「大海の奇跡」編
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「名前ちゃん、あと30分くらい待ってられるか?」
「ええ。別に何時まででも構わないわよ」
名前は、快斗の問いに小さく頷いて返す。
「悪ぃな……ちょっと、土曜日の事で準備する物があるんだよ。そんなに時間かからねーからさ」
快斗はそう告げると、カウンターの奥の従業員スペースの先にある階段を上がり店の2階へ消えて行った。
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「……名前さん、お飲みものは大丈夫ですか?」
快斗がいなくなったカウンターで、寺井が優しく名前に声をかける。
「ええ…大丈夫です。ありがとうございます」
名前は寺井に笑顔で言葉を返す。すると、寺井は目元に細かい皺を寄せて微笑む。
「お怪我をされたり…いろいろあったようですが、お元気そうで良かったです」
「ああ、はい……本当にご心配おかけして、すみません」
名前は寺井の言葉を受けて、無意識に撃たれた腹部に触れる。きっと、快斗が寺井にも事情を話してあるのだろう。
「いえいえ。快斗ぼっちゃんが、とても心配しておられましたよ」
「…そうですか」
快斗がなりふり構わず病院に駆け付けてくれたことや、目覚めた病室で会った時の事を思い出して曖昧に頷く。
「本当に、名前さんの事が大切なんだと思います」
「………。」
「そんな快斗ぼっちゃんは、最近また何か気になる事があるようです。…ぼっちゃんに、何か話していない事があるのでは?」
「………!」
突然の寺井の問いに、名前は僅かに目を見開く。
「快斗が…何か言ってましたか?」
「いえ、明確には何も」
「………。」
("明確″には…か、)
名前は寺井の言葉に、何と答えるべきか困ったように苦笑する。
「…………。」
("家族″の話よね。快斗が気にしているのは。……だけど、本当はもう1つ……)
名前はしばらく考えた後に、戸惑いがちに口を開く。
「全てを」
「?」
「全てを伝える事が、お互いにとって良い事なのかはわかりません。それを話す事で、負担をかけたり……相手を危険に巻き込む事もありますから」
「……はい」
「でも…私は、危険だとしても快斗の事を…"怪盗キッド″である事を含めて知りたかった。だから、自分の意思で追いかけました。快斗は、私を巻き込まないようにしてくれていたのに……」
「………。」
「すみません。何が言いたいのかは、私の中でもうまくまとまっていないんです」
名前は僅かな沈黙の後に、自分を見つめる寺井に向かって小さく頭を下げて苦笑する。そんな名前に優しい視線を向けながら、寺井は口を開く。
「……それはなぜです?」
「え?」
「快斗ぼっちゃんの事を、知りたいと…そう名前さんが思った理由です」
「………それは、」
名前は寺井の問いに、何かを考えるように視線をさ迷わせたあとに、小さく息をついて口を開く。
「それは…私が、黒羽快斗の事を好きだった…いえ、好きだからです」
あの時も、今も……と心の中で付け加えながら、名前は寺井の問いに答えた。