「時計じかけの摩天楼」編
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card.574
「……とうとう切れちゃった」
名前は苦笑しながらポツリと呟くと、画面が真っ黒になってしまった携帯をポケットにしまう。
---ブルッ…
すると突然、全身にゾワリと悪寒を感じて思わず小さくため息をつきながら髪を掻き上げる。
「さすがに……心細いな」
今まで緊迫した状況の中でも、新一という支えがあった事で冷静に解体作業を続けられた名前。しかし、電話が途切れて静まり返る空間で爆弾のタイマーだけが刻々とタイムリミットに向かって時を刻んでいる状況に、心細さを感じる。そして、それを誤魔化すようにわざとらしく独り言を呟くと、グッとハサミを持つ手に力を込める。
「………解体しなくちゃ」
(新一に教えてもらった設計図通りに解体するのは…大丈夫。……だけど、最後の2本は…?)
名前は、チラリとシネマロビーに取り残された人々に視線を向ける。
(私は……私の決断には、あの人達全員の命が…)
名前は、解体作業を進める手を止めて呆然と爆弾を見つめる。しかし、無情にもタイマーに表示されている残された時間は確実に減っていく。それを見た名前は、大きく息をついてスッと天井を仰ぎ見る。
「……今さら悩んでも仕方ないじゃない」
(それに…私だって、快斗に会わずに…こんな所で死ぬわけにはいかない……)
---パチンッ
そしてポツリ自嘲気味と呟いたあと、震える手を無理矢理押さえ込んて、再び新一に言われた手順通りコードを切断していく。
---パチン、パチン
--パチン、パチン
--パチン…
--パチンッ!
「名前……!!」
「………え?」
順調に解体を進めていき、残すコードは赤と青のコードを含む残り4本程度となった時、ふいにほんの僅かに自分の名前を呼ばれたような気がしてゆっくりと顔をあげる。
「………気の…せい?」
名前は、目の前にある爆弾の影響で捩曲がった扉にそっと手を伸ばす。
「………名前ッ!!」
すると、今度はハッキリと耳に届いた何よりも愛おしいその声。
名前は、全身が一気に震えるのを感じながら小さく息をのむ。
「か……い、と?」
震える唇からは掠れた音にならない声が漏れる。名前は半信半疑になりながらも、扉にピタリと張り付くようにしてもう1度声をあげる。
「快斗っ!!」
「……名前!?」
すると名前の声が扉の向こうにいる快斗に届いたのか、快斗の声が先ほどよりもどんどん近づいて来る。
---ドンッ!ドンッ!!
「名前いるのか!?」
そして名前の目の前の歪んだ扉が、何かに叩かれたように鈍い音をたてる。
「……快斗?快斗なの!?」
名前は、戸惑いながらも扉の向こうに届くように大きな声で言葉を返す。
「名前かッ!!ハァ……良かった……やっぱり、まだシネマロビーにいたんだな……ハァ…」
必死にシネマロビーまで辿り着いた影響か、扉の向こうから聞こえる快斗の声は僅かに息が乱れている。
「ーっ!」
(快斗……どうしてっ…)
その声を聞いた名前は、今まで爆発に巻き込まれて閉じ込められても、爆発寸前の爆弾を目の前にしても決して緩む事のなかった涙腺が、じわじわと緩むのを感じて、グッと下唇を噛んだ。