「時計じかけの摩天楼」編
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「お願いって…何だよ、どうかしたか?」
名前の言葉を聞いて、扉の向こうからは快斗の心配そうな声が返ってくる。
「……悪いんだけど、快斗には1回外に戻ってほしいの。新一達に伝えてほしい事があって」
名前は、小さく息をついてから何気ない口調でそう告げた。
card.576
「……名探偵に?いや、でも俺は救助隊が来るまでオメーのそばに…」
(それに、あの教授の話だとまだ爆弾がここにあるはず…)
快斗は名前の言葉に戸惑いながらも、森谷教授の言葉を思い出して悔し気に眉を寄せる。
「……快斗、まだ爆弾が残ってる事を気にしてくれてるんでしょ?」
しかし、そんな快斗の思いをよそに名前は快斗の考えを読んだかのように尋ねる。
「…オメー、知ってたのか?」
快斗は偶然爆発に巻き込まれただけで、今の状況を把握出来ていないと思っていた名前が、まだ米花シティビル内に爆弾が残っている事を知っていた事に目を丸くする。
「ふふ…実は、ついさっきまで新一と電話してたのよ。事件の経緯も聞いたし……爆弾もちゃんと見つけたわ」
(あと3分46秒……もう時間がないわね…)
名前は、足元で刻々と時を刻み続ける爆弾にチラリと視線を向ける。
「なっ……おい!!爆発まで、あと何分あるんだっ!?」
「もう解体したわ」
名前の言葉に慌てる快斗を尻目に、名前は間髪入れずにそう答える。
「………は?解体?」
「新一が…設計図を手に入れたみたいでね、電話で指示を受けて私が解体したの」
名前はグッと拳に力を込めながら、口調を乱さないように意識しながら言葉を続けていく。ここで快斗に悟られてはいけない。
「…………。」
「でも…解体が終わる寸前に、携帯の充電が切れちゃって。だから……もう大丈夫だって、無事に解体が終わったって新一達に伝えてきてくれない?」
「……………。」
「私は、もう大丈夫だから。新一や警部さん達に早く知らせないと。外はきっと大騒ぎだろうから。ね?……快斗」
(……お願い)
名前は取り乱す事もなくそこまで一気に言い切ると、僅かに震える口元に手を当ながら言葉を切って目の前の扉を見つめる。
(お願い……お願いだから、ここから離れて…)
そして祈るように、グッと手を握りながら扉の向こうの快斗の反応を待つ。
「……………。」
「……………。」
シン…と、2人の間に沈黙が訪れる。名前が、快斗の返事を急かそうと口を開きかけるが、それを遮るように快斗の声が扉の向こうから名前の元へと届く。
「分かった」
「!!」
「……爆発の心配がねーなら、もう大丈夫だもんな」
「……ええ」
(良かった……)
名前は快斗の言葉に安堵の息をつく反面、ジワリと涙腺が緩むのを感じる。
「じゃあ…俺、一旦外に戻るから……名前ちゃん気をつけて待ってろよ!すぐ戻ってくっから!」
「……うん。大丈夫よ、言ったでしょ?爆発の心配はもうないんだから」
(我慢しなくちゃ……快斗だけは、巻き込みたくない)
名前は、じわじわと瞳に涙が浮かんで来るのを感じながらも、それを悟られないように言葉を返す。
「……それじゃあな!ちょっとの辛抱だからな!!」
「…………。」
その言葉を最後に、快斗はビルの外へ向かったのか、再び沈黙が名前を包む。
「……………。」
---ピッ、ピッ、ピッ…
静まり返った空間には、再び爆弾のタイマーの音だけが際だって響き始める。
(快斗…行っちゃった。でも、これで良いのよね…)
「快…斗……」
名前は、こぼれ落ちそうになった涙を乱暴にゴシゴシと拭うが、それを嘲笑うかのように再びボロボロと涙が溢れ出した。