「ベイカー街の亡霊」編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ホームズの下宿を出たコナン達は、モラン大佐が根城にしているトランプクラブに向かっていた。
「……ふ、」
「…何笑ってるのよ?」
そんな中、先頭を歩くコナンが小さく微笑んだのに気付いて、名前は首を傾げて小声でコナンに声をかける。
card.335
「いや、このゲームって父さん監修だろ?」
「え……うん、そうね」
(思いっきり新一モードで話してるけど、これくらいの小声で話せば、現実世界には聞こえないかしら…)
名前は、"新一″として会話するコナンに僅かに戸惑いながらも、小さく相槌をうつ。
「何かさ、例えゲームの世界とは言っても……こうやって、ホームズである父さんの残す手がかりを辿って進んでると、何か悔しいけど…さすがだなって思っちまって」
「………。」
「本人の前では、絶対言いたくねーけどな」
コナンは照れ隠しのようにそう呟くと、現実世界の優作に語りかけるような視線を夜空に向ける。
--頑張れよ、新一…--
「……え?」
すると、突然コナンが小さく声を出して目を見開く。
「何よ、どうしたの?」
「今…父さんの声が聞こえたような気がしたんだ」
ぼんやりと夜空を見つめるコナンの言葉に、名前は小さく息を飲んだ後にコナンからスッと視線を逸らす。
「そっか…」
そして小声でそう呟くと、何となく同歩くスピードを緩めて、少しずつコナンとの距離を空ける。
「名前ちゃん…どうしたの?」
歩くペースが落ちて、視線を下に落とすようにして歩く名前に気付いて、快斗が後ろから声をかける。
「…………。」
「名前ちゃん?」
「………しん、いち…」
「え?名探偵に何か言われたのか?」
快斗は、辺りを気にしながら小声で名前に尋ねる。
「…私には聞こえなかったの」
「え?」
「……きっと、幻聴なんかじゃなくて…あの2人は、ちゃんと通じ合ってるから聞こえたんだと思う」
「名前…?」
ポツポツと断片的に呟く名前の言葉の意味が繋がらず、快斗は不思議そうに首を傾げる。
「なんか、やっぱり親子…なのよね」
「………。」
「"親子″と"他人″の間の大きな壁なんて、今まで散々感じてきたのに…こんな風に未だに気にするなんて、馬鹿みたい」
「ーっ、」
ポツリと呟く名前の横顔が、あまりにも切な気で快斗は思わず息をのんで目を見開く。
「名前お姉さーん!!ちょっとこれ見て!」
何となく沈黙が流れていた2人の間に、ふいに明るい歩美の声が響く。
「……あ、」
(やだ…私、快斗の前で余計なこと話しちゃった)
名前は、歩美の声にハッと息をのんで冷静になると、隣で自分を見ている快斗に声をかける。
「快斗、変な話してごめんね…ちょっと行って来るわ」
「……あ、ああ」
「歩美ちゃん、どうしたのー?」
歩美に声をかける名前の表情が、先程までの悲し気な表情から、一瞬でいつもの明るい笑顔に変わる。その変化の速さに快斗は僅かに戸惑いながら、歩美達の元に向かう名前の背中を見送る。
「………はぁ、」
そして、ガシガシと頭を掻いて大きなため息をつく。
「……あなた、命がかかったゲームの最中の割に、他の事に気を取られすぎなんじゃない?」
そんな快斗の足元にスッと灰原が並んで、呆れたように声をかける。
「哀ちゃん…」
「…それで?今度はどうしたの?」
快斗と並んで歩いてはいるものの、視線を前に向けたままの灰原。その口調も、大して興味がなさそうに聞こえるが、それは普通には分かりにくい灰原の優しさだと快斗には伝わっている。
「……俺のせいかなーって思って」
「?」
「俺が、名前の家族の事とか興味もち始めたから…名前ちゃんに余計な思い出したくないような事を思い出させちゃったんじゃないかと思って」
「………。」
「あいつさ、悲しい気持ちとか押し殺して何でもない風に笑うの上手いだろ?そのせいか、たまに見せる辛そうな表情がいちいち頭に残るんだよね…」
快斗は自分達の少し前を歩きながら、歩美達と楽しそうに笑う名前を見つめながら呟く。
「……私から見れば、あなたに会ってから名前は…だいぶ分かりやすくなったわよ」
「…え?」
「嫉妬したり、人前で怒ったり、泣いたり。そういう様々な感情を、今までの名前は頑なに隠しているように見えたし、実際に隠せていたわ」
「…………。」
「あなたが、名前の事を本当に大切にしてるのは分かるけど…過保護すぎるんじゃないかしら?泣かせないように、傷つけないように…そんな事ばかり気にしてたら、本当に相手の事を知る事なんて出来ないわよ」
快斗は、灰原の言葉に僅かに目を見開く。
(………ま、過保護に関しては工藤君も負けてないけど)
前を歩くコナンの背中を見て、苦笑する灰原の横で、快斗は夜空を見上げると小さくため息をつく。
--話をさせる事で、名字を傷つけるのを恐れて、名字の知らないところで名字の隠している事を知ったところで…それは何の解決にもならない--
--例え、傷ついたとしても…その傷ごと受け止めて…そこから救い出してやらねーと--
「…………中村ちゃんに言われるのは仕方ねーけど、哀ちゃんに言われると…俺すっげぇ情けなく感じるんだけど」
自分を足元を歩く小学生に諭されている現状に、快斗は小さく肩を落とす。
「あなたの言う"中村ちゃん″が、誰だか知らないけど………柄にもなくうじうじしちゃって、情けないんじゃない?」
灰原は、そんな快斗を尻目に楽しそうにクスクスと笑った。