「時計じかけの摩天楼」編
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目の前に置かれた珈琲から、香ばしい香と白い湯気が立ち込める。
「…………。」
快斗は、気まずさに肩をすぼめながらチラリと目の前に座る人物に目を向ける。
「………はぁ」
その人物は背筋が冷たくなるくらいの冷たい視線を快斗に向けた後に、盛大なため息をついた。
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「それで?突然、連絡もなしに尋ねて来たかと思えば…一体何の用なのかしら?」
「あれ?哀ちゃん…俺の気のせいかな……今、俺……全部事情話したよね?」
珈琲に口をつけながらそう尋ねる灰原に、快斗は遠慮がちに答える。
「ええ…聞いたわよ?あなたが、女心の欠片もわかっていない、デリカシーのない一言を名前に向かって放った結果…名前に無視されて困り果ててるって話でしょ?」
「…………ハイ」
「自業自得じゃない?そんな馬鹿みたいな相談に乗るほど…私、暇じゃないわ」
「……………。」
(……やっぱり、中村ちゃんに相談しちまえば良かったかも)
快斗は灰原の心底呆れたような、それでいて静かな怒りが篭った言葉を受けて素直に頷きながらも、ガックリと肩を落とす。
(……哀ちゃんは、素直じゃないけど名前ちゃんの事大好きだからな。完全に名前ちゃんの味方だもんな。うん…分かってたけど、哀ちゃんの視線が痛い)
「まったく……」
そんな灰原ではあるが、目の前で明らかに落ち込んでいる快斗の姿を見て小さくため息をついてから口を開く。
「……私、前にあなたに言わなかったかしら?」
「え?」
「"もう少し、大切にしても良いと思うわよ″って」
「……ああ」
快斗は灰原の台詞を聞いて、以前空港で灰原に言われた言葉を思い出す。
--……自分の恋人が、幼なじみの想い人の姿になって…その幼なじみと笑顔で喋ってる姿なんて普通は見たくないものよ--
「………思い出した?」
「…ハイ」
「あの時…私が、名前はそういう不満は貴方には言わない……って言ったでしょ?」
「………うん」
「……あれは、あくまであなたが"仕事中″の話よ。仕事のための変装や、仕事のために誰に成り切る事に関しては、名前は不満は言わないと思うわよ?それは…あなたの身を案じているから」
「……………。」
「それを良い事に、変装して蘭さんとデートするなんて……よく名前の前で言えたわね」
「哀ちゃん……それだけ言うと、俺が凄く最低な人間に聞こえるんだけど?」
「……あら、違うの?」
おずおずと反論する快斗に、灰原は平然と告げる。
「あの時の名前……あなたの仕事中の変装ですら、それを見ていつになく不機嫌になってたのに。………冗談でもそんな事言われたら、名前じゃなくても怒るわよ」
「…………。」
間髪入れずに次々と攻撃の言葉を受けて、肩を落とす快斗。それを無視をして、灰原は優雅に雑誌をめくりながら珈琲に口をつける。
「ま……馬鹿みたいにうじうじしてないで、さっさと謝ったらどうなの?」
「やっぱり……それが一番?」
「ええ……私には何が良いのか全く分からないけど、犯罪者のあなたに嫉妬しちゃうくらいどっぷりハマッてるみたいだし?さすがに…謝っても無視するほど名前も意地張るつもりもないでしょうから」
「………嫉妬?」
灰原の言葉に、快斗はきょとんと首を傾げる。
「あら……紛れも無い"嫉妬″じゃない?」
「………………。」
(そうか……名前ちゃんが怒ってる事で頭がいっぱいだったけど、名前ちゃんのアレは…嫉妬してんのか)
「……あなた、自分が原因で喧嘩してるって言うのに…そんな顔してたら、本当に名前に愛想尽かされるわよ」
灰原の言葉に、喧嘩してから初めて"名前の嫉妬″を意識した快斗は、知らず知らずのうちに頬が緩んでくる。灰原は、そんな快斗の締まりのない表情を見て呆れたように呟いた。