「ベイカー街の亡霊」編
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---ガチャ
シンドラーが扉をあけると、入口に背を向けてパソコンと向き合っている樫村の背中がある。
「………。」
そして扉が開く音に反応して、樫村はゆっくりと振り返った。
card.311
「すぐ会場に戻らなくてはならない…さっさと言ったらどうだ。ヒロキから託されたDNA探査プログラムをいくらで売るつもりだ?」
シンドラーの台詞に、樫村はピクリと眉をよせる。
「……私は、あなたをゆするつもりなどありません。ただ償ってほしいだけです」
「………。」
「ヒロキは知ってしまった。シンドラー帝国を崩壊させてしまう、あなたの秘密を。しかし人工頭脳はヒロキの力が無くては完成出来ない…あなたは、ヒロキにハードワークを課して完成を急がせた」
その言葉と共に樫村は小さく息をつくと、ゆるりと椅子を回してシンドラーから視線をそらす。
「精神的に追い詰められたヒロキは…人工頭脳が完成した暁には、あなたに殺されると思った。……だから自分の分身とも言えるノアズ・アークを電話回線に逃がし、屋上から身を投げた」
「…………。」
「…………。」
2人の間に僅かな沈黙が流れた後、樫村は視線に強い力をこめて、再びシンドラーと視線を合わせる。
「……それからしばらく経って、私のコンピューターにDNA探査プログラムのデータが侵入してきました。それはヒロキの意志を継いだ、ノアズ・アークの仕業でした。私には、ヒロキの…ヒロキの魂の叫びに思えました…!」
「…償いはする。全てを世間に公表して、どんな裁きでもうけるつもりだ」
樫村の話しを聞き終え、シンドラーは額に汗を滲ませながらようやく口を開く。
「だが、その前に見せてくれないか?ノアズ・アークが君に送ってきたというDNA探査プログラムを…」
「いいでしょう…」
樫村はシンドラーの言葉に小さく頷くと、くるりとシンドラーに背を向けてパソコンを操作する。
「…………。」
---カチャカチャ…
シンドラーは、そんな樫村の背中をギロリと睨みつる。そして音を立てずにスッと手袋をつけると、懐から鋭い刃物を取り出してパソコンを操作する樫村に向かい、一歩一歩近付いていく。
---カチャカチャ…
シンドラーが背後に忍び寄っている事には気が付かずに、樫村は1つのファイアを開きながら口を開く。
「これこそ、まさに時を超え現代に運ばれてきたロンドンの亡霊……っ!?」
そう言いながら振り返った樫村は、自分のすぐそばまで忍び寄っていたシンドラーの姿に目を見開く。
---ドスッ!!
そして気付いた時には既に遅く、鈍い音をたてて樫村の身体に鋭い刃物が突き刺さる。
---ドサッ…
「………ふっ、」
椅子にもたれるように身体全体の力が抜けて目を閉じた樫村の姿を見て、シンドラーは小さく息をつく。
そして、樫村のパソコンを操作して1枚のディスクを取り出すと、自分の犯行の後始末をして部屋から立ち去って行った。
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「くっ……」
シンドラーが出て行った室内で、苦しそうな声をあげながら樫村はゆるりと目をあける。
---カチャ、
「………っ、…ハァ…」
---カチャ…カチャ…
「…………ハァ、ハァ」
そして血に濡れた指先で、最期の力を振り絞りながらキボードを押すと、ガクリと力つきる。
---カッ!!
すると、息を引き取った樫村の背後で、突然パソコンからまばゆい光りが放たれ、部屋中に設置された機械が起動し始める。
『我が名は………ノアズ・アーク……』
そして、誰もいない室内にその言葉が響き渡った。