「ベイカー街の亡霊」編
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card.375
「僕が話したかったのはね、親の話しなんだ」
「親…?」
名前は、突然の話題の変化に首を傾げる。
「工藤君本人にも言ったけど…ゲームの間、ゲームの世界と現実世界で離れた場所にいるのに、心が通じ合ってる彼等…工藤親子が羨ましかったんだ」
「………。」
「そして、僕と同じ事を名前も感じていると分かった」
「ふふ…否定はしないわ。ヒロキ君には、コクーンを通して私達の事が分かっちゃうんだもんね」
名前は、困ったように小さく苦笑しながら頷く。
「……僕は、本当のお父さんから離れた後の…シンドラーさんとの生活が嫌いだったわけじゃない。最後の頃は少し大変だったけどね…」
「………。」
名前は、上を見上げて思い返すように話すヒロキの横顔を黙ったまま見つめる。
「名前も、本当の両親ではなく…工藤君のご両親と生活していたみたいだから…僕らは似ていると思ったんだ。」
「……そんな昔の事まで分かるの?」
「……うん。失礼だと思うけど…脳内データが読み取れちゃうからね。ごめんね…」
ヒロキは、申し訳なさそうに眉を寄せる。その表情に、名前は慌てて首を横に振る。
「あ…良いのよ。ただ驚いただけだから。……ごめんね、続けて?」
「ありがとう。僕は、名前が僕と同じように…本当の親を求めてるって思ったんだ」
「……正確には、"求めていた″かしら。小さい頃はそうだったけど…今は、そんなに気にしていないわ」
「そうかな?今も昔も、いらない物ではないだろ?手に入るなら、求めて良いなら…今だって、欲しいんじゃないの?」
「!!」
(まいったな…相手は、10歳近く離れた子供なのに)
名前は、ヒロキの問いに困ったような表情を見せる。
「だから…勝手に親近感も感じていた。……これは、"僕″だけの意志だよ。諸星君が君を慕ってたのは、彼自身が君を受け入れたからだよ…」
「あら…私には、あまり慕われてた記憶はないけど」
名前は、諸星の態度を思い返して苦笑しながら肩をすくめる。
「ふふ…。だけど、僕と名前は大きく違っていたんだ」
「え?」
「快斗だよ」
「?」
「君達は、本当に通じ合ってる……絆のようなものがあると感じた」
「快斗と…私に?」
「うん……親子の関係なんて、どうでも良く思えるほど…快斗は大きな愛で名前を包んでる」
「快斗が、私を大切にしてくれているのは分かってるわ。それに私が甘えている事も…」
名前は、快斗の優しい微笑みを思い浮かべて小さく頷く。
「……快斗という存在が、僕と名前の決定的な違いだと思った」
「………。」
「僕も…あんな風にわかり会える友人や恋人がいたら良かったな…って、本当に思った」
「…………ヒロキ君」
困ったようにヒロキを見つめる名前に、ヒロキは急に悪戯っ子のような表情を見せる。
「………え?」
名前は、突然変わったヒロキの表情に思わず小さく声を出してしまう。
「だから……悔しくて、意地悪しちゃった」
「意地悪?」
名前は、さっきまでのシリアスな雰囲気から一転して子供らしさが戻ったヒロキに首を傾げる。
「君がこの広場で目を覚ます前に…現実世界のゲーム参加者達は、とっくに目を覚ましてるんだ」
「えっ!?」
「いつまでたっても…眠り続ける君を、快斗は凄く心配してるよ」
「ええ…!?それは困ったな…」
(私は、こんなに元気なのに。また快斗に余計な心配かけちゃうわね…)
名前は困ったように、視線を空に向ける。
--スッ…
慌てる名前を尻目に、ヒロキが立ち上がって目の前を指差す。
---ジジジジ…
すると、コナン達が通ったものと同じ光り輝く門が現れる。
「……さぁ、これ以上引き止めたら快斗が乗り込んできそうだ。君は君の世界に帰ると良い」
「ヒロキ君が話しかった事は、これで終わり?……私、ちゃんと話し相手になれたかしら?」
名前は立ち上がりながら、ヒロキに視線を合わせて尋ねる。
今は当たりのように会話しているが、現実世界に帰ってしまったら、もう話す事が出来ない相手なのだ。
「あぁ…気が済んだよ。僕は意地悪でも何でも良いから…君達の記憶に残りたかっただけかもしれない」
「記憶?まさかノアズ・アークは…」
名前は、ヒロキの言葉に小さく息をのむ。
「あぁ……今日でお別れだよ」
ヒロキは話しの内容の割に、晴れやかな笑顔で告げる。
「それで、私達の記憶に?馬鹿ね…」
「え?」
「私も、快斗も……もちろん新一も。あなたの事を、忘れたりなんかしないわ」
「…………。」
名前の言葉を、ヒロキは名前をジッと見つめて聞いている。
「もちろん…ゲームの参加者の子供達も。こんな経験、普通に出来る事じゃない……あなたは、いろんな人間の記憶に残る」
「!!」
「それに、一緒にゲームに挑戦した仲間だしね」
名前は、ニッコリ笑って微笑むと、ヒロキの頭を優しく撫でる。
「私は……現実世界に戻るけど、今日出会ったあなたの事も…現実世界に"サワダ・ヒロキ″という少年がいた事も、決して忘れないわ」
「……ありがとう!」
ヒロキは、僅かに瞳は潤んでいるが優しい笑顔で名前の背中を押す。
「ありがとう……僕も、君達を忘れないよ」
その言葉を最後に、名前はまばゆい光に包まれた。