｢ちなみに、ここに来る途中あなたがわざわざ山の中で待ち伏せをして毛利探偵の車に乗ったのは、煙草が嫌いなのを彼に印象づけて食堂で死ぬのを大上さんだけにするため。指先に青酸カリがついた状態で煙草をつかみ、それを口にくわえればあの世行きだ……｣


(……煙草？)



card.57



名前はコナンの推理を聞いていて、ふいに何かが引っ掛かり口元に手をあてて考え込む。


｢……名前？どうした？｣

その姿を見て、隣にいた小五郎が心配そうに小声で名前に声をかける。

｢え？あ、おじさん…………!!｣

(そうか、だから私あの時おじさんに…)


名前は小さく目を見開いたあとに、胸のつかえが取れたように小さく苦笑すると、困ったような微笑みを浮かべて小五郎を見つめる。

｢……名前？｣

小五郎は不思議そうに首を傾げてそんな名前を見る。






｢おい…眠りの探偵とお嬢ちゃん、そろそろ俺らの出番だぜ？｣

その時、ふいに茂木が名前と小五郎に声をかける。
名前は、ハッとして小五郎から目を逸らしてコナン達の会話に耳を傾けると、ちょうどコナンが館からの脱出方法を千間に聞いているところだった。


｢そんな物、最初からありはしないよ…私はここで果てるつもりだったのだから｣


｢ふんっ、だろーと思ったぜ…千間のバアさんよォ｣

コナンの問いに対する千間の言葉を聞いて、茂木を先頭に名前達は食堂の入口に顔を出す。

｢どーしてくれんだ？俺の一張羅…｣

｢だから言ったんですよ、こんな子供騙しは無意味だと…｣

｢ふふ…私も白馬君と同意見だわ｣

｢あら、探偵のボウヤも名前ちゃんも文句なら、あのボウヤに言ってくれる？子供相手なら、きっと脱出方法を教えてくれるって言い出したのあの子なんだから…｣

その言葉にコナンは苦笑いを浮かべるが、千間は驚いたように目を見開く。

｢…ま、まさか私からそれを聞き出すために死んだフリを？｣

そう呟いた後、探偵達にしてやられた千間は小さく肩を落とす。

｢…探偵のあんた達を甘く見すぎていたねぇ｣

｢でも、蘭さん達を眠らせたのは正解でしたね。この悪趣味な芝居は若い女性のハートには酷過ぎる｣

爽やかな笑みを浮かべてサラリと呟く白馬に、コナンは呆れたような目を向ける。

｢……白馬君？ここにも一応蘭達と同じ歳の女性がいるんだけど？｣

名前は白馬の言葉に、わざとらしくジト目を向けながら苦笑する。

｢おや？名前さんの魅力は美しいさだけじゃなく…その聡明さと、恐怖に屈しない姿勢にありますからね。そして、一見独りでも大丈夫だろうと思わせるその姿の影にある、脆さこそが…より一層あなたを護りたいという気持ちに拍車をかける｣

｢……それは買い被りすぎじゃない？｣

｢いやいや…あなたのような女性が江古田高校にいるとなると、私も久しぶりに日本の高校に戻りたくなりますね。ぜひ、今度一緒に………｣

｢おい！何か聞こえねーか？｣

名前に何かを持ちかけようとした白馬の言葉を遮るように、小五郎が大きな声を出して当たりを見回す。

｢ああ…僕が呼んだヘリの音でしょう｣

白馬は少し小五郎を見つめた後に、サラリと外部と連絡をとるために自分の鷹に手紙を取り付けて飛ばしたのだと告げる。

(ヘリで脱出か、何か策があるのかもしれないけど…どうにかしないとまずいわね)

名前は近付いてくるヘリの音を聞きながら、チラリとある人物に目を向けて小さくため息をついた。



(いや…ヘリの音だけじゃない！何かが崩れるような音が混ざってる……)

そんな中、コナンはまわりの会話には参加せずに、ヘリの音に混じって僅かに聞こえる不可解な音に眉をしかめていた。