ後に、ふっと小さな笑みを浮かべて口を開く。
「名前ちゃんさ……俺達が、ここで一緒に見ようって約束してた映画、覚えてるか?」
「…え?」
突然の質問に、名前は思わず目を丸くする。
「映画だよ…え・い・が!」
そんな名前に対して、快斗はこんな状況にも関わらず雑談するような口調で話しを続ける。
「……あ…"赤い糸の伝説″……でしょ?」
名前は、そんな快斗の態度に戸惑いながらも答えを返す。
「正確!俺さ、運命の赤い糸なんて嘘臭い伝説だって…正直今まで馬鹿にしてたんだけどさ」
「?」
突然思い出話を話すかのように、饒舌に語り出す快斗に名前は首を傾げる。
「俺が名前ちゃんに会えたのって……やっぱり運命だと思うんだよね、俺は」
「……は?」
「だから"赤い糸″って…あながち馬鹿に出来ねーと思うわけ。ほら、今だってこうやって人生最大の窮地を共にしてるわけだし!名前ちゃんはどう思う?」
「え、どう思うって……ふふっ」
名前は快斗の質問に目をパチパチと丸くしたあとに、思わず頬を緩めて吹き出す。
「快斗ったら……ふふっ、こんな状況で何で急に真面目にそんな事聞いてくるのよ?」
名前は、込み上げて来る笑みを堪えながら快斗に尋ねる。
「……やーっと笑ったな」
「え?」
すると扉の向こうから優しい快斗の一言が返ってきて、名前はいつのまにか身体の力が抜けて自然に笑っていた事に気付く。
「……俺は、いつもみたいに笑ってる名前ちゃんが好きだぜ」
「………快斗」
名前は、快斗の言葉に小さく息を飲むが状況が状況故に返す言葉が見つからない。
「なぁ……名前」
そんな名前を尻目に、快斗は先程とは打って変わって真剣な声色で名前の名前を呼ぶ。
「……何?」
「好きな方を切れよ……お前が、好きな方を」
そして、穏やかな口調でそう告げた。